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26.変容 ②
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「ところでピカナさん、仁く……ベルフェゴールさんの私物、どうしたって言ってましたっけ」
「ああ、えっと、ラスカルから預かった時のまま、ダンボール箱に入れてベッドの下に……」
それを聞くや否や、僕は急いでベッド下から件の箱を引き出し、トゥクルカと一緒に中を確かめる。
「え? 何ですか?」
困惑するピカナを後目に、僕らは黙々と作業を進めていく。
ダンボール箱には本当にたくさんの物品が詰まっていた。数々のパンダグッズの他にVRヘッドセットを始めとした各種ガジェットとケーブル類、そして一番底に──。
「──あった!」
自然と声が弾む。
僕が掴み出したのは、彼の愛用していたと思しいタブレット端末だ。しばらく放置されバッテリー切れを起こしていたので、充電しながらの起動を試みる。しかし当然ロックがかかっていて、中身を覗けない。こうなったら――。
「仁くーん、こんにちは。ちょっとこれ見てくれるかな」
僕はベッドに横たわっている彼の眼前にタブレットを突き付けた。
「これ、仁くんのだよね? ロック解除の仕方、教えてくれない?」
「…………」
彼はぼんやりした目付きでタブレットを見つめるだけだ。
「ほら、ここにさ、ロックNo.入れなきゃなんないんだ。指動かせないならおにいちゃんが代わりにやるから、なんて入力したらいいかだけ教えて?」
「…………」
再度、声を掛けるも、期待していた反応は返らなかった。
「今日は体調が思わしくないみたいですね……」
トゥクルカが難しい表情を浮かべる。
多分、そうなんだろう。少し顔が赤いから、熱があるのかもな。だけど今は悠長に構えていられない。
僕は彼の肩を引いて仰向けにし、薄暗がりと化した双眸を覗き込んだ。
「仁くん、僕の目を見て」
「……?」
彼がゆっくりと視線を向けてくれたので、真剣なトーンで語りかける。
「あのね、この中に大事なデータが入ってるんだ。それが見れないと、おにいちゃん達、すごく困るの。だから、お願い。力を貸して」
「……んー……」
彼の口から曖昧な声が漏れた。
「……ボク、きょう、からだしんどいねん……またこんどでええ……?」
「──っ! しっかりしてください、ベルフェゴールさん!」
僕は彼の肩を強めに揺さ振った。
「この忙しい時に、なにのんきなことを仰ってるんですか。おじいちゃんじゃないんですから、寝ぼけるのも大概にしてくださいよ」
彼の眠たげな表情の中にかすかな驚きが滲む。
「……? いま……なん──」
「ほらっ、ここにロックNo.を入れるだけでいいんです。いくら貴方がポンコツでも、それくらいのことは出来ますよね?」
僕は彼の言葉を遮るようにして、タブレットの入力欄を指した。
「ち、ちょっと、ベリトさん……っ」
ピカナが引き留めようとするが、配慮してたら彼は眠ってしまいそうだから、敢えてイジワル全開でぐいぐい距離を詰めていく。
「終わったら何時間寝ちゃっても構いませんから、最優先事項として対応してください。大体、こんなの2秒で終わる仕事ですよ。仕事遅いヤツ嫌いでしょ? “ちゃっちゃと片付けて”くれたらいいんです! ほらほらほらほらー!」
「……わかった、から……」
煽り気味に声を掛けまくっていたら、さすがにウザかったのか彼の眉間にしわが寄った。
「……なんでおまえに……そこまでいわれなあかんねん……」
あれ?
久しぶりの不愉快オーラと懐かしい雰囲気に胸が騒ぐ。隣で様子を窺っていたピカナとトゥクルカも目を丸くしている。
「ベルフェゴールさん、もしかして、思い出しました?」
「…………」
思わず訊いてみた。でも、タブレット画面を見つめる彼の目は曇っていて、不調で意識が混濁したことによる一時的な復活に見えた。それでも大きな進歩だ。
「……これ、ひらいたらええんやな……」
「はい、お願いします」
彼がタブレットに手を伸ばしてきたので、僕はタップしやすい角度に調整する。
画面を彼の指が滑り、数秒後には見事ロックが解除されていた。やっぱり普段使いのパスコードは忘れないもんなんだな。
「おー、ありがとうございます。やれば出来るじゃないですかー」
怠そうな表情を浮かべる“副代表”に僕は感謝を伝える。
「…………」
しかしこの時には既に彼のオーラは消えており、虚空を見つめるだけになっていた。
「ごめんね。具合悪いのに無理させちゃって。でも助かったよ、仁くん」
“最近の口調”に戻して頭を撫でると、彼はゆっくり僕を見て表情を和らげ、目を閉じた。
ああ、よっぽど調子悪いんだろうな。
「もーっ! ベリトさん、無理させないでくださいよぉ! かわいそうにー!」
僕はピカナの非難を往なしつつ、トゥクルカに声をかけた。
「トゥクルカさん、これ、画面ロックの設定解除できます?」
「……ちょっと待ってください」
彼女はタブレットを受け取ると、こちらの期待通り、さくさく操作し始める。
「え? でも、解除にもロックNo.要りますよね。副代表、もう寝ちゃってますけど……」
「問題ありません。副代表の指の動きを記憶していましたので」
「……さ、さすがトゥクルカさん……」
ピカナの懸念はあっさりと払拭される。
「じゃ、ピカナさん。僕ら急ぎますんで、あとよろしくお願いしますね」
「副代表にもよろしくお伝えください。失礼します」
「……は、はあ!? 何だったんですか、二人とも……」
僕らはタブレットを引っ提げ、未だ腑に落ちていない様子のピカナを残し、足早に病室を後にした。スルーして申し訳ないんだけど、今はあまり時間を無駄にできないからな。
また何か用意するか。仁くんにもご褒美あげないとだしw
「ああ、えっと、ラスカルから預かった時のまま、ダンボール箱に入れてベッドの下に……」
それを聞くや否や、僕は急いでベッド下から件の箱を引き出し、トゥクルカと一緒に中を確かめる。
「え? 何ですか?」
困惑するピカナを後目に、僕らは黙々と作業を進めていく。
ダンボール箱には本当にたくさんの物品が詰まっていた。数々のパンダグッズの他にVRヘッドセットを始めとした各種ガジェットとケーブル類、そして一番底に──。
「──あった!」
自然と声が弾む。
僕が掴み出したのは、彼の愛用していたと思しいタブレット端末だ。しばらく放置されバッテリー切れを起こしていたので、充電しながらの起動を試みる。しかし当然ロックがかかっていて、中身を覗けない。こうなったら――。
「仁くーん、こんにちは。ちょっとこれ見てくれるかな」
僕はベッドに横たわっている彼の眼前にタブレットを突き付けた。
「これ、仁くんのだよね? ロック解除の仕方、教えてくれない?」
「…………」
彼はぼんやりした目付きでタブレットを見つめるだけだ。
「ほら、ここにさ、ロックNo.入れなきゃなんないんだ。指動かせないならおにいちゃんが代わりにやるから、なんて入力したらいいかだけ教えて?」
「…………」
再度、声を掛けるも、期待していた反応は返らなかった。
「今日は体調が思わしくないみたいですね……」
トゥクルカが難しい表情を浮かべる。
多分、そうなんだろう。少し顔が赤いから、熱があるのかもな。だけど今は悠長に構えていられない。
僕は彼の肩を引いて仰向けにし、薄暗がりと化した双眸を覗き込んだ。
「仁くん、僕の目を見て」
「……?」
彼がゆっくりと視線を向けてくれたので、真剣なトーンで語りかける。
「あのね、この中に大事なデータが入ってるんだ。それが見れないと、おにいちゃん達、すごく困るの。だから、お願い。力を貸して」
「……んー……」
彼の口から曖昧な声が漏れた。
「……ボク、きょう、からだしんどいねん……またこんどでええ……?」
「──っ! しっかりしてください、ベルフェゴールさん!」
僕は彼の肩を強めに揺さ振った。
「この忙しい時に、なにのんきなことを仰ってるんですか。おじいちゃんじゃないんですから、寝ぼけるのも大概にしてくださいよ」
彼の眠たげな表情の中にかすかな驚きが滲む。
「……? いま……なん──」
「ほらっ、ここにロックNo.を入れるだけでいいんです。いくら貴方がポンコツでも、それくらいのことは出来ますよね?」
僕は彼の言葉を遮るようにして、タブレットの入力欄を指した。
「ち、ちょっと、ベリトさん……っ」
ピカナが引き留めようとするが、配慮してたら彼は眠ってしまいそうだから、敢えてイジワル全開でぐいぐい距離を詰めていく。
「終わったら何時間寝ちゃっても構いませんから、最優先事項として対応してください。大体、こんなの2秒で終わる仕事ですよ。仕事遅いヤツ嫌いでしょ? “ちゃっちゃと片付けて”くれたらいいんです! ほらほらほらほらー!」
「……わかった、から……」
煽り気味に声を掛けまくっていたら、さすがにウザかったのか彼の眉間にしわが寄った。
「……なんでおまえに……そこまでいわれなあかんねん……」
あれ?
久しぶりの不愉快オーラと懐かしい雰囲気に胸が騒ぐ。隣で様子を窺っていたピカナとトゥクルカも目を丸くしている。
「ベルフェゴールさん、もしかして、思い出しました?」
「…………」
思わず訊いてみた。でも、タブレット画面を見つめる彼の目は曇っていて、不調で意識が混濁したことによる一時的な復活に見えた。それでも大きな進歩だ。
「……これ、ひらいたらええんやな……」
「はい、お願いします」
彼がタブレットに手を伸ばしてきたので、僕はタップしやすい角度に調整する。
画面を彼の指が滑り、数秒後には見事ロックが解除されていた。やっぱり普段使いのパスコードは忘れないもんなんだな。
「おー、ありがとうございます。やれば出来るじゃないですかー」
怠そうな表情を浮かべる“副代表”に僕は感謝を伝える。
「…………」
しかしこの時には既に彼のオーラは消えており、虚空を見つめるだけになっていた。
「ごめんね。具合悪いのに無理させちゃって。でも助かったよ、仁くん」
“最近の口調”に戻して頭を撫でると、彼はゆっくり僕を見て表情を和らげ、目を閉じた。
ああ、よっぽど調子悪いんだろうな。
「もーっ! ベリトさん、無理させないでくださいよぉ! かわいそうにー!」
僕はピカナの非難を往なしつつ、トゥクルカに声をかけた。
「トゥクルカさん、これ、画面ロックの設定解除できます?」
「……ちょっと待ってください」
彼女はタブレットを受け取ると、こちらの期待通り、さくさく操作し始める。
「え? でも、解除にもロックNo.要りますよね。副代表、もう寝ちゃってますけど……」
「問題ありません。副代表の指の動きを記憶していましたので」
「……さ、さすがトゥクルカさん……」
ピカナの懸念はあっさりと払拭される。
「じゃ、ピカナさん。僕ら急ぎますんで、あとよろしくお願いしますね」
「副代表にもよろしくお伝えください。失礼します」
「……は、はあ!? 何だったんですか、二人とも……」
僕らはタブレットを引っ提げ、未だ腑に落ちていない様子のピカナを残し、足早に病室を後にした。スルーして申し訳ないんだけど、今はあまり時間を無駄にできないからな。
また何か用意するか。仁くんにもご褒美あげないとだしw
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