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ダニエル国王即位
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わずか半月の間に、国王は二度、顔を変えた。
夕日が長く差し込んだ聖殿に、リチャード国王の棺が鎮座していた。
「お父さまっ」
アン王女のしゃくりあげる声に、臨席する者たちも鼻をすすり上げた。
老国王のときには大往生とあって、どこか明るさがあった。しかし、リチャード国王の死においては、誰もが暗く沈んでいる。
リチャード国王は慕われていたのだ。
アミーユは10年前のサースデン伯反乱での挙兵を覚えていた。
当時のリチャード王太子は勇ましい武人で、幼年学校の生徒らにも人気があった。
アン王女のすがる棺は固く閉まったままである。
病臥のリチャード国王の最期は凄絶で、全身は黒くしぼみ、見るも無残だという。
リチャード国王の尊厳のために、そのお姿を拝見することは、はばかることとなった。
アン王女は父親の死に顔を見ることも叶わなかった。
♰♰♰
リチャード国王の在位中に、新たな宰相の指名はなかった。リチャード国王は臥しているのだから、それがあったのならば、それはパメラ妃の意志となる。
しかし、パメラ妃は一切、政務に口出ししてくることはなかった。
宰相府から王宮へと届けられた書面には、滞りなくリチャード国王の御璽が押印されて、宰相府へ戻る。
政務はアデレート宰相のもとで粛々と行われた。
パメラ妃の政治への無関心は、誰にとっても肩透かしだった。アデレートとの対立など周りが勝手に作り上げただけで、パメラ妃に権力への欲望などなかったらしい。
しかし、黙ってはいられないのが貴族らだった。
―――泥妃は、貴族に重税を課すばかり。貴族出身の宰相を立てて、もっと貴族に有利な国政をしくべし。
貴族議会は、パメラ妃の実家のゴーシュ公爵を宰相に推す決議をしたが、王宮は終始無言だった。
間もなくして、リチャード国王の訃報が入り、パメラ妃は政争どころではなかったのだと、わかる。
それでも権力欲があれば、夫の死を目前になおさら、いち早く権力を掌中に収めようとするだろう。しかし、パメラ妃はそれをしなかった。
アミーユはパメラ妃の毅然とした姿を思い浮かべた。
パメラ妃は夫の最期を看取ることに専念した。あの方はそういう人だ。
リチャード国王の死後、すんなりと、ダニエル王子が国王に即位した。
当然のようにダニエル国王の名でアデレートは宰相に指名された。
またもや、貴族が騒ぎ出した。
貴族議会は、ジョージ王子を国王に担ぎ出そうとした。
「ダニエル国王はご病弱。ここ数年、国民の前にお姿を見せられないほどのご病状。ジョージ王子への譲位を求める。また、新国王の宰相に、ゴーシュ公爵に就いていただくことで、議会は一致した」
これを受けて平民議会のメンバーは口々に反論する。
「何をいまさら。国政はこれまでも宰相に任せっきり。いまさら親政もあるまい。ダニエル国王で何ら不足ない」
アデレート宰相は、それら騒ぎを涼しい顔でやり過ごしている。
「国王のご決定が議会に優先することは自明」
それはダニエル国王の意志というより、アデレートの意志に違いなかったが、ともかくアデレートは議会の騒ぎをまともに相手することはなかった。
ひっそりと喪に服すパメラ妃に、そのうち、貴族も静かになった。
アデレート体制が確立する。
♰♰♰
ダニエル国王即位式―――
はるか壇上に現れた玉体に家臣らは内心で唸った。
長いことご病床に臥したダニエル王子。
金属のこすれる音がして、車椅子が現れた。
まさか、ご自分で歩くことも適わないのか。
車椅子の横に手はだらんと下がり、その上半身は前にのめり込んでいる。王冠は落ちないようにあごで結わえられている。
「ダニエル国王、ご即位ィ!」
役人の朗々たる声に続く拍手にも、ダニエル国王はわずかに手をあげただけで、近習に車椅子を押されて幕の後ろへと姿を消した。
ダニエル陛下。御年23。
アミーユは自分と同い年の国王に、同情を禁じえなかった。
王室は呪われている。
次々と起こるお世継ぎへの不幸。
その呪いは実際にはダニエル国王の母親ディアナ妃がもたらしたものだったが、ダニエル国王がその報いを受けているのではないか。
そう考えて、改める。
いや、ご病気に意味などない。病気は罪人への罰ではないのだ。
国王が去ったあと、アデレートが摂政になる旨が発表された。大広間はざわつき始めた。
「摂政……、だと?」
「これはおかしい。王族でもないのに摂政とは」
摂政は自ら御璽を握る、国王代理として。宰相よりも王位に近い。さらに、新宰相にはアデレートの息子が就くことが発表されると、ざわつきは大きくなった。
アミーユに、不意にイメージが浮かんだ。
ダニエル国王は、『玉座の檻』に閉じ込められた王。その檻の上に座るのはアデレート新摂政。
王家の呪いで回り回って得をしたのは。
アミーユはアデレートを見た。
アデレート新摂政は静かに笑っていた。静かに、しかし、目をらんらんと輝かせて笑っていた。
夕日が長く差し込んだ聖殿に、リチャード国王の棺が鎮座していた。
「お父さまっ」
アン王女のしゃくりあげる声に、臨席する者たちも鼻をすすり上げた。
老国王のときには大往生とあって、どこか明るさがあった。しかし、リチャード国王の死においては、誰もが暗く沈んでいる。
リチャード国王は慕われていたのだ。
アミーユは10年前のサースデン伯反乱での挙兵を覚えていた。
当時のリチャード王太子は勇ましい武人で、幼年学校の生徒らにも人気があった。
アン王女のすがる棺は固く閉まったままである。
病臥のリチャード国王の最期は凄絶で、全身は黒くしぼみ、見るも無残だという。
リチャード国王の尊厳のために、そのお姿を拝見することは、はばかることとなった。
アン王女は父親の死に顔を見ることも叶わなかった。
♰♰♰
リチャード国王の在位中に、新たな宰相の指名はなかった。リチャード国王は臥しているのだから、それがあったのならば、それはパメラ妃の意志となる。
しかし、パメラ妃は一切、政務に口出ししてくることはなかった。
宰相府から王宮へと届けられた書面には、滞りなくリチャード国王の御璽が押印されて、宰相府へ戻る。
政務はアデレート宰相のもとで粛々と行われた。
パメラ妃の政治への無関心は、誰にとっても肩透かしだった。アデレートとの対立など周りが勝手に作り上げただけで、パメラ妃に権力への欲望などなかったらしい。
しかし、黙ってはいられないのが貴族らだった。
―――泥妃は、貴族に重税を課すばかり。貴族出身の宰相を立てて、もっと貴族に有利な国政をしくべし。
貴族議会は、パメラ妃の実家のゴーシュ公爵を宰相に推す決議をしたが、王宮は終始無言だった。
間もなくして、リチャード国王の訃報が入り、パメラ妃は政争どころではなかったのだと、わかる。
それでも権力欲があれば、夫の死を目前になおさら、いち早く権力を掌中に収めようとするだろう。しかし、パメラ妃はそれをしなかった。
アミーユはパメラ妃の毅然とした姿を思い浮かべた。
パメラ妃は夫の最期を看取ることに専念した。あの方はそういう人だ。
リチャード国王の死後、すんなりと、ダニエル王子が国王に即位した。
当然のようにダニエル国王の名でアデレートは宰相に指名された。
またもや、貴族が騒ぎ出した。
貴族議会は、ジョージ王子を国王に担ぎ出そうとした。
「ダニエル国王はご病弱。ここ数年、国民の前にお姿を見せられないほどのご病状。ジョージ王子への譲位を求める。また、新国王の宰相に、ゴーシュ公爵に就いていただくことで、議会は一致した」
これを受けて平民議会のメンバーは口々に反論する。
「何をいまさら。国政はこれまでも宰相に任せっきり。いまさら親政もあるまい。ダニエル国王で何ら不足ない」
アデレート宰相は、それら騒ぎを涼しい顔でやり過ごしている。
「国王のご決定が議会に優先することは自明」
それはダニエル国王の意志というより、アデレートの意志に違いなかったが、ともかくアデレートは議会の騒ぎをまともに相手することはなかった。
ひっそりと喪に服すパメラ妃に、そのうち、貴族も静かになった。
アデレート体制が確立する。
♰♰♰
ダニエル国王即位式―――
はるか壇上に現れた玉体に家臣らは内心で唸った。
長いことご病床に臥したダニエル王子。
金属のこすれる音がして、車椅子が現れた。
まさか、ご自分で歩くことも適わないのか。
車椅子の横に手はだらんと下がり、その上半身は前にのめり込んでいる。王冠は落ちないようにあごで結わえられている。
「ダニエル国王、ご即位ィ!」
役人の朗々たる声に続く拍手にも、ダニエル国王はわずかに手をあげただけで、近習に車椅子を押されて幕の後ろへと姿を消した。
ダニエル陛下。御年23。
アミーユは自分と同い年の国王に、同情を禁じえなかった。
王室は呪われている。
次々と起こるお世継ぎへの不幸。
その呪いは実際にはダニエル国王の母親ディアナ妃がもたらしたものだったが、ダニエル国王がその報いを受けているのではないか。
そう考えて、改める。
いや、ご病気に意味などない。病気は罪人への罰ではないのだ。
国王が去ったあと、アデレートが摂政になる旨が発表された。大広間はざわつき始めた。
「摂政……、だと?」
「これはおかしい。王族でもないのに摂政とは」
摂政は自ら御璽を握る、国王代理として。宰相よりも王位に近い。さらに、新宰相にはアデレートの息子が就くことが発表されると、ざわつきは大きくなった。
アミーユに、不意にイメージが浮かんだ。
ダニエル国王は、『玉座の檻』に閉じ込められた王。その檻の上に座るのはアデレート新摂政。
王家の呪いで回り回って得をしたのは。
アミーユはアデレートを見た。
アデレート新摂政は静かに笑っていた。静かに、しかし、目をらんらんと輝かせて笑っていた。
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