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16話
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スコルは黙々と食べ続けていた。
二人は唖然として、見続けている。
「ス、スコルは疲れていたから。腹も減っているだろうし。おかわりもあるから」
「すみません、がっついてしまって」
一度フォークを置き、手を止める。
「でも、上達しましたね、主」
スコルは優しく微笑みかける。
ほっと、安心しきったような笑みであった。
(まあ、確かに私とアイくんと比べたら、アイくんの料理の方が美味しいけどさ)
アイリスはその様子をむすっとしながら、見ていた。
「じょ、上達したって…?」
「い、いや。今までのが下だという訳ではないんです。こんなに病みつきになるのが初めてだというか。前までのが食べたくないとかいう訳じゃないのですが」
傷つけないように、言葉を選んでしどろもどろになる。
「オッケー。スコルの言いたいことは分かった」
アイザックはスコルを落ち着かせようとなだめる。
そして、後ろを振り返り、アイリスとこっそりと話す。
「俺の姿で料理振る舞ったりした?」
「う、うん。旅しているときは、酒場行ってばかりじゃなかったから」
「俺は危ないから、包丁持つな、火に近づくなって、言わなかったっけ?」
「それは、小さく弱い私の体だったからでしょ。力強く、旅の間に大きく成長したアイくんの体なら大丈夫かと思って。何より、アイくんの体は料理をするのに慣れているし」
アイリスのどやっとした顔をしながらの発言に、アイザックは頭を抱える。
アイリスは料理が下手である。
それは、アイザック、スコルを始めとする勇者パーティー仲間、そして村中が知っている。
そして、そのことをアイリスは自覚していないのである。
幼少期。
父親である村長は、自覚があるタイプの料理が苦手な人であった。
なので、世話をするに当たり、頼りにしたのが後に結婚相手となる女性であった。
料理はもちろん、他の家事もできなかったため、時には自身も教わりながらも、家事代行をお願いしていた。
アイリスとアイザックは成長するにつれ、彼女のお手伝いをしたくなっていった。
彼女もできそうなことを少しずつ教えていった。
アイリスたちが初めて刃物を持つことになったとき。
アイリスの手は傷だらけになってしまっていた。
血があらゆるところ、手以外の体の箇所からも吹き出ていたのを見て、誰もが悲鳴を上げた。
アイリスの小さい手には、まだ合わないのだろう。
当時はそう判断した。
アイリスの手に合う刃物がなかったため、成長するまで待つことにした。
しかし、成長して、手に合うようになっても、傷つくのは変わらない。
周りの人間は、アイリスは不器用なんだなと徐々に感じていた。
しかし、刃物だけではない。
火もいつの間にか火力を強めて、黒こげにしてしまう。
切った野菜も、みな不ぞろい。
妙な色や匂いを放つ。
そんな料理を見て、危機感を抱いたのは、一番身近で見ていたアイザックであった。
アイリスに料理を作らせたら、命がいくつあっても足りない。
アイザック自身が料理を上達しなくてはいけない。
それからは、うまいこと誘導して、アイリスを厨から引き離した。
二人で暮らすようになってからは、日ごとに当番制にしようとアイリスから言われても、料理が好きだと必死に主張し、もうアイザックの料理の上手さをアイリスも知っていたので、どうにかアイザックに専念させることができた。
しかし、アイザックの監視の目も、アイザックが勇者になったことで離れてしまう。
準備の一ヶ月の間に村中の人間に、アイリスを厨房に立たせるなと注意していく。
しかし、勇者として旅立ったのは、入れ替わってしまったアイリス。
前日であったために、アイリス本人には忠告するのを忘れていた。
それに気づいたのは、入れ替わっているのを忘れて、厨房に立ってしまい、注意されたとき。
手紙を送ろうにも、今どこにいるか分からず、死者を出さないように祈るだけしかできなかった。
一方、料理下手の自覚がないアイリスはまだ、スコルがいないときから、その腕前を発揮していた。
不ぞろいだったり丸ごとだったりする具材。
煙がぷすぷすと出ている。
不快な匂いが放っていた。
それを見て、顔を引き攣らせるメンバーたち。
野宿中なので、残すのは勿体ないと口に入れていく。
アイザック以外は、次の日まで目が覚めることはなかった。
また、次の日も、気持ち悪さや気分の不快さは残っていて、スピードが遅かったり、クエストでも不調が出たりした。
街にいるときは酒場で済ます。
しかし、野宿中となるとそうはいかない。
彼らも、引き離そうとするが、いつまでも見てはいられない。
料理に手が回らなくなった一瞬、自分は暇だからと、よかれと思って、手を出してしまう。
そして、変わり果てたものを見て、みな絶望するのだ。
スコルが入ってからは、メンバーの反応に大げさだ、主のことを悪く言うなと、忠犬ぶりを発揮するのだが、食べたあと泡を吹いて倒れたので、彼も料理下手さを思い知っている。
メンバーが一人増えたこと、スコルはいつもアイザックを見ているので、阻止できるのではと考えたが、回数は減少したものの、地獄を見るのは変わりなかったのであった。
二人は唖然として、見続けている。
「ス、スコルは疲れていたから。腹も減っているだろうし。おかわりもあるから」
「すみません、がっついてしまって」
一度フォークを置き、手を止める。
「でも、上達しましたね、主」
スコルは優しく微笑みかける。
ほっと、安心しきったような笑みであった。
(まあ、確かに私とアイくんと比べたら、アイくんの料理の方が美味しいけどさ)
アイリスはその様子をむすっとしながら、見ていた。
「じょ、上達したって…?」
「い、いや。今までのが下だという訳ではないんです。こんなに病みつきになるのが初めてだというか。前までのが食べたくないとかいう訳じゃないのですが」
傷つけないように、言葉を選んでしどろもどろになる。
「オッケー。スコルの言いたいことは分かった」
アイザックはスコルを落ち着かせようとなだめる。
そして、後ろを振り返り、アイリスとこっそりと話す。
「俺の姿で料理振る舞ったりした?」
「う、うん。旅しているときは、酒場行ってばかりじゃなかったから」
「俺は危ないから、包丁持つな、火に近づくなって、言わなかったっけ?」
「それは、小さく弱い私の体だったからでしょ。力強く、旅の間に大きく成長したアイくんの体なら大丈夫かと思って。何より、アイくんの体は料理をするのに慣れているし」
アイリスのどやっとした顔をしながらの発言に、アイザックは頭を抱える。
アイリスは料理が下手である。
それは、アイザック、スコルを始めとする勇者パーティー仲間、そして村中が知っている。
そして、そのことをアイリスは自覚していないのである。
幼少期。
父親である村長は、自覚があるタイプの料理が苦手な人であった。
なので、世話をするに当たり、頼りにしたのが後に結婚相手となる女性であった。
料理はもちろん、他の家事もできなかったため、時には自身も教わりながらも、家事代行をお願いしていた。
アイリスとアイザックは成長するにつれ、彼女のお手伝いをしたくなっていった。
彼女もできそうなことを少しずつ教えていった。
アイリスたちが初めて刃物を持つことになったとき。
アイリスの手は傷だらけになってしまっていた。
血があらゆるところ、手以外の体の箇所からも吹き出ていたのを見て、誰もが悲鳴を上げた。
アイリスの小さい手には、まだ合わないのだろう。
当時はそう判断した。
アイリスの手に合う刃物がなかったため、成長するまで待つことにした。
しかし、成長して、手に合うようになっても、傷つくのは変わらない。
周りの人間は、アイリスは不器用なんだなと徐々に感じていた。
しかし、刃物だけではない。
火もいつの間にか火力を強めて、黒こげにしてしまう。
切った野菜も、みな不ぞろい。
妙な色や匂いを放つ。
そんな料理を見て、危機感を抱いたのは、一番身近で見ていたアイザックであった。
アイリスに料理を作らせたら、命がいくつあっても足りない。
アイザック自身が料理を上達しなくてはいけない。
それからは、うまいこと誘導して、アイリスを厨から引き離した。
二人で暮らすようになってからは、日ごとに当番制にしようとアイリスから言われても、料理が好きだと必死に主張し、もうアイザックの料理の上手さをアイリスも知っていたので、どうにかアイザックに専念させることができた。
しかし、アイザックの監視の目も、アイザックが勇者になったことで離れてしまう。
準備の一ヶ月の間に村中の人間に、アイリスを厨房に立たせるなと注意していく。
しかし、勇者として旅立ったのは、入れ替わってしまったアイリス。
前日であったために、アイリス本人には忠告するのを忘れていた。
それに気づいたのは、入れ替わっているのを忘れて、厨房に立ってしまい、注意されたとき。
手紙を送ろうにも、今どこにいるか分からず、死者を出さないように祈るだけしかできなかった。
一方、料理下手の自覚がないアイリスはまだ、スコルがいないときから、その腕前を発揮していた。
不ぞろいだったり丸ごとだったりする具材。
煙がぷすぷすと出ている。
不快な匂いが放っていた。
それを見て、顔を引き攣らせるメンバーたち。
野宿中なので、残すのは勿体ないと口に入れていく。
アイザック以外は、次の日まで目が覚めることはなかった。
また、次の日も、気持ち悪さや気分の不快さは残っていて、スピードが遅かったり、クエストでも不調が出たりした。
街にいるときは酒場で済ます。
しかし、野宿中となるとそうはいかない。
彼らも、引き離そうとするが、いつまでも見てはいられない。
料理に手が回らなくなった一瞬、自分は暇だからと、よかれと思って、手を出してしまう。
そして、変わり果てたものを見て、みな絶望するのだ。
スコルが入ってからは、メンバーの反応に大げさだ、主のことを悪く言うなと、忠犬ぶりを発揮するのだが、食べたあと泡を吹いて倒れたので、彼も料理下手さを思い知っている。
メンバーが一人増えたこと、スコルはいつもアイザックを見ているので、阻止できるのではと考えたが、回数は減少したものの、地獄を見るのは変わりなかったのであった。
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