幼なじみの聖女に裏切られた僕は、追放された女魔王と結婚します

壬黎ハルキ

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34 帝国~宣戦布告

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「――魔界へ宣戦布告?」
「はい、陛下。今がそうする時だと、私は思います」

 謁見の間にて跪くセオドリックの口調に、迷いは感じられない。見下ろしてくる皇帝の鋭い視線にも、全く臆する様子を見せていないほどだ。
 彼がそれだけ真剣に伝えている、ということだ。

(セオドリック王子……戦争を仕掛けるなど、一体何を考えておられる?)

 無言を貫いている大臣も、軽く表情を引きつらせている。それだけ謁見の間が緊迫しているのだ。
 佇んでいる護衛の兵士たちもまた、甲冑のおかげで表情こそ見えていないが、その中では緊張を走らせていた。
 急になんてことを言い出すんだ――そう叫びたくて仕方がない。
 謁見の間にいる殆どの者たちが心から願った。セオドリックの話を、皇帝陛下が真っ向から突っぱねることを。
 無論、彼がそれを仕掛ける理由も分からなくはなかったが。

(遅かれ早かれ、こうなるのではないかと予測はしていた……しかしまさか、本当に王子が切り出すなど、流石に思ってもみなかった。やはり無礼を覚悟で、皇帝に進言しておくべきだったのかもしれん)

 セオドリックが聖女を――あくまで表向きではあるが――大切にしていることはよく分かっていた。それこそ彼女が悲しめば、その原因を全力で容赦なく排除するべく動き出すであろうことも。
 これがもし、恋は盲目的なものであれば、むしろ楽だったかもしれない。大臣として皇帝に進言し、王子に説教してもらえば済む話だった。
 しかしながら見ていると、どうやらそうでもなさそうだと思えてならない。
 セオドリックは自身の立場をわきまえている。
 王子として、そして勇者としての使命を全うすることを考えている。
 確かに聖女を大切にしてはいるが、それはあくまで『勇者として』という考えの域を超えていないのだ。
 故に気になる。
 聖女と勇者との間に、認識のずれがあるのではないかと。
 それは、まさに目の前でも確認できていた。

「聖女は人の見ていないところで、魔族に滅ぼされた故郷に対して、深い悲しみに囚われています。我が帝国の王子として、そして選ばれし一人の勇者として、これを放っておくことはできません」
「セオドリック様、そこまでわたしのことを愛して……」
「勇者が聖女を大切に思うのは当然のこと。皇帝陛下、なにとぞご検討を!」

 ぼんやりと聞いていれば、普通に流してしまいそうなことだ。しかしよくよく注意して聞けば、微妙に噛み合っていないように思えてくる。
 聖女のストレートな気持ちに対し、セオドリックは曖昧さを残して躱した。
 そう考えるほうがしっくりくるのではと、大臣は顔をしかめていた。

「そして、その聖女の悲しみこそが、聖なる魔力の発動を拒ませている可能性は、十分にあり得るでしょう。だとするならば、その膿を取り除いて輝ける姿を取り戻すことこそが、勇者としての務めだと私は思えてなりません!」

 セオドリックはまっすぐな目を皇帝に向ける。
 確かに言っていること自体は、決して的外れではないだろう。現に大臣も、そこは少し考えていたほどだ。
 もっとも哀れにこそ思えど、早く元気になって聖女の務めを果たしてほしい、というため息のほうが圧倒的に大きかったが。

(まぁ、王子も本心でおっしゃられているかどうかは、微妙なところだが……)

 自分の目が節穴ではない自信はある。セオドリックという人物がどのようなものであるかは、大臣もそれ相応に知っているつもりだ。
 大臣という肩書きは伊達ではない。それなりの長い年月を、この王宮で務めてきており、王子のことも幼い頃から知っている。
 だからこそ、彼の人となりも、それとなく理解はしていた。

(確かにセオドリック様は優秀でおられる。しかしその腹に抱えているものが、果たしてどれほどの『色』をしているか……正直言って、計り知れん)

 真っ白ならばいいが、もしも黒であるならば――大臣はひっそりと、心の中で不安を覚えていた。

(思えば、聖女が来てからというもの、王宮や大聖堂周辺で、怪しい影がチラホラと動いている節がある。気のせいかと思っていたが……)

 どうやらそうでもなさそうだと、大臣も最近になってようやく分かった。少し遅すぎる気もしてはいるが、それでも気づかないよりはマシだと、自分で自分に言い訳をしていた。
 もっともそれをしたところで、それこそ意味がないと気づいてしまい、軽い自己嫌悪にも陥っていたが。

「――報告によれば、聖女は本調子ではないとのことだが?」

 ずっと黙って聞いていた皇帝が、ここでようやく口を開いてきた。

「聖女が力を使いこなせないというのなら、そもそも話にならんと思うのだが、そこをお前はどう見ている?」
「それにつきましては、御心配には及びません」

 皇帝の鋭い視線をいともせず、セオドリックは淡々と頭を下げながら答える。

「多少のアクシデントこそありましたが、聖女は少しずつながら、聖なる力を取り戻しつつあります。私も聖女のサポートを継続し、勇者と聖女が力を合わせ、魔界との戦いに勝利できるよう、改めてこの場で誓いましょう!」
「うむ……そうか、分かった」

 皇帝はハッキリとした口調とともに頷き、そしてゆっくりと立ち上がる。

「セオドリックよ。己の信じる道を、突き進むが良かろう」
「はっ! ありがたき幸せ!」

 威勢のいい声が謁見の間に響き渡り、場の空気が改めて変わる。大臣は呆然としながら親子の姿を見ていた。

(バ、バカな……皇帝は本当に、王子の意見を聞き入れたというのか!?)

 大臣の頬に、一筋の冷や汗が流れ落ちる。これから起こり得る大きな出来事に、胸騒ぎを覚えずにはいられない。
 一方、セオドリックは――

(よしよし、父上の反応も上々ってところだな♪)

 頭を下げた状態で、ニヤリと黒い笑みを浮かべていたのだった。

(聖女の存在ってありがたいぜ。おかげで私も『腹いせ』ができるってもんだ)

 魔界へ宣戦布告しようと思った本当のきっかけを、セオドリックは改めて思い出していく。
 真っ先に浮かんできたのは、美しき魔王ディアドラの姿であった――

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