日本滅亡の原因は、毛虫であった。

cap

文字の大きさ
2 / 3

死体とポイズナーとナイフとメタボ

しおりを挟む

『リンさんのこと、大好きっす』

なぜか昨日の夜ことを思い出していた。

リンさんの死んだ顔など見ただけで、泣いて崩れてしまいそうで、顔も洗わずに太陽とは逆の方向にひたすらに、ただひたすらに走っている。

『リンさんの顔、最後に見た方が良かったかな…』
でも死体なんて、直視できるはずがない。

なぜリンさんは死んだ?

ポイズナーにやられたのか?

それとも、元々毛虫を触っていたとか?

それなら、なんだあの血は?

俺も…あんな感じで死んじまうのか?



『血が出るなんて…聞いてないっすよぉ…』



涙を袖で拭いながら、走り続ける。

ただ、走る。
目的はたったひとつ。

全ての元凶、ポイズナーを殺すため。

こんな日本は嫌だ。

こんな日本にしたポイズナーを、

リンさんを殺したポイズナーを、この手で殺す。


足元に硬い感触がしたので、下を見てみると、そこには一本のナイフが落ちていた。
俺は、それをポケットに入れ、また走り出した。

ポイズナーを、見つけるため。
そして、これで…この、ナイフで……!

「うわあああああああああ!ポ、ポイズナーがいるぅうう!!!!!!」

後ろから叫び声が聞こえた。

『だ、誰だ!??』

そこに立っていたのは、男にしては小柄な少し太ったヤツだった。

しかも、こちらに銃を向けている。

「こ、殺してやるぅ!!!」
彼は、引き金を引いた。

『ま、待て!おい!俺はポイズナーじゃない!落ち着け!』

「落ち着かない!こ、殺す!!!」
ダメだ、我を失っている。

『こうなったら…』
こうなったら、アレだ。

『おいお前!肩に毛虫付いてるぞぉ!』


俺とリンさんが出会った時の、
最初の、会話を思い出した。

「け、毛虫!?うわぁ!?」
彼は銃を落とした。

「毛虫なんて…何処にも…ついてないじゃないか…」

『はぁはぁ…はぁ…』

「お前…はぁ…嘘ついたな…はぁはぁ」

『やっと落ち着いたかよ、クソメタボ』

「なっ…!?」

落ち着いたようだ。
しかし、これは好都合だ。
俺はポケットに手を入れ、ナイフがあるかを確認する。

ある。

リンさん…見つけたよ。
日本に残っている人間は2人…俺とリンさん…
つまり、こいつは…

ポイズナー確定、だ。

「おぉいぃ…おまぇぇ…」

『な、なんだよ、クソメタボ…』
ポイズナーが話しかけてくんじゃねぇ。

「好きな食べ物は…なんだ…?」
好きな、食べ物?

ちょっと待て

『ま、待て…なんでお前が…リンさんの質問を知ってるんだ?』

「お、お前こそなんで!?これがリン様の質問だと、知っている!?」
リ、リン様…!?

様呼び…

『待て、一旦考えるから…黙れ』

「リン様は俺の命の恩人だぞお!?」

『いいから黙れって!』
命の恩人か…そんな奴が…リンさんが死んだって知ったら…。


言えるわけねぇ…。



いや、コイツが人間だって決まった訳じゃない。考えるんだ。

でも…もし…

そうなってくると…話が変わってくるぞ…。
今考えられるパターンは3つ。

➀俺とリンさんは人間で、コイツがポイズナー。

➁アメリカ政府の報道は間違っていて、今日本にいる人間は、3人。

そして次は…これはあまり考えたくない最悪のケースだが…

➂コイツとリンさんは人間で、俺が無自覚のポイズナー…であるということ…。

もし、➂だとしたら…
リンさんを殺したのは………紛れもなく…
昨日隣で寝ていた…

「よぉよぉ!男子ども!なーに睨み合ってんのっ!」
聞いたことない声が聞こえた。

メタボと俺は目線をそちらに移す。

茂みから、割って入ってきたのは、小柄な女性だ。

『➃…?まじすかぁ…?』


「おぉ!?お前もポイズナーかぁ!?2人いるなんて聞いてないぞぉ!?」

「は、はぁ?ポイズナー?私が?な訳ないじゃん、何このおっさん」

「おっさんじゃない!20歳だ!」

『待て…君も、リンさんの知り合いか?』

「リン?リンって誰?私知らない」
彼女はリンさんのことを知らなかった。

「様をつけろ様をぉぉ!」
こいつはうるさい。

「んで?リンって人は、誰なの?」

「リン様はな、この世界の理解者だ!」

「理解者!?なんそれ、私もなってみたい!」

「ダメだ、お前はなれない。」

「なんなのよ…あんた…。てゆーか、アンタら何睨み合ってたわけ?」

メタボと同じくらいの身長の小柄な彼女は、この非現実な世界には似合わず、元気で明るくて、眩しいほどだった。

『「コイツはポイズナーだ」』
揃った、最悪、恥ずい。メタボ。

「はぁ?何を証拠に言ってんのよアンタらは」

「リン様が言ってたんだ。ラジオで聞いたって」

「聞いたって、何をよ。」

『今日本で生存している人間は、2人しかいないって、リンさんはそう聞いたらしい』

「ふーん……でもさ、ここに今いるだけで3人だから、アメリカ政府、間違ってたみたいだね!」

「リン様が嘘をついたって言うのか?」

「そんなこと言ってないよぉ。でも、私からしたら、そんな不確実な情報を信じて殺し合いするのは、おかしいよ」

不確実…確かにそうだ。メタボがリンさんを殺した証拠も根拠もあるわけじゃないし、アメリカ政府の数え間違いって可能性も実際大いにあり得る。

我を失っていたのは、俺のようだ。

『と、とにかく、今ここで俺らが解決できることは、何もない!』

「だね!じゃーもう、関わらないのが1番だって!ほら全員!後ろ向いて!」

「うしろぉ?」

3人は互いに背を向けた。

「じゃ、それぞれの方向に10分全力で走ること。そうしたらもー2度と会わないでしょ!」

「10分走るなんて…この体型じゃ…」

『そうだな…そうしよう…それが1番いい。色々となんか、ありがとうな、えっと…』

「私はヒマリ!よろしくね!って言ってももう会わないか」

「俺は…カズマだ。一応名乗っておく。」

『じゃ、じゃあ…俺はアスカだ』

3人とも、背を向けながら、それぞれ名乗った。

顔を見ない自己紹介など、初めてだ。

「じゃ、カズマ、アスカ!元気でね!」

3人はそれぞれの方向に、走り出した。

元気でねって、俺はあと2日の命だ。

毛虫だらけの山道をひたすらに真っ直ぐ走る。
ポケットでカラカラと、ナイフの金属の音が鳴っていた。



5分ほど走っただろうか。

太陽は先ほどよりも上に昇っていて、日差しが強くなっていた。

俺は、なぜかヒマリの言葉を思いだしていた。

『不確実な情報…うん、確かにその通りだ。』

この世界の全てをリンさんは知っていると思っていた。リンさんの言ってることは、全て正しいと信じて疑わなかった。



でも、全て嘘だとしたら?



俺らという駒を都合よく動かすための、
嘘だと、したら。



でも待て…リンさんはもう…死ん……


いや、今朝を思い返せ。




朝起きて、横を見たら、そこには死体があった。




誰のだ?




俺は顔を確認していない。



ちゃんと死んでいるかどうかなんて、見ていない。



なにで俺は判断した?



髪色か?黒髪なんてどこにでもいる。
服装か?血の色で赤に染まってよく分からなかった。
そもそも、あれは本当に死体なのか?
本当に死んでいるといえる…アレがリンさんの死体だといえる証拠は…




何一つない。





この目で、リンさんの死体を…

リンさんの顔を確認するまでは…



とにかく俺が今向かうべき場所は…




『第一拠点だ』




走っていた足を止め、額の汗を拭い、鳴り止まぬ心臓の音を必死に抑えながら、今度は太陽の方向に走り出した。













しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...