スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです

寝転ぶ芝犬

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第363話 巨大のヨトゥンヘイム攻略の日々

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 あれから3日が経った。ミチナガによる貨幣の回収は実に順調であった。ただいくら順調でもさすがに巨大と呼ばれるダンジョンなだけある。いくら大急ぎで回収を行っても一つの階層を完全に解放するのには途方も無い労力と時間がかかった。

 さらに日が経ったことでダンジョン内にモンスターが出現しだした。まだ始めの階層ということでモンスター自体は強くない。しかしそれがまた問題でもあった。ダンジョン内で未だモンスター生成による魔力消費ができない今、ダンジョンの外でもモンスターが発生していた。

 おまけにダンジョンの外のモンスターは非常に強力だ。ダンジョンの中の方がまだ安全である。そんな不思議な状況下の現在、ミチナガたちは5階層のボスモンスターを討伐し、ついに6階層へと向かった。

 ここからこのダンジョンの様相は変わる。今までは粗彫りされた洞窟であった。分岐が多く、攻略するのに手間取ったが、この次はどのような様相になっているか。第6階層に降り立ったミチナガは早速目の前の大量の銀貨や銅貨を回収する。

 するとそこには左右に高い土壁がそびえ立つまっすぐな通路があった。天井が非常に高く、ただまっすぐに続く通路。足元にはこれまであった銀貨や銅貨によって押しつぶされた芝生がある。そんな不思議な光景にミチナガはどこか違和感を覚えた。そしてその違和感に真っ先に気がついたのはナイトである。

「この左右の壁はダンジョンのものではない。人為的なものだ。」

「確かにそうだ。非常に高度な魔法によって作られた土壁だ。おそらく当時の魔神クラスが作ったものだろう。一体なんのために……」

「ふむ…我が王よ、少しお待ちください。」

 そういうとヴァルドールは一気に飛び上がり土壁の一番上の部分を削り取る。するとそこから銀貨や銅貨が溢れてきた。溢れた銀貨や銅貨はミチナガたちの頭上に降り注ぐ。当たればミチナガの場合死に至るだろう。すぐにナイトが魔力障壁を張った。

「あっぶね…その中も銀貨とかがいっぱいな感じ?」

「そのようです。どうやら…ここは貯蔵所のようですね。ふむ…我が王よ、仮説がたちました。」

 ヴァルドールは自身の仮説を話した。おそらくこの6階層からは単純に広いだけの階層なのだろうと。そしてこの広いダンジョンを効率よく使うためには土壁を生成し、その中に銀貨や銅貨を収納するのが得策だということだ。

「現状1から5階層までのモンスターから銀貨や銅貨はドロップしておりません。時折宝箱の中から銅貨が数枚出現するだけ。おそらく銀貨や銅貨はもっと深い階層でドロップするのでしょう。そして良いダンジョンアイテムがドロップするのも深い階層です。」

「つまり…良いダンジョンアイテムを入手するためにダンジョンの奥地を探索して…その際に出た貨幣を上の階層に捨てに来ていたということか?」

「恐らくはそうでしょう。収納袋を用いて何度もなんども捨てにきたのでしょう。ダンジョン産の収納袋は収納量がとてつもないとのことですから。」

 ダンジョンの奥地を探索するためにモンスターを倒すことによってドロップした貨幣を他の階層に捨てて何度もなんどもダンジョン探索を行った。その際にいくつもの国宝級の収納袋を用いたのだろう。

 そしてやがて収納袋にも限界が来た時、収納袋の中身を捨ててダンジョンを埋め立てながら出て行くことにした。収納袋の中に入っている貨幣はダンジョンの外へ出すことができない。収納袋だけでも持って帰るためのやむ終えない選択だ。

 本来なら貨幣がドロップしない上層が貨幣で埋め立てられることはない。そんな上層が埋め立てられていることがヴァルドールの仮説を裏付ける証明にもなるだろう。途方も無い労力に感じるが、それでもダンジョンから得られる利益を考えればやるべきことだったのだろう。

「つまり…金貨が入手できるのはもっともっと先の階層ってことか。」

「おそらくそうでしょう。…それは長い旅路になることでしょう。………我が王よ、さすがにそろそろ私は仕事が…」

「そっか。ずいぶん長いこと付き合わせちゃったね。あとはナイトになんとかしてもらうよ。ヴァリーくんは自分の仕事に戻って。それからエリーたちのことよろしくね。」

「もちろんです。それでは我が王よ。またお会いしましょう。」

 そういうとヴァルドールはその場から消え去った。ヴァルドールならば今日の夜中にはヨーデルフイト王国に着くだろう。ヴァルドールにはずいぶんと悪いことをしたとミチナガは反省している。戦うのが好きではなくなったヴァルドールにとってこのダンジョン攻略は苦痛でしかなかっただろう。

 今度何かお詫びを考えておく必要がある。このダンジョンでヴァルドールが喜ぶような品があれば率先してプレゼントしようとミチナガは心に決めた。とりあえず今はこのダンジョンを解放することが先決だ。

「とりあえず壁の中は無視していきましょう。ここが貨幣の保管庫ということならこの真っ直ぐ続く道は次の階層に繋がっているはずです。かなり楽になると思いますよ。」

「そうだな。では頼んだぞミチナガ。」

「はい!それじゃあ…ナイト、頼んだ。」

 ミチナガはナイトに抱えられて大急ぎで進んだ。そしてミチナガの言った通りこの通路はまっすぐに次の階層へと続くボス部屋につながっていた。そしてわずか1日で10階層までたどり着き、11階層へ行くところでその日を終えた。




 あれからわずか1週間後、ミチナガたちは40階層まで到着した。なんという怒涛の勢い、と言いたいところだがここまでの道のりはほとんどがまっすぐな通路を行くだけの簡単な作業であった。

 本来は道しるべもない広大な開けた土地を途方もなく歩く困難な階層なのだろう。しかし貨幣の保管所として利用されている現在では作られた通路をまっすぐ歩けば良いだけの簡単なものに変わった。正直1~5階層までの入り組んだ洞窟の方が厄介であった。いくつも道があるため1つの階層を攻略するのに手間がかかるのだ。

 そして40階層をクリアし、41階層にたどり着いたその時、ミチナガは目の前に現れた光景に歓喜した。目の前に大量の金貨の山があるのだ。ついに金貨が保管されている階層にたどり着いたのだ。

「ようやく…ようやく金貨が…」

「まだ銀貨や銅貨が混ざってはいるが…それでも金貨の割合が多いな。ここから危険度はさらに増すだろう。貨幣の種類で危険度が見分けられるのは楽で良いな。」

 ミチナガは早速金貨の回収に取り掛かる。使い魔たちも待ってましたと言わんばかりに回収された金貨を用いて魔力生成炉を作成する。これでようやく使い魔たちの魔力量が増え、戦力が大きく上がることだろう。

 ミチナガはこれまでのダンジョン攻略で疲弊しているはずの肉体と精神に活力が戻るのを感じ取った。これで使い魔たちが強くなればミチナガの戦力が大きく上がる。モチベーションが大きく上がった。

 そんなミチナガたちはもう1週間かけて50階層までたどり着いた。41階層から50階層まではトラップや曲がりくねった道が多く、思うように攻略できなかったのだ。一つの階層に1日以上かけることだってあった。

 すでに使い魔もアレクリアルが連れてきた数多くの魔帝クラスのものたちも他の階層を任せてきたので人手不足が起きているのだ。これからもどんどん人手不足は深刻になり、ダンジョンの1階層あたりの攻略日数も増えるだろう。

 アレクリアルも流石にいつまでも国を空けてはいられない。今も滞りそうな部分の仕事を使い魔経由でやっているくらいだ。時間がダンジョン攻略に対してネックになってきた。しかしこればっかりはどうしようもない。そして50階層のボスを倒し、ドロップアイテムを回収していると報告が上がってきた。

「ちょっと待ってくださいね……今もボスから腕輪が出てきましたよね?」

「ああ、この魔石がはめ込まれたやつか。似たようなのが他の階層でも出てきたなそれがどうした?」

「はい。それなんですけど…古代の壁画にそれに似た腕輪をつけている絵がありまして…それが一部の階級や身分を保障していたというところまでわかっていたんですけど…どうやらこれ、転移装置みたいです。おそらくこれを使えば地上に戻ることも可能なんじゃないかと。そうじゃないとこれだけ巨大なダンジョンを攻略するための物資をどうやって得るかまるでわからないとのことです。」

 この巨大のダンジョンはモンスターがほとんどいないこの現状でもここまで攻略するのに半月以上かかっている。モンスターがいればさらに時間がかかったことだろう。そうなると必ず物資不足が起こり攻略どころではなくなる。

 だからこその転移装置だ。このダンジョンの中は独自の空間になっている。だからこそダンジョン独自の転移装置があるのだろう。使い方も研究によりいくつか候補が出たのでそれを一通り試すと無事に第1階層に帰ることができた。

「すっげぇ…久々に太陽見た…」

「やはり地上は良いものだな。しかし…なるほど、これを使ってダンジョンの貨幣を他の階層に運んだのだろうな。これならば楽にできる。……しかしこれはチャンスだな。」

 久しぶりの地上に歓喜しているミチナガの横で、アレクリアルは剣を抜き放ち戦闘体制に入った。何事かとミチナガは慌てるがアレクリアルは笑みを見せた。

「すでにダンジョンは50階層まで攻略した。おかげで地上に溢れ出る魔力は微々たるものだ。つまり今地上のモンスターを片付ければ…一般の兵士たちを呼べる。上層に当てていた魔帝クラスを下層に連れて行くことができる。」

「一般兵士を上層の攻略に当てる方法ですか。…騒ぎになりませんか?」

「内密に連れて来れば良い。兵士を2万ほど連れて来れば人手不足はほぼ解決だ。それに…今後のことを考えればこのダンジョン周囲に拠点を…町を作る必要もあるからな。人手は多ければ多いほど良い。」

 ダンジョンモンスターの強さ的に一般兵でも30階層まではなんとかいける。兵の中でも多くの修練を積んだものなら40階層まで行けるだろう。それ以降も魔王クラスの兵がいれば十分いけるはずだ。

「ミチナガ、幾人か兵を貸し出すからお前は今後も先の階層を解放していけ。こちらは兵を呼んで上層を片付ける。それにある程度の街まで作っておこう。」

「それじゃあ公共設備の開発にもうちの使い魔を貸し出しますね。使い魔不足はさらに加速するけど…まあなんとかなるでしょう。それじゃあしばらく仕事を分担して頑張りましょう。」

 ミチナガはアレクリアルに別れを告げ再びダンジョンの奥地へと戻っていった。ゆっくりと停滞を始めようとしていたダンジョン攻略はこれより再び加速を始めて行く。
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