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第四章 闇の女神
4-13 姉妹の葛藤と第一ラウンド
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結局、リミは結論が出せないまま夜を迎えてしまった。
村の人達とも触れ合ったりして、何か考えがまとまるヒントになるかと思ったが特に得る物はなく、今もベッドの上でゴロゴロしながら悩んでいた。
漆黒の短剣は持っていると怖いので、今はテーブルの上に投げてある。
頭で考える倫理観で言えば、姉を亡き者にするなど到底考えられることではない。
これまでの人生で姉のルミ自身が自分に辛くあたってきたことなど、ただの一度もないのだ。
もっと言えば、姉だってリミが外出している間は同じように息を潜めていなければならなかったわけで、その鬱屈は同じぐらい感じていただろう。
一方的にリミが不満を訴えるほどの境遇だったかと問われれば、決してそうではないと理屈の上ではわかる。
そう、理屈の上ではだ。
二人の間に唯一の違いがあったとすれば、外に出た時も周囲から『ルミ』として認識されているということだ。
それはタイセーの街に来てからも、なんとなく癖であるかのように最初にそうしてしまったせいで街の人からもそう認識された。
リミをリミとして認識してくれているのは、一部のレジスタンスの同志だけだ。
それと、最近出会ったアイル達。
ハチゴーが何かにつけて『ルミ様とリミ様は』と言ってくれるだけで、望外な喜びを感じている自分に正直驚いた。
それは姉のルミが『あなたはリミなのだから』と抱きしめてくれたあの時と同じ感動だった。
いますぐあの人達に相談したいと切望したが、この夢とやらの世界にはアイル達は存在していなかった。
本当にこのまま眠ったら、現実で目を覚ますのだろうか。
ならばいっそこのままいつまでも、この居心地のいい村で過ごしていたい。そんなことさえ思ってしまった。
決断しなければならない時なんて来なければいいのに。
そう願いながらも、いつの間にかリミは眠ってしまっていた。
──────────────────
「はっ!」
慌てて目を覚ます。
迂闊にも眠ってしまったようだ。
うたた寝ぐらいだろうから、まだ大丈夫と思いたい。
周囲が暗いからまだ夜なのだろうと推測する。
「よかった……」
思わず呟く。
「うん、よかった……本当に……」
それに自分と同じ声が答える。
「え……?」
慌てて上半身を起こしたはずみで頭を何かにぶつけた。
「あいた!」
「いった!」
涙目になりつつ痛打したおでこを押さえれば、視界には暗闇の中で同じポーズをした自分の姿がぼんやりと映っていた。
「もー、急に起き上がらないでよ。いったあああ」
急速に理解した。
「お姉ちゃん」
「はいはい、ルミお姉ちゃんですよー。本当にもう目を覚まさないんじゃないかと心配してたんだからあ」
そう、視界の中の自分は自分ではなくて姉のルミだ。
見回してみれば、夜だから暗いのではなく、全体が真っ暗なのだ。
「ここは……?」
「あたしもさっき目覚めたばかりだからよくわからないけど、床の手触りとかからしてあの洞窟の中のどこかみたいね。周りも岩の壁ばっかりで扉らしきものも無いし、閉じ込められちゃったみたい。通り抜けることが出来るかとかいって、この闇の中で出口を探せってことかしらね」
もしかしたら、という想いがリミの脳裏を過ぎる。
「夢を……見ていたの」
リミがポツリと呟くとルミが闇の中でピクっとしたのがわかった。
「もしかして、お姉ちゃんも?」
「う、うん……どんな夢だった?」
リミはしばし黙った。
ひょっとすると姉も同じような夢を見ていたのではないだろうか。
そして同じように夢の中に現れた自分と同じような誘いを受けたとしたら……。
そこまで考えた時、自分の右手に何かが握られているのに気がついた。
「あ、これ……」
暗闇の中でも分かる。
これはあの時の短剣だ。
いつの間にか眠ってしまった時はテーブルの上にあったはずだが、こうしてしっかりと右手に握られているのはどうしたわけだろうか。
「リミ……?」
ルミの訝しむ声が聞こえた。
今なら暗闇に乗じて事を為すことが出来る。
幸い短剣は真っ黒であるために、この闇の中では自分が短剣を握っていることなど姉には分からない。
心臓の鼓動が早くなる。手は震え、喉はカラカラだ。
もしかしたら、どちらかが死ななければここから出られないのならば。
放っておいたら姉に殺されるだけならば。
短剣を両手持ちに変えて胸の前に抱きしめるようにして決意を固めた時だった。
「あなたをね……殺せって言われたの」
震えるような声が闇の中に響いた。
いや、事実震えているのかも知れない。
逆にリミの手の震えが止まった。
「そうすれば、二人は一つになってこれからは一人のフリをしなくてもいいんだよって、あなたの姿で言うのよ」
やはりまるで同じような夢を見ていたようだ。
リミの短剣を握る手に、力がこもる。
「確かにタイセーに来てからも二人同時に見られないようにしてきたしさ、それに嫌気がさしていたのも事実。そんな暮らしから解放されるならって、ちょっと心が動いたよね。そんで目が覚めたら隣にリミが寝てるし、手には夢の中で渡された短剣があるしでさ」
そこまで同じなのだ。
と、考えてあることに気がついた。
ルミは先に目を覚ましていた。そして隣にはまだ寝ている自分がいた。
つまり……。
「思わずあんたの首に短剣をあてたわよ。震える手でさあ……」
ルミの声は既に泣いていた。
「だけどさあ。できるわけないじゃん。やっと村を出て、タイセーでも同じような暮らしをすることになって、そこからも抜け出るチャンスがきてこうして二人でここまで来たのにさあ。もうこれからは一人のフリなんてするのやめようって。何よりもリミがリミとして生きられるようにって、そう思ってたのにさあ。そのあんたを殺せるわけないじゃん」
「ルミ姉……お姉ちゃん……」
「あんたも、多分、同じような夢を見て、同じことを言われたんじゃない? あたしを殺せばこれからはあたしの影として生きなくていいよって。ぐすっ。だからさ……だから、どちらかがどちらかを殺さないとここから出られないなら、あたしを殺してよ……。リミはずっとあたしとして今まで生きてきたんだよ? せめてこれからは、リミとして生きる時間が来なくちゃ不公平だよ……」
とうとうルミは大声で泣き出した。
リミは。
今の姉の言葉を一つ一つ噛みしめるように心に刻んだ。
そして静かに漆黒の短剣を闇の中で振り上げた。
──────────────────
「ぬおおおおおおおおお!! レオノワールメガトンパーンチ!!!」
八号の頭ほどの大きさがある巨大な拳が、八号めがけて振り下ろされる。
アイルよりもやや大きな体躯に漲る力とダッシュした勢い、それらが一点に凝縮され、鍛え上げられた筋肉のバネによって恐らくはそこらの岩さえも砕くような威力の一撃となったパンチが、躱すことを許さない速度で小さな八号の体躯を捉えた。
ドン! と鈍い音が聞こえ、両腕を交差して受け止めた八号の脚が地面にめり込んでしまうほどの衝撃が起こった。
その衝撃波でアイルの持っていたカップがビリビリと震えたほどだ。
「素晴らしい威力です、衝撃を細かく分散する私の構造でなければ恐らく今の一撃で関節などに支障をきたしていたでしょうし、振り下ろす一撃でなければ私の小さな身体では横や上に吹き飛ばされてしまっていたでしょう」
「なんだとおおおお!?」
金属でありながら外見上は人間のように見える八号の外皮は、細かい鱗のように魔鉱を重ね合わせて造られており、切断・刺突などの攻撃は鈍り、今のような強烈な衝撃を与えるような攻撃もその威力を分散されてしまうという構造になっていた。
「並の人間ならばもちろん全身鎧を着ていても潰されていたかも知れませんね。そして速度も想定以上です。今は威力を分析するためにあえて受け止めましたが、躱そうとして躱せたかは怪しいところです。さすがは、ええと、なんでしたっけ」
「ヘレン様の、一の、従者、でーす!」
叫ぶと同時に、丸太のような脚で回し蹴りを放つレオノワール。
それをまた受け止めた八号だが、自分でも言っていた通り、横合いからの攻撃により思い切り吹き飛ばされ、岩壁に激突した。
少し眉をしかめたアイルだが、崩れた岩の欠片の中から何事もなかったように立ち上がった八号を見て、またお茶に口をつけた。
「く……この……!」
見れば、攻撃したはずのレオノワールが己の脛を押さえてうずくまっていた。
「最初の攻防で、私の防御力は把握したはずです。また、分析力なども。それに対して大振りの回し蹴りを放つというのは少々いただけません。今は、あなたの蹴りに対して私も蹴りを入れることでカウンターとしつつ、位置を変えるための踏み台とさせていただきました」
冷静な八号の解説に、地面を叩きながら悔しがるレオノワール。
「そんな! 馬鹿な! この! 私が!」
地面にいくつも穴が開くほどにしばらく拳を打ち付けていたレオノワールだったが、突然殴るのをやめて立ち上がった。
「ふー、すっきりしました」
どうやら気持ちの切り替えが完了したらしい。
「ふむ、あなたがわざわざ自らが特別製のゴーレムであると明かしてくださったのに、それでもまだ私には、油断があったようでーす。ここからは本気でいきまーす」
「お願いしますね」
双方、改めて構え直す。
「待て」
そこへ、アイルからストップがかかった。
「なんでしょうか、マスター」
「いいところに、何事でーすか! 今更戦うのをやめろなんて言わないでーすよね」
構えを解く八号と、不満そうな顔を全開にするレオノワールに対して、アイルはただ無言で空になったカップを差し出した。
「レオノワール様、マスターがお茶のおかわりをご所望です」
「はっ、これはいけませーん! 主賓に対して何たる失礼!」
レオノワールは先程の一撃よりも早い速度でテーブルに戻ると、そこだけは優雅な仕草でお茶のおかわりをアイルのカップに注いだ。
そしてまたもや転移したのか思うほどの速度で元の位置に戻る。
「さて、続きといきまーす!」
「はい」
双方、改めて構え直す。
かくして、今度こそ本気になった格闘系マッチョ眷属レオノワールと、試作型戦闘マニアゴーレムらぶりぃトルマちゃん八号改の第二ラウンドの幕が切って落とされた。
村の人達とも触れ合ったりして、何か考えがまとまるヒントになるかと思ったが特に得る物はなく、今もベッドの上でゴロゴロしながら悩んでいた。
漆黒の短剣は持っていると怖いので、今はテーブルの上に投げてある。
頭で考える倫理観で言えば、姉を亡き者にするなど到底考えられることではない。
これまでの人生で姉のルミ自身が自分に辛くあたってきたことなど、ただの一度もないのだ。
もっと言えば、姉だってリミが外出している間は同じように息を潜めていなければならなかったわけで、その鬱屈は同じぐらい感じていただろう。
一方的にリミが不満を訴えるほどの境遇だったかと問われれば、決してそうではないと理屈の上ではわかる。
そう、理屈の上ではだ。
二人の間に唯一の違いがあったとすれば、外に出た時も周囲から『ルミ』として認識されているということだ。
それはタイセーの街に来てからも、なんとなく癖であるかのように最初にそうしてしまったせいで街の人からもそう認識された。
リミをリミとして認識してくれているのは、一部のレジスタンスの同志だけだ。
それと、最近出会ったアイル達。
ハチゴーが何かにつけて『ルミ様とリミ様は』と言ってくれるだけで、望外な喜びを感じている自分に正直驚いた。
それは姉のルミが『あなたはリミなのだから』と抱きしめてくれたあの時と同じ感動だった。
いますぐあの人達に相談したいと切望したが、この夢とやらの世界にはアイル達は存在していなかった。
本当にこのまま眠ったら、現実で目を覚ますのだろうか。
ならばいっそこのままいつまでも、この居心地のいい村で過ごしていたい。そんなことさえ思ってしまった。
決断しなければならない時なんて来なければいいのに。
そう願いながらも、いつの間にかリミは眠ってしまっていた。
──────────────────
「はっ!」
慌てて目を覚ます。
迂闊にも眠ってしまったようだ。
うたた寝ぐらいだろうから、まだ大丈夫と思いたい。
周囲が暗いからまだ夜なのだろうと推測する。
「よかった……」
思わず呟く。
「うん、よかった……本当に……」
それに自分と同じ声が答える。
「え……?」
慌てて上半身を起こしたはずみで頭を何かにぶつけた。
「あいた!」
「いった!」
涙目になりつつ痛打したおでこを押さえれば、視界には暗闇の中で同じポーズをした自分の姿がぼんやりと映っていた。
「もー、急に起き上がらないでよ。いったあああ」
急速に理解した。
「お姉ちゃん」
「はいはい、ルミお姉ちゃんですよー。本当にもう目を覚まさないんじゃないかと心配してたんだからあ」
そう、視界の中の自分は自分ではなくて姉のルミだ。
見回してみれば、夜だから暗いのではなく、全体が真っ暗なのだ。
「ここは……?」
「あたしもさっき目覚めたばかりだからよくわからないけど、床の手触りとかからしてあの洞窟の中のどこかみたいね。周りも岩の壁ばっかりで扉らしきものも無いし、閉じ込められちゃったみたい。通り抜けることが出来るかとかいって、この闇の中で出口を探せってことかしらね」
もしかしたら、という想いがリミの脳裏を過ぎる。
「夢を……見ていたの」
リミがポツリと呟くとルミが闇の中でピクっとしたのがわかった。
「もしかして、お姉ちゃんも?」
「う、うん……どんな夢だった?」
リミはしばし黙った。
ひょっとすると姉も同じような夢を見ていたのではないだろうか。
そして同じように夢の中に現れた自分と同じような誘いを受けたとしたら……。
そこまで考えた時、自分の右手に何かが握られているのに気がついた。
「あ、これ……」
暗闇の中でも分かる。
これはあの時の短剣だ。
いつの間にか眠ってしまった時はテーブルの上にあったはずだが、こうしてしっかりと右手に握られているのはどうしたわけだろうか。
「リミ……?」
ルミの訝しむ声が聞こえた。
今なら暗闇に乗じて事を為すことが出来る。
幸い短剣は真っ黒であるために、この闇の中では自分が短剣を握っていることなど姉には分からない。
心臓の鼓動が早くなる。手は震え、喉はカラカラだ。
もしかしたら、どちらかが死ななければここから出られないのならば。
放っておいたら姉に殺されるだけならば。
短剣を両手持ちに変えて胸の前に抱きしめるようにして決意を固めた時だった。
「あなたをね……殺せって言われたの」
震えるような声が闇の中に響いた。
いや、事実震えているのかも知れない。
逆にリミの手の震えが止まった。
「そうすれば、二人は一つになってこれからは一人のフリをしなくてもいいんだよって、あなたの姿で言うのよ」
やはりまるで同じような夢を見ていたようだ。
リミの短剣を握る手に、力がこもる。
「確かにタイセーに来てからも二人同時に見られないようにしてきたしさ、それに嫌気がさしていたのも事実。そんな暮らしから解放されるならって、ちょっと心が動いたよね。そんで目が覚めたら隣にリミが寝てるし、手には夢の中で渡された短剣があるしでさ」
そこまで同じなのだ。
と、考えてあることに気がついた。
ルミは先に目を覚ましていた。そして隣にはまだ寝ている自分がいた。
つまり……。
「思わずあんたの首に短剣をあてたわよ。震える手でさあ……」
ルミの声は既に泣いていた。
「だけどさあ。できるわけないじゃん。やっと村を出て、タイセーでも同じような暮らしをすることになって、そこからも抜け出るチャンスがきてこうして二人でここまで来たのにさあ。もうこれからは一人のフリなんてするのやめようって。何よりもリミがリミとして生きられるようにって、そう思ってたのにさあ。そのあんたを殺せるわけないじゃん」
「ルミ姉……お姉ちゃん……」
「あんたも、多分、同じような夢を見て、同じことを言われたんじゃない? あたしを殺せばこれからはあたしの影として生きなくていいよって。ぐすっ。だからさ……だから、どちらかがどちらかを殺さないとここから出られないなら、あたしを殺してよ……。リミはずっとあたしとして今まで生きてきたんだよ? せめてこれからは、リミとして生きる時間が来なくちゃ不公平だよ……」
とうとうルミは大声で泣き出した。
リミは。
今の姉の言葉を一つ一つ噛みしめるように心に刻んだ。
そして静かに漆黒の短剣を闇の中で振り上げた。
──────────────────
「ぬおおおおおおおおお!! レオノワールメガトンパーンチ!!!」
八号の頭ほどの大きさがある巨大な拳が、八号めがけて振り下ろされる。
アイルよりもやや大きな体躯に漲る力とダッシュした勢い、それらが一点に凝縮され、鍛え上げられた筋肉のバネによって恐らくはそこらの岩さえも砕くような威力の一撃となったパンチが、躱すことを許さない速度で小さな八号の体躯を捉えた。
ドン! と鈍い音が聞こえ、両腕を交差して受け止めた八号の脚が地面にめり込んでしまうほどの衝撃が起こった。
その衝撃波でアイルの持っていたカップがビリビリと震えたほどだ。
「素晴らしい威力です、衝撃を細かく分散する私の構造でなければ恐らく今の一撃で関節などに支障をきたしていたでしょうし、振り下ろす一撃でなければ私の小さな身体では横や上に吹き飛ばされてしまっていたでしょう」
「なんだとおおおお!?」
金属でありながら外見上は人間のように見える八号の外皮は、細かい鱗のように魔鉱を重ね合わせて造られており、切断・刺突などの攻撃は鈍り、今のような強烈な衝撃を与えるような攻撃もその威力を分散されてしまうという構造になっていた。
「並の人間ならばもちろん全身鎧を着ていても潰されていたかも知れませんね。そして速度も想定以上です。今は威力を分析するためにあえて受け止めましたが、躱そうとして躱せたかは怪しいところです。さすがは、ええと、なんでしたっけ」
「ヘレン様の、一の、従者、でーす!」
叫ぶと同時に、丸太のような脚で回し蹴りを放つレオノワール。
それをまた受け止めた八号だが、自分でも言っていた通り、横合いからの攻撃により思い切り吹き飛ばされ、岩壁に激突した。
少し眉をしかめたアイルだが、崩れた岩の欠片の中から何事もなかったように立ち上がった八号を見て、またお茶に口をつけた。
「く……この……!」
見れば、攻撃したはずのレオノワールが己の脛を押さえてうずくまっていた。
「最初の攻防で、私の防御力は把握したはずです。また、分析力なども。それに対して大振りの回し蹴りを放つというのは少々いただけません。今は、あなたの蹴りに対して私も蹴りを入れることでカウンターとしつつ、位置を変えるための踏み台とさせていただきました」
冷静な八号の解説に、地面を叩きながら悔しがるレオノワール。
「そんな! 馬鹿な! この! 私が!」
地面にいくつも穴が開くほどにしばらく拳を打ち付けていたレオノワールだったが、突然殴るのをやめて立ち上がった。
「ふー、すっきりしました」
どうやら気持ちの切り替えが完了したらしい。
「ふむ、あなたがわざわざ自らが特別製のゴーレムであると明かしてくださったのに、それでもまだ私には、油断があったようでーす。ここからは本気でいきまーす」
「お願いしますね」
双方、改めて構え直す。
「待て」
そこへ、アイルからストップがかかった。
「なんでしょうか、マスター」
「いいところに、何事でーすか! 今更戦うのをやめろなんて言わないでーすよね」
構えを解く八号と、不満そうな顔を全開にするレオノワールに対して、アイルはただ無言で空になったカップを差し出した。
「レオノワール様、マスターがお茶のおかわりをご所望です」
「はっ、これはいけませーん! 主賓に対して何たる失礼!」
レオノワールは先程の一撃よりも早い速度でテーブルに戻ると、そこだけは優雅な仕草でお茶のおかわりをアイルのカップに注いだ。
そしてまたもや転移したのか思うほどの速度で元の位置に戻る。
「さて、続きといきまーす!」
「はい」
双方、改めて構え直す。
かくして、今度こそ本気になった格闘系マッチョ眷属レオノワールと、試作型戦闘マニアゴーレムらぶりぃトルマちゃん八号改の第二ラウンドの幕が切って落とされた。
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