『中身は俺のままなのに、学園では美少女扱いです』

羽蟲蛇 響太郎

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第4話 隠すという選択、そして最悪の再会

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 ――気づかれている。

 それが確信に変わったのは、
 昼休みの終わり頃だった。

 教室に戻る途中、
 廊下の窓ガラスに映った自分の姿を見て、
 俺は足を止めた。

「……俺、今どんな顔してる?」

 鏡代わりのガラスに映る少女は、
 困惑と警戒が混ざった、
 どこか“逃げ腰”の表情をしていた。

(……ダメだな)

 彩音の言葉が、頭から離れない。

――「昨日までここにいた人みたい」

 あれは冗談でも、気のせいでもない。
 観察の結果だ。

 彼女は気づき始めている。
 俺が“普通の女子”じゃないことに。

(……なら)

 俺は、決めた。

 隠す。

 これ以上、何も考えずに流されるのはやめる。
 世界が俺を女子として扱うなら、
 俺は“それらしく振る舞う”しかない。

 ――中身が俺でも。

 午後の授業。

 俺は意識して、
 声を抑えた。
 姿勢を変えた。
 無意識にやっていた“男子の癖”を、
 一つずつ潰していく。

(足、開くな)
(頷き方、でかすぎ)
(返事、短すぎ)

 ――疲れる。

 自分を演じるって、
 こんなに神経を使うものだったのか。

 放課後。

「佐倉さん、一緒に帰らない?」

 女子の誘いに、
 俺は一瞬だけ迷い――

「ごめん。今日はちょっと用事があって」

 初めて、断った。

 理由は、
 一人になりたかったから。

 帰り道、
 俺はスマホをいじりながら歩く。

 昔の連絡先。
 ――いや、もう消えている。

 俺が“佐倉 恒一(男)”だった痕跡は、
 世界から綺麗に消えている。

(……本当に、俺だけが異物なんだな)

 家に帰ると、
 母はいつも通りだった。

「おかえり、こーちゃん」

 その呼び方が、
 今は少しだけ怖い。

 夕飯の後、
 自室で一人、ベッドに座る。

 そして――
 声に出してみた。

「……俺は、男だ」

 誰も聞いていないはずなのに、
 喉が詰まる。

「……元は」

 言い直す。

「……元は、男だった」

 それすら、
 過去形になりつつある。

(このままじゃ……)

 翌日。

 俺はさらに徹底した。

 彩音と目が合っても、
 必要以上に話さない。

 質問されたら、
 曖昧に笑って流す。

 距離を取る。
 観察される前に、
 “壁”を作る。

 彩音は、
 明らかに違和感を覚えていた。

「佐倉さん……最近、ちょっと変わった?」

「そう?」

「……うん。
 前より、“よそよそしい”」

 心が、ちくりと痛む。

「……気のせいだよ」

 それ以上、
 踏み込ませない。

 ――その日の放課後。

 校門を出たところで、
 聞き覚えのある声がした。

「……佐倉?」

 ぞくり、と背筋が凍る。

 振り返る。

 そこに立っていたのは――
 一人の男子生徒。

 背は俺より少し高く、
 髪は短く、
 見覚えのありすぎる顔。

「……やっぱり」

 その男は、
 信じられないものを見るような目で、
 俺を見つめていた。

「……お前、
 佐倉 恒一、だよな?」

 世界が、止まる。

「……え?」

 喉が、鳴らない。

 男は一歩近づき、
 低い声で言った。

「間違えようがねぇ。
 その目」

 ――昔の俺を知っている人物。

「……久しぶりだな、
 佐倉」

 逃げ道は、
 もうなかった。
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