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第339話 至るためには
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「ついに戻ってきたか。はぁ…長かった。」
駅前に出たミチナガは辺りを見回す。懐かしい景色、と思いきやここの駅に来るのは初めてだ。ここは英雄の国の中心国を取り囲む12英雄の自治する国で、ミチナガがいるのは南西側にある斧の駅の前である。
このまま中心国の駅まで行く予定も考えたが、パレードを長めに行いたいという理由からこの街に泊まることが決められた。パレードを行うのは明後日。今日明日はパレードまでの休息と準備である。
ひとまず一行は泊まる予定のホテルへ向かう。向かったホテルは貴族向けの高級ホテルだ。しかも世界貴族、つまり魔神に認められたものしか泊まることのできない世界有数の超高級ホテルだ。警備体制、サービスともに超一流である。
そんな超高級ホテルを3日間貸し切って使用する。誰もが羨む贅沢だろう。そんな超高級ホテルの前には何やら人だかりができている。どうやらミチナガたちの前に来訪者がいるようだ。ミチナガは一体誰が来ているのか、そこにある紋章から判断する。そしてすぐに誰かわかったミチナガは急いでその誰かに会いに行く。
「おーい!アンドリューさーん!」
「おお!先生ではないですか!ちょっとそこを開けて!」
釣り人を守るように取り囲む枝葉の紋章。アンドリュー自然保護連合同盟で使用される紋章。その中でも釣り人が魚を釣り上げている模様は連合同盟の長であるアンドリューしか使用できない。ミチナガとアンドリューは互いに駆け寄り抱擁を交わす。
「元気そうで何よりです。少し筋肉質になりましたか?」
「毎日釣りばかりしておりますから。先生も…まるで見違えておりますな。今到着されたのですか?」
「ええ、今まさに。いやぁ…互いに話したいこともあると思うので、とりあえずチェックイン済ませましょうか。」
ミチナガとアンドリューは互いに、はやる気持ちを抑えて準備を済ませる。それから1時間後、早めの夕食ということで場を設けた。その場にいるのはミチナガ、アンドリュー、リッキーくん、それにそれぞれの護衛である。
他にも誰か到着するようならそれまで夕食は待っても良かったのだが、残りの到着は明日になるとのことなので今日はこのまま食事を始める。しかしこれだけの3人が揃ったのだから大きな円卓で食事するかと思いきや、手を伸ばせば届くほどの距離しかない小さなテーブルで食事が行われる。
「それじゃあ…本番はみんなが揃う明日だから今日は前祝いということで。久しぶりの再会と、初めましてに乾杯!」
「「乾杯!」」
注がれた酒を飲み干す3人。リッキーくんに関してはどうやって飲むのか疑問なのだが、コップの酒は空になっていた。そしてすぐに会話を始める前にアンドリューとリッキーくんの自己紹介をミチナガが行う。
「まあ映像とかで知ってはいると思うけどこちらはアンドリューさん。俺がこの世界で初めてお世話になった貴族。釣り好きで人の良い、面白い人。それでこっちはリッキーくん。VMTランドの創設者であり、VMTキャラの生みの親。正体は不明、ということでやっているけど後でアンドリューさんにだけはちゃんとお教えします。いいよね?」
「もちろん!ハハッ!よろしくねアンドリュー!」
「よろしくお願いしますリッキーくん。いやぁ…しかしまさかリッキーくんに会えるとは。作品も拝見させていただきました。実に良かったです。特にお気に入りはディーディーくんです。釣り好きという点で親近感が湧きまして。」
アンドリューはポケットからキーホルダーを取り出す。それは限定品のディーディーくんキーホルダーだ。カモメをモチーフにした可愛らしい姿にアンドリューは笑みがこぼれる。それを見たリッキーくんは嬉しそうにディーディーくんの誕生秘話を語った。
そこからアンドリューとリッキーくんは距離を縮める。二人が仲良くなれるか若干の不安があったミチナガであったが杞憂に終わった。そして話は背後に控える護衛の話に変わった。
「先生のところの護衛は先生が建国したというセキヤ国の騎士ですか?なんとも素晴らしいですな。」
「ええ、頼りになりますよ。少々心配性なところもありますけどね。そういうアンドリューさんもこれまた随分と…かなりの手練れですね。」
「英雄の国に向かうといったらいくつかの国が兵を貸してくれたんです。ああ、本当はミラルたちも連れてきたかったのですが、一度村に戻りたいと言いまして…」
「里帰りですか。ミラルたちにも会いたかったんだけどなぁ…というか本来は俺の護衛だし。ミラルたちが俺の護衛務めた期間ってすごい短いんですよね。歴代最短かも…そういやリッキーくんのとこは…護衛というよりもランドの柱となる幹部だよね?」
「ハハッ!実力は十分だよ!どうしてそう思うんだい?」
確かにリッキーくんの背後に控えているのはなかなかの手練れだ。魔王クラスは十分あるだろう。しかしそれ以上にランドの運営としての手腕を買って雇っているというのが事実だ。それに先ほどからアンドリューの背後に控える護衛たちがリッキーくんから目を離せずにいる。
「まあうん…そうだね。ほら、リッキーくんなら悪い奴もリッキーくんパンチで一撃でしょ。」
ミチナガの言葉に頷く護衛一同。リッキーくん本人はそんなことはないと否定しているがまぎれもない事実だ。リッキーくんがなんとか抑え込んでいる強者のオーラは隠しきれていないようだ。
その後も食事会が続くと、よほど楽しかったのかアンドリューは酔いつぶれて眠ってしまった。これ以上は続けるのは難しいのでここでお開きとなった。運ばれていくアンドリューを見ながらミチナガは水を一杯飲んでいるとアンドリューの後ろ姿を見たリッキーくんが思わずクスリと笑った。
「よもや…あのような男がいるとは…」
「ん?アンドリューさんかい?」
「ええ。これまで数多くのものたちと出会ってきました。英雄と呼ばれていたものたちにも多く出会い、戦いました。しかしこんな男に出会ったことはない。戦いになれば殺すことなど容易い。そんな戦う力のない男に…気圧された。戦ってはいけないと感じさせられた。こんなことは初めてです。」
ミチナガはその言葉に驚いた。リッキーくんこと、かつて魔神にもなったヴァルドールにここまで言わせるほどの存在にアンドリューはなった。なんという化け具合。そんなことを聞いたミチナガは少し気になった。
「ちなみに…俺はどう?」
「そうですね…現段階で言えばアンドリューの方が恐ろしく感じます。」
「そ、そっか…俺はまだまだか……俺もそろそろ休むか。」
トボトボと部屋に帰るミチナガ。やはり色々やってはいるのだが、それに自身が伴っていない。自信を失うミチナガの後ろ姿を見つめるヴァルドール。その瞳にはミチナガのオーラが見えていた。まばゆい輝きを見せるミチナガのオーラは何か硬い殻のようなもので覆われている。
「現段階ではアンドリューの方が恐ろしい。だが我が王よ。あなたのその殻が破れることがあったら……あなたはかつての黒騎士を超えるほど恐ろしい。それほど強大なる王がこの世界に生まれることでしょう。」
ヴァルドールは小さな声でそう呟いた。ヴァルドールはこれまでの人生で何度かその殻を見たことがある。その殻があったものは、その殻を破ってきたものはことごとく英雄などと呼ばれてきた。
その殻が硬ければ硬いほど殻が破れた時に強大な力を発した。しかし硬ければ硬いほどそのまま殻が破れず、才能が開花することなく死んでいく。かつての勇者王もその一人だ。ヴァルドールの知っている勇者王はその殻を破ることができず、生きているうちは正当な評価をもらえなかった。
その殻を破る方法は人によって違う。戦いの窮地の中で破る者もいれば、人と出会うことで破るものもいる。そして死したのちに破れるものも。
「我が王よ。その答えは他の誰も知りません。あなた自身が求めなくてはならないのです。そしてきっとあなたならば…偉大な王になることでしょう。」
駅前に出たミチナガは辺りを見回す。懐かしい景色、と思いきやここの駅に来るのは初めてだ。ここは英雄の国の中心国を取り囲む12英雄の自治する国で、ミチナガがいるのは南西側にある斧の駅の前である。
このまま中心国の駅まで行く予定も考えたが、パレードを長めに行いたいという理由からこの街に泊まることが決められた。パレードを行うのは明後日。今日明日はパレードまでの休息と準備である。
ひとまず一行は泊まる予定のホテルへ向かう。向かったホテルは貴族向けの高級ホテルだ。しかも世界貴族、つまり魔神に認められたものしか泊まることのできない世界有数の超高級ホテルだ。警備体制、サービスともに超一流である。
そんな超高級ホテルを3日間貸し切って使用する。誰もが羨む贅沢だろう。そんな超高級ホテルの前には何やら人だかりができている。どうやらミチナガたちの前に来訪者がいるようだ。ミチナガは一体誰が来ているのか、そこにある紋章から判断する。そしてすぐに誰かわかったミチナガは急いでその誰かに会いに行く。
「おーい!アンドリューさーん!」
「おお!先生ではないですか!ちょっとそこを開けて!」
釣り人を守るように取り囲む枝葉の紋章。アンドリュー自然保護連合同盟で使用される紋章。その中でも釣り人が魚を釣り上げている模様は連合同盟の長であるアンドリューしか使用できない。ミチナガとアンドリューは互いに駆け寄り抱擁を交わす。
「元気そうで何よりです。少し筋肉質になりましたか?」
「毎日釣りばかりしておりますから。先生も…まるで見違えておりますな。今到着されたのですか?」
「ええ、今まさに。いやぁ…互いに話したいこともあると思うので、とりあえずチェックイン済ませましょうか。」
ミチナガとアンドリューは互いに、はやる気持ちを抑えて準備を済ませる。それから1時間後、早めの夕食ということで場を設けた。その場にいるのはミチナガ、アンドリュー、リッキーくん、それにそれぞれの護衛である。
他にも誰か到着するようならそれまで夕食は待っても良かったのだが、残りの到着は明日になるとのことなので今日はこのまま食事を始める。しかしこれだけの3人が揃ったのだから大きな円卓で食事するかと思いきや、手を伸ばせば届くほどの距離しかない小さなテーブルで食事が行われる。
「それじゃあ…本番はみんなが揃う明日だから今日は前祝いということで。久しぶりの再会と、初めましてに乾杯!」
「「乾杯!」」
注がれた酒を飲み干す3人。リッキーくんに関してはどうやって飲むのか疑問なのだが、コップの酒は空になっていた。そしてすぐに会話を始める前にアンドリューとリッキーくんの自己紹介をミチナガが行う。
「まあ映像とかで知ってはいると思うけどこちらはアンドリューさん。俺がこの世界で初めてお世話になった貴族。釣り好きで人の良い、面白い人。それでこっちはリッキーくん。VMTランドの創設者であり、VMTキャラの生みの親。正体は不明、ということでやっているけど後でアンドリューさんにだけはちゃんとお教えします。いいよね?」
「もちろん!ハハッ!よろしくねアンドリュー!」
「よろしくお願いしますリッキーくん。いやぁ…しかしまさかリッキーくんに会えるとは。作品も拝見させていただきました。実に良かったです。特にお気に入りはディーディーくんです。釣り好きという点で親近感が湧きまして。」
アンドリューはポケットからキーホルダーを取り出す。それは限定品のディーディーくんキーホルダーだ。カモメをモチーフにした可愛らしい姿にアンドリューは笑みがこぼれる。それを見たリッキーくんは嬉しそうにディーディーくんの誕生秘話を語った。
そこからアンドリューとリッキーくんは距離を縮める。二人が仲良くなれるか若干の不安があったミチナガであったが杞憂に終わった。そして話は背後に控える護衛の話に変わった。
「先生のところの護衛は先生が建国したというセキヤ国の騎士ですか?なんとも素晴らしいですな。」
「ええ、頼りになりますよ。少々心配性なところもありますけどね。そういうアンドリューさんもこれまた随分と…かなりの手練れですね。」
「英雄の国に向かうといったらいくつかの国が兵を貸してくれたんです。ああ、本当はミラルたちも連れてきたかったのですが、一度村に戻りたいと言いまして…」
「里帰りですか。ミラルたちにも会いたかったんだけどなぁ…というか本来は俺の護衛だし。ミラルたちが俺の護衛務めた期間ってすごい短いんですよね。歴代最短かも…そういやリッキーくんのとこは…護衛というよりもランドの柱となる幹部だよね?」
「ハハッ!実力は十分だよ!どうしてそう思うんだい?」
確かにリッキーくんの背後に控えているのはなかなかの手練れだ。魔王クラスは十分あるだろう。しかしそれ以上にランドの運営としての手腕を買って雇っているというのが事実だ。それに先ほどからアンドリューの背後に控える護衛たちがリッキーくんから目を離せずにいる。
「まあうん…そうだね。ほら、リッキーくんなら悪い奴もリッキーくんパンチで一撃でしょ。」
ミチナガの言葉に頷く護衛一同。リッキーくん本人はそんなことはないと否定しているがまぎれもない事実だ。リッキーくんがなんとか抑え込んでいる強者のオーラは隠しきれていないようだ。
その後も食事会が続くと、よほど楽しかったのかアンドリューは酔いつぶれて眠ってしまった。これ以上は続けるのは難しいのでここでお開きとなった。運ばれていくアンドリューを見ながらミチナガは水を一杯飲んでいるとアンドリューの後ろ姿を見たリッキーくんが思わずクスリと笑った。
「よもや…あのような男がいるとは…」
「ん?アンドリューさんかい?」
「ええ。これまで数多くのものたちと出会ってきました。英雄と呼ばれていたものたちにも多く出会い、戦いました。しかしこんな男に出会ったことはない。戦いになれば殺すことなど容易い。そんな戦う力のない男に…気圧された。戦ってはいけないと感じさせられた。こんなことは初めてです。」
ミチナガはその言葉に驚いた。リッキーくんこと、かつて魔神にもなったヴァルドールにここまで言わせるほどの存在にアンドリューはなった。なんという化け具合。そんなことを聞いたミチナガは少し気になった。
「ちなみに…俺はどう?」
「そうですね…現段階で言えばアンドリューの方が恐ろしく感じます。」
「そ、そっか…俺はまだまだか……俺もそろそろ休むか。」
トボトボと部屋に帰るミチナガ。やはり色々やってはいるのだが、それに自身が伴っていない。自信を失うミチナガの後ろ姿を見つめるヴァルドール。その瞳にはミチナガのオーラが見えていた。まばゆい輝きを見せるミチナガのオーラは何か硬い殻のようなもので覆われている。
「現段階ではアンドリューの方が恐ろしい。だが我が王よ。あなたのその殻が破れることがあったら……あなたはかつての黒騎士を超えるほど恐ろしい。それほど強大なる王がこの世界に生まれることでしょう。」
ヴァルドールは小さな声でそう呟いた。ヴァルドールはこれまでの人生で何度かその殻を見たことがある。その殻があったものは、その殻を破ってきたものはことごとく英雄などと呼ばれてきた。
その殻が硬ければ硬いほど殻が破れた時に強大な力を発した。しかし硬ければ硬いほどそのまま殻が破れず、才能が開花することなく死んでいく。かつての勇者王もその一人だ。ヴァルドールの知っている勇者王はその殻を破ることができず、生きているうちは正当な評価をもらえなかった。
その殻を破る方法は人によって違う。戦いの窮地の中で破る者もいれば、人と出会うことで破るものもいる。そして死したのちに破れるものも。
「我が王よ。その答えは他の誰も知りません。あなた自身が求めなくてはならないのです。そしてきっとあなたならば…偉大な王になることでしょう。」
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