皇国戦記

SHOUKICHI

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第8話「休息」

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7月20日 15:40  サド要塞

「今から撤退する事になった。んで、俺達は今から撤退を始める負傷者と衛生科の護衛をする事になったから今から直ぐに行くぞ」

ハイトはこんな状況でもいつも通りの気の抜けたようなタースに対してもはや尊敬すら出来てきた。

2km程の地下通路をハイトら数千人が歩く。
サド要塞には数本の脱出用地下通路があるらしい。というのも、開戦前、『脱出用』は無かったそうだが後退してきた師団が作ってしまったそうだ。
だが、そんな事は今は特に関係無い。
とにかく今は歩くのみだ。
2kmは歩くと案外短く感じるもので…通路を出るとそこはちょっとした森の中だった。

それからも歩く。ひたすら歩く。ただ、外に出てからは
ハイトらの部隊は周囲警戒もする事になり、体力だけではなく精神もすり減らしていく。

「タース兵長、上はよく撤退なんて決断しましたね」
「まあ、あれだけ砲撃されたからなぁ。どうにもならなかったんじゃねーのか?
まあ、ひとつ自信を持って言えるのは……今後暫く戦闘は無い。遊べるぞ」

ハイトの話に答えるタースだがやはり気が抜けている。
いつ襲われるか分からない状況で何故こんなにもバカな事を言えているのか。ハイトにはやはり分からなかった。


ハイトら撤退第1陣が着いたのはサド要塞から25km程離れたバド町だった。
バド町は港があり、周囲を川に囲まれている。人口も10万ファミス・ネス張るぞ」

疲れ地べたに座ってしまうハイトにタースは汗を拭きつつ班員に指示を出す。

「よーし、俺達の分の天幕は張れたな。
んじゃお前ら、休むぞ。
もう一度言うが俺の見る限り暫く戦闘は無いと見た」

天幕の中で座り水をがぶ飲みするタースを横目にハイトは少し安心していた。
たまにはタースの言葉を鵜呑みにしても良いかもしれない。そう思いだしたのだ。

「あ、タース兵長!後続の部隊が来ましたよ」
「おぉ?何処の部隊だっけ」

ハイトとタースの目線の先にはぞろぞろと歩く数万人はいそうな部隊があった。

「あ、思い出した!ここに来るのは第7師団だ、じゃああいつと一緒じゃねーか!」

嫌そうな言い方をしたタースだが顔は嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

「タース兵長の知り合いがいるんですか?第7師団って後退してきてた師団ですよね?」
「あぁ、そうだぞ。第7師団の副師団長のハガンって奴なんだが、幼馴染でな」


驚いた表情で固まるハイトを見たタースは苦笑いで「冗談じゃねーからな?」と言うもハイトにとっては全く信じれない事だった。

そこからは町の周辺に防御陣地を構築した後、ハイトらの部隊等に自由時間が与えられた。

「そういえばこの辺に流れてる川、魚が旨いらしいですよ」
「お?本当かそれ!よし、班員全員呼んでこい!釣りだ!釣りをするぞ!」

ハイトから出てきた情報に食い付くタース。だが、まさかの班員全員での釣りへ発展するとはハイトは思っていなかったらしい。

そうして班員全員での釣りが始まったが釣れるわ釣れるわで直ぐに班員全員がお腹一杯に食べれるぐらいの魚が釣れてしまった。
それしてそれを見た他の班も釣りをしだし、ちょっとした騒ぎになってしまう程だった。

夜になれば魚を焼き、町の人々が持ってきた酒で部隊関係無しに様々な人間が参加するパーティー状態になってしまった挙げ句、バド町守備隊司令部の人間も参加する始末だった。


「ん~!この魚美味しい!」

セルカは魚をひと口食べると本当に幸せそうな顔で言う。
これを見たハイトも魚を食べだす

「ん、本当に美味しいなこの魚」
「でしょ!」

久々に美味しい物を食べた様な気がした。
自分が元気に生きていることを食事で確認する。
それはそれでハイト自身凄く嬉しいのだ。

「それでさ、後で町に行かない?売店とか色々あるらしいからさ」
「え、まあ、うん。行こっか」

セルカの誘いに少し混乱しつつも答えるハイトだが顔が熱くなる気がした。


「お、ハイト!どこ行くんだよ」
「うゎ、タース兵長…」

ハイトとセルカが町に行く途中、2人で酒を飲んでいるタースに出くわしてしまった。
ただでさえいつもめんどくさいタース兵長が酒を飲んでいるという一見、ハイトにとって絶望的にめんどくさくそうな状況に見えたが冷静に見てみるとタースの隣に居る人の階級が中佐な事に気づき直ぐに敬礼する。

「あぁ、そういうのは今は良いよ。それにしてもタース。お前の班に女が居るとは聞いてないぞ」
「バカ。男の方は俺の班だが女は違うよ」

その中佐はセルカに可哀想な人を見る目で見てそう言ったが直ぐにタースが拒否する。

「あ、あの。何で中佐殿とタース兵長が…」
「言ったろ?俺の幼馴染で名前はハガン・ノアだ。」

ハイトの混乱した顔を見て笑いながらタースは説明した。
一方ハイトは冗談じゃなかったのかと軽くショックを受ける。

「んで君達、名前は?」

「ハイト・ノベティです!」
「私はセルカ・モア…です」

ハガンの質問に間髪いれずに名前と階級を言う。これは訓練期間で身に付いてしまった物で、ハイト的には変な癖が付いてしまったと思っている。

「そうか、ありがとう。君達はどこかに行くんだろ?もう行きなさい。酒飲んだタースに絡まれてるのは可哀想だからね」

ハガンはそう言ってハイトとセルカを先に行かそうとする。

「はい、失礼します!行こう、セルカ」

ハイトから見るハガンは優しい目をしていた。暖かい優しい目だった。
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