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Dual nature
噂の真相/2
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「…………」
手が上がるわけでもなく、口を開くでもなかった。デジタル頭脳の持ち主でなくても、少し考えれば、不適切な発言だとわかる。
「新しく加わった耀さんは?」
「使わないねえ」
肩肘をついたまま、抹茶チョコを口へ放り投げた燿が気怠く答えた。独健はみんなを見渡す。
「俺だけか」
「いいや、俺っちも使うっす」
真向かいのお誕生日席で、張飛が賛成の意を示すと、独健は届かないながらも、さわやかに微笑み手を差し出した。
「仲間だ」
「俺も時々使う」
雅威が賛同すると、夫三人が手を取り合った。
アップルジュースを飲んだ焉貴は、まだら模様の声を響かせる。
「俺、光、月、孔明はまず使わないね」
「使ってる時は、罠を張ってる時です」
颯茄が言うと、独健はげっそりした。
「うちは油断大敵だな」
「颯が独健に説明してください~。できなかった時は、僕のお仕置きが待っています~」
小学校教諭からテストが配られた。人に説明できるようになれば、本当にできたと言える。颯茄はドキマギしながら、姿を現したヴァイオレットの瞳をじっと見つめた。
「そ、そうですか。相変わらず月さん邪悪だなぁ」
「頼んだ」
「張飛さんは?」
使う夫は三人いたが、張飛は堂々と胸を張る。
「俺っちはわかってて使ってるっす」
「強者だ……」
みんなはため息まじりに言った。それはさておいて、颯茄の試験が始まった。まずは問題文である。
「何かの約束をする言葉に対して、私が『わかった』を使った時だけ、月さんと孔明さんは突っ込んできたんです」
「そうだったか?」
記憶が曖昧な独健。
「確かにそうだな」
よく覚えている雅威。
「そうです。光さん、焉貴さん、月さん、孔明さんは可能性で計っているので、事実として確定しない限り、断定はしないんです」
「うん」
「つまり、確定と不確定の二種類が常に存在してるんです」
策士四人の頭の中は、
事実――確定。
と、
小数点以下二桁の可能性――不確定。
このふたつで成り立っている。
「確定、不確定……?」
理論派の頭の中に合わせて回答がされているのを前にして、感覚の独健は視線をあちこちさ迷わせた。他の夫たちから心配する声が上がる。
「独健はもうついていけなくなっている」
他の人たちの視線が集中する中で、颯茄のどこかずれているクルミ色の瞳は、小分けにして質問を投げかけた。
「約束は未来のことなので、独健さん、確定、不確定どっちですか?」
「約束、未来……? 先のことだから不確定だな」
「そうなんです。次です。『わかった』という言葉は確定、不確定どっちですか?」
魔法で作られた宇宙で、流星群が金の光を引きながら降るように斜めに落ちてゆく。
「『わかった』……。わかった……確定だ」
「そうなんです。不確定の問いかけに、確定の返事を返したら、そこで矛盾が生じます。わかりやすくというと、約束が守れない可能性があるのにうなずいたら、本当に守れなった時、相手に嘘をつくことになるんです。自分についているつもりがなくても」
こうやって、言葉のすれ違いのひとつは起きる。こんなことを何度もしたら、知らないうちに人は離れてゆくのである。
負けず嫌いの光命は、遊線が螺旋を描く声で優雅に補足を加える。
「さらには、『わかった』は自身の手の内を相手にばらすことにもつながります。こちらの理解力がどの程度か相手に情報として渡ってしまう可能性が出てきます」
「じゃあ、何て答えるんだ?」
当然の疑問が独健からやってきた。焉貴の人差し指が妻に向けられる。
「颯、そのセリフ読んじゃって。デジタル頭脳の俺たちが答えちゃうから」
「はい。え~っと……」
颯茄は台本のページをめくって、
「孔明さんのセリフで、『黒、もしくはそれに近い色の私服に着替えて、七時にここにもう一度来れるかな?』」
棒読みの質問が投げかけられると、光命、月命、焉貴、孔明の順で、嘘をつかない返事を返してきた。
「えぇ」
「構いませんよ」
「そう」
「そう? ふふっ」
光命と焉貴は、ただの相づち。
月命はイエスかノーかが判断しづらい。結果次第でどっちにも話をあとで自由に引っくり返せる。
孔明は相づちなのに、それさえも疑問形にするという、真意を隠しまくりの高度な返事。しかも、相手の注意をそらすために、わざと笑い声も入れている三重の罠。この返事だと、相手に聞き返される可能性が残る。しかし、それさえも情報収拾の罠なのだ。
帝国一の頭脳を前にして、独健はため息をついた。
「孔明が一番巧妙なんだな」
大先生のセリフを台本で書いた妻の労力が少しだけ明らかになったところで、話はひと段落した。
手が上がるわけでもなく、口を開くでもなかった。デジタル頭脳の持ち主でなくても、少し考えれば、不適切な発言だとわかる。
「新しく加わった耀さんは?」
「使わないねえ」
肩肘をついたまま、抹茶チョコを口へ放り投げた燿が気怠く答えた。独健はみんなを見渡す。
「俺だけか」
「いいや、俺っちも使うっす」
真向かいのお誕生日席で、張飛が賛成の意を示すと、独健は届かないながらも、さわやかに微笑み手を差し出した。
「仲間だ」
「俺も時々使う」
雅威が賛同すると、夫三人が手を取り合った。
アップルジュースを飲んだ焉貴は、まだら模様の声を響かせる。
「俺、光、月、孔明はまず使わないね」
「使ってる時は、罠を張ってる時です」
颯茄が言うと、独健はげっそりした。
「うちは油断大敵だな」
「颯が独健に説明してください~。できなかった時は、僕のお仕置きが待っています~」
小学校教諭からテストが配られた。人に説明できるようになれば、本当にできたと言える。颯茄はドキマギしながら、姿を現したヴァイオレットの瞳をじっと見つめた。
「そ、そうですか。相変わらず月さん邪悪だなぁ」
「頼んだ」
「張飛さんは?」
使う夫は三人いたが、張飛は堂々と胸を張る。
「俺っちはわかってて使ってるっす」
「強者だ……」
みんなはため息まじりに言った。それはさておいて、颯茄の試験が始まった。まずは問題文である。
「何かの約束をする言葉に対して、私が『わかった』を使った時だけ、月さんと孔明さんは突っ込んできたんです」
「そうだったか?」
記憶が曖昧な独健。
「確かにそうだな」
よく覚えている雅威。
「そうです。光さん、焉貴さん、月さん、孔明さんは可能性で計っているので、事実として確定しない限り、断定はしないんです」
「うん」
「つまり、確定と不確定の二種類が常に存在してるんです」
策士四人の頭の中は、
事実――確定。
と、
小数点以下二桁の可能性――不確定。
このふたつで成り立っている。
「確定、不確定……?」
理論派の頭の中に合わせて回答がされているのを前にして、感覚の独健は視線をあちこちさ迷わせた。他の夫たちから心配する声が上がる。
「独健はもうついていけなくなっている」
他の人たちの視線が集中する中で、颯茄のどこかずれているクルミ色の瞳は、小分けにして質問を投げかけた。
「約束は未来のことなので、独健さん、確定、不確定どっちですか?」
「約束、未来……? 先のことだから不確定だな」
「そうなんです。次です。『わかった』という言葉は確定、不確定どっちですか?」
魔法で作られた宇宙で、流星群が金の光を引きながら降るように斜めに落ちてゆく。
「『わかった』……。わかった……確定だ」
「そうなんです。不確定の問いかけに、確定の返事を返したら、そこで矛盾が生じます。わかりやすくというと、約束が守れない可能性があるのにうなずいたら、本当に守れなった時、相手に嘘をつくことになるんです。自分についているつもりがなくても」
こうやって、言葉のすれ違いのひとつは起きる。こんなことを何度もしたら、知らないうちに人は離れてゆくのである。
負けず嫌いの光命は、遊線が螺旋を描く声で優雅に補足を加える。
「さらには、『わかった』は自身の手の内を相手にばらすことにもつながります。こちらの理解力がどの程度か相手に情報として渡ってしまう可能性が出てきます」
「じゃあ、何て答えるんだ?」
当然の疑問が独健からやってきた。焉貴の人差し指が妻に向けられる。
「颯、そのセリフ読んじゃって。デジタル頭脳の俺たちが答えちゃうから」
「はい。え~っと……」
颯茄は台本のページをめくって、
「孔明さんのセリフで、『黒、もしくはそれに近い色の私服に着替えて、七時にここにもう一度来れるかな?』」
棒読みの質問が投げかけられると、光命、月命、焉貴、孔明の順で、嘘をつかない返事を返してきた。
「えぇ」
「構いませんよ」
「そう」
「そう? ふふっ」
光命と焉貴は、ただの相づち。
月命はイエスかノーかが判断しづらい。結果次第でどっちにも話をあとで自由に引っくり返せる。
孔明は相づちなのに、それさえも疑問形にするという、真意を隠しまくりの高度な返事。しかも、相手の注意をそらすために、わざと笑い声も入れている三重の罠。この返事だと、相手に聞き返される可能性が残る。しかし、それさえも情報収拾の罠なのだ。
帝国一の頭脳を前にして、独健はため息をついた。
「孔明が一番巧妙なんだな」
大先生のセリフを台本で書いた妻の労力が少しだけ明らかになったところで、話はひと段落した。
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