bias: bent 貴方のために、嘘をつく。

帆足 じれ

文字の大きさ
28 / 33

26.変容 ②

しおりを挟む
「ところでピカナさん、仁く……ベルフェゴールさんの私物、どうしたって言ってましたっけ」

「ああ、えっと、ラスカルから預かった時のまま、ダンボール箱に入れてベッドの下に……」

 それを聞くや否や、僕は急いでベッド下から件の箱を引き出し、トゥクルカと一緒に中を確かめる。

「え? 何ですか?」

 困惑するピカナを後目に、僕らは黙々と作業を進めていく。

 ダンボール箱には本当にたくさんの物品が詰まっていた。数々のパンダグッズの他にVRヘッドセットを始めとした各種ガジェットとケーブル類、そして一番底に──。

「──あった!」

 自然と声が弾む。
 僕が掴み出したのは、彼の愛用していたと思しいタブレット端末だ。しばらく放置されバッテリー切れを起こしていたので、充電しながらの起動を試みる。しかし当然ロックがかかっていて、中身を覗けない。こうなったら――。

「仁くーん、こんにちは。ちょっとこれ見てくれるかな」

 僕はベッドに横たわっている彼の眼前にタブレットを突き付けた。

「これ、仁くんのだよね? ロック解除の仕方、教えてくれない?」

「…………」

 彼はぼんやりした目付きでタブレットを見つめるだけだ。

「ほら、ここにさ、ロックNo.入れなきゃなんないんだ。指動かせないならおにいちゃんが代わりにやるから、なんて入力したらいいかだけ教えて?」

「…………」

 再度、声を掛けるも、期待していた反応は返らなかった。

「今日は体調が思わしくないみたいですね……」

 トゥクルカが難しい表情を浮かべる。
 多分、そうなんだろう。少し顔が赤いから、熱があるのかもな。だけど今は悠長に構えていられない。
 僕は彼の肩を引いて仰向けにし、薄暗がりと化した双眸を覗き込んだ。

「仁くん、僕の目を見て」

「……?」

 彼がゆっくりと視線を向けてくれたので、真剣なトーンで語りかける。

「あのね、この中に大事なデータが入ってるんだ。それが見れないと、おにいちゃん達、すごく困るの。だから、お願い。力を貸して」

「……んー……」

 彼の口から曖昧な声が漏れた。

「……ボク、きょう、からだしんどいねん……またこんどでええ……?」

「──っ! しっかりしてください、ベルフェゴールさん!」

 僕は彼の肩を強めに揺さ振った。

「この忙しい時に、なにのんきなことを仰ってるんですか。おじいちゃんじゃないんですから、寝ぼけるのも大概にしてくださいよ」

 彼の眠たげな表情の中にかすかな驚きが滲む。

「……? いま……なん──」

「ほらっ、ここにロックNo.を入れるだけでいいんです。いくら貴方がポンコツでも、それくらいのことは出来ますよね?」

 僕は彼の言葉を遮るようにして、タブレットの入力欄を指した。

「ち、ちょっと、ベリトさん……っ」

 ピカナが引き留めようとするが、配慮してたら彼は眠ってしまいそうだから、敢えてイジワル全開でぐいぐい距離を詰めていく。

「終わったら何時間寝ちゃっても構いませんから、最優先事項ファーストプライオリティとして対応してください。大体、こんなの2秒で終わる仕事ですよ。仕事遅いヤツ嫌いでしょ? “ちゃっちゃと片付けて”くれたらいいんです! ほらほらほらほらー!」

「……わかった、から……」

 煽り気味に声を掛けまくっていたら、さすがにウザかったのか彼の眉間にしわが寄った。

「……なんでに……そこまでいわれなあかんねん……」

 あれ? 

 久しぶりの不愉快オーラと懐かしい雰囲気に胸が騒ぐ。隣で様子を窺っていたピカナとトゥクルカも目を丸くしている。

「ベルフェゴールさん、もしかして、思い出しました?」

「…………」

 思わず訊いてみた。でも、タブレット画面を見つめる彼の目は曇っていて、不調で意識が混濁したことによる一時的な復活に見えた。それでも大きな進歩だ。

「……これ、ひらいたらええんやな……」

「はい、お願いします」

 彼がタブレットに手を伸ばしてきたので、僕はタップしやすい角度に調整する。

 画面を彼の指が滑り、数秒後には見事ロックが解除されていた。やっぱり普段使いのパスコードは忘れないもんなんだな。

「おー、ありがとうございます。やれば出来るじゃないですかー」

 怠そうな表情を浮かべる“副代表”に僕は感謝を伝える。

「…………」

 しかしこの時には既に彼のオーラは消えており、虚空を見つめるだけになっていた。

「ごめんね。具合悪いのに無理させちゃって。でも助かったよ、仁くん」

 “最近の口調”に戻して頭を撫でると、彼はゆっくり僕を見て表情を和らげ、目を閉じた。
 ああ、よっぽど調子悪いんだろうな。

「もーっ! ベリトさん、無理させないでくださいよぉ! かわいそうにー!」

 僕はピカナの非難をなしつつ、トゥクルカに声をかけた。

「トゥクルカさん、これ、画面ロックの設定解除できます?」

「……ちょっと待ってください」

 彼女はタブレットを受け取ると、こちらの期待通り、さくさく操作し始める。

「え? でも、解除にもロックNo.要りますよね。副代表、もう寝ちゃってますけど……」

「問題ありません。副代表の指の動きを記憶していましたので」

「……さ、さすがトゥクルカさん……」 

 ピカナの懸念はあっさりと払拭される。

「じゃ、ピカナさん。僕ら急ぎますんで、あとよろしくお願いしますね」

「副代表にもよろしくお伝えください。失礼します」

「……は、はあ!? 何だったんですか、二人とも……」

 僕らはタブレットを引っ提げ、未だ腑に落ちていない様子のピカナを残し、足早に病室を後にした。スルーして申し訳ないんだけど、今はあまり時間を無駄にできないからな。
 また何か用意するか。仁くんにもご褒美あげないとだしw
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...