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第7話 公衆浴場、営業開始!
トウジがギルドに来てから10日経った。全ての準備が整い、いよいよギルドの公衆浴場も開業だ。朝にガルードから冒険者やギルド職員に説明があり、掲示板にも公衆浴場の案内が貼り出された。『入湯料銅貨4枚、タオル貸出あり』『正午~ギルド閉館まで営業』『怪我や疲れに効く薬湯あります』等々、なるべく多くの人に利用してもらえるよう、試行錯誤しながら運営していく予定だ。
「――――すみません、少し遅れました」
ナタリーが公衆浴場に来ると、カウンターでトウジが「大丈夫ですよ」と手を振った。今日から数日間は公衆浴場の業務をトウジとナタリーの二人で手分けして業務を進める予定だ。
「どうです? 誰か来ましたか?」
そう尋ねると、トウジは首を振った。
「まだ誰も。たまにのぞいてくる人もいますけど、入ってこないです」
「やっぱり、公衆浴場に馴染みがないのに加えて、価格が安いのと薬湯が怪しいのとでさらに警戒されてるのかも」
「そこを突っ込まれると身も蓋もないですよ。何か方法はないですか?」
「こればっかりはどうしようも……。一応受付でも紹介しましたけど、反応は芳しくないです」
そう言ってナタリーははぁ、とため息をついた。彼女の有能ぶりには頭が下がる。自分も負けていられないと、トウジは顎に手を当てて考え込んだ。フスケでは管理人になる前から利用者がいて、そのほとんどが顔馴染みだった。人を呼ぶ方法なんて考えたことがない。改めて一から公衆浴場をスタートさせる難しさを思い知らされる。
ナタリーとあれやこれや対策を相談していると、入り口から人の気配がした。そちらを見ると、エヴァンがひらひらと手を振っていた。
「おうトウジ、調子はどうだ?」
「見ての通り、まだ誰も来てないですよ。なのでエヴァンが一番風呂ですね」
「そいつはいいや。早めに切り上げられて良かった」
「そういえばあんたにしちゃ早いわね。ようやく自己管理ってのを覚えたの?」
「おいおい、あまり意地の悪いこと言うなよ。せっかく客を連れてきてやったのに」
そう言って体をずらすと、三人の冒険者が並んでいた。彼らはFクラスの冒険者で、それぞれアルト、テレンス、ソフィーと名乗った。
「今日はこいつらの指導が仕事だったからな。ここで気分をさっぱりしつつ、親睦も深めようと思ってな」
「それはありがたいですが、ソフィーさんだけ仲間はずれになるのでは? 男湯と女湯で分かれてますし」
「あ……」
肝心なところでうっかりしているエヴァンだった。
「最高ですねぇ、このお風呂」
「そうねぇ……」
湯船に浸かりながらぐっと伸びをするソフィーの隣で、ナタリーはぼんやりと天井を眺めていた。女湯にソフィーひとりなのは少し寂しいだろうというトウジの気遣いから、ナタリーも一緒に入ることになったのだ。
「一緒に入ってくれてありがとうございます。おかげで寂しい思いをせずにすみました」
「いやいや。エヴァンの詰めの甘さが招いたことなので」
壁越しに男湯の賑やかな声が響く。それを聞きながらナタリーは呆れも混ざったため息をついた。
「温かいお湯に浸かるだけでこんなに気分がいいなんて初めて知りましたよ」
「お湯に浸かると体がリラックスした状態になって、緊張していた筋肉をほぐしてくれるのよ。それに血液や魔力の巡りも良くなって回復も早くなるの」
ちなみに、お風呂の効果についてはトウジさんからの受け売りだ。
「そうなんですね! どうりで体が軽いわけです」
そう言ってソフィーが体を動かすたびにチャプチャプと水音がたつ。
「先に隣の薬湯をどうぞ。今日の薬湯は打ち身や捻挫に効くわよ」
「ありがとうございます。ちょうど手首を痛めたんですよ」
そう言ってソフィーは立ち上がり薬湯に向かった。日々の依頼をこなす中で鍛えられた彼女の肉体は、同性のナタリーから見ても惚れ惚れするものだ。ふと湯船に浸かった自分の二の腕をつまんだ。……ダイエットを考える必要があるかもしれない。
「……ホントだ、痛みが引いていきますね」
「とはいっても、完治したわけじゃないから、あまり動かさないようにね」
「はーい。それにしても、ナタリーさんと裸の付き合いをしているなんて不思議な感じです」
「……言われてみれば、そうね」
冒険者と受付嬢をはじめとしたギルド職員はプライベートでの接点がないことが多い。お互い業務や依頼が忙しく時間が合わないのだ。ナタリーもソフィーや他の冒険者と受付で業務的な会話はするが、一緒にご飯を食べたりプライベートを過ごしたりすることはなかった。過去には冒険者と受付嬢のカップルが誕生していたそうだが、そのほとんどが生活のすれ違いで破局したと聞いている。
「でも、こうやって依頼抜きでおしゃべりするのは楽しいですね」
「……そうね」
なんとなく気恥ずかしくなったナタリーは、頬の熱さをごまかすように目の下まで潜った。
「……ぷはぁ、風呂上がりの一杯は最高だな」
エヴァンはトウジが持ってきた水を一息で飲み干した。カウンターの前は椅子やソファーを置いた休憩スペースになっており、エヴァン達は風呂上がりにここでくつろいでいた。その様子を見ながら、ナタリーもカウンターに座り水を飲んでいた。キンキンに冷えた水は、火照った体にはピッタリだった。
「冒険者やっててこんな良い気分になったのは初めてっす」
「これなら毎日入りに来てもいいくらいだもんな、しかもたった銅貨4枚で」
「それにあの薬湯、一時的にも体が楽になるのは助かるよね。これなら次の依頼も頑張れそう」
アルト達3人にも風呂は好評だったようだ。
「トウジさん、ナタリーさん。このお風呂のこと他の冒険者にも伝えるよ」
冒険者同士のネットワークは広く強い。もしかしたら今よりも宣伝の効果が出るかもしれない。ソフィーの言葉にトウジは「ありがとうございます」と答えた。
しばらく雑談をしていると、クララが現れた。公衆浴場の様子見がてら、仕事終わりに風呂に入りに来たのだろう。
「あら、随分賑やかね」
「皆さん風呂の気持ちよさを十分に堪能できたようで。ここのことを他の人にも伝えてくれるそうです」
「そう、それなら良かったわ。ところでエヴァン、依頼完了を伝えたのかしら?」
クララがそう言うと、エヴァンは「あ、忘れてた」とアルト達を連れて慌てて出て行った。最後までうっかりしているエヴァンだった。
「何はともあれ、公衆浴場の滑り出しは決して悪くはないですよね、ナタリー」
「……そうですね」
表情には出さないが、公衆浴場のこれからに期待を持てると感じたナタリーだった。
「――――すみません、少し遅れました」
ナタリーが公衆浴場に来ると、カウンターでトウジが「大丈夫ですよ」と手を振った。今日から数日間は公衆浴場の業務をトウジとナタリーの二人で手分けして業務を進める予定だ。
「どうです? 誰か来ましたか?」
そう尋ねると、トウジは首を振った。
「まだ誰も。たまにのぞいてくる人もいますけど、入ってこないです」
「やっぱり、公衆浴場に馴染みがないのに加えて、価格が安いのと薬湯が怪しいのとでさらに警戒されてるのかも」
「そこを突っ込まれると身も蓋もないですよ。何か方法はないですか?」
「こればっかりはどうしようも……。一応受付でも紹介しましたけど、反応は芳しくないです」
そう言ってナタリーははぁ、とため息をついた。彼女の有能ぶりには頭が下がる。自分も負けていられないと、トウジは顎に手を当てて考え込んだ。フスケでは管理人になる前から利用者がいて、そのほとんどが顔馴染みだった。人を呼ぶ方法なんて考えたことがない。改めて一から公衆浴場をスタートさせる難しさを思い知らされる。
ナタリーとあれやこれや対策を相談していると、入り口から人の気配がした。そちらを見ると、エヴァンがひらひらと手を振っていた。
「おうトウジ、調子はどうだ?」
「見ての通り、まだ誰も来てないですよ。なのでエヴァンが一番風呂ですね」
「そいつはいいや。早めに切り上げられて良かった」
「そういえばあんたにしちゃ早いわね。ようやく自己管理ってのを覚えたの?」
「おいおい、あまり意地の悪いこと言うなよ。せっかく客を連れてきてやったのに」
そう言って体をずらすと、三人の冒険者が並んでいた。彼らはFクラスの冒険者で、それぞれアルト、テレンス、ソフィーと名乗った。
「今日はこいつらの指導が仕事だったからな。ここで気分をさっぱりしつつ、親睦も深めようと思ってな」
「それはありがたいですが、ソフィーさんだけ仲間はずれになるのでは? 男湯と女湯で分かれてますし」
「あ……」
肝心なところでうっかりしているエヴァンだった。
「最高ですねぇ、このお風呂」
「そうねぇ……」
湯船に浸かりながらぐっと伸びをするソフィーの隣で、ナタリーはぼんやりと天井を眺めていた。女湯にソフィーひとりなのは少し寂しいだろうというトウジの気遣いから、ナタリーも一緒に入ることになったのだ。
「一緒に入ってくれてありがとうございます。おかげで寂しい思いをせずにすみました」
「いやいや。エヴァンの詰めの甘さが招いたことなので」
壁越しに男湯の賑やかな声が響く。それを聞きながらナタリーは呆れも混ざったため息をついた。
「温かいお湯に浸かるだけでこんなに気分がいいなんて初めて知りましたよ」
「お湯に浸かると体がリラックスした状態になって、緊張していた筋肉をほぐしてくれるのよ。それに血液や魔力の巡りも良くなって回復も早くなるの」
ちなみに、お風呂の効果についてはトウジさんからの受け売りだ。
「そうなんですね! どうりで体が軽いわけです」
そう言ってソフィーが体を動かすたびにチャプチャプと水音がたつ。
「先に隣の薬湯をどうぞ。今日の薬湯は打ち身や捻挫に効くわよ」
「ありがとうございます。ちょうど手首を痛めたんですよ」
そう言ってソフィーは立ち上がり薬湯に向かった。日々の依頼をこなす中で鍛えられた彼女の肉体は、同性のナタリーから見ても惚れ惚れするものだ。ふと湯船に浸かった自分の二の腕をつまんだ。……ダイエットを考える必要があるかもしれない。
「……ホントだ、痛みが引いていきますね」
「とはいっても、完治したわけじゃないから、あまり動かさないようにね」
「はーい。それにしても、ナタリーさんと裸の付き合いをしているなんて不思議な感じです」
「……言われてみれば、そうね」
冒険者と受付嬢をはじめとしたギルド職員はプライベートでの接点がないことが多い。お互い業務や依頼が忙しく時間が合わないのだ。ナタリーもソフィーや他の冒険者と受付で業務的な会話はするが、一緒にご飯を食べたりプライベートを過ごしたりすることはなかった。過去には冒険者と受付嬢のカップルが誕生していたそうだが、そのほとんどが生活のすれ違いで破局したと聞いている。
「でも、こうやって依頼抜きでおしゃべりするのは楽しいですね」
「……そうね」
なんとなく気恥ずかしくなったナタリーは、頬の熱さをごまかすように目の下まで潜った。
「……ぷはぁ、風呂上がりの一杯は最高だな」
エヴァンはトウジが持ってきた水を一息で飲み干した。カウンターの前は椅子やソファーを置いた休憩スペースになっており、エヴァン達は風呂上がりにここでくつろいでいた。その様子を見ながら、ナタリーもカウンターに座り水を飲んでいた。キンキンに冷えた水は、火照った体にはピッタリだった。
「冒険者やっててこんな良い気分になったのは初めてっす」
「これなら毎日入りに来てもいいくらいだもんな、しかもたった銅貨4枚で」
「それにあの薬湯、一時的にも体が楽になるのは助かるよね。これなら次の依頼も頑張れそう」
アルト達3人にも風呂は好評だったようだ。
「トウジさん、ナタリーさん。このお風呂のこと他の冒険者にも伝えるよ」
冒険者同士のネットワークは広く強い。もしかしたら今よりも宣伝の効果が出るかもしれない。ソフィーの言葉にトウジは「ありがとうございます」と答えた。
しばらく雑談をしていると、クララが現れた。公衆浴場の様子見がてら、仕事終わりに風呂に入りに来たのだろう。
「あら、随分賑やかね」
「皆さん風呂の気持ちよさを十分に堪能できたようで。ここのことを他の人にも伝えてくれるそうです」
「そう、それなら良かったわ。ところでエヴァン、依頼完了を伝えたのかしら?」
クララがそう言うと、エヴァンは「あ、忘れてた」とアルト達を連れて慌てて出て行った。最後までうっかりしているエヴァンだった。
「何はともあれ、公衆浴場の滑り出しは決して悪くはないですよね、ナタリー」
「……そうですね」
表情には出さないが、公衆浴場のこれからに期待を持てると感じたナタリーだった。
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