皇国戦記

SHOUKICHI

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第9話「人の心、暖かさ」

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「ねぇハイト!見てこれ。綺麗じゃない?」


売店に売っていた赤色の透き通った宝石が埋め込まれたロケットペンダントを指差し目を輝かせて言う。


そばにあるガス灯の暖かい光で宝石がハイトの目には更に綺麗に見えた。



「うん、本当に綺麗だな。暖かい感じがする…」


今まで見てきたもの、感じたもの、全てが失くなっていく様な不思議な暖かさがあった。



「あっちの方にも色々売店があるよ!行こ!」

「え?ちょっと!?」


はしゃぎ店を転々と見て回るセルカを後ろから眺めるハイトだった。




「ハイト…ハイトは敵が突撃してきた時、撃ってたんでしょ?どうだったっていうか、後悔みたいなの無い?」


町にある1番背が高い建物に上がり町の景色を眺めながらそう言ったセルカに風が当たる。


「ん?あ~後悔は無いかな。今となっては相手を撃たないとこっちが殺られるし。

そもそもあまり記憶が無いんだよね。それだけ必死だったんじゃないかな?
セルカは?何かあったから聞いてきたんでしょ?」


ハイトはあまり思い出したくない記憶を思い付く限り思い出す。あの最後の敵の一兵も…



「その、ね…砲撃が来た時に幾つかの通路で崩落が起きて数人が下敷きになったりしたの。」


セルカは遠くにある山を見つつ神妙な面持ちで語りだした。


「それでさ、腕が切断された負傷者を救護所に連れていったんだけど、軍医さんに『戦闘中は軽傷者を優先するから無理だ』って言われちゃって。」


セルカの瞳に少し涙が溜まりだして来ていた。声も時々詰まる様にもなってきた。


「確かにそれも分かるんだけど。

私、あの人にモルヒネを注射して謝る事しか出来なかった…撤退する時に気になってその人の様子を見に行ったの。
そしたらその人……女の人と子供の写真握りしめて亡くなってた」


「訓練生の時は上位10位以内には入ってたし実戦に出ても何とかやっていけると思ってた…自分だったら何人でも助けられると……怪我しても人でも絶対家に帰してあげれると思ってた…」


遂にセルカの瞳から涙が溢れだす。


「でも…何も出来なかったただただ何も出来ずに…私あの人に何も出来ずに……」


更にはその場で泣き崩れてしまったセルカ。

そしてこの話を聞くまで心の何処かで戦闘部隊が1番酷い思いをしていると思っていたハイトはそれに対して何もしてあげることが出来なかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

7月22日 11:50 バド町守備隊司令部


「50分前程前に警戒に当たっていた部隊より敵斥候を発見したとの電文が入り、5分前に同部隊より敵大部隊を発見との電文が入りました。これに際し全部隊に警報を発令、全町民に避難を呼び掛けてます。」


司令部の天幕の中でハガンは師団長へ報告する。


「衛生科を町民の避難誘導にあてろ、他の部隊は戦闘用意!」

「いえ、それが…」


報告を聞いた師団長は指示を出す。だが、それに対してハガンが口を挟む。


「その、大本営からの指示で町民に手を出すなと。おそらく、戦闘に町民を巻き込ませ、それを敵のせいにして国民の士気高揚に繋げるらしいです…」


「何!?バカな…いや、師団長の私の責任で良い。町民の避難誘導をやれ。どちらにせよ町民に被害は出る」

「……は!」


師団長の判断に少し驚いた顔をするハガンだが直ぐに指示を飛ばしていく。



そして同日13:00 後にバド町の悲劇と呼ばれるバド町攻防戦が開始される
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