契約結婚を申し込んできた夫にちっちゃく復讐しようと思う

16

「でも、キャスリーン嬢程人気のある方だとうちの夫に周りをウロウロされてはご迷惑ではなくて？他にちゃんとしたお相手もいらっしゃるのでしょうし･･･ねぇ？」
「そんな！迷惑だなんて！侯爵様には良くして頂いております」
「そうですか？そう言って頂けると安心ですわ！ね？貴方？」
「あ、ああ･･･」
「今日エスコートして下さっている方がお相手ですか？素敵な方ですねぇ」
「いえ、彼はその･･･今の舞台で御一緒させて頂いていて」
「あら？そうなんです？とってもお似合いですよ？」
「･･･ありがとうございます」
「貴方もそう思いますわよね？」
私は夫に訊ねる。
「･･････彼女は･･･彼女は俺の･･･」
「･･･････････････」
あら、ここでそれを言いますか？私は夫の言葉を遮るように
「貴方、本当にそれで宜しいのね？」
と聞く。するとその場に冷っとした空気が流れる。
「本当にここでそれを言って後悔なさいませんのね？」
私達2人のやり取りが分からない周りの人々は何だ？と私達の様子を見ている。
「･･････い、や･･･すまない･･･何でもな、い」
一応事の重大さに気付いたのだろう夫の顔色は真っ青で冷や汗が凄い。
「･･･貴方が思い直して下さって良かったですわ」
そう言って私は夫に微笑む。


あれから彼女は他にも回るからと私達の側から離れ違う方達と話をしている。
普通ならこんな所から直ぐにでも帰りたいと思うだろうに彼女は平気な顔で他の男達と話をしている。神経が図太いと言うかなんというか･･･。気付かれていないと本当に思っているのかしら？
私が彼女に背を向けて飲み物を取りに行くとどこからかグラスの割れるような音が･･･。

ガシャン！
「何で貴女のような下賎な女がここにいるの！」
キャスリーン嬢の持っていたグラスをあるご婦人が叩き落としていた。
「･･･何をなさるんですか！」
「･･････知らないとでも思っているの？貴女が色んな男達と付き合っている事･･･」
「そんな！私そんな事･･･」
「今更とぼけても無駄よ？うちの主人とも以前はお付き合いされていましたものね？」
「いえ、それは･･･」
「それは？何？」
「その･･･」
「この卑しい泥棒猫が！」
そう言ってご婦人はキャスリーン嬢の頬を叩いた。
「きゃっ！」
キャスリーン嬢は叩かれた方の頬を抑えながらご婦人を睨む！
「貴女には沢山貢いでくれる男達の1人かもしれないけれど･･･私にとっては唯1人の夫なのよ」
そう言って次は持っていた扇子でキャスリーン嬢の抑えていない方の頬を叩く。
あら、過激ですねぇ。
夫は呆然としながらその様子を見ている。周りを見渡すと自分にも心当たりのある方達は顔を一様に背けていた。
「やめて！私は女優なの！顔に傷を付けないで！」
キャスリーン嬢が必死に叫んでいるが奥様は繰り返し繰り返しキャスリーン嬢の顔を目掛けて扇子を振り下ろす。
「他の女に自分の主人を取られるなんて！･･･あんたが悪いんでしょ！」
キャスリーン嬢のその言葉に夫人は近くにあったワイングラスを手に取りグラスごとキャスリーン嬢に向けて投げつけた。
やっと本性現したわね。


「彼女、そんな方だったのね」
「ご婦人は可哀想だわ」
「あんなのに騙されて男は愚かねぇ」
「自業自得ね」
会場のあちこちでキャスリーン嬢を非難する声が上がる。
「貴方、助けて差し上げなくてよろしいの？」
私は夫にそう囁く。
「きっと今貴方が助ければ･･･彼女本当に貴方の物になってくれるかも知れませんよ？」


「誰か！見てないで助けなさいよ！」
キャスリーン嬢の醜い怒号が飛ぶ。
しかし沢山いるはずの彼氏たちもエスコートして来た彼でさえも誰も彼女を助けない。それはそうか流石にそんな鬼のような顔で睨んでいてはねぇ。男性達もドン引きですよ。
地べたに座り込んで周りを見渡すキャスリーン嬢。
ここに味方は1人もいないとやっと分かったよう。
「いいんですか？放っておいて。･･･愛しい愛しい彼女なのでしょう？」
私は夫にまた囁く。
すると夫はキャスリーン嬢に向かって走り出した。
「大丈夫か？キャスリーン！」
「侯爵さまぁ！」
抱き合う2人。
「侯爵様ならきっと助けてくれると信じてましたぁ」
「可愛いキャスリーン！怖い思いをさせたね。さぁこんな所早く出て私達のうちに帰ろう」
そうして夫とキャスリーンは2人手を取りながらパーティー会場を後にした。

「奥様、大丈夫ですか？」
他の奥様方が声を掛けて下さる。
「ま、まさかうちの夫まで･･･」
私は顔を手で覆い泣き崩れる･････････ふり。
あまりにおかしくて肩が震えてしまうわ。

「奥様あんなに泣いておられるわ」
「それはショックでしょ！まだ新婚なのにあんなに女にご主人を取られたら！」
「お可哀想に･･･」


これで･･･夫と彼女の評判は地に落ちたわ。
いい気味。