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第14話 向上心と一抹の不安

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「ですから、失格です。始めにルール説明したでしょ。聞いてなかったの?」
「ルールって…え?」

 私の困惑の表情を見て、教員が呆れた表情でため息をついた。

「ルールはしっかり守らないとダメだろ、クリス」

 そこにルークが割って入って来た。
 横には、ジュリルが一歩下がって立っていた。

「全く貴方は、教員の話も聞けないの? それにモラン、貴方も聞いていなかったの?」
「っ…す、すいません、ジュリルさん」

 ジュリルの注意に、モランは少し縮こまった。
 そして教員に失格の理由を改めて説明された。
 それは、魔法の使用だった。
 今回の競技では、魔法使用は危険があるので禁止と初めの方で注意していたらしい。
 私はそれを全く聞いておらず、一般的なスピード勝負の競技通りのルールで行っていた。

 何故話を聞いていなかったというと、モランの魔力についてずっと私が話していたからだった。
 完全に自業自得の結果だったが、そんなに悪い気分ではなかった。
 モラン自身により長けている魔力素質を気付かせることが出来、更にはこの先の可能性が大きく広がったからだ。
 そして一番は、ルークの少し驚いた顔を見れたことだ。

 まぁ、何に驚いたのかは分からないけど、あの澄ました顔を一瞬でも崩せたのがここ最近の事を考えると、私にとって少しスッキリした事だからだ。
 その後、ルークに少し笑われジュリルには呆れられた表情をされたまま、元いた場所へとモランと一緒に戻った。

「まさか、話を聞いていないばっかりに失格になるとは…」
「話を聞いてなかったのは、私も一緒だよ」

 モランは私が落ち込んでいると思ったのか、直ぐにフォローをしてくれた。
 その優しさに私は、グッと来てしまい勢い余って軽く抱きしめてしまう。

「えっ…」

 その時私は、咄嗟に今は同性じゃないと気付き、すぐさま離れた。

「ご、ごめん。なんていい子なんだろって思ったら、体が勝手にね…急に抱き着いたりして、本当にごめん! …忘れて」
「え、あっ…う、うん…」

 モランはそのまま俯いてしまった。
 あー、また変な事をしてしまった! そうだよな、急に男に抱き着かれたら怖くなるし、そんな反応になるよね。
 全く何してんだよ私! 少しは男子としての意識を持て!
 ……いや、さすがにそれはどうなんだ…
 私は一人でそんな事を悶々と考えていると、トウマが近くにやって来た。

「おいおい、見てたぞ。何やってんだよ、クリス。話ぐらいは聞いておうぜ」
「そうだよな。ちょっと夢中で話してたら、聞き逃してたんだよ」
「なんだよそれ。って、まさか、それほどにペアの女の子に惚れちまったってことか!?」
「いや、そうじゃなくて」

 すると、私とトウマが話している事に気付き、モランが顔を上げてトウマの顔を見た瞬間だった。

「あっ!」
「?」

 突然上げた声に、私はモランの方を向くが、すぐに両手を振って何でもないと言うが、さっきの声は何かに気付いた感じだったので問い詰めた。
 すると、モランが去年の合同授業で一緒になったが全く話せなかった男子がトウマだったらしく、突然その人がいたので驚いたらしい。
 そのまま、私は気にしてたことを言うチャンスだと背中を押した。
 そして、モランはトウマに去年の合同授業で話せなかった事を謝った。

 トウマはそんな事気にしなくていいよと笑顔で答えると、謝る姿より親睦を深めようぜと言って、グイグイとモランに話し掛けていた。
 モランも初めは戸惑っていたが、トウマとも話せて、初め会った時よりかは少しは気持ちが楽になったんじゃないかと私は思った。
 そして、あっという間に交流授業も終了し、数日が過ぎた。

 交流授業が終わってから、モランとは大図書館で会ったり話したりと交流が増えた。
 その事に何故かクラスメイトたちからは、少し妬まし目で見られた。
 こっそりとシンリに訊ねると、交流授業が終わって女子生徒と交流が続いているのは数名しかいないので、羨ましがっているんだと言われた。

 ちなみに、私以外に交流が続いて至るのは、ガウェン・ノルマ・アルジュの3人らしい。
 ルークは少し違うので、カウントしていないらしい。
 そして私は、二代目月の魔女のジュリルの実力を見て以来、よく訓練場で魔力の自主練習を行う様になった。
 あんなものを見せつけられ、ただ黙ってこのまま後ろ姿を見ているのは、性に合わないと感じたからだ。
 そもそも、私の目標は昔憧れた月の魔女なのだから、こんな所で立ち止まっていられない。
 必ずジュリルよりも、学力も魔力も勝って、私が二代目月の魔女になってやるという気持ちで日々を過ごした。

 そんな私を陰から見ていたのは、ルークであった。
 ルークは、あれ以来ちょっかいを掛ける回数は減っていたので、私としては気が少し楽になっていた。
 ある日の夕方、ルークは学院の共有スペースにて誰かを待っていた。

「あっ、ルーク様。お待たせしてしまい、すいません」

 そこへやって来たのは、ジュリルであった。
 ジュリルとしては、ルークに呼び出されるのは初めてで、嬉しい気持ち半面、どうして呼び出されたのかと緊張していた。
 ジュリルの中では、もしかして告白かしらと前日から妄想をしながら、身だしなみを整えてルークの元へとやって来ていた。
 するとルークはそんなに待っていないと、ジュリルに優しく答えると呼び出した要件を話した。

「先日の合同授業での、競技についてですか?」
「あぁ、相手のペアは失格だったが、もし一般のルールだったらどうなっていたかをジュリルに聞きたいんだ」
「そうですわね…仮に一般ルールでもあったとしても、私たちの勝ちは変わらなかったと思いますわ…ただ」
「ただ?」
「いえ、あの時の戦術には驚きましたが、魔力制御の実力不足に初手の魔力創造の差でしかあの時はありませんでしたので、もし力を付けた際に再戦したら、結果は分からないかもしれないと、思ってしまいまして」
「そうか。お前もそんな事をよぎったか」
「でもルーク様、何故今頃そんな事をお聞きになるのですか? 何か気になる事でもあるのですか?」
「なに、ふとジュリルがあの時感じた事を、聞いておきたいと思ってな。後、お前から見てクリスはどう見えた?」
「クリスって、あの転入生ですね。そうですね、まだ荒削りな感じはしましたが、学び方次第で伸びそうな感じはしましたね。ほんの少ししか見ていないので、確証はありませんが」
「そうか。二代目月の魔女と呼ばれるお前が言うのだから、そうなんだろうな。今日はいきなり呼び出したりして、すまなったな」

 そう言ってルークは、ジュリルに別れを告げ寮へと戻り始める。
 するとジュリルが、ルークの足を止める言葉を発した。

「そう言えば、ルーク様は同時魔力発動と融合の研究をされているとお聞きしましたが、私がお力になれる事はあったりしませんか?」
「どこでその事を?」
「えっ…それは、噂でお聞きしまして…」

 ジュリルは少し怯えながら答えた。

「そうか。申し出はありがたいが、これは俺の研究だから特に手伝って欲しいことはない」
「そうですか…出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありません。そう言えば、過去の記録を見ていた際にルーク様のお兄様が過去に、魔力融合をさせたと言う記録があったのですが、本当でしょうか?」
「っ!? また兄貴かよ……さぁな、俺は知らないな。兄貴が帰ってきたら直接聞いたらどうだ」

 ルークはあからさまに不機嫌になり、その場から立ち去った。
 その姿を見たジュリルは、両手で顔を隠し落ち込んでいた。

「あ~私は何か言ってはいけない事を、言ってしまったのでしょうか…はぁ~帰ったら相談してみようかしら」

 ジュリルはとぼとぼと自分の寮へと帰って行った。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 学院が休日のある日、私はトウマに呼び出され、リビング兼食堂に行くと皆も集まっていた。
 するとトウマとライラックが土台の上に乗り高らかに声を上げた。

「お前ら、そろそろあの時期という事を忘れていないだろうか!」
「そう、あの天国でもあり地獄のイベントを!」

 そんな事に全く思い当たる節がない私は、両腕を組んで首を傾げた。
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