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34 情報収集と行動決定

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レイジ達が倉庫に入った瞬間、埃くささが彼らの鼻をついた。

太い縄や革の袋、木材などが乱雑に置かれており、もう長い間人の手が入っていない事が容易に察せられる。

「おお・・・随分と汚ぇな。倉庫っていうかもはやゴミ置き場だろこれ。」

レイジはそう言いながら小屋の中を見渡す。

「まあ、この方が都合が良いか。んじゃあ、情報収集といこうぜ。」
「うん、任せて。・・・といっても、何から聞けば良いかな?魅了が解けることはないはずだけど、多少なり具体的に答えられる質問じゃないと正確な情報は得られないと思う。」
「最優先は例の魔力減衰の原因。それが人か物か、人ならば外見的特徴と普段どこにいるのかを、物ならば何でどこにあるのか。」
「うん、わかった。・・・・・ストレン、報告しなさい。」

レイジの指示通りにリリィが問い、ストレンは淀みなく答えはじめる。

「本国から派遣された『宣教師』と呼ばれる人物が広範囲の魔力制限の呪いを使えるらしい。恐らくだが、それが魔力減衰の原因だ。宣教師は黒いローブに身を包んだ老爺で、基本的に砦の地下の研究室にこもっている。」
「宣教師、だと?・・・いや、今はそれはいいか。次、その呪いとやらの範囲、継続時間、敵味方の識別ができるか。」

少し引っかかったレイジだが、追求は後にして質問を重ねる。

「・・・・・・詳しくは兵士たちには知らされていないが、範囲はこの砦を覆える程度には広く、継続時間の制限は無いらしい。細かい対象をその場で選ぶことは出来ないが、事前に魔力を解析して設定しておけば、対象から外せる。」
「ふむ・・・。次、その宣教師本人の戦闘能力、及び護衛や武装の有無。」
「本人に戦闘能力は皆無と言っていい。外見通りの老人の身体能力だ。護衛は無く、武装も魔法の補助をする杖のみ。」

その後もレイジは質問を続け、情報を集める。
研究室の位置、砦内の兵の規模と配置、現在の警戒体制の継続予測。
そして、兵糧庫の位置。
可能な限り端的に必要な情報のみを引き出す。
質問の度にリリィを経由していながらも、数分で情報をまとめる。

「・・・よし、魔力減衰に関してはこれで十分だな。」
「護衛もいない老人が魔力減衰の原因、か。じゃあそいつを殺せばいいってことだよね。研究室っていうのも兵士の少ない場所にあるみたいだし、思ったより簡単そうかな?」
「くくっ、それはどうだかな。・・・さて、あまりここに長居する気もないが・・・」

と、そこで質問を初めてから今まで迷いなく発言していたレイジが初めて少し考え込む。

「・・・どうしたの、レイジ?」
「いや・・・」

リリィの問いにも生返事で、彼は思考を深める。

(現在の戦力を考えれば、囚われてるリリィの仲間は一旦置いていって、砦を占領してから救出するのが現実的・・・というか、本来それ以外がほとんど不可能だな。ただ、ここで例の宣教師とやらを処理した後に捕虜が生きてるかと考えると・・・まあ、怪しいか。あるいは、本気で砦を落としに来た時に人質にでもされると面倒だ。)

囚われている夢喰族の存在、そしてその救出は隠れ里の者たちが砦に攻めこむ上で大きなモチベーションになる。
リリィとキリエはともかく、それ以外の者を戦力として数えるのならば捕虜を切り捨てるのは得策では無い。

現状と予測しうる未来、そしてリスクとリターン、メリットとデメリットを総合的に検討し、レイジは判断を降す。

(要するに、今回砦に残したとしても死ななければ・・・・・・良いわけだ。だとすれば、実に簡単な手段があるな。)

方針を決めたレイジはリリィを見る。

「リリィ、ここからは別行動だ。お前はストレンを連れて里の仲間が捕まっている場所に行ってくれるか?」
「え?私は良いけど、レイジは一人で大丈夫なの?それに、さすがに今みんなを助け出しても連れ帰れないし・・・」
「だが、このままここに置いていった場合の生存率はかなり低い。今回連れ帰りはしないが、可能なら死なないようにしたい。」

そこまで聞いて、リリィはレイジが言わんとすることを理解する。そして、わざわざ遠回しな表現にした理由も。

「その顔は、理解したってことでいいな。見張りが居るにしろいないにしろ、ストレンを上手く使えば時間は稼げるだろう。終わったらカインとルルアのところに戻って待機しててくれ。」
「・・・わかった。大丈夫、なんだよね?」

普通に考えれば、戦闘能力の低いレイジと真祖であるリリィが別行動するメリットなどない。

しかし、これ以上レイジに質問することはせず、リリィはそれだけ問う。
それに、レイジは当然という顔して頷いた。

「ああ。これが現状最も成功確率が高い行動と判断した。とはいえ、俺も一人で脱出するのは困難だからな。終わったら何らかの手段で合図を送るから、それを確認したらカインに陽動を頼んで、その隙にリリィはルルアと共に俺の回収を頼む。」
「うん、任せて。」
「時間が惜しい、行動を開始する。ストレンを先頭に周囲の安全を確認後、俺達もここを出るぞ。」

レイジはそう言ってナイフの位置を確認する。
もはや会話する気は無い、という様子である。

「・・・・・・ストレン、夢喰族の捕らえられている場所に向かう。お前は私の言うルートを先行して安全を確保しなさい。もしも他の兵士と出会った場合は私が突破するまで注意を引き、死体を隠せる状況ならその後殺す。」
「了解した。」

仲間を殺せ、という言葉にもストレンは迷いなく頷く。
否、言ってしまえばリリィの魅了を受けた時点で、もはやストレンにとって兵士は仲間では無い。彼の中では、初めからリリィの放ったスパイだったことになっている。

リリィは簡潔にルートを伝える。

「・・・よし。じゃあレイジ、気をつけてね。」
「ああ。」

短く、そう言葉を交わし。

リリィは捕らえられている仲間の元に、レイジは魔力減衰の原因である宣教師の元へと向かった。

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