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赤毛との夜
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物語通りというべきなのか、伯爵はアミーユを廃嫡しなかった。
縁故の子爵邸に身を寄せていた伯爵夫妻は、伯爵邸へと戻ることなく、そのまま、領地へと引き上げていった。息子を無残に失った屋敷に戻るのも忍びなかったのだろう。
王都に残ったアミーユは、伯爵邸の新たな主になった。しかし、そこには住まなかった。
予定通り軍に入り、士官向けの兵舎に移り住んだ。寮生活が長いために、その暮らしに何ら不足はない。
しかし、月に一度だけ、伯爵邸で過ごしている。
アミーユは伯爵邸のほとんどの部分をそのままにした。夫妻の寝室もゲイルの部屋もそのままに、ただ、自分の居室を、北向きから南向きの一室へと移した。
かつての自室は火災の跡が残っているせいもある。しかし、アミーユにとっては、ただ部屋を移しただけではなかった。
広くはないが、バルコニーもバスルームもある部屋に、ベッドにソファも買い入れた。簡素だが、居心地の良い部屋に整えた。
そこを『赤の間』と呼んだ。室内には赤い要素などない。白でまとめた部屋だ。けれどもアミーユはそう呼んだ。
いつしかアミーユにとっては、その部屋を初めて得た我が家のように感じていた。やっと得た帰る場所。
新月が近づけば我が家に帰る。
そして待つ、赤毛を。
『赤の間』は、新月から三日月までを、二人で過ごす場所。
アミーユはダンが現れるなり、首に腕を絡ませた。
互いに飢え狂ったように体を重ね合わせる。
やっと体を離すことができた夜に、紙のように細い月が浮かんでいた。
バルコニーで夜空を見上げているアミーユの背中を、ダンが後ろからそっと抱いた。
「寒くないか?」
「寒くはない。お前がいるから」
「いくらでも温めてやる」
ダンはアミーユの背中を覆うように抱きしめる。
「お前と満月を見ることはないのだな」
アミーユが月を見ながらそう言えば、ダンは背後で何やら考えて、次にぎゅっと抱きしめてきた。
「もしかして、欲しいの?」
ダンはそう言って、アミーユのシャツの裾から手を入れて、腹を撫でる。
「伯爵様は世継ぎが欲しいのかな」
「そういう意味じゃない」
「俺も欲しいな」
「やめろバカ」
ダンはしつこく腹をさする。その手は上に伸びて、胸に移る。
「赤ちゃんができたら、ここからミルクが出るのかなあ」
そう言ってダンは突起を指の腹で撫でた。アミーユは快楽に身を投じそうになって、慌てて赤毛のおでこを後ろに押した。
「バカ、しつこいぞ。殴る」
殴ったところでアミーユがダンに適うはずもないのだが、ダンは眉尻を下げてしょんぼりする。
アミーユはよく懐いた犬を眺めるような目でダンを見つめた。
力関係ではアミーユのほうが上のようにも見えるが、その実、ダンのほうが圧倒的に上だ。
アミーユにとってはダンは不可欠だ。
もしもアミーユがΩだと露見したら、アミーユは、社会的に死ぬ。そうならないためにも、ダンとこうして会わなければならない。
ダンに会ってヒートを起こして精を受けて治めてもらえば、一定期間はヒートを起こさない。どれくらいもつのかはわからないが、新月のたびにダンに会えば、軍隊でも支障なく生活できることがわかっている。
今やダンはアミーユの男妾のようなものだった。ダンは、アミーユにたかって生きている。
港町の別邸は、ダンとその一味に明け渡し、さらに、収入の大半を、ダンに渡している。領地からの仕送りは途絶えているし、軍の給料も多くはないから、正直カツカツだ。
それでもアミーユは、ダンに渡せる限りを渡している。
ときおりアミーユはダンに言い聞かせる。
「お前の手下どもはきちんと見張っとけよ。時間を持て余せばろくなことをしでかさないのだ。とにかく働かせろ。軍に志願させろ」
「それがさあ、志願させても、1日で逃げだしてくるやつばっかでさあ」
アミーユは呆れるしかなかった。
「食わせるからそうなるんだ。食えないと軍に居残るしかないだろ」
「腹減ると、あいつらすぐに襲っちまうからなあ」
アミーユは内心で頭を抱え込んだ。そうだった、こいつは山賊だった。何で山賊のダンとこんな関係になってしまったんだ?
それはΩであるが故だが、ダンに出会わなければ、今頃、軍にもいられない。
それを思えばこの関係も割り切れる。
こんな関係ももう3年目だ。
ダンが本気で子どもが欲しいのなら、俺をどこかに連れていけばいい。俺にはお前しか要らないのだから。
そんなことできないくせに。したくないくせに。
もともとたかる目的で拾われた身。たかれる存在でいなければならない。ダンに捨てられないために。
アミーユは飼い主が飼い犬を撫でてやるように、ダンの赤毛を撫でた。
縁故の子爵邸に身を寄せていた伯爵夫妻は、伯爵邸へと戻ることなく、そのまま、領地へと引き上げていった。息子を無残に失った屋敷に戻るのも忍びなかったのだろう。
王都に残ったアミーユは、伯爵邸の新たな主になった。しかし、そこには住まなかった。
予定通り軍に入り、士官向けの兵舎に移り住んだ。寮生活が長いために、その暮らしに何ら不足はない。
しかし、月に一度だけ、伯爵邸で過ごしている。
アミーユは伯爵邸のほとんどの部分をそのままにした。夫妻の寝室もゲイルの部屋もそのままに、ただ、自分の居室を、北向きから南向きの一室へと移した。
かつての自室は火災の跡が残っているせいもある。しかし、アミーユにとっては、ただ部屋を移しただけではなかった。
広くはないが、バルコニーもバスルームもある部屋に、ベッドにソファも買い入れた。簡素だが、居心地の良い部屋に整えた。
そこを『赤の間』と呼んだ。室内には赤い要素などない。白でまとめた部屋だ。けれどもアミーユはそう呼んだ。
いつしかアミーユにとっては、その部屋を初めて得た我が家のように感じていた。やっと得た帰る場所。
新月が近づけば我が家に帰る。
そして待つ、赤毛を。
『赤の間』は、新月から三日月までを、二人で過ごす場所。
アミーユはダンが現れるなり、首に腕を絡ませた。
互いに飢え狂ったように体を重ね合わせる。
やっと体を離すことができた夜に、紙のように細い月が浮かんでいた。
バルコニーで夜空を見上げているアミーユの背中を、ダンが後ろからそっと抱いた。
「寒くないか?」
「寒くはない。お前がいるから」
「いくらでも温めてやる」
ダンはアミーユの背中を覆うように抱きしめる。
「お前と満月を見ることはないのだな」
アミーユが月を見ながらそう言えば、ダンは背後で何やら考えて、次にぎゅっと抱きしめてきた。
「もしかして、欲しいの?」
ダンはそう言って、アミーユのシャツの裾から手を入れて、腹を撫でる。
「伯爵様は世継ぎが欲しいのかな」
「そういう意味じゃない」
「俺も欲しいな」
「やめろバカ」
ダンはしつこく腹をさする。その手は上に伸びて、胸に移る。
「赤ちゃんができたら、ここからミルクが出るのかなあ」
そう言ってダンは突起を指の腹で撫でた。アミーユは快楽に身を投じそうになって、慌てて赤毛のおでこを後ろに押した。
「バカ、しつこいぞ。殴る」
殴ったところでアミーユがダンに適うはずもないのだが、ダンは眉尻を下げてしょんぼりする。
アミーユはよく懐いた犬を眺めるような目でダンを見つめた。
力関係ではアミーユのほうが上のようにも見えるが、その実、ダンのほうが圧倒的に上だ。
アミーユにとってはダンは不可欠だ。
もしもアミーユがΩだと露見したら、アミーユは、社会的に死ぬ。そうならないためにも、ダンとこうして会わなければならない。
ダンに会ってヒートを起こして精を受けて治めてもらえば、一定期間はヒートを起こさない。どれくらいもつのかはわからないが、新月のたびにダンに会えば、軍隊でも支障なく生活できることがわかっている。
今やダンはアミーユの男妾のようなものだった。ダンは、アミーユにたかって生きている。
港町の別邸は、ダンとその一味に明け渡し、さらに、収入の大半を、ダンに渡している。領地からの仕送りは途絶えているし、軍の給料も多くはないから、正直カツカツだ。
それでもアミーユは、ダンに渡せる限りを渡している。
ときおりアミーユはダンに言い聞かせる。
「お前の手下どもはきちんと見張っとけよ。時間を持て余せばろくなことをしでかさないのだ。とにかく働かせろ。軍に志願させろ」
「それがさあ、志願させても、1日で逃げだしてくるやつばっかでさあ」
アミーユは呆れるしかなかった。
「食わせるからそうなるんだ。食えないと軍に居残るしかないだろ」
「腹減ると、あいつらすぐに襲っちまうからなあ」
アミーユは内心で頭を抱え込んだ。そうだった、こいつは山賊だった。何で山賊のダンとこんな関係になってしまったんだ?
それはΩであるが故だが、ダンに出会わなければ、今頃、軍にもいられない。
それを思えばこの関係も割り切れる。
こんな関係ももう3年目だ。
ダンが本気で子どもが欲しいのなら、俺をどこかに連れていけばいい。俺にはお前しか要らないのだから。
そんなことできないくせに。したくないくせに。
もともとたかる目的で拾われた身。たかれる存在でいなければならない。ダンに捨てられないために。
アミーユは飼い主が飼い犬を撫でてやるように、ダンの赤毛を撫でた。
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