62 / 81
幸妃の解放2
しおりを挟む
パメラは、幸妃のクッキーを配る姿に、自分の罪を突き付けられていたはずだ。幸妃の姿を視界に入れたくなかったに違いない。
それで隅の部屋に追いやったり、それだけでは飽き足らず、幽閉されるように仕向けたのだ。
それを俺は愚かにも自分を救ったなどと勘違いした。何と自意識過剰なことか。
「思えば、パメラさまの周辺の使用人は、いつも怯えていました。挨拶なく姿を消す使用人も多かったのです。田舎に帰ったなどと説明されてきたのですが、おそらくはパメラさまが」
「ええ、いなくなった使用人の多くは、パメラ妃が殺してしまったのでしょう。後始末を手伝った侍女や使用人がいるはずです。パメラ妃縁故の侍女はすべて調査したのち、親元に帰すことにしました」
侍女は目元をエプロンで拭いた。
「ディアナさまがお気の毒すぎます。古い使用人の中には、ディアナさまの無実を信じる方もたくさんおります。ディアナさまは、心の温かい人だと聞いております。私もディアナさまのことはおぼろげに覚えています」
アミーユは首を捻った。
侍女はたいてい貴族の出である。この侍女も、幼い頃はまだ貴族である親元にいたはず。
アミーユの疑問に答えるように侍女は言った。
「私は親が早くに亡くなったのです。後見もなく、幼い頃より、城にあがりました。小さい頃は幸妃さまの遊び相手をよくさせていいただきました」
「そうでしたか。私には今もお二人が楽しく遊んでいるように見えますが」
侍女はアミーユの大して面白くない冗談に、笑ってみせた。前髪が異常に重くて、少しも見栄えのしない外見の侍女だが、その笑い声は、花がこぼれるようだ。
前髪をあげて目を出せばいいのに。
アミーユは目を細めて侍女を眺めた。
この娘の顔をよく見てみたいものだ。
侍女はクッキーの入った袋を差し出してきた。
「このクッキーには独特の製法で発酵させたバターを使っていて、その製法は代々、引き継がれてきたものです。王家に伝わると言ってしまえば大げさなのですが、幸妃さまとディアナさまもおそらくは、教え合っていたのですわ」
アミーユは袋を開けて一つ摘まんだ。やはりバターの風味が豊かでとてもおいしい。
「お二人は仲が良かったのでしょうね」
一人の悪意が数多くの不幸を産んだ。
パメラは、無実のディアナ妃をも殺したことになる。
ディアナ妃と幸妃、殺されたフィリップ王子に子どもたち、そして、使用人たち。彼らの無念に、言葉も見つからない。
アミーユは幸妃を見つめた。いつか、幸妃に我が子たちを弔える日が来るのだろうか。
アミーユと目が合うと、幸妃は、ほほ笑んで首を傾げた。
「あら、アーサー、おかあさまのかおに、なにか、ついていて?」
「ええ、ついています。母上には幸せの粉を振りかける妖精がついているのですが、その妖精のやつが、今、母上の鼻を枕に居眠りしているのです。どうやってもっと働かせるか考えているのです」
「あら、もうこれいじょう、ようせいをはたらかせないで。おかあさまは、もうじゅうぶんにしあわせよ」
幸妃はそれはそれは幸せそうに笑った。
それで隅の部屋に追いやったり、それだけでは飽き足らず、幽閉されるように仕向けたのだ。
それを俺は愚かにも自分を救ったなどと勘違いした。何と自意識過剰なことか。
「思えば、パメラさまの周辺の使用人は、いつも怯えていました。挨拶なく姿を消す使用人も多かったのです。田舎に帰ったなどと説明されてきたのですが、おそらくはパメラさまが」
「ええ、いなくなった使用人の多くは、パメラ妃が殺してしまったのでしょう。後始末を手伝った侍女や使用人がいるはずです。パメラ妃縁故の侍女はすべて調査したのち、親元に帰すことにしました」
侍女は目元をエプロンで拭いた。
「ディアナさまがお気の毒すぎます。古い使用人の中には、ディアナさまの無実を信じる方もたくさんおります。ディアナさまは、心の温かい人だと聞いております。私もディアナさまのことはおぼろげに覚えています」
アミーユは首を捻った。
侍女はたいてい貴族の出である。この侍女も、幼い頃はまだ貴族である親元にいたはず。
アミーユの疑問に答えるように侍女は言った。
「私は親が早くに亡くなったのです。後見もなく、幼い頃より、城にあがりました。小さい頃は幸妃さまの遊び相手をよくさせていいただきました」
「そうでしたか。私には今もお二人が楽しく遊んでいるように見えますが」
侍女はアミーユの大して面白くない冗談に、笑ってみせた。前髪が異常に重くて、少しも見栄えのしない外見の侍女だが、その笑い声は、花がこぼれるようだ。
前髪をあげて目を出せばいいのに。
アミーユは目を細めて侍女を眺めた。
この娘の顔をよく見てみたいものだ。
侍女はクッキーの入った袋を差し出してきた。
「このクッキーには独特の製法で発酵させたバターを使っていて、その製法は代々、引き継がれてきたものです。王家に伝わると言ってしまえば大げさなのですが、幸妃さまとディアナさまもおそらくは、教え合っていたのですわ」
アミーユは袋を開けて一つ摘まんだ。やはりバターの風味が豊かでとてもおいしい。
「お二人は仲が良かったのでしょうね」
一人の悪意が数多くの不幸を産んだ。
パメラは、無実のディアナ妃をも殺したことになる。
ディアナ妃と幸妃、殺されたフィリップ王子に子どもたち、そして、使用人たち。彼らの無念に、言葉も見つからない。
アミーユは幸妃を見つめた。いつか、幸妃に我が子たちを弔える日が来るのだろうか。
アミーユと目が合うと、幸妃は、ほほ笑んで首を傾げた。
「あら、アーサー、おかあさまのかおに、なにか、ついていて?」
「ええ、ついています。母上には幸せの粉を振りかける妖精がついているのですが、その妖精のやつが、今、母上の鼻を枕に居眠りしているのです。どうやってもっと働かせるか考えているのです」
「あら、もうこれいじょう、ようせいをはたらかせないで。おかあさまは、もうじゅうぶんにしあわせよ」
幸妃はそれはそれは幸せそうに笑った。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる