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ダンスパーティー

こんな私の見た目でも好んでくれるんだろう?

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「なるほど。大体は理解した。義兄から私のエデンでの振る舞いを聞いていたのか」
「そんな感じだと思って貰えればいい」

 ジェラルドは読めない表情のまま、レオンの導き出した答えに同意する。
 つまり、ジェラルドは王子様に対する欲求が非常に強く、エデンにいる〝王子様〟キャラクターであるレオンを知り、親衛隊の仲間たちと同じくファンになったのだ。

「……気が抜けた。きみにおかしな思惑があったら婚約を破棄してやろうと思っていた」
「それは困る」

 お互い、緊張を和らげて笑った。その流れで、レオンは冗談めかして本音を口にする。

「私もジェラルドが相手であれば都合がいい。こんな私の見た目でも好んでくれるんだろう?」

 その瞬間、ジェラルドの表情が消えた。

「こんな、とは?」
「オメガらしくない見た目だよ。背も高いし、顔だって……まるでアルファだ」

 ジェラルドの低い声に慄きつつ、レオンは自分のコンプレックスを含めて告白した。
 エデンでは可愛らしいオメガたちに囲まれてちやほやされていたが、卒業後は状況が一変することを理解していた。外の世界には本物の見た目の麗しいアルファたちが存在し、オメガたちは彼らと番うことになる。そしてその際に求められるのは庇護欲をそそる可憐さなのだと。レオンは実際、見た目だけでなく力も強い。先ほどの優男ほどなら簡単に倒せるし、とにかく可愛げがないのだ。

「全然分かっていなくて不安になるな」
「ジェラルド?」
「貴方は美しい」

 ジェラルドはレオンの頬に手のひらで触れて、真っ直ぐに称える言葉をくれた。レオンは驚き、その後耳まで真っ赤になる。
 容姿を褒められたことはエデンで何度もあったし、それを爽やかな笑顔で受け止めてきたというのに、身体に起こる反応がまったく違っていて、レオン自身も戸惑ってしまう。恥ずかしくなって目を逸らすと、ジェラルドは頬に添えた手をそのまま髪に滑らせ、頭を撫でてくれた。

「それに筆頭五家の跡取りはアルファ同士婚をするだろう? それはアルファの中ではステイタスと捉えられているから、アルファのような見た目は番を選ぶ際にマイナス要素にならない」
「そんなものか? ジェラルドの好みが変わっているだけでは……」
「あの忌ま忌ましい男爵家三男も貴方に欲情していたのを忘れたのか?」

 ジェラルドは思い出したのか、口元を歪めて、髪を撫でていた手を止める。
 レオンは苦笑いしてしまう。あの優男は容姿の好みよりも、虐げることに興奮する傾向があったので〝拘束された獲物〟に欲情していたのだ。しかし、ジェラルドのレオンに対する見方は親衛隊と同じだから、おそらく評価が甘いのだろう。
 いくつかの疑問が解消されて安心したのか、眠気がやってきてあくびが出た。大きな口を開けていたことに気づいて慌てて口を閉じると、ジェラルドは手を動かして、再びレオンの頭を撫でる。

「もう遅いから休もう」
「いや、リックに連絡しないと。コーディーの捜索を任せているんだ」
「そうか。なら私が連絡を取る」
「え?」

 ジェラルドは身体を起こしてベッドから降り、椅子に掛けていたジャケットからペンダントを取り出した。それはレオンにも渡してくれた通信可能の防犯魔道具だが、リックへの連絡に使えるとはどういう意味なのか。そんな疑問の表情に気づいたのか、ジェラルドは説明してくれる。

「この魔道具を作ったのはモーリス……モーリス・シンク・マグスだ。おそらくモーリスは番の動向を把握しているだろう」

 リックの番予定のアルファか、と先ほど見掛けた眼鏡の男、モーリスを思い出す。
 若木を思わせる緑色の長い髪と、茶色い、というには印象的な、例えるなら大地を連想させるような色の目をしていて、背の高さはレオンと同程度だがアルファとしては細身だった。
 マグスという家名で分かるのは、筆頭五家の序列五位であり、魔術師の家系であるということ。あの優男を拘束した見事な魔術は魔術師だからだろうが、魔道具も作るのかと多才さに驚く。
 リック曰く彼は〝過保護〟というから、ジェラルドの言う通り、モーリスに聞けばリックのことは分かるのだろう。ジェラルドはペンダントに触れて魔力を流し、通信をしている。魔石が不規則に点滅しているのは、何度もメッセージを往復させているからか。しばらくしてジェラルドは机にペンダントを置いた。

「モーリス卿はなんと?」
「コーディーは見つかって、無事らしい。無事……というか、説明しづらいが」
「ジェラルド?」
「ああ、とにかく大丈夫だ。貴方は休んで、明日事情を訊けばいい」

 なんとも歯切れの悪い説明だ。しかし、コーディーは見つかって無事だというなら安心していいのか。そう考えたら一気に疲労が襲ってきて、レオンの身体は重くなり、早く休まなければとばかりに眠気がやってくる。
 寝間着に着替え、ベッドに戻ってきたジェラルドは自然にレオンの隣で横になった。うとうとするレオンの頭に、大きな手が優しく置かれる。

「おやすみ、レオン」
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