もうお前は勇者じゃないと追放されました。はい、最初から勇者じゃありません!

sanana

文字の大きさ
9 / 23

8話

しおりを挟む
 アイザックは剣を背にかけ、アイリスとともに村へと戻る。
実は村で大事にしている剣ではないかと心配になり、村長に尋ねることにした。
「何だ、それは。私は知らん」
念のため、村の資料館に剣のことが書かれていないか数日は売るのを待つことになった。
しかし、数日も待つことはなかった。
翌日、朝からざわざわと騒がしかった。
王都からの使者が馬車でやってきたのだった。
剣の話だと言うので、村外れからアイザックとアイリスもやってきた。
アイザックが抜いた剣は俗に言う勇者の剣。
それを抜いた者は勇者となり、魔王討伐のための力を手に入れるのだと言う。
そんな逸話を今まで聞いたことがなかったので、アイザックやアイリスはもちろん、村長もびっくりである。
勇者の剣は抜かれると、王都に信託が下り、勇者がいる場所が分かるという。
抜いたのがアイザックだと分かると、優秀なパーティーの仲間を集めるので、一ヶ月後には魔王討伐の旅に出てほしいと言い、王都に戻っていった。
それから、一ヶ月はあっという間に過ぎていった。
魔物から村を守るために狩りや盗賊が来たときに対抗するために訓練はしてきた。
しかし、村の魔物は火事場の馬鹿力で子供が倒せるほど。
村の外の魔物、ましてや魔王と戦えるだけの力はなかった。
ロベ村の冒険者たちもレベルが低いのだが、何もしないよりはましだと、農業の手伝いの時間も特訓の時間に費やした。
その間アイリスも、剣の相手になっていた。
勝敗は五分五分であり、アイザックはまだまだ勇者としての力は覚醒しなかった。
覚醒しないまま、勇者としての旅立ち前日となった。
何もなかったロベ村で、勇者が現れたということで村中で大騒ぎとなっていた。
前日は日中から夜まで宴会で盛り上がっていた。
主役のアイザックは村外れの剣を抜いた崖まで来ていた。
「アイくん」
そこにアイリスもやってくる。
「アイちゃん、どうしたの?」
「それはこっちの台詞。アイくん主役なのに、出て行くから」
「別に俺がいなくても、盛り上がったままでしょ」
村外れでも明かりが見え、幽かながらも声が聞こえる。
「大人たちはいつもはしゃいでいるよね」
アイリスもアイザックの隣に腰かけ、崖で足をぶらぶら揺らしている。
「アイちゃんも向こうで食べていればよかったのに」
「私を食いしん坊キャラみたいにしないでよ」
むすっと、頬を膨らます。
「俺の作った料理完食するじゃん」
「だって、アイくんの料理美味しいし。今日の宴会の料理もよかったけど、しばらく食べれないなら、アイくんの料理食べたかったなあって」
アイリスは甘えたな声を出す。
「何年かかるか分からないからな」
「そんなにかかる?」
「そりゃそうだ。ロベ村では離れすぎて、あまり大きな問題は起こってないけど、魔王の問題は数十年かかっても解決してないんだ。ぽっと出の勇者が簡単に解決できることじゃないよ」
「じゃあ、本当にお別れだね」
アイリスは寂しげに目を伏せる。
風がさあーっと、二人の間に静かに吹く。
満月を見上げながら、二人はどちらが次は口を開くか、決めあぐねていた。
「…戻ろうか」
「そうだね」
二人は立ち上がる。
ひゅーっと、今までより強い風が吹いた。
その風はアイリスの体勢を崩させた。
「あ」
アイリスは崖から落ちていく。
「アイちゃん!」
アイザックはアイリスの手をつかみ、体を抱きよせる。
崖の外には出ずに、すぐ下の岩盤に落とすことができた。
しかし、剣が埋まっていた塚に二人は頭を打ちつけてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

【完結】アラフォー聖女、辺境で愛されます。~用済みと追放されましたが私はここで充実しています~

猫燕
恋愛
聖女エレナは、20年間教会で酷使された末、若い新聖女に取って代わられ冷淡に追放される。「私の人生、何だったの?」と疲れ果てた彼女が流れ着いたのは、魔物の呪いに苦しむ辺境の村。咄嗟に使った治癒魔法で村人を救うと、村の若者たちに「聖女様!」とチヤホヤされる。エレナの力はまだ輝いていた――。追放されたアラフォー聖女が、新たな居場所で自信と愛を取り戻す、癒やしと逆転の物語。

スキル『農業』はゴミだと追放されたが、実は植物の遺伝子を書き換える神スキル【神農】でした。荒野を楽園に変えて異世界万博を開催します!

黒崎隼人
ファンタジー
「そのスキル『農業』?剣も魔法も使えないクズはいらん、失せろ!」 勇者召喚に巻き込まれて異世界へ転生した植物オタクの青年カイルは、地味なスキルを理由に王都を追放され、死の荒野へと捨てられた。 しかし、誰も知らなかったのだ。 彼のスキルが、ただの農業ではなく、植物の遺伝子さえ書き換え、不毛の大地を瞬く間に聖域に変える神の力【神農】であることを。 荒野を一瞬で緑豊かな楽園に変えたカイルは、伝説の魔獣フェンリルを餌付けして相棒にし、傷ついた亡国の美姫ソフィアを助け出し、自由気ままなスローライフを開始する。 やがて彼が育てた作物は「エリクサーより効く」と評判になり、その噂を聞きつけた商人によって、彼の領地で世界規模の祭典――『異世界万博』が開催されることに!? 一方、カイルを追放した王国は深刻な食糧難に陥り、没落の一途をたどっていた。 「今さら戻れと言われても、この野菜は全部、俺とソフィアのとフェンのものですから」 最強の農民が送る、世界を揺るがす大逆転・万博ファンタジー、ここに開幕!

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...