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Dual nature
噂の真相/3
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みかんに飽きた明引呼はポケットからシガーケースを出して、ミニシガリロに火をつけ、青白い煙を上げる。
「主人公、月だろ?」
孔明に勘違いしそうだが、エンドクレジットは月命がトップに出ていた。銀のシガーケースとジェットライターはテーブルを横滑りして、光命の前で止まった。
「はい、そうです」
颯茄が答えている間にも、細く神経質な指先で、ミニシガリロはジェットライターで慣れたように火をつけられ、中性的な唇から青白い煙を上げた。
「月らしいよね」
焉貴に言われた月命は、ニコニコの笑みをするだけで何も言わない。妻が今度はミニシガリロを受け取る。
「そうなんです。書いてて思ったんですけど、月さん自分から動かないんですよね。腰が重いじゃないですか? だから、腰の軽い私と孔明さんが動くという話の流れにどうしてもなってしまうんです」
月命を作っている性質は、
落ち着き。
冷静さ。
あとは人を惑わせるもの。
である。颯茄と孔明が共通で持っているもの、
感情、やる気、瞬発力。
これらが月命にはまったくない。
「知らない人から毎日のようにプレゼントをされて、代わりにやってくれる人が必ず出てくる。月さんを中心にしてまわりが勝手に動く。それが月さんの個性です」
今回のエキストラも、月命が門の外に立って一時間もしないうちに、全員そろったほどであった。頭のよさと人と運を引き寄せる得意体質で、月命は幸せに生きているのである。
これらの不思議現象を表す、明智分家での言い方が、焉貴のまだら模様の声で出てくる。
「ルナスマジック出てなかったね」
「こうなってしまうから入れませんでした」
颯茄がラムネに手を伸ばそうとすると、同じものを食べていた貴増参ら渡された。その間にいた夕霧命が、地鳴りのような低い声で聞く。
「どうなる?」
ルナスマジックをギャグ好きの妻に渡したら、どう使うか目に見えているのである。
「気絶した女子生徒で廊下が埋まってしまい、他の生徒が通れなくなりました――」
「あははははっ……!」
夫たちから笑い声が上がった。
ないとは言い切れない。結婚前は、本当に女性を気絶させていたのだから。男子高校生の月命を野放しにしたら、そうなって当然だ。
本物の高校教師――焉貴が、無機質に言葉を紡ぐ。
「先生、毎日大変だね」
「保健室が倒れた女子生徒でいつも満杯」
颯茄はシガーケースを燿へ横滑りさせながら、現実的な問題を口にした。燿は真正面でニコニコしている月命の手強さに身震いする。
「別の意味で、月は停学だねえ」
「女子生徒の身の安全を守るために、学校さんに断られちゃうかもしれません」
一番左端に座っている貴増参はにっこり微笑んだ。颯茄は葉巻の煙を吐き出しながら、
「女の子も大変ですよ。真面目に学校にきてるのに、気絶させられるわけですから。倒された身にもなれ、です」
しかし、月命も困るのである。学校に行きたいのに、自分は何もしていないのに、女子生徒が勝手に倒れるのだから。彼は驚きはしないが、人差し指をこめかみに突き立てて、眉をひそめるばかり。
――おや~? なぜ、彼女たちは倒れるんでしょうか~?
全然シリアスシーンにならないのだった、月命が関わると。話が途切れたところで、凛とした澄んだ声が全然違うことを話し出した。
「おや? 電話には出るように伝えたんですが、困りましたね~」
夫十二人と妻はここにいる。他の誰かに電話しているようだった。颯茄がチラチラうかがう前で、月命は一旦電話を切った。
「仕方がありませんね。彼女にかけましょうか?」
呼び出しコールを何度か聞くと、向こうから幼い声が聞こえてきた。
「流貳は近くにいますか~?」
電話口を変わったようだったが、
「…………」
彼の五歳の息子、流貳は無言だった。だが、それはよくあることで、月命は、
「返事をしなくてもよいですが、電話は通話にしてください」
「…………」
それでも、流貳からは返事がない。月命はテーブルの上に乗っていた折りたたまれた便箋を指先でつまんで、
「手紙の内容は明日にします~」
「…………」
それでも返事はなし。月命は一言断って、
「切りますよ~」
そして、携帯電話は切れて、手元からそれは瞬間移動で消え去った。パパも何かと忙しいのである。
マゼンダ色の長い髪を束ねていたリボンの端をピンピンと横へ引っ張り伸ばし、月命は何もなかったように、ゆるゆる~と語尾を伸ばした。
「こちらはもともとあった話なんですか~?」
「主人公、月だろ?」
孔明に勘違いしそうだが、エンドクレジットは月命がトップに出ていた。銀のシガーケースとジェットライターはテーブルを横滑りして、光命の前で止まった。
「はい、そうです」
颯茄が答えている間にも、細く神経質な指先で、ミニシガリロはジェットライターで慣れたように火をつけられ、中性的な唇から青白い煙を上げた。
「月らしいよね」
焉貴に言われた月命は、ニコニコの笑みをするだけで何も言わない。妻が今度はミニシガリロを受け取る。
「そうなんです。書いてて思ったんですけど、月さん自分から動かないんですよね。腰が重いじゃないですか? だから、腰の軽い私と孔明さんが動くという話の流れにどうしてもなってしまうんです」
月命を作っている性質は、
落ち着き。
冷静さ。
あとは人を惑わせるもの。
である。颯茄と孔明が共通で持っているもの、
感情、やる気、瞬発力。
これらが月命にはまったくない。
「知らない人から毎日のようにプレゼントをされて、代わりにやってくれる人が必ず出てくる。月さんを中心にしてまわりが勝手に動く。それが月さんの個性です」
今回のエキストラも、月命が門の外に立って一時間もしないうちに、全員そろったほどであった。頭のよさと人と運を引き寄せる得意体質で、月命は幸せに生きているのである。
これらの不思議現象を表す、明智分家での言い方が、焉貴のまだら模様の声で出てくる。
「ルナスマジック出てなかったね」
「こうなってしまうから入れませんでした」
颯茄がラムネに手を伸ばそうとすると、同じものを食べていた貴増参ら渡された。その間にいた夕霧命が、地鳴りのような低い声で聞く。
「どうなる?」
ルナスマジックをギャグ好きの妻に渡したら、どう使うか目に見えているのである。
「気絶した女子生徒で廊下が埋まってしまい、他の生徒が通れなくなりました――」
「あははははっ……!」
夫たちから笑い声が上がった。
ないとは言い切れない。結婚前は、本当に女性を気絶させていたのだから。男子高校生の月命を野放しにしたら、そうなって当然だ。
本物の高校教師――焉貴が、無機質に言葉を紡ぐ。
「先生、毎日大変だね」
「保健室が倒れた女子生徒でいつも満杯」
颯茄はシガーケースを燿へ横滑りさせながら、現実的な問題を口にした。燿は真正面でニコニコしている月命の手強さに身震いする。
「別の意味で、月は停学だねえ」
「女子生徒の身の安全を守るために、学校さんに断られちゃうかもしれません」
一番左端に座っている貴増参はにっこり微笑んだ。颯茄は葉巻の煙を吐き出しながら、
「女の子も大変ですよ。真面目に学校にきてるのに、気絶させられるわけですから。倒された身にもなれ、です」
しかし、月命も困るのである。学校に行きたいのに、自分は何もしていないのに、女子生徒が勝手に倒れるのだから。彼は驚きはしないが、人差し指をこめかみに突き立てて、眉をひそめるばかり。
――おや~? なぜ、彼女たちは倒れるんでしょうか~?
全然シリアスシーンにならないのだった、月命が関わると。話が途切れたところで、凛とした澄んだ声が全然違うことを話し出した。
「おや? 電話には出るように伝えたんですが、困りましたね~」
夫十二人と妻はここにいる。他の誰かに電話しているようだった。颯茄がチラチラうかがう前で、月命は一旦電話を切った。
「仕方がありませんね。彼女にかけましょうか?」
呼び出しコールを何度か聞くと、向こうから幼い声が聞こえてきた。
「流貳は近くにいますか~?」
電話口を変わったようだったが、
「…………」
彼の五歳の息子、流貳は無言だった。だが、それはよくあることで、月命は、
「返事をしなくてもよいですが、電話は通話にしてください」
「…………」
それでも、流貳からは返事がない。月命はテーブルの上に乗っていた折りたたまれた便箋を指先でつまんで、
「手紙の内容は明日にします~」
「…………」
それでも返事はなし。月命は一言断って、
「切りますよ~」
そして、携帯電話は切れて、手元からそれは瞬間移動で消え去った。パパも何かと忙しいのである。
マゼンダ色の長い髪を束ねていたリボンの端をピンピンと横へ引っ張り伸ばし、月命は何もなかったように、ゆるゆる~と語尾を伸ばした。
「こちらはもともとあった話なんですか~?」
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