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天空のノクターン
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「本当にごめんなさい。重いでしょ、アンジェロ? 私、代わるから」
「大丈夫だよ。僕は平気だ」
「順ったら、もう」
パーティー会場を抜け出し、ショッピングモールの屋上庭園に来てみたものの、駄々をこねた順は数分もしないうちに寝入ってしまったのだ。今はアンジェロにおんぶされて、ぐっすり眠っている。
あいにく星はあまり見えなかったから、その方がかえってよかったのかもしれないけれど。
「アンジェロ、いろいろありがとう。でも順も眠っちゃったし、もう帰りましょう」
「いや、せっかくだから少しゆっくりしていこうよ。もし千晶がよければだけど」
「え、ええ。私は大丈夫だけど」
「残念だな。星はともかく夜景はきれいだから、順にも見せたかったんだ」
なりゆきとはいえ、彼にこんな真似をさせてしまい、千晶はどうにもいたたまれなかった。子どもをおんぶするなんて、きっと彼には初めての経験だろう。
けれど何度代わると言っても、アンジェロは笑いながら首を振る。
「兄のパトリッツィオの気持ちがよくわかったよ。僕も小さいころ、遊び疲れると、よくこんなふうに背負ってもらっていたから。子どもって、あったかいんだね」
「それは……そうね」
きらめくような演奏を聴いたばかりだからか、千晶はますます落ち着かなくなった。順のせいで、もしアンジェロが怪我でもしたらどうしたらいいのだろう?
すると、ふいにアンジェロが笑い出した。
「千晶、深呼吸して」
「えっ?」
「ここにシワが寄ってるよ」
人差し指がそっと眉間を撫でた。
「まず少し落ち着こう。それから周りを見てごらん。すごくすてきだから」
これではどちらが年上かわからない。だが言われてみれば、せっかく屋上まで来たのに、確かに順にばかり気を取られていた。
千晶は目を閉じて、大きく息を吸ってみた。
「あ――」
改めて目を開けると、思わずため息が出た。メイプルパークビレッジで働き始めてしばらくたつのに、千晶がこの場所に来るのは初めてだったのだ。
金や銀の砂を撒き散らしたような夜景、屋上にいるとは思えない端整な池泉式回遊庭園――あちこちにハロウィン用の提灯が飾られ、遊歩道に囲まれた中央の池には、オレンジ色の光が揺れていた。
「ね、きれいだろう?」
「ええ、とても」
素直に頷いて、隣を見上げると、アンジェロは目元をなごませた。
「君のために、僕ができることはある?」
「ア、アンジェロ」
あまりに思いがけない申し出に、千晶は何度も目をしばたたく。彼が優しい人であることはわかっていたけれど――。
「どうしてそんなこと言うの?」
「どうしてって……放っておけないもの。千晶は仕事もがんばっているし、順のマンマじゃないのに、マンマに負けないくらい彼を大事にしてる。順を見ていれば、それがわかるよ。何か手伝いたいと思うのは当然だろう?」
アンジェロの視線はどこまでも真っ直ぐだ。しかしだからこそ千晶は受け止めきれなくなって、目を伏せた。
「大丈夫だよ。僕は平気だ」
「順ったら、もう」
パーティー会場を抜け出し、ショッピングモールの屋上庭園に来てみたものの、駄々をこねた順は数分もしないうちに寝入ってしまったのだ。今はアンジェロにおんぶされて、ぐっすり眠っている。
あいにく星はあまり見えなかったから、その方がかえってよかったのかもしれないけれど。
「アンジェロ、いろいろありがとう。でも順も眠っちゃったし、もう帰りましょう」
「いや、せっかくだから少しゆっくりしていこうよ。もし千晶がよければだけど」
「え、ええ。私は大丈夫だけど」
「残念だな。星はともかく夜景はきれいだから、順にも見せたかったんだ」
なりゆきとはいえ、彼にこんな真似をさせてしまい、千晶はどうにもいたたまれなかった。子どもをおんぶするなんて、きっと彼には初めての経験だろう。
けれど何度代わると言っても、アンジェロは笑いながら首を振る。
「兄のパトリッツィオの気持ちがよくわかったよ。僕も小さいころ、遊び疲れると、よくこんなふうに背負ってもらっていたから。子どもって、あったかいんだね」
「それは……そうね」
きらめくような演奏を聴いたばかりだからか、千晶はますます落ち着かなくなった。順のせいで、もしアンジェロが怪我でもしたらどうしたらいいのだろう?
すると、ふいにアンジェロが笑い出した。
「千晶、深呼吸して」
「えっ?」
「ここにシワが寄ってるよ」
人差し指がそっと眉間を撫でた。
「まず少し落ち着こう。それから周りを見てごらん。すごくすてきだから」
これではどちらが年上かわからない。だが言われてみれば、せっかく屋上まで来たのに、確かに順にばかり気を取られていた。
千晶は目を閉じて、大きく息を吸ってみた。
「あ――」
改めて目を開けると、思わずため息が出た。メイプルパークビレッジで働き始めてしばらくたつのに、千晶がこの場所に来るのは初めてだったのだ。
金や銀の砂を撒き散らしたような夜景、屋上にいるとは思えない端整な池泉式回遊庭園――あちこちにハロウィン用の提灯が飾られ、遊歩道に囲まれた中央の池には、オレンジ色の光が揺れていた。
「ね、きれいだろう?」
「ええ、とても」
素直に頷いて、隣を見上げると、アンジェロは目元をなごませた。
「君のために、僕ができることはある?」
「ア、アンジェロ」
あまりに思いがけない申し出に、千晶は何度も目をしばたたく。彼が優しい人であることはわかっていたけれど――。
「どうしてそんなこと言うの?」
「どうしてって……放っておけないもの。千晶は仕事もがんばっているし、順のマンマじゃないのに、マンマに負けないくらい彼を大事にしてる。順を見ていれば、それがわかるよ。何か手伝いたいと思うのは当然だろう?」
アンジェロの視線はどこまでも真っ直ぐだ。しかしだからこそ千晶は受け止めきれなくなって、目を伏せた。
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