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第1章 café R 〜ふたりの出会い、みんなの出会い〜

第6話:食後のお話

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 ツッコミを入れつつコーヒーを啜るが、苦味にコクがあり、酸味は穏やかで、油分が強いせいか甘みがあるようにすら感じる。

 ひと息つきながら、

「よくこんなところ見つけたな」

 連藤が満足げに2人に言うと、鼻高々に瑞樹が返す。

「いやマジ奇跡だと思う!」

「でもいつでも満席になってもいいぐらいの店だぞ?」

 三井は言うが、

「オーナー、無理しないタイプみたい」

 巧が、顎でドアの方をしゃくった。
 OLさんの2人連れが来店したが、丁寧におかえり願ったようだ。
 店内を見る限り、6割ほどの席が埋まっているのはもちろん、巧たち4名は早めの来店だったが、他のお客は今まさに食べ始める人たちばかり。1人の店では手が回らないのも無理はない。

 混んだ店内に、再びドアベルが鳴る。
 学生だろうか、若い男の4人連れだ。
 彼女は笑顔で何か伝え、店に入れさせないようにしている。
 半ば押し出すように追い返しているが、少し揉めているようにも見える。

「三井、ちょっと行ってこいよ」
「巧が行けよ」

 すると、立ち上がったのは連藤だ。
 莉子の元へとまっすぐに進んでいく。

 緩みのないネクタイと、しっかりと整えられた頭髪、質のいいスーツにちらりと覗く高級腕時計。
 どれを取っても揉めている男性4名に勝てるところはない。
 だいたい、色眼鏡で隠しきれないイケメン感が溢れ出ている。
 もう、存在のオーラだけで負けるだろう。
 現に、近くに来ただけで、言葉を失くす始末だ。
 連藤は止んだ声の隙間を縫って、莉子の横にぴったりくっつき、肩を握った。

「オーナー、会計をお願いしたいんだが……」

 頬が触れるほどの近さで笑顔を浮かべる連藤だが、若い4人組にはその笑顔は向けない。
 そして、しっかりと彼らを連藤は言う。

「私の空耳でなければ、今、か? 警察を呼ぶぞ」

 その言葉に彼らのだらしない体がシャキリとなる。
 すぐに舌打ちをして去っていく若者を見送って、莉子は深々と頭を下げた。

「れ、連藤さん、ありがとうございますっ」

 莉子は丁寧に連藤を席へと戻したあと、サービスでプチケーキを出してから、必死にオーダーをこなしていた。

 こなさなければ、顔から火が出て焼死しそうだったからだ!


 莉子の人生の中で、イケメンの男性をあんなに間近にみたことはなかった。
 そのせいで緊張してしまい、「ありがとうございます」すら声が上ずり、もう、それが余計に恥ずかしくてたまらない!


 リフレインのように繰り返すさっきの場面に、莉子はもう死にかけていた。
 そのため心の中で呪文のように、大丈夫を繰り返す。


 ───こんな目に遭ったのだし、もう、来ることはもうない。
 だから大丈夫。もう来ないから、大丈夫! だいじょぉぶ!!!!
 というより、会う度に顔が赤くなりそうだから、来店しないで欲しいっ……!!───


 莉子は心の中で必死に繰り返していた。
 イケメンの4名をなんとか笑顔で見送り、これで見納めなのだと背中を目に焼き付けた。

 少し寂しくも感じるが、これが世の中だと割り切り、恥ずかしい思いも昨日までと切り替えた翌日───


「オーナー、こんにちは」


 薄く笑う盲目のイケメン、あの連藤がドアベルを鳴らしていた。
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