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過去×現在=荒療治 2
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なんで、なんでなんで・・・違う。こんなの。
・・・いち。・・・そうだ、いちとだってこんな風に触れ合ってきた。それと同じだと思えばいい。
自分を包む一玖の体温を、異様に熱く感じてしまう架。
熱い・・・。肩に乗せられた一玖の顎も、背中に沿う体も、俺を捕まえる腕も。
市太と全然違う。ただ捕まえられてるだけなのに、足が震えて来そうになる。
もしかして、またキスされたりすんのかな・・・。『恐怖』にも似てて『期待』とも少し似てる感情。
緊張で全身が強ばって、だけどそれを一玖に悟られたくない。
「架?」
「う、うん?」
「いちお、兄貴にも会っとく?多分 事務室にいると思うから」
「・・・うん」
一玖の体温が離れ、ホッとした後に少しだけ寂しい気持ちが残る。
1階のフロント横にある事務室に入ると、誰も座っていないデスク2台の奥に置かれたマッサージチェアで寛ぐ男性が見える。
「兄貴。えみちゃん働かせて自分は休んでんの?」
一玖が声を掛けると、どっこいしょ、と起き上がる30歳前後のその男性は、一玖の兄 太一だ。
「兄さんって呼べよ。品が無いぞ一玖。初めまして支配人の 神谷 太一 です。バイトに来てくれてありがとう。よろしくね、架くん」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
自分の元へ歩み寄ってきた太一に、架はどことなく既視感を覚える。
一玖に似て・・・は、ないか。でも、この顔、どこかで・・・
すぐ傍に来た太一の、白檀に混ざり微かに香るこもったような甘い匂いに、架の呼吸が乱れる。
その小さな異変に気付いた一玖が顔を覗き込むと、青ざめた架が目を泳がせていた。
「架? 大丈夫? 」
「え・・・? う ん」
兄貴の匂いが苦手? 三十路だもんな~、オヤジ臭しててもおかしくないよな。
「あに・・・兄さん、俺らただ挨拶しに来ただけだから。部屋戻るわ」
「おう。明日から頼むぞ」
架の背中に手を添えて事務室を出て、すぐにエレベーターに乗り最上階の部屋へと戻る一玖。
ふらつく架を座敷に座らせ背中をさすると、架の体が小さく震える。
「そんなに兄貴の匂い臭かった? ほとんど事務室から出てこないからほぼ会わないと思うけど・・・無理そうなら断ろうか?」
心配する一玖の言葉も届いていない様子で荒い呼吸を繰り返す架。
「架・・・架!」
「いち、た・・・」
なんでだよ。なんであいつの名前を呼ぶの?今、架の傍にいるのは俺なのに・・・!
一玖は架の頬を両手で覆い上を向かせ、市太の名前を紡ぐ唇を塞ぎ舌を滑り込ませる。
架はびくんっ、と肩を上げ、一玖の腕に縋るように掴まる。
「んっ、ふぁっ、は・・・んんっ」
一玖が舌裏を撫でると、腕を掴んでいる架の手がぴく、ぴく、と小さく反応し、聞いたこともないような喘ぎに似た声を零す。
架がこんなに反応したの、初めてだ。急にどうして・・・
一玖の唇と舌を受け入れる架は、自分を制御出来なくなっていた。
あのにおい・・・どうして? 一玖の兄貴が、なんで・・・
顔はぼんやりとしか覚えてない。俺はまだ幼かったし、12年も経てば面影程度しか記憶してなくても不思議じゃない。
だけど、あの匂いだけはハッキリと覚えてる。
嫌だ。思い出したくない。汚い。・・・汚い。
架がそう思えば思うほど、一玖に与えられる刺激に敏感になる。
俺は・・・汚い。
当時はトラウマでしかなかったあの出来事が、思春期になると俺を興奮させた。
あんなに気持ち悪いと思っていた事をあの匂いと共に思い出す度に勃起し、そんな自分が嫌で自慰すらできなかった。
どんなに卑猥な女性の写真にも映像にも反応しないのに、男の精液を浴びた事を思い出せば痛いくらいに猛り立つ。
俺は異常だった。
それを認めたくなかった。
市太が傍にいれば、なぜかそれを抑えられた。心が落ち着いて穏やかになって、市太の匂いが俺に平穏をくれた。
いつしか あいつの匂いが無いと不安が襲うようになって、それ以外受け入れたくないと思うようになった。
市太さえいればいい。それでよかったのに・・・
「はぁっ、・・・ぁ・・・ふ、ぁ」
「架・・・気持ちいいの? 勃ってる」
一玖に言われなくてもわかってる。だけど抑えられない。ここに市太はいない。
架の中心は心臓以上にドクドクと脈打ち、今にもはち切れそうなほどの痛みと熱を持っていた。
堪らなくなり、そこへ伸ばそうとした架の手が躊躇う。
だめ・・・だ。やっぱり触れない。もし吐き出してしまったら、俺はきっと戻れなくなる。
「触りなよ。苦しいでしょ?」
「むり。汚い・・・から」
痛い・・・。出して楽になってしまいたい。だけど、ずっと否定してきた性癖を、その根源になっている相手に会った途端認めることになるなんて、絶対に嫌だ。
架の視界が悔しさで滲む。
夢精の経験はあった。けれど自らの意思で射精した経験は一度も無い。
どうせイクなら、違う事を考えてイキたいのに。女の裸とか、好きな人を思って、とか・・・
・・・好きな人・・・?俺なんかが、誰かを好きになっていいのか?こんな、普通じゃない俺が・・・。
・・・いち。・・・そうだ、いちとだってこんな風に触れ合ってきた。それと同じだと思えばいい。
自分を包む一玖の体温を、異様に熱く感じてしまう架。
熱い・・・。肩に乗せられた一玖の顎も、背中に沿う体も、俺を捕まえる腕も。
市太と全然違う。ただ捕まえられてるだけなのに、足が震えて来そうになる。
もしかして、またキスされたりすんのかな・・・。『恐怖』にも似てて『期待』とも少し似てる感情。
緊張で全身が強ばって、だけどそれを一玖に悟られたくない。
「架?」
「う、うん?」
「いちお、兄貴にも会っとく?多分 事務室にいると思うから」
「・・・うん」
一玖の体温が離れ、ホッとした後に少しだけ寂しい気持ちが残る。
1階のフロント横にある事務室に入ると、誰も座っていないデスク2台の奥に置かれたマッサージチェアで寛ぐ男性が見える。
「兄貴。えみちゃん働かせて自分は休んでんの?」
一玖が声を掛けると、どっこいしょ、と起き上がる30歳前後のその男性は、一玖の兄 太一だ。
「兄さんって呼べよ。品が無いぞ一玖。初めまして支配人の 神谷 太一 です。バイトに来てくれてありがとう。よろしくね、架くん」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
自分の元へ歩み寄ってきた太一に、架はどことなく既視感を覚える。
一玖に似て・・・は、ないか。でも、この顔、どこかで・・・
すぐ傍に来た太一の、白檀に混ざり微かに香るこもったような甘い匂いに、架の呼吸が乱れる。
その小さな異変に気付いた一玖が顔を覗き込むと、青ざめた架が目を泳がせていた。
「架? 大丈夫? 」
「え・・・? う ん」
兄貴の匂いが苦手? 三十路だもんな~、オヤジ臭しててもおかしくないよな。
「あに・・・兄さん、俺らただ挨拶しに来ただけだから。部屋戻るわ」
「おう。明日から頼むぞ」
架の背中に手を添えて事務室を出て、すぐにエレベーターに乗り最上階の部屋へと戻る一玖。
ふらつく架を座敷に座らせ背中をさすると、架の体が小さく震える。
「そんなに兄貴の匂い臭かった? ほとんど事務室から出てこないからほぼ会わないと思うけど・・・無理そうなら断ろうか?」
心配する一玖の言葉も届いていない様子で荒い呼吸を繰り返す架。
「架・・・架!」
「いち、た・・・」
なんでだよ。なんであいつの名前を呼ぶの?今、架の傍にいるのは俺なのに・・・!
一玖は架の頬を両手で覆い上を向かせ、市太の名前を紡ぐ唇を塞ぎ舌を滑り込ませる。
架はびくんっ、と肩を上げ、一玖の腕に縋るように掴まる。
「んっ、ふぁっ、は・・・んんっ」
一玖が舌裏を撫でると、腕を掴んでいる架の手がぴく、ぴく、と小さく反応し、聞いたこともないような喘ぎに似た声を零す。
架がこんなに反応したの、初めてだ。急にどうして・・・
一玖の唇と舌を受け入れる架は、自分を制御出来なくなっていた。
あのにおい・・・どうして? 一玖の兄貴が、なんで・・・
顔はぼんやりとしか覚えてない。俺はまだ幼かったし、12年も経てば面影程度しか記憶してなくても不思議じゃない。
だけど、あの匂いだけはハッキリと覚えてる。
嫌だ。思い出したくない。汚い。・・・汚い。
架がそう思えば思うほど、一玖に与えられる刺激に敏感になる。
俺は・・・汚い。
当時はトラウマでしかなかったあの出来事が、思春期になると俺を興奮させた。
あんなに気持ち悪いと思っていた事をあの匂いと共に思い出す度に勃起し、そんな自分が嫌で自慰すらできなかった。
どんなに卑猥な女性の写真にも映像にも反応しないのに、男の精液を浴びた事を思い出せば痛いくらいに猛り立つ。
俺は異常だった。
それを認めたくなかった。
市太が傍にいれば、なぜかそれを抑えられた。心が落ち着いて穏やかになって、市太の匂いが俺に平穏をくれた。
いつしか あいつの匂いが無いと不安が襲うようになって、それ以外受け入れたくないと思うようになった。
市太さえいればいい。それでよかったのに・・・
「はぁっ、・・・ぁ・・・ふ、ぁ」
「架・・・気持ちいいの? 勃ってる」
一玖に言われなくてもわかってる。だけど抑えられない。ここに市太はいない。
架の中心は心臓以上にドクドクと脈打ち、今にもはち切れそうなほどの痛みと熱を持っていた。
堪らなくなり、そこへ伸ばそうとした架の手が躊躇う。
だめ・・・だ。やっぱり触れない。もし吐き出してしまったら、俺はきっと戻れなくなる。
「触りなよ。苦しいでしょ?」
「むり。汚い・・・から」
痛い・・・。出して楽になってしまいたい。だけど、ずっと否定してきた性癖を、その根源になっている相手に会った途端認めることになるなんて、絶対に嫌だ。
架の視界が悔しさで滲む。
夢精の経験はあった。けれど自らの意思で射精した経験は一度も無い。
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・・・好きな人・・・?俺なんかが、誰かを好きになっていいのか?こんな、普通じゃない俺が・・・。
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