公式 1×1=LOVE

Hiiho

文字の大きさ
13 / 54

夏休み×二人きり=友達以上 2

しおりを挟む

「ふ・・・っ、うぅっ、は、  ぁっ」



  架は舌の裏側が弱い。尖らせた舌先で根元からゆっくり舐めると、息苦しさで呻く声が、くぐもった吐息に変わる瞬間がある。


まるで飴玉探しのようだ、と一玖は思う。架の敏感な部分を探し当てた途端、彼の漏らす吐息が咥内に流れ込んで来て、甘くて溶けそうな気分になる。

「今日は簡単に泣かないんだね」

「さっき玉葱で泣いたばっかだし。それに・・・少し、慣れた」

「そっか」


  世間知らずのくせに、適応するのは早い。架を独り占めできるポジションにいて、市太さんはなんで手を出さなかったんだろう。


「一玖、もういい?俺 今日はもう泣けねぇかも」

「・・・そーだな、どうしようか」


  架の泣き顔を見たいけど、無理強いしすぎて逃がすのも惜しいし。
  それに、架が俺を知りたいと思うのと同じで、俺も架の事をもっと知りたい。


「架、夏休みはバイトとかしないの?」

「あー・・・、やってみたいとは思うんだけど。大学生にもなって親から小遣い貰ってんのも情けないし。でもこの体質じゃあな・・・。一玖の部屋みたいな匂いの職場なら働けそうなんだけど」


  俺の部屋の匂い?・・・それが平気ならもしかして・・・


「架さ、俺んちでバイトしてみない?」

「え?ここで?」

「違うよ。俺の実家。地方で旅館やってるって言ったでしょ。リニューアルして今忙しいらしくてさ。夏休み中、帰って来て手伝いしろって兄貴に言われてんだ、俺。もし良かったら一緒に行かない?」

「でも・・・」

「大丈夫。この部屋と同じ匂いがするよ。ウチはアメニティも全部、母さんがブレンドしたこの匂いの物しか使ってないんだ。だから、架が好きな匂いなら、どうかなって思って」


  一玖と同じ匂いなら、大丈夫かもしれない。いちもいなくて暇だし、自分の小遣いくらい稼がなきゃ親に悪いしな。


「俺、マジでバイトとか初なんだけど、それでもいいの?」

「もちろんだよ!猫の手も借りたいって言ってたし。じゃあ決まりね。兄貴に電話しとくし、架が行けるならいつでもオッケーだよ」


架の返事がノーでは無かったことに、一玖は思わず笑顔になる。それにつられて架の顔が緩んだ。


「架、笑顔もかわいい」

「は?おまえ、俺のことガキ扱いしすぎ」

「そうだけど、でもそういう意味じゃ無いよ」

言った後で、一玖は ハッとする。


  酷く泣かせたいと思ったのは架しかいない。でも泣き顔が可愛いと思ったのは架だけじゃない。ただ・・・笑顔がこんなに可愛いと思えたのは架だけかもしれない。


「まあいいや。一玖には、いちがいない時に助けてもらったし、バイトも紹介してくれたしな。多少バカにされても許してやる。でも、いちを泣かせることだけは絶対阻止するからな!」

「・・・ふーん」


  そんなに王子が大事?


可愛いと思ったのも束の間、一玖はその笑顔が憎たらしく思えてくる。

「泣かなくてもいいよ。その代わり困った顔見せてよ」

架の耳に寄せた唇でその輪郭をなぞると「んっ」と短く唸る声。

「やめろよ、それ。くすぐったい」

「じゃ、泣く?」

「・・・泣けない」

「なら我慢して」

はあ、と大きく息を吐いた架は、諦めたように目を閉じる。


耳朶を唇で挟み息を吹きかけ、耳介に舌を這わせると、架は首を竦めて小さく震える。

「ふ・・・、   ぅ」

一玖の舌が外耳道へと差し込まれると、濡れた音で耳を塞がれた架は我慢しきれずに上擦った声を漏らす。

「やだっ、そんなとこ舐めんなって!」

「そんなとこって?」

「だから・・・みみ、の、あな・・・」

ただ「耳の穴」と言うだけなのに、何故か恥ずかしさが込み上げ言葉が詰まりそうになる。


  俺、何してんだろう。こんなの擽ったいだけで、いちが俺の脇腹を擽ってくるのと同じじゃん。

  なのに場所とやり方が違うだけで、擽ったさとは違う感覚が押し寄せてくる。


くちゅくちゅと響く水音と、出し入れされる一玖の舌先。

性行為が未経験の架でも、一玖の舌の動きから いけない行為を想像してしまう。

「奥まで挿れたいな」

熱い息と一玖の低い声に、頭の中が痺れそうになる。


  なんだこれ・・・。こんな気持ちになりたくない。こんなの、気持ち悪いって思わなきゃダメなのに。


「も、やめろって!もぉ終わり!」

力いっぱい一玖の体を押し返し、架はベッドから起き上がる。

「おおお俺っ、バイトなら明日からでも行けるしっ、帰って親に言っとかねぇと!後でまた連絡する!」

架は逃げるように一玖の部屋を出る。



「はぁ、・・・攻めすぎちゃったかな?」

架の体温が移ったシーツを撫でながら、一玖は目を伏せる。




一方


  なんだ、何なんだよ俺の心臓!頼むからおさまってくれよぉ!


早鐘を鳴らす胸を否定するかのように全力で走る架。


  一玖は友達で、市太の好きな人。一玖は誰かを泣かせたいだけで、俺は市太を泣かされたくない。
  それだけ。それだけのはずなのに。

  ああ!もお!あいつらがホモだから俺まで変になる!! 俺は普通だ!ただ恋愛経験もそういう経験も無いし、いち以外の人間に慣れてないからこんなにドキドキしてるだけ!


架は芽生え始めた感情をぐっと抑え込むように、家までの2キロ弱の道のりを全速力で駆け抜ける。


汗だくで自宅の玄関先に倒れ、30分後 5つ下の妹に踏まれ「汚い玄関マット」扱いされてもまだ、架の心臓は五月蝿いままだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...