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アーサー国王
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沸き立つ王宮にあって、ただ一カ所、『王の間』は静まり返っていた。
アミーユは絨毯に両膝を付き、ぐったりと倒れ込む。その背中は絨毯に落ちる前に、何者かによって後ろから抱きとめられた。
アデレート摂政は、ぼんやり呆けていた。
アミーユは、王家に歯向かわないと言ったはいいが、勝手に国王を名乗り、勝手に全権を議会に委譲した。
そのとき、アデレートには何が起きたかが、すべてわかっていた。
目はうつろになり、口はだらしなく開き、何かをつぶやいている。
「アーサーこく、おう…………………」
青髭宰相は訳が分からず、唖然としたままだった。怒りに顔を真っ赤に染めている。
青髭は、グッと拳を振り上げると、アミーユに激突してきた。
「こんな、こんなことが許されるのか、王をかたるなどと! 貴様!」
アミーユの背後から伸びた足が青髭を蹴った。青髭はもんどりうって後ろへと吹っ飛んだ。
誰かがぽつりと言った。
「フィリップ王子のお子は、直系。リージュ大将、いや、アーサー様は、正統な王位継承者………」
「おお………!」
老国王の亡くなった時点で、リチャード王子も亡くなっていたのならば、直系フィリップ王子のお子がいれば、王位継承権第一位となる。傍系リチャード王子のお子に優先する。
よって、フィリップ王子の生き残りのお子、アーサー・エレ・アクランドは、正当な王位継承者。
アミーユは王位簒奪をしなかった。継承権にてその地位に就いた。
「おお……! アーサー国王…………!」
「アーサー国王!」
「陛下!」
王の間では家臣らが次々と、アミーユに向かって片膝をつき始める。
アデレートはうつろにつぶやいている。
「ほんほん、まるでたわごと……、ほんほん、オメ、ガ、Ωのくせに…………」
家臣らは、口々に言う。
「全権が議会に委ねられるとなると」
「おお、議会の決議では、アデレート摂政は追放でしたな」
「では、アデレートをどかせて、アーサー国王を王座に」
家臣の声に、アミーユは背後から抱き上げられる。
アミーユは抱き上げられながら、意識を半ば失っていた。これですべて済んだ。
アミーユには満足感があった。
アデレートは血統に弱い。平民や兵士や議会には強硬できるが、パメラのときには呆気なく遺言状に折れた。これで誰も血を流さずに済むだろう。
ダン、お前の目指した無血革命は果たしたぞ。いや、これから長い時間をかけてその完成を目指してくれる。お前の遺した仲間が。
アミーユは力をすっかり使い果たしていた。もう死んでいい、むしろ死にたいと思っていた。
ダン、俺もお前のそばに。
王座に自分を向かわせる力強い足取り。アミーユには、その自分を抱く腕の感触に覚えがあった。
うっすらと目を開けると黒目と目が合った。アミーユは目を開いた。
ダン?!
アデレートの声が大きくなる。アミーユに突進してくる。
「このΩめっ! Ωめっ!」
アミーユを抱き上げた男は、アデレートを一喝する。
「アデレート、俺の顔を見忘れたか!」
その声にアミーユの腹の奥にしびれを感じる。
ダンだ!
アミーユは男の首に腕を絡ませた。男はしっかりとアミーユを抱く。
ダン、お前は俺のそばにいる、いつも俺のそばに…………。
アデレートのつんざく声。
「ああ、あなたは! あなたはダニエル陛下!」
ダニエル…………?
「ええ? 何ですと?」
家臣らは驚きの声をあげる。アミーユを抱く男に向けて次々と言う。
「この労務者風の男がダニエル国王だと?」
「歩いているではないか。病人とは思えない立派な体つきではないか」
「ああ、間違いない……、この方はダニエル王子だ。俺は以前に何度かお顔を拝見したことがあるが、ダニエル王子に間違いない」
「まさに、この燃えるような赤毛は老国王譲り」
アミーユはぼんやりと考える。俺を抱えているのは、ダニエル王子?
アデレートはダニエル王子を攻め立てた。
「あなたは………、あなたは、病身を偽っていたのですね」
「身を守るためだ」
「わたくしが付けておいた近侍の者たちは?」
「アデレート、お前は俺を見くびりすぎだ。お前が俺に送った手下はすべて俺に寝返っている」
「卑怯な」
「お前に言われる筋合いはない」
俺はダニエル王子に抱かれているのか?
ダニエル王子は俺を倒しにきたのか?
でも、でも、この声は………。
ダニエル王子は、壇上にあがると、アミーユをそっと玉座に座らせた。その手はアミーユをまるで壊れもののように優しく丁寧に扱っている。
ダニエル王子はアミーユの前にひざまずく。黒目と目が合う。その目の奥は赤く光っている。
「アミーユ、俺の王よ」
ダニエル王子は想いの深くこもった目をアミーユに向けていた。
ああ……あああ………。
ああ……、ダン…………。ダンだ…………。
アミーユは玉座の人となった。
アミーユは絨毯に両膝を付き、ぐったりと倒れ込む。その背中は絨毯に落ちる前に、何者かによって後ろから抱きとめられた。
アデレート摂政は、ぼんやり呆けていた。
アミーユは、王家に歯向かわないと言ったはいいが、勝手に国王を名乗り、勝手に全権を議会に委譲した。
そのとき、アデレートには何が起きたかが、すべてわかっていた。
目はうつろになり、口はだらしなく開き、何かをつぶやいている。
「アーサーこく、おう…………………」
青髭宰相は訳が分からず、唖然としたままだった。怒りに顔を真っ赤に染めている。
青髭は、グッと拳を振り上げると、アミーユに激突してきた。
「こんな、こんなことが許されるのか、王をかたるなどと! 貴様!」
アミーユの背後から伸びた足が青髭を蹴った。青髭はもんどりうって後ろへと吹っ飛んだ。
誰かがぽつりと言った。
「フィリップ王子のお子は、直系。リージュ大将、いや、アーサー様は、正統な王位継承者………」
「おお………!」
老国王の亡くなった時点で、リチャード王子も亡くなっていたのならば、直系フィリップ王子のお子がいれば、王位継承権第一位となる。傍系リチャード王子のお子に優先する。
よって、フィリップ王子の生き残りのお子、アーサー・エレ・アクランドは、正当な王位継承者。
アミーユは王位簒奪をしなかった。継承権にてその地位に就いた。
「おお……! アーサー国王…………!」
「アーサー国王!」
「陛下!」
王の間では家臣らが次々と、アミーユに向かって片膝をつき始める。
アデレートはうつろにつぶやいている。
「ほんほん、まるでたわごと……、ほんほん、オメ、ガ、Ωのくせに…………」
家臣らは、口々に言う。
「全権が議会に委ねられるとなると」
「おお、議会の決議では、アデレート摂政は追放でしたな」
「では、アデレートをどかせて、アーサー国王を王座に」
家臣の声に、アミーユは背後から抱き上げられる。
アミーユは抱き上げられながら、意識を半ば失っていた。これですべて済んだ。
アミーユには満足感があった。
アデレートは血統に弱い。平民や兵士や議会には強硬できるが、パメラのときには呆気なく遺言状に折れた。これで誰も血を流さずに済むだろう。
ダン、お前の目指した無血革命は果たしたぞ。いや、これから長い時間をかけてその完成を目指してくれる。お前の遺した仲間が。
アミーユは力をすっかり使い果たしていた。もう死んでいい、むしろ死にたいと思っていた。
ダン、俺もお前のそばに。
王座に自分を向かわせる力強い足取り。アミーユには、その自分を抱く腕の感触に覚えがあった。
うっすらと目を開けると黒目と目が合った。アミーユは目を開いた。
ダン?!
アデレートの声が大きくなる。アミーユに突進してくる。
「このΩめっ! Ωめっ!」
アミーユを抱き上げた男は、アデレートを一喝する。
「アデレート、俺の顔を見忘れたか!」
その声にアミーユの腹の奥にしびれを感じる。
ダンだ!
アミーユは男の首に腕を絡ませた。男はしっかりとアミーユを抱く。
ダン、お前は俺のそばにいる、いつも俺のそばに…………。
アデレートのつんざく声。
「ああ、あなたは! あなたはダニエル陛下!」
ダニエル…………?
「ええ? 何ですと?」
家臣らは驚きの声をあげる。アミーユを抱く男に向けて次々と言う。
「この労務者風の男がダニエル国王だと?」
「歩いているではないか。病人とは思えない立派な体つきではないか」
「ああ、間違いない……、この方はダニエル王子だ。俺は以前に何度かお顔を拝見したことがあるが、ダニエル王子に間違いない」
「まさに、この燃えるような赤毛は老国王譲り」
アミーユはぼんやりと考える。俺を抱えているのは、ダニエル王子?
アデレートはダニエル王子を攻め立てた。
「あなたは………、あなたは、病身を偽っていたのですね」
「身を守るためだ」
「わたくしが付けておいた近侍の者たちは?」
「アデレート、お前は俺を見くびりすぎだ。お前が俺に送った手下はすべて俺に寝返っている」
「卑怯な」
「お前に言われる筋合いはない」
俺はダニエル王子に抱かれているのか?
ダニエル王子は俺を倒しにきたのか?
でも、でも、この声は………。
ダニエル王子は、壇上にあがると、アミーユをそっと玉座に座らせた。その手はアミーユをまるで壊れもののように優しく丁寧に扱っている。
ダニエル王子はアミーユの前にひざまずく。黒目と目が合う。その目の奥は赤く光っている。
「アミーユ、俺の王よ」
ダニエル王子は想いの深くこもった目をアミーユに向けていた。
ああ……あああ………。
ああ……、ダン…………。ダンだ…………。
アミーユは玉座の人となった。
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