幼なじみの聖女に裏切られた僕は、追放された女魔王と結婚します

壬黎ハルキ

文字の大きさ
16 / 50

16 謎の島

しおりを挟む


 結局また何も手伝えなかったなぁ――と思いながら、アレンはディアドラに今しがた感じたことを打ち明ける。
 特に疑う様子もなく、ディアドラは真剣な表情で聞いていた。

「――不思議な何かを感じる? あっちのほうから?」
「うん。間違いない」
「じゃあちょっと行ってみましょうか」

 あっさりと了承してきたディアドラに、アレンは思わず呆気に取られる。

「……いいの? なんとなくそんな気がするだけなんだけど」
「えぇ。特に急ぐ旅じゃないし、私も気になるわ」

 そう言いながらディアドラは、解体した海竜の素材の取りこぼしがないかどうかを確認していく。そして特に問題がないと判断するなり、亡骸の残りを放置し、魔法の雲を操作し出した。
 上昇していくと同時に海面が動き出す。
 遠巻きから見ていた海で暮らす魔物たちが、一斉に動き出したのだ。
 狙うは海竜の亡骸。皆が勢いよくそれに群がり、持ち前の鋭い牙などでひたすら喰らってゆく。
 遠ざかる海の魔物たちの様子を見下ろしながら、アレンは感心していた。

「なんか凄いなぁ……」
「魔物はみんな、あんな感じよ。それだけ生きるのに必死ってことよね」
「なるほど」

 風に乗って聞こえてくる、骨や肉、皮を食い散らかす音。どんなに恐ろしい存在だろうと、亡骸になれば嬉しいご馳走に他ならない。
 まさしくそれは、生き物の生態。陸だろうと海だろうと決して変わらない。

「そんなことよりもアレン。あなたの感じた不思議な感じって、こっちの方角で合ってるかしら?」

 ディアドラがサラリと話を戻しつつ、ある方向を指差した。

「あーうん、そっちだね」

 アレンも素直に頷く。割と急に戻された形だが、特に疑問はなかった。不思議な何かが気になっているのも確かだからだ。

「よし、それじゃあ改めて、行ってみましょー!」
「おーっ」

 ディアドラとアレンの間延びした声の掛け合いとともに、魔法の雲が動き出す。あっという間に群がる魔物たちが小さくなり、音も完全に静かとなった。
 二人の視線は前方に向けられ、真剣な表情で集中している。
 しかし見えるのは、どこまでも続いていそうな大海原のみであり、特に変わった様子はどこにもなさそうであった。
 やはり気のせいだったのか――そう思いかけた瞬間だった。

「……ん?」

 一瞬、何かを感じた。声を上げるアレンに、ディアドラも気づく。

「どうしたの?」
「いや……なんか今、音みたいなのしなかった?」
「音?」
「うん。こう――ピカァン、みたいな」
「しなかったけど」
「そっか……」

 そもそも音が鳴ったかどうかすら、かなり曖昧であった。気のせいだったとしても何ら不思議ではない。
 そう思いながら小さく笑いかけた瞬間、アレンは目を見開いた。

「ディアドラ、あれ!」
「えっ?」

 アレンが慌てて指を差した方向に視線を向けると、ディアドラもそれに気づく。

「ウソ……島が見えるわ!」
「結構大きいよね」
「大きいわね」

 確認するように二人は言う。孤島ながら、くまなく歩けば十分に時間は費やせるほどであり、その認識に間違いはない。
 だからこそ二人は、どうにも納得できないことがあった。

「さっきまで、確かに見えてなかったよね?」
「えぇ。どこまでも広がる真っ青な海しかなかったわ」
「だよねぇ」

 不思議なものだなぁと、アレンは呑気に思う。しかしディアドラは、複雑そうな表情で目の前に見える島を凝視する。

(アレンが何かを感じた瞬間、あの島が見えるようになった……これは間違いなく何かあるわね)

 もしかしたら、ただ単に偶然が重なった結果なのかもしれないが、それはそれで構わないと思っていた。
 何が起こるか分からない以上、油断は禁物だ。用心するに越したことはない。

「とりあえずあの島に近づいてみましょうか」

 ディアドラは魔法の雲を動かしていく。細心の注意を払いながら、島の様子を伺っていった。
 何か分かることはないかと目を凝らして島を見つめるが――

「うーん、何の変哲もない島にしか見えないわね。生き物はそれなりに暮らしているようだけど……ねぇ、アレンにはどう……」

 振り向きながら問いかけた瞬間、神妙な表情で島を見つめる彼の表情が、ディアドラの視界に飛び込んでくる。
 間近で見たおかげで思わず心が軽く跳ねるが、今はそれどころではないとすぐさま気持ちを入れ直し、ディアドラも表情を引き締めた。

「……何か感じるの?」
「うん。よく分からないけど、確かにある」

 アレンはハッキリとそう答えた。曖昧な様子も見せておらず、それだけ真剣だということがよく分かる。

(私には何も感じなくて、彼には感じられている……何があるのかしら?)

 これが逆であれば、ある意味『普通』だと思っていた。伊達に魔王として、鍛錬を積んできたわけではない。自身の魔力感知や操作の能力においても、人並みを越えている自負はある。
 だからこそ、不思議で仕方がなかった。
 アレンは普通に魔力を感じたことはないという。そしてそれは、勘違いでもなんでもない事実であることも、ディアドラは理解していた。
 そんな彼が、ここにきて確かなものを感知している。
 あの島だけでなく、彼自身にも何か秘めているものがあるとしか思えない。恐らくそれは、アレン本人も気づいていない可能性が極めて高い。

(いずれにせよ、どんな真実だろうと、私は真正面から受け止めるだけだわ)

 それが妻としての務めだと、ディアドラは思った。夫の前で情けない姿を見せたくはないというプライドも相まって、改めて表情を引き締める。

「ひとまずあそこの海岸に降りましょう。ここで見ていても、何も分からないわ」
「そうだね」

 アレンも了承し、ディアドラは島の砂浜が広がる場所に向けて雲を操作する。やがて何事もなく島に到着し、二人は慎重に降り立つのだった。
 ディアドラは魔法の雲をしまいながら、興味深そうに周囲を見渡す。

「この島、かなりの魔力が満ちているみたいね」
「魔力?」
「えぇ。アレンの感じたものと、何か関係があるのかもしれないわ」
「ふーん、そっか……ん?」

 興味深そうにアレンが視線を動かすと、一匹の子猫らしき生き物が茂みの中からゆっくりと出てきていた。
 その猫らしき生き物は警戒している様子はなく、むしろアレンたちに興味を示しているようで、トコトコと一直線に四足歩行で向かってくる。

「猫がこっちに来る」
「えっ? あらホント……って」

 アレンの声にディアドラが一瞬だけ嬉しそうにするも、すぐにその表情は驚きに切り替わる。

「あれって『メルキャット』じゃない!」
「もしかして魔物?」
「えぇ。それも普通じゃ滅多に見かけないほどのね」
「レアものってことか」

 とはいえ、アレンからすれば初めて見る魔物の一種に過ぎないため、ディアドラの言葉自体にいまいちピンときてはいない。しかしながら、よく見れば普通の猫でないことはすぐに判明した。

「尻尾が二股に分かれてるのか……でもそれ以外は、殆ど普通の猫だな」

 アレンの頬が自然と緩まり、しゃがんで少しでも視線を合わせようと試みる。大きくてくりっと丸い目が、しっかりと二人を捉えてきていた。
 やがてメルキャットの足が彼らの前で止まる。
 そして――

「ねぇねぇ、おにーさんたちだれー? どこからきたのー?」

 その声は確かに聞こえた。二俣の尻尾を左右に揺れ動かしながら、無邪気にジッと見上げてくる、その小さな生き物から。
 アレンとディアドラは目を見開き、数秒ほど顔を見合わせ、そして再び視線を戻しながら呆然と声を揃えて言う。

「「――メルキャットが喋ったあぁーっ!?」」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

処理中です...