転生したら最弱領地でしたが、戦争も外交も駆使して仲間と王国を作ります

羽蟲蛇 響太郎

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第1章 地底より始まる建国譚

エピソード1 地底で目覚めたもの

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 ――暗い。

 最初に感じたのは、それだけだった。
 光がない。音もない。風すら、存在しない。

 それなのに、俺は“目覚めている”。

 意識だけが、底なしの闇に沈んだまま浮かび上がってきた。

(……ここは、どこだ)

 問いかけようとして、声が出ないことに気づく。
 いや、正確には――喉が、ない。

 ぞわり、と理解が遅れて背筋を這った。

 手足を動かそうとした瞬間、
 自分の身体が「形を持っていない」ことを悟る。

 重さがない。
 骨も、皮膚も、筋肉もない。

 あるのは、黒い靄のような“何か”だけだった。

(……死んだ、はずだよな)

 御影直哉。
 それが、かつての俺の名前だ。

 会社での調整役。
 誰かのために頭を下げ、誰かの尻拭いをして、
 最後は誰にも気づかれず、過労で倒れた。

 救急車のサイレン。
 白い天井。
 そこで、記憶は終わっている。

 ――なのに。

 今、俺は“生きている”。

 いや、生きているというより、
 存在していると言った方が近い。

 闇の中、感覚が少しずつ広がっていく。
 すると、自分が巨大な空洞の底にいることが分かった。

 天井は遥か上。
 壁は歪み、岩盤が露出している。

 地底空間。

 人の手が入った形跡はない。
 自然に形成された、巨大な地下洞窟だ。

 その中央に――
 黒い影が、脈打つように揺れていた。

 俺だ。

(……魔物、か?)

 否定したいのに、否定できない。
 身体を意識した瞬間、俺は“姿”を選べることに気づいた。

 試しに、人の形を思い浮かべる。

 すると、黒い靄が集まり、
 腕になり、脚になり、輪郭を持った。

 完全ではない。
 どこか曖昧で、影が揺らいでいる。

 それでも――立てた。

「……声、出るのか」

 今度は、はっきりと声が出た。
 低く、少し掠れているが、人間のものに近い。

 その瞬間だった。

 洞窟の奥から、重い振動が伝わってくる。

 ズ……ン。
 ズ……ン。

 何かが、近づいている。

 岩の隙間から現れたのは、
 人の倍はある、甲殻に覆われた巨大な魔獣だった。

 六本の脚。
 鋭い顎。
 赤く光る複眼。

 ――地底棲みの魔物。

 奴は俺を見つけると、迷いなく唸り声を上げた。

 本能的に理解する。

 こいつは、話し合う気がない。

(……最初から、戦闘かよ)

 逃げ場はない。
 仲間もいない。
 武器もない。

 それでも、不思議と恐怖はなかった。

 代わりに湧き上がったのは、
 ――選択する意志だった。

(倒すか。
 それとも、何か別の方法を探すか)

 黒い靄が、ゆっくりと形を変える。
 爪が伸び、脚が獣じみていく。

 俺は、初めて理解した。

 ここは、人の世界じゃない。
 そして俺は、人間でもない。

 ――だが。

 だからこそ、
 この世界で、俺は俺のやり方を選べる。

「……来い」

 独りきりの地底で、
 魔物として生まれた俺の、最初の一歩が始まった。
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