ヒト堕ちの天使 アレッタ

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初めてのおつかい 【捜索編】

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 湿った地面を蹴り上げながら、白い毛並みの2頭の馬は濃い霧の中を走っていた。

「ねぇ、ネージュ、君がついてて、何が起こったんだい?」

 エイビスは怒るでもなく、穏やかな口調でそう言ったが、その言葉の陰に潜んだ棘がある。
 ネージュはおずおずと口を開いた。

「……わからない。急に栗毛の馬が飛んできて、アレッタを網ですくって持っていったの」

「ブロディの子を狙ったんじゃないのか」

 フィアの声にネージュは大きく頷いた。
「アレッタをさらってから、騒ぐあの子も持っていった感じよ」

 ネージュの言葉に、エイビスとフィアは視線を合わせ、首を傾げた。どこか腑に落ちない点があるようだ。

「ね、あたしにも教えて。なんでヒトが飛んでるの? あの馬、ペガサスの羽がついてた」

「そんなこと、特段不思議なことじゃない。ヒトの雇い主が魔族なだけだ。たぶんゴブリンのネイビーズだろうな」

 フィアが淡々と答えると、ネージュはフィアの背中で腕を振り回しているようだ。
 どうも信じられないらしい。

「……ヒトが魔族と手を組む? なんで? だって、敵同士でしょ?」

 その言葉にフィアが声高に笑った。

「このヒトの世界は欲まみれだ。ヒトを雇うゴブリンも多いし、平和的なオークだっている。
 天界は白と黒でしか見えないだろうが、この世界は灰色だ」

 エイビスは唐突に馬の綱を大きく引いた。
 前足をばたつかせながら馬を止めると、大きな嘶きがひとつ響く。
 馬の首を撫でながら、エイビスは辺りをゆっくりと見回し、

「フィア、アレッタの方向はこっちのはずなんだけど……」

 エイビスは指で方向を指すのだが、さきほどから馬はその方角に頭を向けていたはずだが、どうしてだろう。
 距離が縮まる感覚がないのだ。

「……ねえ、フィア、おかしくない?」

 ペンダントの魔力をたどっているのだが、たどり着けないのはありえない。
 エイビスは首を傾げながらも、

「フィア、ちょっと調べて」

 エイビスが端的に言うと、フィアは髪の毛を数本抜いて、息をかけた。
 すると炎の人が立ち上がり、散り散りに走っていく。

「フィアのその術、あとで教えくれないかしら?」
「ネージュ、お前には無理だ。かなりの集中力が必要になる」

 不貞腐れるネージュをよそに、フィアは分身を使って何かを見つけたようだ。
 四方から燃え立ち上る炎の音が聞こえてくる。

 次第に晴れていく霧にネージュが驚いていると、

「どうも魔族よけの結界があったようだね」

 エイビスがため息交じりに呟いた。

「我々を警戒してのことです。おかげで数分足止めを食らったようです」

「なかなかやるじゃない」

 エイビスが仮面越しに顎をしゃくると、荷台を繋げた馬車が走っている。
 その馬に鞭を打つのは若いゴブリンだ。
 その横には年を召したゴブリンが座り、急げ急げとけしかけている。

「……急げ、息子よっ! 上玉の子が手に入ったんだ」

「やりましたね、父上!」

「ああ、まさか子供と一緒にブロディの子も手にれるとは。ひと啼きされて、本当によかった。ささ、急げっ!!」

 がむしゃらに走る馬車の前に、突然に白馬が飛び出してきた。
 無理やり馬車を止めたゴブリンはその馬の主に怒鳴り散らすが、改めて見た姿に大きな目をさらに大きく丸くした。

 そこには、仮面の男、エイビスがいたからだ。

「デイビーズ、ちょっと迷子を探してるんだけど」

「こ、これはこれはエイビス卿……ご機嫌麗しく」

 デイビーズと呼ばれたゴブリンは、馬車から素早く降りると手入れのよく行き届いたジャケットの襟をただし、恭しく頭を下げた。

「デイビーズ、そういうのいいからさ。僕、迷子を探してて、4歳くらいの女の子なんだけど、
 ……知らないかな……?」

 白く光る仮面がデイビースの顔を覗き込む。
 冷や汗をかいた自身の顔がくっきりと写り、彼は胸ポケットからハンカチを取り出すと、顔をひとぬぐいした。
 そして、目を伏せたまま首を横にゆっくりと振る。

「こ、子供ですか……いや、この辺ではみかけてませんな……」

「フィア」

 応えるゴブリンの頭に水がかかった。
 ハンカチで再びそれを拭うと、赤く染まる。

 ───血だ。

 馬車にいる息子の腕をフィアが切り落としたのだ。

「……もう一度聞くけど、知らないかな……?」

 あまりの痛みに転がり落ちた息子は、地面に這うようにうずくまりながらデイビーズに懇願している。
 その息子の声を噛み潰す顔で、デイビーズは口を一文字に結んだ。

「フィア」

 もう一本の腕が飛んでいった。

「こ、これはエイビス卿、ひどすぎますっ!!」

 思わず息子に駆け寄るデイビーズに、

「さすがに首と胴体はくっつけられないんだよね……
 ねぇ、知らないかな………?」

 エイビスが、ずいっと顔を大きく寄せる。
 金縛りのように動かなくなったとき、荷台を調べていたネージュから声が上がった。

「エイビスっ!!!」

 彼女が荷台からポンポンと放り出したのは、子供だ。
 4歳から7歳程度の体の小さな子供である。
 しかも4人も出てきたではないか。

「デイビーズ………?」

 エイビスの声が低く、森の中に響き渡った────
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