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第13話「駆け込み寺〜リアン〜」
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鞘を乗せた車は、天葉邸を覆い隠すようにある山雲の森を離れ麓へと降りてきた。次第に現れる民家の数々。
しばらくそんな風景が続いたあとに花花であふれた庭がある大きな一軒家が鞘の目に映りこむ。
車はこの家の前に停車し、前徳に促された鞘は車から黒刃を手に降り立つ。
前徳は鞘に頭を下げながら言う。
「鞘さま。ここまでしか送れない事をどうかお許し下さい」
鞘はあわてて両手を左右に振りながら「とんでもありません」と返す。
「こちらこそ。ここまで案内して下さっただけでも十分です。どうか美咲さまによろしくお伝え下さい」
「かしこまりました。私も美咲さま同様、あなたさまのこれからを応援しております」
「ありがとうございます」
こうして、前徳が運転する車は去って行った。
話は少し前に遡る。
天葉邸を出ていこうとした鞘を美咲が早足で追ってきたのだ。
彼女は鞘の元へ着くなり「申し訳ありませんでした」と深く頭を下げた。
「まさか天葉一族ともあろう者たちがあのような腑抜けになってしまったなんて......お恥ずかしい限りです。鞘さんもさぞや驚かれた事でしょう」
それでも鞘は仕方ないとも思ったし、そう返した。
「皆さまのトラウマになるのもうなずけます。ですから私としてはなんの文句もありません」
「鞘さんにそう言っていただけると少しは救われます」
「はい」
「ですがあなたに心ない言葉を浴びせたあの者たちに対して一瞬でも思ったのです。『17年前のあの日、我々はいっその事死んでしまえばよかったのかもしれない』と」
「......美咲さま」
「今のあのような彼らを見るのならば......。万が一、魔物や別の脅威に襲われたら今度こそ死ぬーーーそれだけはわかります」
一族に絶望し、更に悲壮な覚悟をしている美咲に鞘は「何かあったら呼んで下さい......今度こそあの時のようなヘマはいたしません!!」と訴えるが、美咲はその言葉だけでも十分だと言った。
そしてその話を打ち消すかのように彼女は鞘にある場所を教える。そこは、あの者たちとそりが合わなかった人のための駆け込み寺のような存在だという。
「そんな方たちがいらっしゃるのですか?」
「はい。やはりあの者たちから、これからは静かに暮らしたい。それなのに超消滅士の君たちがこの屋敷にいられると、戦う意思を持っているものだと勘違いされ、17年前のように襲われてしまう。だから屋敷から出ていってくれないか、と言われた人たちが」
「君たち超消滅士、という事は......」
鞘からの問いに美咲はうなずくと「鞘さんと同じ超消滅士の方々です」と答えた。彼女は更に「駆け込み寺の名前は『リアン』です。フランス語で絆、縁を意味するんですよ」と続けた。
リアン...絆... 縁を意味する。居場所を失った超消滅士たちが築いた安らぎの場所。
そんな事を考えるとリアンと名付けた彼らの思いに鞘は胸がざわついた。そして美咲に素敵なネーミングですねと言葉を紡いでいた。
それから美咲は鞘の腕の中の黒刃に深々と頭を下げた。
「はじめまして黒刃さま。天葉家の宝刀にお目にかかれて光栄です」
美咲は鞘が手にしていた刀が黒刃だと見抜いていたのだ。黒刃も『まさか気づく者がいたなんてね......』と驚いている。
『いつから俺だと気づいていたのかな?』
「黒刃さまが天葉の人間を主にした事は知ってましたが、どなたかまではわからなかった。ですが、鞘さんが一振りの刀を手にしていたのを見た時、あの刀が黒刃さまだったならいいな、黒刃さまの使い手が鞘さんだったらいいな、と思ったんです。そして、刀に話しかける鞘さんを見て確信しました。あの刀は天葉家宝刀、黒刃さまに違いないと」
『良く出来ました』
「鞘さんが使い手なら間違いありません」
「買いかぶりです。私はそれほど強くは......」
「そのような言い分、魔物たちには通じませんよ。あなたもまた、魔物たちからバケモノと恐れられた超消滅士なのですから。ですが、それはちょっと違いますか......バケモノと呼ばれたのは、あなたが2人目だったと表現した方が正しいでしょうか」
「2人目......」
「その一人目である『彼女』がリエンの責任者なんです。もしかしたら、鞘さんにとって懐かしい方との出会いがあるかもしれません」
鞘は美咲に礼を述べて頭を下げた。目覚めた鞘にとってここ以外に居場所などない状況で彼女からの情報は本当にありがたかったのだ。
逆に礼を言われた美咲は「そう言っていただけると少しホッとしました」と複雑な表情を浮かべた。
そして現在。
そのような経緯で鞘は大きな一軒家の門をくぐりドアの前に立つ。
ブザーを押すと間髪入れずにドタドタという足音が聞こえ、勢いよくドアが開いた。
「いらっしゃーい!! お待ちしてました~」
そう言ってドアの向こうから明るい声と笑顔で現れたのは、長い黒髪美人の女性だった。その明朗快活ぶりに出迎えられた鞘はギョッと驚いた。
そして脳裏にある映像が浮かぶ。
『わぁ~こんにちは~。君、鞘っていうのか』
その映像は鞘も覚えてるある記憶だった。出迎えた黒髪美人はある人物を彷彿とさせたのだ。
「美咲から話は伺ってます。私は蘇芳結芽花。このシェアハウス『リアン』の責任者です。もちろんあなたと同じ超消滅士よ。よろしくね」
鞘は美咲の話を思い出す。
『魔物たちからバケモノと恐れられた一人目は今はリアンの責任者』
そう。その張本人こそ、この結芽花だったのだ。
しばらくそんな風景が続いたあとに花花であふれた庭がある大きな一軒家が鞘の目に映りこむ。
車はこの家の前に停車し、前徳に促された鞘は車から黒刃を手に降り立つ。
前徳は鞘に頭を下げながら言う。
「鞘さま。ここまでしか送れない事をどうかお許し下さい」
鞘はあわてて両手を左右に振りながら「とんでもありません」と返す。
「こちらこそ。ここまで案内して下さっただけでも十分です。どうか美咲さまによろしくお伝え下さい」
「かしこまりました。私も美咲さま同様、あなたさまのこれからを応援しております」
「ありがとうございます」
こうして、前徳が運転する車は去って行った。
話は少し前に遡る。
天葉邸を出ていこうとした鞘を美咲が早足で追ってきたのだ。
彼女は鞘の元へ着くなり「申し訳ありませんでした」と深く頭を下げた。
「まさか天葉一族ともあろう者たちがあのような腑抜けになってしまったなんて......お恥ずかしい限りです。鞘さんもさぞや驚かれた事でしょう」
それでも鞘は仕方ないとも思ったし、そう返した。
「皆さまのトラウマになるのもうなずけます。ですから私としてはなんの文句もありません」
「鞘さんにそう言っていただけると少しは救われます」
「はい」
「ですがあなたに心ない言葉を浴びせたあの者たちに対して一瞬でも思ったのです。『17年前のあの日、我々はいっその事死んでしまえばよかったのかもしれない』と」
「......美咲さま」
「今のあのような彼らを見るのならば......。万が一、魔物や別の脅威に襲われたら今度こそ死ぬーーーそれだけはわかります」
一族に絶望し、更に悲壮な覚悟をしている美咲に鞘は「何かあったら呼んで下さい......今度こそあの時のようなヘマはいたしません!!」と訴えるが、美咲はその言葉だけでも十分だと言った。
そしてその話を打ち消すかのように彼女は鞘にある場所を教える。そこは、あの者たちとそりが合わなかった人のための駆け込み寺のような存在だという。
「そんな方たちがいらっしゃるのですか?」
「はい。やはりあの者たちから、これからは静かに暮らしたい。それなのに超消滅士の君たちがこの屋敷にいられると、戦う意思を持っているものだと勘違いされ、17年前のように襲われてしまう。だから屋敷から出ていってくれないか、と言われた人たちが」
「君たち超消滅士、という事は......」
鞘からの問いに美咲はうなずくと「鞘さんと同じ超消滅士の方々です」と答えた。彼女は更に「駆け込み寺の名前は『リアン』です。フランス語で絆、縁を意味するんですよ」と続けた。
リアン...絆... 縁を意味する。居場所を失った超消滅士たちが築いた安らぎの場所。
そんな事を考えるとリアンと名付けた彼らの思いに鞘は胸がざわついた。そして美咲に素敵なネーミングですねと言葉を紡いでいた。
それから美咲は鞘の腕の中の黒刃に深々と頭を下げた。
「はじめまして黒刃さま。天葉家の宝刀にお目にかかれて光栄です」
美咲は鞘が手にしていた刀が黒刃だと見抜いていたのだ。黒刃も『まさか気づく者がいたなんてね......』と驚いている。
『いつから俺だと気づいていたのかな?』
「黒刃さまが天葉の人間を主にした事は知ってましたが、どなたかまではわからなかった。ですが、鞘さんが一振りの刀を手にしていたのを見た時、あの刀が黒刃さまだったならいいな、黒刃さまの使い手が鞘さんだったらいいな、と思ったんです。そして、刀に話しかける鞘さんを見て確信しました。あの刀は天葉家宝刀、黒刃さまに違いないと」
『良く出来ました』
「鞘さんが使い手なら間違いありません」
「買いかぶりです。私はそれほど強くは......」
「そのような言い分、魔物たちには通じませんよ。あなたもまた、魔物たちからバケモノと恐れられた超消滅士なのですから。ですが、それはちょっと違いますか......バケモノと呼ばれたのは、あなたが2人目だったと表現した方が正しいでしょうか」
「2人目......」
「その一人目である『彼女』がリエンの責任者なんです。もしかしたら、鞘さんにとって懐かしい方との出会いがあるかもしれません」
鞘は美咲に礼を述べて頭を下げた。目覚めた鞘にとってここ以外に居場所などない状況で彼女からの情報は本当にありがたかったのだ。
逆に礼を言われた美咲は「そう言っていただけると少しホッとしました」と複雑な表情を浮かべた。
そして現在。
そのような経緯で鞘は大きな一軒家の門をくぐりドアの前に立つ。
ブザーを押すと間髪入れずにドタドタという足音が聞こえ、勢いよくドアが開いた。
「いらっしゃーい!! お待ちしてました~」
そう言ってドアの向こうから明るい声と笑顔で現れたのは、長い黒髪美人の女性だった。その明朗快活ぶりに出迎えられた鞘はギョッと驚いた。
そして脳裏にある映像が浮かぶ。
『わぁ~こんにちは~。君、鞘っていうのか』
その映像は鞘も覚えてるある記憶だった。出迎えた黒髪美人はある人物を彷彿とさせたのだ。
「美咲から話は伺ってます。私は蘇芳結芽花。このシェアハウス『リアン』の責任者です。もちろんあなたと同じ超消滅士よ。よろしくね」
鞘は美咲の話を思い出す。
『魔物たちからバケモノと恐れられた一人目は今はリアンの責任者』
そう。その張本人こそ、この結芽花だったのだ。
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