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始まりはバナナ

07 ティーセットは二人前

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程なくしてバハナさんが二人分の紅茶と一人分の茶菓子を運んできた。

「あらバハナ、ダイエット中?」
「そんな事はございませんが…」
「なら、お茶菓子も二人分でお願い。
一人で食べても味気ないもの。二人で美味しく頂きましょう?」

天然ポイントは忘れない。
これだいじ。
バハナ君、君はこれから大切な協力者になって貰わねば困るのだよ。
甘味は高級品と相場は決まっている。
茶菓子ひとつで事が楽に運ぶのであればいくらでも与えよう。
なんて黒いことを考えている表情は見せずに、ただ不思議そうにきょとんと見つめる。
もちろん首をかしげて人差し指は顎の下へ。

「は、はい。かしこまりました。」

若干頬を染めながら急いで支度をするバハナさん。

テーブルには茶菓子も紅茶も二人分。
「ご用意が整いました。」
「さあ、頂きましょう?
私、バハナに相談したい事があるの…」
「ええ、お嬢様また・・ですか?」

そう。また・・なのである。
今まで、注意された事などを嫌がらせと感じてバハナさんに相談という名の愚痴を吐く事があった。教科書をダメにされたとか、私物が無くなったなどもあったが…その度に怒ったり同情してくれていたのだが、お茶に誘ったのは初めてである。

「今度は少し違うの。
私、頭を打ったせいかなんだか記憶が曖昧で…バハナの事は分かけど…その、忘れてちゃったことが沢山あるみたい。だから、私が困っているときに助けて欲しいの。」

紅茶を見つめながら、悲しげな表情をつくる。
てか、助けて欲しいので自然と表情も悲しくなった。

「お嬢様、それは大変な事です!直ぐにお医者様を…「呼ばなくて大丈夫!」しかし…」
「いいの!もし心配なら明日にしてほしいな…」
「かしこまりました。しかし、異常を感じたら直ぐにお呼びくださいね?」
「うん、ありがとう!」

ほっとして顔を見上げてそっと手を取る。
「いいえ、お嬢様のご希望ですもの!
いくらでも協力致します!
それにしても、ずいぶん落ち着かれているような…」
「うん、ゆっくり沢山休んだせいか、色々と考えられて…私、男爵家に引き取られてからあまりゆっくりする時間がなかったじゃない?だから、何というか、落ち着いて考える事が無かったのよね…」

コレは事実。
引き取られて直ぐに勉強して入学試験。
試験が終わったら貴族としての最低限の知識やマナーを仕込まれていた。(ただ、嫌なものは結構さぼっていた。その中にかなり重要な貴族の基本知識があったのは痛いわ…)

「お嬢様、こう言っては失礼ですが、その…お嬢様はかなり活動的でいらっしゃいましたが、今のお嬢様を見るとそのような感じが無くて、大変よろしいかと感じます。」

「ありがとうバハナ。これからも頑張るわ!
それと、折角お屋敷で学んだことなのにクラスメイトたちのおうちの事とかが全然分からなくなっちゃったの。何か資料があれば持ってきて欲しいな!」

「まぁ、それは大変でございます。貴族名鑑であれば控室にございますので、早速お持ち致します。」
「ありがとう、助かる!」

紅茶で潤して茶菓子を食べる。
うん。やっぱり美味しい。

そして、早歩きで大きな辞書のような貴族名鑑をもって部屋に帰ってくるバハナさん…
って足元にバナナぁ!

見事に踏み抜いてバナナの皮が飛ぶ。
flying banana再び。
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