玉座の檻

萌於カク

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ゲイルの凶行

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 ひとめにつかない場所で時間を潰したアミーユは、昼前に、伯爵邸へと舞い戻った。ほうほうのていで帰宅し、山賊にやられたことを父親に報告する。
 伯爵はアミーユと目を合わせると、いたわるように言った。

「では、数日休んでまた出発するがいい」

 伯爵夫人はアミーユの姿を見るなり、「あっ」と声を上げると押し黙り、冷ややかな目線を向けていた。
 アミーユの心の中は凪いでいた。

 ―――アミーユ、元気だったか。

 伯爵の寝言はアミーユの飢えた心にしみた。
 もう一度、入隊許可を頂こう。軍に入って国境防衛を志願すると伝えよう。王都から遠く離れた土地で生きるなら、父上もきっと許してくださる………。




 ぎこちない夕食の最中、ゲイルがときおりアミーユに目を合わせてきた。その目の奥に喜びを浮かべている。

 思えばゲイルだけはいつもアミーユを慕っていた。幼いころはアミーユのそばにやってきては構って欲しがった。大きくなって、アミーユと喋ると父母の機嫌が悪くなるのに気付いてからは、話しかけてくることはなくなったが、それでもアミーユへの親愛を見せてきた。

 アミーユは嫉妬にまみれた自分を顧みる。俺はゲイルに冷たい態度ばかりとっていた。なのに変わらずゲイルは慕ってくる。愛されて育ったゲイルの愛は広い。

 アミーユはゲイルに向けて少しだけ笑ってみせた。
 テーブルの向こうでゲイルは一瞬、ポカンとした顔をすると、じわっと涙を浮かべて、笑い返した。久しぶりにゲイルと心を通い合わせた気がした。
 アミーユの胸が温まる。

 がらんとした自室、アミーユはドサッとベッドに倒れ込んだ。昨晩は、夜通し馬で駆けてきた。さすがにこたえている。瞬く間に眠りに落ちる。

 深夜に異変に気付き目を覚ました。胸がひどく苦しい。目の前に大きな影がある。何者かがアミーユの首にのしかかっていた。

 何だっ? 
 賊か?

 手でこじ開けられた口に、何かを押し込まれているが、それは形容しがたい感触のものだった。
 うぐっ……。
 喉がえづく。
 押し返そうとして、アミーユは凍り付いた。

 アミーユにのしかかっているのはゲイルだった。
 その様子がおかしい。荒い息をしている。
 のしかかってくる影が前後に動いて、口の中のものが一層、奥に押し込まれる。
 
 何が起こっているんだ………?
 口に押し込まれているのはゲイルのペニスだった。
 アミーユは驚きのあまり、しばらく動けなかった。
  
 アミーユが目覚めたのに気付いて、ゲイルは、小声で呻く。

 「ああ、兄上……。兄上の口に私のものが。兄上っ」

 ゲイルは夢中になって腰を振り始めた。むせるアミーユに構うことなく、ゲイルはその巨体でのしかかり、アミーユの喉を突く。
 うぐっ……、喉からつぶれるような声が漏れる。
 視界が涙でにじんできた。

「うっ」とゲイルが叫び、口の中に生臭いものが溢れてやっと、口からゲイルのものが抜けた。

 アミーユはゲイルを押しのけた。口の中のものをシーツに吐き出し、口元をぬぐう。そんなアミーユにゲイルが覆いかぶさった。
 アミーユが押し返すもゲイルはのしかかる。巨体で覆いかぶさる。

「兄上、兄上……。良い匂いだ……、兄上、兄上」

 ゲイル、どうして?
 アミーユはゲイルの頬をペチペチと叩いた。ゲイル、正気になれ。お前、何をしてるのかわかってるのか。
 ゲイルはアミーユの肩をシーツに押さえつけて、うっとりと見下ろすだけだった。

「ああ、兄上。帰ってきてくれた。もう一生離しません」
「ゲイル、何をしてるのかわかってるのか」
「兄上、ああ」

 衣服をはぎとろうとする腕を避けて、ゲイルを押せば、ゲイルはベッドの下にストンと落ちた。そのとき、ゲイルの肘に当たって、ランプが床に落ちた。
 ガラス容器が割れる乾いた音が響く。

 ゲイルは、起き上がるともう一度アミーユにのしかかってきた。アミーユが押しのけようとすると、ゲイルはアミーユの顔を殴りつけてきた。アミーユは口中を怪我しないように奥歯を噛みしめた。

「兄上! 兄上!」

 何度も殴ると今度はアミーユの首を絞めてきた。声が出ない。

「兄上、いつも兄上に触りたかった。兄上兄上!」

 ゲイルは抵抗をやめたアミーユの前ボタンを引き破ると、胸に顔をうずめた。

「兄上、悪いようにはしません。私に任せてください」

 こいつは狂っている。とにかく宥めなければならない。

「わ、わかった。落ち着け。わかったから。ほら」

 アミーユはゲイルに向けて両手を開いた。

「あ、兄上………!」

 ゲイルは受け入れる体勢のアミーユに、むしゃぶりついた。唇を吸い、アミーユの口の中を舐めまわす。  
 口だけでは飽き足らず、顔じゅうを舐めまわす。生臭い息が降りかかる。

 ゲイルは、乱暴にアミーユの下穿きをずりさげると、尻に指を突っ込んだ。
 あまりの痛さにアミーユの背中がのけぞった。

「ま、待て、ゲイル。俺がしてやる」

 アミーユはゲイルのシャツのボタンを外し始めた。すべて外し終えると、ゲイルを押してあおむけにさせた。そんなアミーユの様子に、ゲイルは素直に背中をベッドに預けた。
 あおむけになったゲイルのペニスは再び立ち上がっている。アミーユはみずからそれを口に含んだ。ゲイルは「うぁっ」と息を漏らして、アミーユの後頭部を抑え込んできた。

 あおむけに腰を振っていたゲイルは「はあ、兄上、兄上っ」と声を上げながらひときわ激しく腰を動かした。

「うぅっ」

 ゲイルは射精の寸前でアミーユの口からペニスを引き抜くと、アミーユの顔にぶちまけた。

「ああ、兄上のきれいな顔が私の精液で汚れている。兄上! 兄上!」

 アミーユはゲイルの手首をつかみ、グイっと引き寄せた。そのままゲイルを組み伏せる。ゲイルの背に馬乗りになると、シャツを背中まではいで、両手首をシャツで結び合わせる。
 既にゲイルの足首はアミーユのシャツで縛ってあった。足首と手首とを、背中で一緒くたにまとめて縛り上げた。

「兄上っ!?」

 ゲイルの口に裂いたシーツを押し込んだ。ゲイルはベッドの上で暴れたが、もぞもぞと動くしかできなかった。

 アミーユはシーツで顔を拭くと衣服を身に着けた。そして、窓から飛び降りた。
 深夜の王都をひた走りに走る。冷たい風と涙が殴られた傷に染みて、顔じゅうが痛い。
 どうして、どうしてこんなことに………。

 王宮前の広場まで来ると、しゃがみ込み、地面に両手をついた。
 しばらくの間、呆けたように地面に手を突いたままだった。
 やがてノロノロと立ち上がった。

 顔からゲイルの唾液と精液の匂いがする。殴られて歪んだ鼻を指で戻すと、痛みにまた涙が出てきた。新たに垂れてくる鼻血を抑えながら井戸に向かった。
 水をくみ上げると、顔を洗った。シャツで顔をぬぐうと、気持ちが落ち着いてきた。

 もう戻れない。
 父上にゲイルのことを言うのか? ありえない。弟に襲われただと? そんなみっともないことを言えるはずもない。言っても父親は否定するか、アミーユをますます遠ざけるだけだ。
 俺の居場所はもうどこにもない。

 再び込み上げそうな嗚咽を喉の奥に押し込んで、奥歯を噛みしめる。
 ベンチに横たわる。朝になったら考えよう。
 公園の隅を陣取っていた浮浪者が近づいてきたが、小刀を見せて追い払った。
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