玉座の檻

萌於カク

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英雄アミーユ

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 今やアミーユはときの申し子だった。
 アクランド国を守った英雄として、もてはやされている。
 兵士らは、貴族なのに自ら先陣を切ったアミーユに親愛を寄せぬはずもなく、人から人へとその話は伝わり、美貌とあいまって絶大な人気を得ている。
 ひとたび街に出れば、大人からも子どもからも、熱烈に声をかけられる。 

「我らが守護天使アミーユさま」
「リージュ大将閣下だ」

 貴族もまたアミーユにすり寄ってくるようになった。おべっかを使い、贈り物を届けてくる。
 人々はアミーユに熱狂している。

 アミーユは内心で戸惑っていた。
 これではリージュも増長しても無理はない。王位簒奪に至るまでには訳があった。人気につけあがったのだ。
 英雄はときおりつけあがって間違いを犯す。俺なら王にでもなれる、と。
 しかし、俺は絶対に逆賊にはならない。アミーユは固く誓う。

♰♰♰

 凱旋帰朝後、ダンはいつの間にか姿を消していた。兵士らの中にダンの姿は、見当たらなかった。アミーユはそれ以上は探さなかった。
 下手に兵士らを詮索して、藪蛇となってもいけなかった。

 次の新月、ダンはレルシュ邸に姿を現した。素知らぬ顔をしてバルコニーから入ってきたダンは、目を合わせると「へへっ」と、照れ臭そうに笑った。
 アミーユはダンに駆け寄ると抱きしめた。

 ダン、俺は運命を変える。
 俺は絶対に逆賊になどならない。
 俺はお前を絶対に死なせはしない。お前を守る。

 抱き合って唇を重ねる。アミーユはそのままダンを押して、ベッドにもたれこんだ。

 アミーユはダンのシャツのボタンを外し、上も下も脱がす。
 積極的なアミーユに、ダンが照れたような顔で見上げている。
 そんなダンのあごを捕らえて、アミーユはダンに口づける。舌を絡めとる。

 ダンの体温はいつも燃えるように熱い。ダンは炎をうちに燃やしていて、それで髪の毛も真っ赤なのだ。妙な納得があった。
 ダンの体を上から下に降りて、もたげているダンの先端を舐めた。
 
「あ、アミーユっ」
 
 ダンが慌てて叫ぶ。やめさせようとアミーユの頭を押してくるが、アミーユは一気に口に含んだ。

「あ、ちょ、アミ……。何か、は、恥ずかしい」

 ダンは両手で顔を覆ってしまった。
 大の男が恥ずかしがるところは、いたく可愛いものだ。
 アミーユはもっといじめたくなる。

「こんなことされるの、初めてか?」

 アミーユはダンの足の間に陣取った。

「え、いや、ないことはないけど。アミーユには恥ずかしい」

 ダンの経験にうっすらと嫉妬を覚えるも、その言い草が可愛いので免じてやる。
 ダンのものを口に含んで、愛しみを込めて舌を這わせる。

「あ、そ、そこ、アミーユ、だめ」

 だめ、と言ったところをアミーユは意地悪くこすり上げる。
 ダンのものが口に広がった。アミーユは余さず飲み込んだ。
 ダンの横に並ぶと、今度はダンがアミーユに覆いかぶさってきた。胸の先端を撫でる。アミーユは敏感に反応するも、いつになく気恥しさがある。

 ダンの手つきは優しい。慈しみがこもっている。ダンは俺を愛している。
 不意にアミーユは涙がこぼれてきた。
 幸せだ、俺、幸せだ………。

「アミーユ、どうした?」

 ダンがすぐに気付いて、声をかけてきた。

「俺、ずっとお前と一緒にいたい」
「うん、いるよ?」
「絶対にどこにも行くな」
「うん」

 ダンは胸をなぶるのをやめて、アミーユの背中を宥めるように撫でている。
 しばらくそうやってダンに甘えていたが、ハッとする。

「ヒート……」
「うん、こないね」

 ダンは先に気づいていたようだ。
 交わしたばかりだからか。
 天幕の下で抱き合ったのは半月前。作為的なヒートは間が詰まると起こせないのか。

「今日はやめる?」

 アミーユは黙って首を横に振った。恥ずかしくなってうつむくと、ダンが「顔を見せて?」と覗き込んできた。ダンも恥ずかしそうにしている。
 その夜、まるではじめてのように愛し合った。
 
 ヒートが来ないまま、三日月までを過ごす。食事をして、風呂に入り、ソファに座って本を読み、チェスをして、ベッドで抱き合う。恋人同士の、そんな何気ない日常。

 アミーユはライブラリから本を運んできては、ダンの前に積み上げる。ダンに正しい道を歩ませることをまだ諦めきれていない。
 ダンは文字が読めたし、意外にも難しい単語も知っていた。

「こう見えても盗賊団の親分だよ? 情報は命綱だからな。新聞だって読んでる」

 アミーユは自分の思い込みに呆れた。ダンは馬鹿ではない。根本的なところで馬鹿なだけで、知能はたぶん高い。

「だって、その顔がさ、顔が悪い」
「えっ、それどういう意味?」

 ダンがジトッとにらんでくる。

「間が抜けた顔が悪い」
「アミーユったら、ひどい! これでも王都で二番目の美形って評判なのに」

 ダンの眉尻はしょんぼりと下がっている。
 ―――だからその顔がさ。

「どこの評判だ?」

 むくむくとアミーユに嫉妬が沸き起こる。そりゃダンはモテるに違いない。見栄えのする体格に端整な顔立ちだ、何より愛嬌がある。モテないはずがない。

「へへっ、もしかして、妬いてる?」

 ダンは嬉しそうにガバッと抱きしめてくる。

「知るかバカ」
「へへっ、俺は王都で一番の美形に夢中だからね?」

 ダンはアミーユに頭を摺り寄せてくる。
 そんな日常。そんなどこにでもありふれた恋人同士の日常。
 だが、かけがえのない時間をアミーユは過ごしていた。
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