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招かれざる客
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ある午後、軍務府のアミーユのもとに、客があった。
アミーユはその姿を見て、思わず立って逃げたくなった。実際に執務室のデスクが重厚なものでは無ければ、蹴って飛び出していたかもしれない。
来客は、レルシュ伯だった。幼い息子を連れている。
アミーユはしばらく口を利くことができなかった。アミーユの顔つきに何かを感じたのか、従卒はお茶を出すと席を外した。
「元気そうだな」
レルシュ伯はアミーユを気遣うように言った。息子がレルシュ伯の首に腕を回して、アミーユを恥ずかしそうに見ては「うふふ」と笑い声を上げて顔を隠している。
何しに来た?
アミーユにはその想いしかない。もう金輪際かかわりあいたくない人だ。伯爵夫人がともに来ていたら、大声を上げて部屋から追い出していただろう。
「お前の弟のジョセフだ。もうすぐ三歳だ」
伯爵はアミーユに怒りの燃料を注いだ。
弟?
私はあなたの子でもないのに、弟?
いまさら息子扱いするのか?
アミーユは怒りに震えて息が詰まりそうだった。
「妻がお前にひどいことをした。怪我はなかったか」
伯爵はいたわるような声を出した。
みぞおちにギリギリと痛みがよみがえる。夫人は大声でアミーユを罵り、花瓶で打擲し、足で蹴った。
その結果、どうなったかなど、何も知らない。何も知らないで、自分たちは幸せな家庭を作っているのだ。
いや、その前に伯爵夫妻はゲイルを失った。あれは、その仕返しをされただけのこと。
復讐が叶ったことを突き付けてやろうか!
黙ったままのアミーユに、伯爵は、居心地を悪そうにする。
「まさか、お前がΩだったとはな。あの夜のことをずっと考えていた。思えば、お前は、私たちに害意をいだいたことはなかった。それどころか、ずっと寂しげに私たちを見ていた。私たちに何とか好かれようとしていた。そんなお前がゲイルの死を望んだとは思えない。ゲイルは母親の血を引いて、αだったのかもしれぬ。ゲイルがお前を襲ったのだな。それで、お前はやむなくゲイルを拘束した。そこへ下女が火を投げた。偶然が重なってゲイルは死んだ」
伯爵は苦悩を額ににじませた。
「妻の一家は全員αでな、あれの両親は、Ωに狂わされて、家庭をめちゃくちゃにされたのだ。あれもαだ。思えば、あれのお前への冷たい態度は、αとしてお前と面倒を起こさぬように、本能的にお前を遠ざけていたのだろうな」
夫人の両親?
面倒を起こさないように?
知らない、そんなのどうだっていい。いまさらそんな事情を聞かされても、不愉快なだけだ。
何をしに来たのだ、暇つぶしなら帰ってくれ!
「父上も、私を遠ざけていました。私を、ノルデンに追いやろうとしました」
「ああ、お前が王都にいると、あれがおかしくなってしまうのでな」
「従者に金をやって、私を山賊の出る山に置いてけぼりにさせようとしました」
伯爵は、信じられない、というように目を見開いた。
「従者がわざとお前を? まさか、そんなこと……………! 山賊に襲われたのにはそんな経緯があったというのか?」
伯爵の表情に欺瞞めいたものはなかった。
父上は、関わっていなかったのか?
やがて、伯爵は項垂れた。
「ああ、あれか……、あれがやったのだな………」
伯爵のあずかり知らぬところで、夫人が仕組んだことだったのか………?
アミーユは不意に伯爵の寝言を思い出した。
―――アミーユ、元気だったか。
伯爵に心が動きそうになる。しかし、銀時計を踏みつけたのは、その足だ。
アミーユは立ち上がった。伯爵を帰らせる合図だ。
しかし、伯爵はぐずぐずとソファに居座った。
「お前は公爵を下賜されたそうだな」
やにわに話題が移る。
「はい、おかげさまで、レルシュを名乗らずに済んでおります」
伯爵は少しだけ傷ついた顔をした。やがて、諦めたように立ち上がる。
「そうか。いや、お前の顔が見られてよかった。最近、王都も物騒でいろいろと物入りでな、お前に用立てを頼もうと思ったのだが、お前がそんな気を起こすはずもないな。時間を取らせて悪かった」
アミーユは呆れて口もきけなかった。
父上は金を借りに来たのか。まさか私があなたに金を貸すとでも。
俺を何だと思っているのだ。
俺への気持ちなどこれぽっちもないのだ、これっぽっちも。
アミーユは首を横に振った。
「私はまだ、公爵を拝領いただいたばかりで、何も手を付けていません。育てていただいた恩はありますが、私はもう十分に報いを受けました。私には、あなたたちを助ける気はこれっぽっちもありません」
伯爵は何か言いたげにしていたが、アミーユが入り口のドアを開けて待っているのを見て、退出していった。
アミーユはその姿を見て、思わず立って逃げたくなった。実際に執務室のデスクが重厚なものでは無ければ、蹴って飛び出していたかもしれない。
来客は、レルシュ伯だった。幼い息子を連れている。
アミーユはしばらく口を利くことができなかった。アミーユの顔つきに何かを感じたのか、従卒はお茶を出すと席を外した。
「元気そうだな」
レルシュ伯はアミーユを気遣うように言った。息子がレルシュ伯の首に腕を回して、アミーユを恥ずかしそうに見ては「うふふ」と笑い声を上げて顔を隠している。
何しに来た?
アミーユにはその想いしかない。もう金輪際かかわりあいたくない人だ。伯爵夫人がともに来ていたら、大声を上げて部屋から追い出していただろう。
「お前の弟のジョセフだ。もうすぐ三歳だ」
伯爵はアミーユに怒りの燃料を注いだ。
弟?
私はあなたの子でもないのに、弟?
いまさら息子扱いするのか?
アミーユは怒りに震えて息が詰まりそうだった。
「妻がお前にひどいことをした。怪我はなかったか」
伯爵はいたわるような声を出した。
みぞおちにギリギリと痛みがよみがえる。夫人は大声でアミーユを罵り、花瓶で打擲し、足で蹴った。
その結果、どうなったかなど、何も知らない。何も知らないで、自分たちは幸せな家庭を作っているのだ。
いや、その前に伯爵夫妻はゲイルを失った。あれは、その仕返しをされただけのこと。
復讐が叶ったことを突き付けてやろうか!
黙ったままのアミーユに、伯爵は、居心地を悪そうにする。
「まさか、お前がΩだったとはな。あの夜のことをずっと考えていた。思えば、お前は、私たちに害意をいだいたことはなかった。それどころか、ずっと寂しげに私たちを見ていた。私たちに何とか好かれようとしていた。そんなお前がゲイルの死を望んだとは思えない。ゲイルは母親の血を引いて、αだったのかもしれぬ。ゲイルがお前を襲ったのだな。それで、お前はやむなくゲイルを拘束した。そこへ下女が火を投げた。偶然が重なってゲイルは死んだ」
伯爵は苦悩を額ににじませた。
「妻の一家は全員αでな、あれの両親は、Ωに狂わされて、家庭をめちゃくちゃにされたのだ。あれもαだ。思えば、あれのお前への冷たい態度は、αとしてお前と面倒を起こさぬように、本能的にお前を遠ざけていたのだろうな」
夫人の両親?
面倒を起こさないように?
知らない、そんなのどうだっていい。いまさらそんな事情を聞かされても、不愉快なだけだ。
何をしに来たのだ、暇つぶしなら帰ってくれ!
「父上も、私を遠ざけていました。私を、ノルデンに追いやろうとしました」
「ああ、お前が王都にいると、あれがおかしくなってしまうのでな」
「従者に金をやって、私を山賊の出る山に置いてけぼりにさせようとしました」
伯爵は、信じられない、というように目を見開いた。
「従者がわざとお前を? まさか、そんなこと……………! 山賊に襲われたのにはそんな経緯があったというのか?」
伯爵の表情に欺瞞めいたものはなかった。
父上は、関わっていなかったのか?
やがて、伯爵は項垂れた。
「ああ、あれか……、あれがやったのだな………」
伯爵のあずかり知らぬところで、夫人が仕組んだことだったのか………?
アミーユは不意に伯爵の寝言を思い出した。
―――アミーユ、元気だったか。
伯爵に心が動きそうになる。しかし、銀時計を踏みつけたのは、その足だ。
アミーユは立ち上がった。伯爵を帰らせる合図だ。
しかし、伯爵はぐずぐずとソファに居座った。
「お前は公爵を下賜されたそうだな」
やにわに話題が移る。
「はい、おかげさまで、レルシュを名乗らずに済んでおります」
伯爵は少しだけ傷ついた顔をした。やがて、諦めたように立ち上がる。
「そうか。いや、お前の顔が見られてよかった。最近、王都も物騒でいろいろと物入りでな、お前に用立てを頼もうと思ったのだが、お前がそんな気を起こすはずもないな。時間を取らせて悪かった」
アミーユは呆れて口もきけなかった。
父上は金を借りに来たのか。まさか私があなたに金を貸すとでも。
俺を何だと思っているのだ。
俺への気持ちなどこれぽっちもないのだ、これっぽっちも。
アミーユは首を横に振った。
「私はまだ、公爵を拝領いただいたばかりで、何も手を付けていません。育てていただいた恩はありますが、私はもう十分に報いを受けました。私には、あなたたちを助ける気はこれっぽっちもありません」
伯爵は何か言いたげにしていたが、アミーユが入り口のドアを開けて待っているのを見て、退出していった。
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