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革命の足音
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アミーユは石畳を照り返す朝陽に目を細めた。借りっぱなしの下宿先へ向かっていた。
通りに面したカフェは、朝っぱらから人で埋め尽くされていた。誰もが熱心に新聞を読んでいる。
王室への反発を煽る新聞だ。アデレートはそれを看過してきた。王室への反感は、逆に平民宰相の人気となる。それを利用してきた。
しかし、摂政になったことが市民にわかれば、市民は裏切りを感じ、アデレートに不満の矛先を向けはじめた。アデレートはそれを弾圧することで抑え込もうとしているが、公開処刑台は、反発を煽ったようにしか見えない。
アミーユは職務を半ば放棄していた。
各師団長には市民に武器を向けることを禁じている。それがどの程度効くのかはわからない。
とりあえず、暴動が起きても、その後の処理はするものの、それ以外はしない。もちろん、公開処刑台もまだ一度も血塗られてはいない。
しかし、いつまで抑えられるものか。
アデレートとアミーユとの間に隙間風が吹いているのを見抜けば、師団長らはアデレートにつく可能性が高い。
♰♰♰
大家の未亡人は、はつらつと若返っていた。
「まあまあ! リージュさん!」
この下宿を訪れるのは、ダンと再会の日以来、半年ぶりだ。
どうやら、大家の住む一階には客が来ているらしい。それも一人や二人ではない、大勢の客が押し掛けているようだ。
「数が足りるかどうか」
申し訳なさそうにアミーユがケーキを差し出すと、嬉しそうに顔をほころばせた。
奥のドアが開いて男が顔を出す。血の気の多そうな三十男だ。高齢の未亡人の客としては不似合いだ。
「おい、ばあさん、勝手に誰でも入れんじゃねえよ」
未亡人はやり返す。
「ばあさんじゃないよ、ねえさんと呼んどくれ」
男はアミーユの顔に「あれ? あんた、どっかで」と首を捻ると、「あ!」と指さし、ガシッと飛びついてきた。そして、アミーユの腕をつかんで奥へと引っ張っていく。
「おい、みんな、我らが守護天使、リージュ大将閣下だ!」
室内には、大勢の男女がひしめき合うようにして、椅子や床に座ったり、壁にもたれたりしている。
「まさか、こんな可愛い坊やが?」
「こんな優男が、大将のはずねえだろうが」
「写真で見るのと違うわ。全然怖そうじゃないわ」
三十男がアミーユの肩に腕を回して、アミーユを見る。
「王都じゃ、師団長のときから美貌で有名よ、な?」
これは何かの会合か?
三十男が説明する。
「俺たちは政治結社、Rクラブさ」
ここ最近活発になった運動体の一つらしい。同じ思想のものが集まって、自分らに名をつけるのが流行っている。
「リージュ大将が俺らの集会に参加してくれるなんてね」
「そいつは公爵だぜ。王室の手先だろ。もしや、俺らを取っつかまえにきたんじゃねえよな」
「まさか! 私たち、まだ何もやってないじゃないの」
「そうだ、大将、あんた、クーデター起こしてくれよ。そしたらみんな、あんたについていくぜ」
「ちょっと! 過激派と一緒にしないでよ、私たちは、あくまで穏健派なんだからさ!」
未亡人がやっと助け舟を出してくる。
「これこれ、あんたたち、私の客に手を出すんじゃない。さあ、リージュさん、二階へおあがりなさい。それにしても、まあ、リージュさんがあのリージュ大将だったなんて思いもしませんでしたよ」
アミーユは、その下宿を引き払うことにした。何らかの思想に染まっている大家とかかわりを持つのはまずい。
未亡人のような普通の市井の人が、結社に場所を貸すほどに関わりを持っていたことに驚きを禁じ得なかった。
そして、クーデターが市民の口の端に上り、そこにアミーユの名を乗せたことに、ショックを受けていた。
通りに面したカフェは、朝っぱらから人で埋め尽くされていた。誰もが熱心に新聞を読んでいる。
王室への反発を煽る新聞だ。アデレートはそれを看過してきた。王室への反感は、逆に平民宰相の人気となる。それを利用してきた。
しかし、摂政になったことが市民にわかれば、市民は裏切りを感じ、アデレートに不満の矛先を向けはじめた。アデレートはそれを弾圧することで抑え込もうとしているが、公開処刑台は、反発を煽ったようにしか見えない。
アミーユは職務を半ば放棄していた。
各師団長には市民に武器を向けることを禁じている。それがどの程度効くのかはわからない。
とりあえず、暴動が起きても、その後の処理はするものの、それ以外はしない。もちろん、公開処刑台もまだ一度も血塗られてはいない。
しかし、いつまで抑えられるものか。
アデレートとアミーユとの間に隙間風が吹いているのを見抜けば、師団長らはアデレートにつく可能性が高い。
♰♰♰
大家の未亡人は、はつらつと若返っていた。
「まあまあ! リージュさん!」
この下宿を訪れるのは、ダンと再会の日以来、半年ぶりだ。
どうやら、大家の住む一階には客が来ているらしい。それも一人や二人ではない、大勢の客が押し掛けているようだ。
「数が足りるかどうか」
申し訳なさそうにアミーユがケーキを差し出すと、嬉しそうに顔をほころばせた。
奥のドアが開いて男が顔を出す。血の気の多そうな三十男だ。高齢の未亡人の客としては不似合いだ。
「おい、ばあさん、勝手に誰でも入れんじゃねえよ」
未亡人はやり返す。
「ばあさんじゃないよ、ねえさんと呼んどくれ」
男はアミーユの顔に「あれ? あんた、どっかで」と首を捻ると、「あ!」と指さし、ガシッと飛びついてきた。そして、アミーユの腕をつかんで奥へと引っ張っていく。
「おい、みんな、我らが守護天使、リージュ大将閣下だ!」
室内には、大勢の男女がひしめき合うようにして、椅子や床に座ったり、壁にもたれたりしている。
「まさか、こんな可愛い坊やが?」
「こんな優男が、大将のはずねえだろうが」
「写真で見るのと違うわ。全然怖そうじゃないわ」
三十男がアミーユの肩に腕を回して、アミーユを見る。
「王都じゃ、師団長のときから美貌で有名よ、な?」
これは何かの会合か?
三十男が説明する。
「俺たちは政治結社、Rクラブさ」
ここ最近活発になった運動体の一つらしい。同じ思想のものが集まって、自分らに名をつけるのが流行っている。
「リージュ大将が俺らの集会に参加してくれるなんてね」
「そいつは公爵だぜ。王室の手先だろ。もしや、俺らを取っつかまえにきたんじゃねえよな」
「まさか! 私たち、まだ何もやってないじゃないの」
「そうだ、大将、あんた、クーデター起こしてくれよ。そしたらみんな、あんたについていくぜ」
「ちょっと! 過激派と一緒にしないでよ、私たちは、あくまで穏健派なんだからさ!」
未亡人がやっと助け舟を出してくる。
「これこれ、あんたたち、私の客に手を出すんじゃない。さあ、リージュさん、二階へおあがりなさい。それにしても、まあ、リージュさんがあのリージュ大将だったなんて思いもしませんでしたよ」
アミーユは、その下宿を引き払うことにした。何らかの思想に染まっている大家とかかわりを持つのはまずい。
未亡人のような普通の市井の人が、結社に場所を貸すほどに関わりを持っていたことに驚きを禁じ得なかった。
そして、クーデターが市民の口の端に上り、そこにアミーユの名を乗せたことに、ショックを受けていた。
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