玉座の檻

萌於カク

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青髭宰相

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 アミーユは王宮のアデレート摂政のもとに、またもやひざまずいていた。
 アデレートは甲高く叱責する。

「暴徒を一人も捕まえられないとは、いったい、何をしているのですか! この無能者! 私に逆らうつもりですか!」

 アデレートは貴族の傲慢さを、ごく短期間に身に着けていた。
 そのドレスは一段と豪華になっている。アデレートの顔は、金糸の刺繍が施された大きな襟で縁取られており、金箔のドレスには、ところどころ真珠が縫い付けられている。
 
 その脇にはアデレートの息子が立っていた。宰相となった息子だ。こちらも豪華な銀糸の刺繍入りの黒のベルベットのジャケットを着込んでいる。

 両側の壁にはずらりと親衛隊が並んでおり、その軍服もより華美なものに一新されていた。

 アデレートは女王だった。おとぎ話の悪い女王そのものだ。

 アミーユはひざまずいて、うつむいていた。

「私を軍務長官からお外しください」

 クビになろう。そうしたら、ダンも俺を王に担ぎ上げることを諦める。アデレートだって、息のかかった軍務長官のほうが便利ではないか。

 しかし、アデレートは高らかな笑い声をあげて、首を横に振った。

「英雄のあなたには軍務長官にいてもらいます。従わないというのならば、従えるまで」

 息子の宰相が壇上から降りてきた。
 コツコツと踵を鳴らして、片眼鏡越しにアミーユを興味深げに眺めている。
 無遠慮に距離を詰め、アミーユのあごを持ち上げた。

 宰相は、黒髪を神経質そうに後ろに撫でつけていた。
 髭が濃く、口の周りに青髭ができている。
 軍人にも見まがう筋骨隆々とした肉体をしていたが、その片眼鏡がかろうじて文官らしく見せていた。

「摂政、本当にリージュ大将が、Ωなのですか?」

 すでに、アデレートは息子にアミーユのことを漏らしているのだ。
 アミーユは、自分のあごを抑える青髭の宰相を見て言った。

「閣下、私の秘密のすべてを公表してくださっても結構です。その覚悟で参っています」

 アデレートが冷めた声で言う。

「リージュ大将、わたくし、それよりも良い方法を思いついたのです」

 青髭宰相はアミーユの顔をじっくりと眺める。

「いや、信じがたい。一国の軍のトップが、Ωだとは」
「わたくしも大変驚きました。Ωを隠して軍隊に入り、ずる賢くも悪人と組んで、出世するとは。下等なΩのくせに悪知恵だけはよく働くこと」

 アミーユはハッとアデレートを見た。アデレートは尊大な顔つきでアミーユを見返した。

「このわたくしが、Ωのはずがないでしょう。わたくしは両親ともにαの生粋のαです。ちなみに生まれは平民なんぞではありません。これでも貴族の端くれの生まれです」

 アデレートは平気で嘘をつけるのだ。長いこと自分の素性も偽ってきた。
 アミーユは奥歯をぐっと噛んだ。
 何て人を信用してしまったのだろう、俺は。

 アデレートが合図すれば、親衛隊は入り口を閉じ、鍵を閉めた。
 青髭宰相が、下卑た笑いを浮かべる。
 アミーユのあごを右に左にと揺らして、顔を確かめるように見つめる。

 揺らされるたびに、巻いた金髪が、アミーユの形の良い頬をかすめる。
 冷たいほどに整った顔を、青髭宰相の思うがままにされても、アミーユには逆らいようがない。
 そのしおらしいさまに、青髭宰相の口がいやらしく緩んだ。

「摂政、私は男のΩには食指は動かないのですが、これならいけます。お任せください」

 青髭宰相は、片眼鏡の奥に好色をにじませた。

「えっ………」

 アミーユが宰相を見ると、宰相は唇の端を釣り上げた。

「お前を俺のものにしてやろう」

 アミーユはそれを耳にして、後ろに跳び下がった。やっとアデレートの企みを理解した。
 伸びてきた手を避けて、入り口に向かったが、親衛隊によって阻まれる。

「私に何をするおつもりですか!」

 アデレートが喉の奥で笑いながら言った。

「Ωはαを惑わし、αはΩを従える」

 俺を手籠めにして従わせる気か…………?

「卑怯です! こんなやり方は私には効きません!」
「卑怯なのはあなたです。あなたはαを惑わし出世に使った。今度は別のαに従えられるだけのこと」

 親衛隊に阻まれる背中に青髭宰相が近づいてくる。

「や、やめ………、やめてください……」

 青髭宰相はアミーユの腰をグイっと引き寄せた。
 アミーユは思わず、宰相の手を捻りあげて、後ろ手に抑え込んだ。自分よりも重量のあるはずの宰相の体を抑え込む。
 だが、アミーユにそこから先の手はない。小刀は入室前に預けてきたし、そもそも小刀を向ければ反逆罪だ。

 青髭宰相は、自分よりも華奢なアミーユに簡単に抑え込まれたことに、おおいにプライドを傷つけられたらしく、怒鳴り声をあげた。

「この脳筋が! 俺に従え!」
「で、できません……………」

 しかし、アミーユに抵抗するすべはない。ここにいるのは最高権力者だ。

「リージュ大将! 宰相を放しなさい! これは国王に対する反逆も同じ!」

 アデレートは言い放った。
 アミーユはやむなく宰相を解放した。
 振り向いた宰相は、いきなりアミーユの頬を張った。
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