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王宮の三妃2
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在位年数の長い老国王には、二人の息子がいる。
フィリップ王子に、リチャード王子だ。
しかし、フィリップ王子と、そのお子三人は、二十年以上前に病死した。
リチャード王子は王太子となったが、こちらは長らく病臥している。
リチャード王太子の前妃との間の長男、ダニエル王子もこれまた病臥。
リチャード王太子と現妃であるパメラ妃との間の次男、ジョージ王子のみが健やかであらせられる。
ジョージ王子は希望の星とささやかれる。
何の希望の星かといえば、「酒池肉林に溺れる年老いた国王の愛妾たるアデレート宰相が握り込んだ実権を、正しい権力の座に取り戻す」ための希望の星だという。
この国の権力はアデレート宰相が握っている。
長らく実権を握るアデレートの対抗勢力として、ジョージ王子に期待が寄せられているのである。
すなわち、拮抗する二つの勢力とは、ジョージ王子の母親パメラ妃とアデレート女宰相の、二人の女のことである。
「希望の星と言ってもそれは貴族の希望だろ?」
アデレート宰相は陰で、泥妃、と呼ばれている。泥水を飲むような平民出身であることからついた。
アデレート宰相は、泥妃の呼び名と裏腹に、美しいと評判だった。四十の声も近いというのに、豊かな黒髪にうるんだ青い目、ほっそりとした体に未亡人を示す黒い質素なドレスを着ている。
その美貌で貴族の妻におさまり、あれよあれよと国王の愛妾まで上り詰めた。そして美貌を上回る知性があるのを権力を握ることで示した。
こちらは平民の希望の星と囁かれている。
「わかんねえよ? 平民の出だからと言って、平民の味方とは限らねえからな。まあ貴族にせよ、平民にせよ、世の中は金だ」
レオナルドは童顔にゲヘゲヘと下衆な笑いを浮かべた。
子爵家の領地は猫の額ほどだが、商売上手な資産家だった。レオナルドは士官学校には進まずに、親の商売を手伝っている。貧乏貴族には子爵家から金を借りているものも多い。
「アミーユの金も俺が運用してやってもいいぜ。新しい船に出資するか?」
「そんな金はねえよ。むしろ借りたいくらいだ」
アミーユの財布は常に干からびている。領地からの仕送りはないし、わずかばかりの収入もダンにつぎ込んでいる。万年素寒貧だ。
「まさか、例のΩかよ」
アミーユは月に一度の休暇申請を、Ωをそばに置いていることを理由にしている。平民出身の兵士らにはΩを妻に持つ者もおり、ほとんどを平民で構成される軍は、その事情にも応じなければならず、月に三日間のヒート休暇がある。
アミーユもそれを利用している。
まさかアミーユ自身がΩとは誰も思いもしない。
情報通のレオナルドはそれをどこかで耳に入れたらしい。
「まあな」と、応じればレオナルドは呆れた声を出す。
「お前なあ、どこで拾ったΩにうつつを抜かしているのか知らないが、将来のこともきちんと考えろよ。Ωのために人生を棒に振るなよ」
「きちんと考えてるよ、だからこうやって夜会にも顔を出してるでしょ」
「でも、出てるだけじゃん。お前、令嬢には興味ないだろ」
さすがに幼馴染だけあって、アミーユの目的が、お相手探しではないことを見抜いている。
俺の将来か………。
考えてもどうにもならないんだよ。だってΩは俺なのだから。
レオナルドにもそんなことをこぼせずに、アミーユは苦笑いをするしかなかった。
レオナルドがそばを離れれば、たちまちアミーユに令嬢たちが押し寄せてきた。
アミーユは途端に心細くなる。
ふわふわとした柔らかい髪に、体の丸い曲線。
アミーユには女性との接点、特に若い女性との接点はほとんどない。
困惑する一方で、その光景にほのかな憧れも抱く。花を見つめる心地だ。しかし、アミーユは見るだけで、触る気も手折る気もない。Ωの自分をどこの令嬢が受け入れてくれよう。
ふとホールがざわついた。そのざわつき方におかしな感触を受けた。
フィリップ王子に、リチャード王子だ。
しかし、フィリップ王子と、そのお子三人は、二十年以上前に病死した。
リチャード王子は王太子となったが、こちらは長らく病臥している。
リチャード王太子の前妃との間の長男、ダニエル王子もこれまた病臥。
リチャード王太子と現妃であるパメラ妃との間の次男、ジョージ王子のみが健やかであらせられる。
ジョージ王子は希望の星とささやかれる。
何の希望の星かといえば、「酒池肉林に溺れる年老いた国王の愛妾たるアデレート宰相が握り込んだ実権を、正しい権力の座に取り戻す」ための希望の星だという。
この国の権力はアデレート宰相が握っている。
長らく実権を握るアデレートの対抗勢力として、ジョージ王子に期待が寄せられているのである。
すなわち、拮抗する二つの勢力とは、ジョージ王子の母親パメラ妃とアデレート女宰相の、二人の女のことである。
「希望の星と言ってもそれは貴族の希望だろ?」
アデレート宰相は陰で、泥妃、と呼ばれている。泥水を飲むような平民出身であることからついた。
アデレート宰相は、泥妃の呼び名と裏腹に、美しいと評判だった。四十の声も近いというのに、豊かな黒髪にうるんだ青い目、ほっそりとした体に未亡人を示す黒い質素なドレスを着ている。
その美貌で貴族の妻におさまり、あれよあれよと国王の愛妾まで上り詰めた。そして美貌を上回る知性があるのを権力を握ることで示した。
こちらは平民の希望の星と囁かれている。
「わかんねえよ? 平民の出だからと言って、平民の味方とは限らねえからな。まあ貴族にせよ、平民にせよ、世の中は金だ」
レオナルドは童顔にゲヘゲヘと下衆な笑いを浮かべた。
子爵家の領地は猫の額ほどだが、商売上手な資産家だった。レオナルドは士官学校には進まずに、親の商売を手伝っている。貧乏貴族には子爵家から金を借りているものも多い。
「アミーユの金も俺が運用してやってもいいぜ。新しい船に出資するか?」
「そんな金はねえよ。むしろ借りたいくらいだ」
アミーユの財布は常に干からびている。領地からの仕送りはないし、わずかばかりの収入もダンにつぎ込んでいる。万年素寒貧だ。
「まさか、例のΩかよ」
アミーユは月に一度の休暇申請を、Ωをそばに置いていることを理由にしている。平民出身の兵士らにはΩを妻に持つ者もおり、ほとんどを平民で構成される軍は、その事情にも応じなければならず、月に三日間のヒート休暇がある。
アミーユもそれを利用している。
まさかアミーユ自身がΩとは誰も思いもしない。
情報通のレオナルドはそれをどこかで耳に入れたらしい。
「まあな」と、応じればレオナルドは呆れた声を出す。
「お前なあ、どこで拾ったΩにうつつを抜かしているのか知らないが、将来のこともきちんと考えろよ。Ωのために人生を棒に振るなよ」
「きちんと考えてるよ、だからこうやって夜会にも顔を出してるでしょ」
「でも、出てるだけじゃん。お前、令嬢には興味ないだろ」
さすがに幼馴染だけあって、アミーユの目的が、お相手探しではないことを見抜いている。
俺の将来か………。
考えてもどうにもならないんだよ。だってΩは俺なのだから。
レオナルドにもそんなことをこぼせずに、アミーユは苦笑いをするしかなかった。
レオナルドがそばを離れれば、たちまちアミーユに令嬢たちが押し寄せてきた。
アミーユは途端に心細くなる。
ふわふわとした柔らかい髪に、体の丸い曲線。
アミーユには女性との接点、特に若い女性との接点はほとんどない。
困惑する一方で、その光景にほのかな憧れも抱く。花を見つめる心地だ。しかし、アミーユは見るだけで、触る気も手折る気もない。Ωの自分をどこの令嬢が受け入れてくれよう。
ふとホールがざわついた。そのざわつき方におかしな感触を受けた。
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