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第134話オークション2
しおりを挟む『ムーン・今日はどこに行くの?』
「…この辺りが目的地だ。ここにデカイ鹿がいる。」
ムーンとナイトは森の中にいる。しかしこの森は他の森とは大きく違う。ナイトの隣にある木はこれでもかというほどデカイ。高さは100mほどはありそうだ。その太さといったらいったい何百人で手を繋げば一周囲めるのだろう。
『ムーン・それにしてもここの木はおっきいね。どうしてこんなに大きいんだろ?』
「この下には龍脈がある。その龍脈が部分的に漏れ出しているんだ。その影響でこれだけ木々が大きくなる。…この木はいるか?」
『ムーン・欲しい!』
「そうか、では後で拾い集めよう。来るぞ。」
ナイトが警戒した先から来たのは巨大なツノを持った鹿だ。その体高はゆうに20mはあるだろう。すでにこちらに気がついており、警戒態勢に入っている。いや、この体勢は…戦闘体勢だ。
一目散にこちらに駆け寄って来る鹿をナイトは瞬時に躱す。するとその鹿はナイトが避けたことに気がつかずそのまま木々に突進していった。木に頭をぶつけて終わりかとムーンが期待するといともたやすく木々をなぎ倒していった。
『ムーン・…あの木って脆いの?』
「いや、鉄の斧でも傷一つつかない。」
その鹿は躱したナイトに気がついて再びこちらを向いた。そしてその鹿はこちらを睨みつけながら発光し始めた。それを確認したナイトは急いで上空へ飛び上がる。ナイトの跳躍はゆうに100mを越し、森を上空から眺める構図になった。
森を見ると先ほどあの鹿がなぎ倒した木々のせいで一箇所だけ森に穴が空いている。あそこに鹿がいるのだと判断した次の瞬間、森が襲いかかって来た。木々がナイトめがけて飛び上がって来たのだ。いや、違う。木々は全て折られている。森をよく見ると一直線に木々のない場所が出来上がっている。
「奴の高速移動だ。発光すると高速で移動する。昔当たって酷い目にあった。」
『ムーン・…よく生きていたね。』
なぎ倒された木々の先を見ると茶色い物体が見える。あれが先ほどの鹿だ。よく見えないがまた発光したように見える。そして次の瞬間、いきなり目の前に現れたではないか。一瞬、目の前で止まったのかとムーンは思ったのだがそうではない。ナイトがツノを掴んでそのまま移動したのだ。
やがて鹿の動きが止まるとナイトは行動に移す。こんな大空に飛び上がった鹿は身動きが取れない。それはもちろんナイトもだと思ったのだが、ナイトは魔力で足場を作りそのまま鹿を地上へ叩きつける。凄まじい地響きと噴煙を巻き上げるがそこで終わらない。ナイトはさらに足場を形成して鹿目掛けて突進する。
その威力は凄まじく、先ほどよりもさらに大きい地響きと噴煙を巻き上げる。ナイトの攻撃は鹿の首に直撃したのでこれで完全決着、と思いきや鹿の方が暴れまわった。まだ息のある鹿からすぐに離れたナイトは警戒を怠らない。
起き上がった鹿にはまだ余裕がありそうだ。立ち上がってこちらを睨みつける。しかしナイトは見抜いていた。あの鹿は動かない、先ほどの首への一撃が効いている。そこからナイトの鹿の首への執拗なまでの集中攻撃が始まり、やがて決着が訪れた。
『ムーン・おめでとう。それにしてもすごい鹿だね。』
「ああ、こいつは定期的に現れる。そして何百という木の皮を食べて枯らす。今回の木々への被害がこんなものでよかった。」
この鹿はでかいだけあって食害が半端ないようだ。それこそ誰も倒さずにこの鹿が2匹や3匹に増えたらこの巨大な森は無くなってしまうだろう。ナイトが倒すことによって森の生態系が守られるのだ。
「この森は本来危険なモンスターが少ない。だから動物たちが多く住む場所だ。これでしばらくは動物たちも静かに暮らせるだろう。」
FIN
「ということでいかがでしたでしょうか。以上が紹介映像になります。そしてこれから出品するのは先ほどの鹿の角一本でございます。なんとか会場に入れることができましたが、持ち帰りの際には切断することをお勧めいたします。」
「ま、待て待て。今のは本物か?というかそのツノも…まさか本物のケリュネイア?…本来は9大ダンジョンの一つ、巨大のヨトゥンヘイムのモンスターだぞ。数年に一度自然発生するとは聞いていたが…S級上位モンスターだぞ。それをいともたやすく…」
そんな名前なのか。びっくりさせたくてこっそり調べていたんだけどわからないから鹿って言っていたんだよな。それにしてもよくできた映像だ。ムーンの眷属を周囲に散会させて記録させたのが上手くいっている。
それにしても今の映像はかなりの好感触だったぞ。それにあのケリュ…鹿が急に間近に現れた時の悲鳴といったら最高だね。最後の首への連打の時の歓声も最高だ。それにナイトの戦いは出血が少ないので、そういったものが苦手な人でもなんとか見ることができるだろう。
それに最後のセリフが効いたな。完璧に締めてくれたよ。ナイトは無口だからどうしようかと思っていたけど、ムーンと2人の時は割と饒舌だ。いい感じにセリフっぽくなったからバッチリと決まったシーンで固定して撮ってやったぜ。
そしてオークションが始まるとその値段は一気に上がっていく。先ほどの金貨2万なんてもう目じゃない。金貨数百万規模だ。やがて1人の男が苦しそうな表情をしながら値段を告げるともうそれ以上は誰も声を出さなかった。
「…それではよろしいですね?では23番の方が金貨1100万枚で落札です!おめでとうございます。」
「よ、よし…よしよしよし!!大丈夫だ。これなら加工してやれば欲しがる人間は山ほどいる。大丈夫…大丈夫…」
本当に大丈夫か?まあ加工すれば確かに欲しがる人間は多いだろう。だからこそ片方はとっておいたんだけどね。まあ他にも出品物はあるから問題はない。しかし価値が高すぎると売るのは大変だな。こういった場じゃないと売るのは難しそうだ。
さらにその後、鹿の毛皮を8m四方にし、鞣したものを販売してやるとこちらは金貨760万枚で売れた。しかしまだまだこれからだ。まだやばそうな素材はいくらでもあるのだから。
その後も続くオークションで価値のあるものがバンバン出てきすぎて、金銭感覚がどんどん狂ってくる。俺も訳も分からずどんどん売っていくと、リカルドからストップの合図がかかる。俺も我に返って終了の合図を出す。
「え~本日の商品はこれにて終了です。皆さま、ありがとうございました。それでは最後に現評議員でもあり、今回のパーティーの主催者でもあるリカルド様。一言お願いいたします。」
「ああ、ありがとうミチナガくん。まずは今回のオークションで素晴らしい商品を提供してくれた彼にもう一度大きな拍手をお願いしたい。」
万雷の歓声と拍手が上がる。俺はそれに応えるように頭を下げるとリカルドが真横まで近づいてきた。そして俺と握手を交わす。やがてもう一度静かになったところでリカルドは話し始めた。
「本当に素晴らしい夜だ。皆散財しすぎて後で泣かないように注意してほしい。私も一品買ってしまったから泣きそうだ。…さて、ここで皆に聞きたい。今回の彼のこの国への貢献は素晴らしいものではないか?我々は今買ったもので各々が何かを成せるはずだ。どうだろうか。彼をこの国の貴族として迎え入れる気はないかな?すでに書類は出来上がっている。」
俺はリカルドの言っていることが分からずにいると何人も賛成の意見として拍手が送られてきた。次第に歓声もあがり、かなり歓迎されているムードになってきた。
「それではミチナガくん。君を我が国の貴族として迎え入れたい。貴族位は子爵を授ける。受けてくれるね?」
「え…えっと…大丈夫なんですか?俺ブラント国で…」
「その辺りは問題ない。後で話そう。」
な、なんかよく分からないけど問題ないのなら子爵になるからまあいいだろう。俺はそれを受けるとさらに盛り上がりが増した。
ここにユグドラシル国ミチナガ子爵の誕生だ。リカルドからその場で貴族としての勲章を受け取る。だけど本当に問題ないんだよな?本当に大丈夫なんだよな?かなり不安だが、リカルドは平気と言ってくれたんだ。だからきっと大丈夫なはずだ。
「さて、これにてオークションは終了、叙勲も終了だ。後はゆっくり食事でもするところだが…皆今のオークションで疲れ果てている。ここでしばらくゆっくりしよう。どうだろうか、先ほどの映像の他に何か面白い映像はあるかね?」
「ゆったりと見ることのできるものを用意しましょう。すぐに準備します。」
しかしゆったり観られるものってなんだろうな。他の国の映像でも流すか?だけどこう言った場だとなぁ…。なんかいいやつは…あ、これで良いか。俺は今決めた映像を流す。俺は壇上で見ようかと思ったらリカルドが席を一つ用意してくれた。おまけに食事まであるではないか。結構お腹が減っているからありがたい。
俺が選んだ映像が流れ出す。それはアンドリュー子爵による釣り動画だ。のんびりと観られるものが良いと思ってこれにしたんだけど、今思ったらこれ結構好き嫌い別れるからイマイチじゃね?まあ流してしまったものは仕方ないか。
内容はアンドリュー子爵が凍った湖で雪魚と呼ばれる魚を釣るところだ。この魚はいくつか在庫があったので前に食べた。完全にワカサギを想像していたら、確かにワカサギに似ているところもあるが、この雪魚は身がまるで雪のように溶けるほど柔らかく、最高に美味かった。
1本目の映像が終わると次のミロップと呼ばれる魚を釣るものに移行された。もう映像選択は使い魔達が勝手にやっているな。周りを見てみると反応はまちまちのようだ。まあ軽食を取りながらゆったりとするための映像なのでこのくらいの反応で良いか。
やがて映像も終わり、ディナー会場へ移動する。そこでも俺を子爵に加入したことを祝いながら、リカルドの復帰も祝うというなんだか色々と混ざってしまったパーティーになった。まあしかしなんとも楽しい1日になった。
そして俺はずっと気にしないように考えているのだがやはり頭をちらつく。まあそれも仕方ないだろう。なんせ今日のオークションだけで金貨1億枚は稼げているという確信があるのだから。
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