幼なじみの聖女に裏切られた僕は、追放された女魔王と結婚します

壬黎ハルキ

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14 帝国~勇者の裏側

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 月の明かりを完全に遮断する森の中。セオドリックは暗闇などものともせず、迷いなく前を向いたまま歩いていた。
 風も全く吹いておらず、木々は全く揺れていない。唯一聞こえる彼の足音が大きく響き渡る。それは一定のリズムを刻んでおり、周囲の様子も相まって、不気味なメロディと化していた。
 やがてセオドリックは、森の最奥へとたどり着く。
 そこで彼はようやく歩を止め、視線を動かすことなく大きめの声で『それ』に呼びかける。

「――いるな?」
「はい。ここにおります」

 闇の中から出てきた一人の人物。鋭い視線のまま、セオドリックが顔を向けた。

「ひとまずは上々、と言っておこうか」
「こちらも苦労しましたよー? あんな山奥で『スタンピードを起こせ』という指令をこなすなど……」

 軽快な口調でその人物が言うと、セオドリックも小さく笑う。

「貴様ならやり遂げるだろ。そのために私は貴様と手を組んでいるのだからな」
「やれやれ。あなたも『魔族』扱いが荒いことで」

 自らを魔族と称するその人物の顔は、闇に紛れて明らかにならない。だがその言葉をセオドリックは訂正しない。
 すなわちその人物が本当に魔族であることを意味している。
 帝国の王子が魔族と繋がっている――この事実が世に知れ渡ればどうなるか。
 無論、当の本人もそれはちゃんと心得ている。だからこそこうして、闇に紛れて密会を繰り広げているのだ。

「しかしながら、セオドリック様――」

 すると魔族の人物は、神妙な口調で切り出してくる。

「残念ながら此度の結果は、完璧とは言えない形で終わりました」
「というと?」
「村人を一人逃がしてしまったのです。聖女様と同じくらいの年でしたね」
「なんだ、そんなことか……別に構わんだろう」

 くだらないと言わんばかりに、セオドリックはため息をつく。

「些細な取りこぼしを気にしたところで、何がどうなるわけでもあるまい。当初の目的は達成されたのだからな」
「存じております。あなたのお望みである『聖女様』は、見事あなたに夢中……というより、依存なされておられるご様子ですね?」
「そうだな」

 魔族の人物の問いかけに、セオドリックは得意げに笑う。

「スタンピードを起こして村を滅ぼさせ、故郷を失ったことで傷心した聖女を私が自ら慰め、我が手中とする――流石の私でも、まさかここまですんなり上手くいくとは思わなかったぞ」
「これもあなたの腕の賜物でしょう」
「ふん。まぁ、それも多少なりあるのかもしれないが……」

 セオドリックは腕を組み、どこか小馬鹿にしたように鼻で息を鳴らした。

「一番大きいのは、アイツが見事な『お花畑』だったということだ。スタンピードなんぞ起こさなくても良かったとすら思えてくる」
「ほぅ……それほどまでですか」
「あぁ」

 魔族の人物の表情は相変わらず見えない。しかしセオドリックはそれを気にすることもない。そもそも興味すらないと言わんばかりに、彼は自分の言いたいことを軽やかに述べていく。
 それはもう気持ち良さそうな表情で。

「しかし私からすれば、好都合以外の何物でもない。アレは利用価値がある。使えるうちはとことん使い倒してやるさ」
「そのために、心優しく支える姿をお見せし続けるわけですか」
「演技には自信があるからな。あの女の花畑さも相まって、今のところバレる兆しすらないくらいだよ。フッ、ハハハハハッ♪」

 セオドリックは心から愉快そうに笑い声をあげる。ちょっと優しくすればすぐに引っかかる使いやすい女――それが彼の中で位置づけられている、ミッシェルの総合的な評価であった。

「全ては私が、勇者としての名声を得るための道具に過ぎん。用が済めば、ヤツの好きな遠いところへ行かせてやるさ」
「――なるほど」

 要するに『利用するだけ利用してポイ』ということだと、魔族の人物もすぐに理解できた。しかしそれも想定の範囲内であり、特に驚くこともない。

「計画が順調のようで、なによりですね」
「そうでなくては困るというものさ。私の野望を叶えるために、こんなところで躓くわけにはいかない」

 セオドリックはニヤリと笑い、そして己の中に抱く未来の姿を思い浮かべる。

(そうとも。世界中の女を抱いて寝る――それが現実となる日も近い! この私に不可能の文字は存在しないのだ!)

 数多くの美女が、照れながら自分にまとわりつく。誰も逆らわず、命令するがままに何でもしてくれる姿を、必ず手に入れてやると意気込む。

「フ、フフフ……フハハハハッ、ハーッハッハッハッハッハッ!」

 遂に耐え切れなくなったかのような笑い声。その表情は凄まじく歪んでおり、本人は当然の如く気づいていない。
 勇者と言う名に相応しい正義感を持つ好青年の裏側は、いかに女を自分のものにするかを考える――それがセオドリックという男の真の姿なのであった。

(この調子で、彼女のことも必ずモノにしてやる!)

 彼の脳裏に浮かんできたのは、一人の魔族の女性であった。
 透き通るほどのサラサラな銀髪ロング、長身で抜群のスタイル、そして誰もが見惚れるほどの美貌。これらを兼ね備えた至高の存在が、セオドリックの最大とも言えるターゲットなのであった。

(待っていろ。今に私の色に染めてやるからな――魔王ディアドラ!)

 心の中で意気込みをかけるセオドリック。
 当てが外れるなどあり得ない――彼は心からそう思っており、未来という名の幻想を思い浮かべながら、ひたすら笑い続けるのだった。

 闇の中からずっと見ている『影』がいることに、全く気づかないまま――

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