契約結婚を申し込んできた夫にちっちゃく復讐しようと思う

きんのたまご

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馬車が止まる。
扉が開き御者が手を差し出し降ろしてくれる。はなから夫には期待していない。
一応夫婦で招待されているので会場には夫と共に入る。
扉を開けて大広間の中に入るとそこはもう外とは別の空間。いつもより着飾った夫人達、美味しそうなお料理。煌びやかな会場には優雅な音楽も流れている。
夫と結婚するまでは私とてある程度の社交はしていたが、この碌でもない夫と結婚してからはこんなふうに着飾って外に出るのも久しぶりだった。
はぁ、今更ながらにどうしようもないのと結婚してしまったわと心の底から思った。
会場を歩き主催者のご夫婦を探す。
あっ!いらっしゃったわ。
私は探す気も無いのに私に着いて来ている夫の腕を半ば強引に掴み招待してくださった奥様の元へ行く。
「本日はご招待頂きまして、ありがとうございます」
「来てくださって嬉しいわ。ゆっくり楽しんでいらしてね」
「素晴らしいパーティーですね」
「ありがとう、そうそう!他のお客様にお会いした?」
「?いいえ?まずは奥様にご挨拶をと思いましたので」
私がそう言うと奥様は1つ頷いた。
「見て・・・」
奥様が私に向かい小声でそう言いながらチラッとあるご夫婦に目を向ける。私も釣られるようにそちらを見ると・・・。
「あら、あの方私がお茶会にご招待した・・・」
「そう・・・ほら、あちらも」
あらあらあら、よーく見ればあのお茶会に私がご招待した奥様達、みーんな旦那様を連れていらっしゃる。勿論他にもお客様はいるのだが・・・。私が奥様の方を見るとイタズラが成功した子供のように微笑んでらした。
「今日はまだゲストがいるのよ」
「そうなんですか?」
まぁ、この状況でゲストなんて・・・1人しかいないわよね。
「そろそろおみえになるわ」
その場にいた私達は大広間の入り口を見る。すると間もなくして大広間の扉が開く。そこにはケバケバしく着飾って若い男性にエスコートされる彼女の姿。
奥様は彼女の元へ向かう。
「皆様!こちら・・・よくご存知の方もおられると思いますが、今巷で噂の舞台女優のキャスリーン嬢ですわ。この間見に行かせて頂いた舞台に感動致しまして本日この場にご招待致しましたの!」
奥様がそう言うと会場には拍手が巻き起こった。・・・一部彼女をよーく知る男性陣を除いて。

やっぱり私とは年季が違うわ。浮気夫を持つ年季が・・・。流石奥様!

隣の夫を見ると・・・震えていた。
あーまずいわ、今にも吹き出してしまいそう!
言いたい事、沢山あるんでしょうね。
まずは何故ここに?そして隣の男は誰?そのドレスと宝石はどうした?とかね。
私が夫を見てほくそ笑んでいると先程彼女を皆に紹介していた奥様が戻って来た。
「どう?素晴らしいゲストでしょう?」
どうやら私の夫に聞いているようだ。
「は・・・あ、はい」
・・・まともに返事も出来ない夫に変わり私が答える。
「ほんとーに素晴らしいゲストですわ!わたくしももっとゆっくり彼女とお話してみたかったんです!」
「あら?観劇の後楽屋に行ったのでは?」
「そうなんですが、彼女色々とお忙しいようでなかなかゆっくりお話出来なかったんです」
「そうなの、じゃあちょっと呼びましょうか」
奥様がそう言うと夫が何処かへ行こうとするので腕を絡める。
「あら、貴方も彼女とゆっくりお話したいわよねぇ?」


奥様に連れられ彼女がやって来る。
「本日はこのような素晴らしいパーティーにご招待頂いてありがとうございますぅ」
となかなかにねちっこい挨拶をして来た彼女。
肝が据わってるわねぇ。これだけ貴女の彼氏がいる中でよくもそんなに堂々と・・・ある種尊敬するわ。
「この間はどうも、素晴らしい舞台を見せて頂きもう一度お礼を申し上げたかったんですよ」
私は彼女に向かって微笑む。
「この間も一緒にいましたけれど、こちらわたくしの夫ですわ」
そうして私は夫に寄り添う。
「・・・存じ上げておりますわ・・・あれから貴女の旦那様お1人で何度か私の所に舞台を見に来て下さいましたの」
そう言って彼女は勝ち誇ったように私を見た。
「あら?そうだったの?全然知りませんでした!うちの夫はすっかり貴女のファンになってしまったようですわね」
そんな彼女に夫が貴女に会いに行った事など何でも無い事のように微笑んだ。
「そう言えばこちらの旦那様も彼女のファンだったのでは?」
私がそう言うと彼女は能天気にそうなんですかぁ?などと言いながら奥様の旦那様に目を向ける。
気まずそうに顔を背けるご主人に驚いたような顔の彼女。それを微笑みながら見ている奥様。
さっきもおかしいと思っていたけど・・・彼女、奥様の事を覚えていないのかしら?
奥様は1度お会いした事があるような事を舞台を見に行った日に仰っていたのに・・・。

「彼女は人気者過ぎていちいち1人1人ファンの顔なんて覚えていられないんじゃないかしら?」
私の疑問が顔に出ていたのか奥様はそう言った。
「あら、そうなんですか?人気者も大変ですねぇ。それに比べたら私達がパーティーの招待客の50人60人覚えるなんて簡単なのかも知れませんねぇ」
「ほんとに」
こころなしか彼女の顔が羞恥に赤く染まった気がする。
・・・彼女、唆している男の顔も覚えていないんじゃないの?





パーティー長引きそうなので次回に続く!
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