転生したら最弱領地でしたが、戦争も外交も駆使して仲間と王国を作ります

羽蟲蛇 響太郎

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第1章 地底より始まる建国譚

エピソード4 最初の拠点、最初の選択

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 地上の風は、想像以上に冷たかった。

 だが、それ以上に――広い。

 地底では感じなかった“距離”が、
 視界の先まで続いている。

(……ここが、世界か)

 俺は森の縁に立ち、周囲を探る。

 《地底感知》は弱まり、
 代わりに別の“気配”が増えていた。

 複数。
 小柄。
 警戒心が強い。

(……人間じゃないな)

 森を抜けた先、
 粗末な柵に囲まれた小さな集落があった。

 掘っ立て小屋。
 焚き火。
 簡素な見張り台。

 そして――

「ギィッ!?」

「敵だ! 魔物だぞ!」

 姿を現した瞬間、
 甲高い声が上がる。

 ゴブリン。

 人間社会では、
 最下級魔物として討伐対象にされる存在。

 だが、目の前の彼らは違った。

 武器を持つ手は震え、
 子供らしき個体が背後に隠れている。

(……村、だな)

 俺は、すぐに攻撃姿勢を取らなかった。

 影を人型に固定し、
 両手をゆっくりと上げる。

「敵意はない」

 言葉が通じた瞬間、
 ゴブリンたちがざわつく。

「しゃ、喋った……?」

「上位種か……?」

 集落の奥から、
 一回り大きなゴブリンが現れた。

 白い傷跡のある顔。
 粗末だが、よく手入れされた槍。

 ――族長だ。

「名を名乗れ」

 短く、だが威厳のある声。

「ノクス」

 俺は一歩、前に出る。

「この地を奪いに来たわけじゃない。
 話がしたいだけだ」

 族長は、俺を睨みつける。

「話?
 人間の手先か?」

「違う」

 即答だった。

「俺は、人間でも、ゴブリンでもない」

 沈黙。

 だが、完全な拒絶ではない。

「……何の用だ」

「ここを“拠点”にしたい」

 ざわ、と空気が揺れた。

 だが、俺は続ける。

「支配はしない。
 命令もしない。
 代わりに――守る」

 族長の目が、細くなる。

「守る?
 魔物が?」

「人間は、いずれこの辺りに手を伸ばす。
 その時、ゴブリンは真っ先に狩られる」

 それは、事実だった。

「俺は、人間として振る舞える。
 魔物としても戦える」

 だからこそ。

「交渉役にも、盾にもなれる」

 族長は、しばらく黙っていた。

 やがて、背後の村を見る。

 痩せた仲間。
 傷を負った戦士。
 怯えた子供。

「……代償は?」

「居場所を、共有する」

 それだけだ。

 長い沈黙の後、
 族長は槍を地面に突き立てた。

「俺はグルク。
 この村の長だ」

 そして、低く言う。

「試させてもらう。
 口だけなら、ここで終わりだ」

「それでいい」

 こうして、
 俺の“最初の拠点”が生まれた。

 城でも、砦でもない。

 ――ゴブリンの小さな村。

 だが、それは確かに、
 国の芽だった。




 遺跡は、今日も静かだった。

 ノクスが去ってから、
 魔物がここを訪れることはない。

 私は、古い石壁に手を置く。

「……やっぱり、変な存在ね」

 話す魔物。
 奪わず、支配せず、
 居場所を作ろうとする者。

 遺跡の古文書を、もう一度読み返す。

 ――境界に立つ者。
 ――争いを終わらせる鍵。

「……あなたが、そうなの?」

 答えはない。

 だが、確信だけはあった。

 彼は、災厄にもなり得る。
 同時に――希望にも。

 私は、遺跡の灯を少しだけ強くする。

 彼が、いつか戻ってきた時のために。

「……生き延びなさい、ノクス」

 地底から生まれた魔物が、
 どんな国を作るのか。

 その行く末を、
 私は、この境界から見届けよう。
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