玉座の檻

萌於カク

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幸妃の解放2

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 パメラは、幸妃のクッキーを配る姿に、自分の罪を突き付けられていたはずだ。幸妃の姿を視界に入れたくなかったに違いない。
 それで隅の部屋に追いやったり、それだけでは飽き足らず、幽閉されるように仕向けたのだ。

 それを俺は愚かにも自分を救ったなどと勘違いした。何と自意識過剰なことか。

「思えば、パメラさまの周辺の使用人は、いつも怯えていました。挨拶なく姿を消す使用人も多かったのです。田舎に帰ったなどと説明されてきたのですが、おそらくはパメラさまが」
「ええ、いなくなった使用人の多くは、パメラ妃が殺してしまったのでしょう。後始末を手伝った侍女や使用人がいるはずです。パメラ妃縁故の侍女はすべて調査したのち、親元に帰すことにしました」

  侍女は目元をエプロンで拭いた。

「ディアナさまがお気の毒すぎます。古い使用人の中には、ディアナさまの無実を信じる方もたくさんおります。ディアナさまは、心の温かい人だと聞いております。私もディアナさまのことはおぼろげに覚えています」

 アミーユは首を捻った。
 侍女はたいてい貴族の出である。この侍女も、幼い頃はまだ貴族である親元にいたはず。

 アミーユの疑問に答えるように侍女は言った。

「私は親が早くに亡くなったのです。後見もなく、幼い頃より、城にあがりました。小さい頃は幸妃さまの遊び相手をよくさせていいただきました」
「そうでしたか。私には今もお二人が楽しく遊んでいるように見えますが」

 侍女はアミーユの大して面白くない冗談に、笑ってみせた。前髪が異常に重くて、少しも見栄えのしない外見の侍女だが、その笑い声は、花がこぼれるようだ。

 前髪をあげて目を出せばいいのに。
 アミーユは目を細めて侍女を眺めた。
 この娘の顔をよく見てみたいものだ。

 侍女はクッキーの入った袋を差し出してきた。

「このクッキーには独特の製法で発酵させたバターを使っていて、その製法は代々、引き継がれてきたものです。王家に伝わると言ってしまえば大げさなのですが、幸妃さまとディアナさまもおそらくは、教え合っていたのですわ」

 アミーユは袋を開けて一つ摘まんだ。やはりバターの風味が豊かでとてもおいしい。

「お二人は仲が良かったのでしょうね」

 一人の悪意が数多くの不幸を産んだ。
 パメラは、無実のディアナ妃をも殺したことになる。 
 ディアナ妃と幸妃、殺されたフィリップ王子に子どもたち、そして、使用人たち。彼らの無念に、言葉も見つからない。

 アミーユは幸妃を見つめた。いつか、幸妃に我が子たちを弔える日が来るのだろうか。
 アミーユと目が合うと、幸妃は、ほほ笑んで首を傾げた。

「あら、アーサー、おかあさまのかおに、なにか、ついていて?」
「ええ、ついています。母上には幸せの粉を振りかける妖精がついているのですが、その妖精のやつが、今、母上の鼻を枕に居眠りしているのです。どうやってもっと働かせるか考えているのです」
「あら、もうこれいじょう、ようせいをはたらかせないで。おかあさまは、もうじゅうぶんにしあわせよ」

 幸妃はそれはそれは幸せそうに笑った。
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