スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

文字の大きさ
375 / 572

第362話 巨大のヨトゥンヘイム解放

しおりを挟む
 アレクリアルたちは最初にナイトとヴァルドールの攻撃によってできたクレーターの中心にある巨大な山を登っていく。この山全てが9大ダンジョン巨大のヨトゥンヘイムなのだ。その壁を破壊することは叶わない。入り口はあの銀貨と銅貨で完全に塞がれている場所だけだ。

 あっという間にたどり着いたダンジョンの入り口を見たミチナガは、思わずこぼれそうになる笑みを抑える。なんせ目の前には溢れんばかりの貨幣の山だ。これが全てミチナガのものになると考えると笑わずにはいられない。そんなミチナガをアレクリアルが急かす。

「早くやってくれ。今はアレルモレドによってダンジョンの魔力が少なくなっている。回復しだしたらこの辺りもモンスターだらけになるぞ。」

「す、すみません。それじゃあ始めますね。」

 ミチナガはスマホの収納アプリを開いて銀貨銅貨の山にスマホを押し当てた。すると次の瞬間目の前から大量の銀貨銅貨が消え去った。これにはアレクリアルも12英雄も、魔帝クラスのものたちも、はたまたミチナガもその光景に驚いた。

 ミチナガも気がついていなかったが、スマホの収納能力が格段に上がっているのだ。これまでスマホによる大規模な収納というのはやっていなかった。だから今まで気がつかなかった。しかしこれならばミチナガの考えていた時間よりも早く終わるかもしれない。

「どうだミチナガ、問題はないか?」

「え、ええ。スマホをダンジョンから出しても問題ありません。それじゃあ…どんどん行きましょうか。」

 ミチナガはスマホを片手に走り出した。これは時間との勝負だ。銀貨銅貨が無くなったことでこれからこのダンジョンは本来の姿を取り戻す。ダンジョンからモンスターが出現するようになるのだ。戦えないミチナガが安全に回収するためには急いだ方が良い。

 だがこの巨大のダンジョンは大きい。ミチナガの速力では回収するまで年単位でかかるだろう。だからナイトはそんなミチナガを抱えて走り出した。ミチナガは抱えられながらスマホを前に押し出しているというなんとも無様な格好だが、このおかげで回収速度が数百倍は早くなった。

 スマホには銀貨や銅貨が1秒間に万単位で収納されていく。スマホの中では今まで銀貨や銅貨が不足していてやれなかったことが急激に始まっている。銅貨は魔力伝導率の高い特殊銅線に、銀貨は物に再生能力を与える付与材料に。

 いくら使ってもなくなることのない銅貨や銀貨に使い魔たちは何やら悪巧みを始めている。そんなことを知らないミチナガは突如と立ち止まったナイトに驚きつつ、目の前の道を見た。

「お、ここから分かれ道か。俺右行くからお前ら左頼んだ。」

『ポチ・はーい。それじゃあみんな行くよー!』

 ポチの号令のもとスマホから大量に溢れ出した使い魔たちが左の通路へと突き進んだ。一人一人の回収能力はミチナガよりはるかに劣るが、それを数でカバーした。アレクリアルたちは部隊を二つに分けてどちらもカバーできるようについて行く。

 その後いくつもの分岐により使い魔たちは数を減らしながらもなんとか急いで回収して行く。この巨大のダンジョンは9大ダンジョンの中でも一番大きく広いダンジョンだ。かなり急ピッチにやっているが、1階層の回収を終えるのにも1週間はかかるだろう。

 そんな時ミチナガが回収した場所の跡地に一つの宝箱が落ちていた。それはまさにダンジョンの宝だ。数百年ぶりに入手できる9大ダンジョンのお宝に一同は思わず緊張で手に汗をかいた。

「あ、アレクリアル様。どうぞ…」

「あ、ああ…今やダンジョンアイテムなんて神話やおとぎ話レベルだからな。それじゃあ…開けるぞ。」

 アレクリアルは宝箱をゆっくりと開く。そこには一本の短剣が納められていた。なんらかの魔道具なのだろうが、詳しいことはわからない。だがそれでも皆笑いが止まらない。今世界に生きているものでダンジョンからアイテムを入手した人間はアレクリアルたちだけだ。

「ミチナガ、これを急ぎ解析に回せ。記念すべき第一弾だぞ。大切に扱うように通達しろ。」

「了解しました。…はい、これでもう届いている頃ですよ。」

 すでに英雄の国の研究室ではいつダンジョンアイテムが届くのかと心待ちにしていた。それが今届いたので皆大騒ぎで解析を行っている。もう研究所は大盛り上がりだ。その報告を受けたアレクリアル一行は再び行動を開始する。

 まだまだ先は長い。休んでいる暇はないのだ。ミチナガも使い魔を総動員して回収当たる。分岐して行く道の中には行き止まりもある。そこまで回収し終えたらまた戻って他の道に合流して回収する。中には隠し通路を発見したものもいる。

 探せば探すほどダンジョンというものは面白い。すると使い魔たちから報告が入った。その報告を聞いたミチナガはすぐにアレクリアルに報告すると皆笑みを浮かべてその場所へ向かう。

 大急ぎで向かった先には巨大な扉があった。それはまさしくこの1階層のボス部屋だ。ここから2階層目に行くことができる。皆でその扉を開く。すると中から大量の銀貨が雪崩のように流れ出てきた。このままでは銀貨に押しつぶされるというところでミチナガが全ての銀貨を回収した。

「ボスからは銅貨はあんまり出ないんですかね。とりあえずこの部屋も綺麗にしちゃいますね。」

「頼んだ。」

 ミチナガは複数の使い魔とともに部屋を綺麗にして行く。すると回収物の中にいくつものダンジョン産の魔道具が入手されている。おそらくたいしたものではないだろう。過去の人間がいらないからと捨てていったものだ。

 そんな魔道具はすでにあちこちで発見され始めているようで、英雄の国の解析班は大盛り上がりだ。さらにミチナガの伝手でユグドラシル国の解析班にも送られている。今後も大量の魔道具を回収することを考えれば英雄の国の研究所だけでは足りなくなるという判断だ。

 やがて綺麗さっぱりボス部屋の中が片付くと一同は一度ボス部屋から出た。2階層目に続く扉が開かなかったのだ。おそらくここのボス部屋のボスを倒さないとダメなのだろう。ただいつボスがリスポーンするのかはわからない。

 いつまで待てば良いのかと気を揉んでいるとボス部屋の扉にはめ込まれている宝玉が光りだした。おそらくだがこれがボスのリスポーン合図だろう。扉を開くとそこには巨大な斧を持った漆黒の体毛のミノタウロスが立っていた。

「ちゃんと居ますね。それで…誰が戦います?」

「そうだな…ダモレス、お前に任せる。」

「い、いいんですか!」

 先ほどの怪物アレルモレド戦で活躍が少なかったと肩を落として居たダモレスにアレクリアルが花をもたせてやった。喜んで意気揚々とミノタウロスへと向かって行くダモレスに対してミノタウロスは持っていた斧を思いっきり振り下ろす。

「おお!すげぇすげぇ!ダンジョンボスの一撃受けちった。よっと。」

 ダモレスはミノタウロスの一撃を軽々と片手で受け止めるとそのままもう片手で大剣ツバキを振るい、ミノタウロスを真っ二つにした。その瞬間2階への扉が開く。さらにミノタウロスの死体は消えて行き、後には先ほどミノタウロスが持っていた斧の一回り小さいものが落ちていた。

「おお!ボスドロップ!ボスドロップ出ましたよ!」

「そうだな。ミチナガ、回収して解析を頼む。今まで送られていったものとはレベルが違うことも添えてな。」

 ミチナガはアレクリアルに言われた通りにする。そして次の階層へと降りて行く。到着した2階層目も1階層となんら見た目は変わらない。アレクリアルが調べてきた文献によるとダンジョンは5階ごとに様相が変わるのだという。だからしばらく見た目は変わらない。

「それにしても外から見るより明らかに大きいですよね。」

「ダンジョン内の空間はかなり歪んでいるからな。空間魔法を用いて一気に下に降りるようなこともできないらしい。かつての文明でもかなり研究されたそうだが、詳しいことはわからなかったようだ。…まあ文献も対して残っていないがな。」

 9大ダンジョンに関する情報は古い石碑などでしか残っていない。紙の媒体で残っていたものはすでに朽ち果てている。石碑だって戦争や雨風による風化でそこまで残っていない。ダンジョンの情報は非常に価値あるものなのだ。

「ちなみにここって何階層まであるとかってちょっとした情報はないんですか?」

「石碑から確認できたものは64階層までだ。だがそれ以上あると考えた方が良いだろうな。なんせ9大ダンジョンを一つでも踏破したものなど歴史上数人しかいない。」

「ろくじゅ……もっと大急ぎでやらないとダメってことか。ナイト、すまんが頑張ってくれ。」

「ああ、任せておけ。」

 ミチナガはナイトに抱えられたまま大急ぎで回収していく。9大ダンジョン、巨大のヨトゥンヘイムの解放はまだ始まったばかりだ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

処理中です...