たった一分の勇気。

長尾 隆生

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第四話 傷つき傷つけた中学校

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 中学時代は暗黒時代だった。

 小学生時代に陸上部で挫折を味わっていたボクは中学になっても何をやる気にもならず帰宅部になっていた。
 成績も中の上程度でクラスでも特に目立たず過ごしていた。
 小学校からの友人と中学で出来た友人たちもいたが特に深く関わることも無く日々が過ぎていった。

 そんなある日の試験でボクは完全に予想を外し、初めて赤点補習を受けることになったんだ。
 その補習には自分のクラスだけじゃなく学年すべてのクラスから赤点生徒が集められていた。
 彼女はその中の一人として俺の前に現れた。
 見かけは少し不良っぽい感じだったので最初は怖くて避けたかったが席がボクのちょうど後ろになったせいでよく話しかけられるようになった。
 彼女の名前はリアさん。
 髪の毛は天然パーマらしく色素も薄くて地毛証明書とか言うのをもらっているらしい。
 大変だねと言ったら「もう慣れたわ」と少しほほえんでくれた。

 人を好きになるきっかけなんてそんなわずかな出来事でかまわない。

 補習の時間がこんなに楽しいなんて初めて知った。
 ボクは彼女と答え合わせをしたり、休憩時間にたわいも無い話をするのが好きだった。
 何気なく天然パーマの髪をかき上げる仕草にドキドキしたりした。
 彼女のクラスからは彼女しかこの授業では赤点補習者がでなかったらしく別のクラスなのにボクとよく話していた。

 一度「どうしてこんなに頭がいいのに補習に来てるの?」と言われたっけ。
「いやいや、頭がいいわけじゃないからいつも一夜漬けでなんとかしてたんだけどヤマがはずれちゃったんだよ」
 そう返すと彼女はなぜかおかしそうに笑ったのを覚えている。

 そんな日々もやがて終わりを告げる。

 最後の補習。そして再試験。
 元々赤点をとったこと自体が不思議だったボクは楽々と赤点を突破し、一緒に勉強した彼女もギリギリながら再補習を逃れた。
 ボクとしては一緒にもう一度補習してもよかったんだけどそんなこと言えるわけも無い。

 彼女とは時々廊下で会ったら少し話をして分かれる程度の関係にはなっていた。
 休み時間に偶然を装って声をかけたこともあったっけ。
 あの時のボクも結構頑張ったと思う。

 でも最後の勇気が出なかった。

 そんな日々が続いていたある日、その事件は起こったんだ。

 ボクが昼休み廊下を歩いていると角の先から言い争うような声が聞こえた。
 その片方が彼女の声だと気がついたときにはもうかけだしていたと思う。
 角から飛び出すとその先で一人の教師に彼女は捕まっていた。

 その教師は先日産休のためにしばらく休むと言っていた先生の代わりにやってきた臨時教師だった。
 聞こえてくる言葉をつなぎ合わせると校則が厳しい事で有名なその学校から臨時でやってきていたその教師は彼女の天然パーマが校則違反だと言って聞かないらしい。
 もちろんボクは彼女の髪が地毛で証明書を持っているのを知っている。

 このときボクに一歩踏み出す勇気があれば未来は変わっていただろう。

 ボクがその先生のあまりの剣幕にたじろいでいる間に事態は進んでしまった。
 教室から出てきた男子生徒が彼女をかばうかのようにその先生にくってかかったんだ。
 
 やがてほかの生徒が呼びに行ったのか彼女のクラス担任がやってきてその場を納め三人を職員室へ連れて行った。
 後から聞いたところによると臨時教師に理不尽な話の結果とはいえ手を出してしまった男子生徒は三日間の謹慎。
 臨時教師は知らなかったとはいえ生徒の心に傷をつけた事を、物事を大きくしない大人の判断というやつで別の教師と交代することになったそうな。
 彼女は以上の処分で臨時教師の行動を『許す』と念書を書かされたらしい。

 その話を教えてくれた彼女は最後に「あの時なぜ助けてくれなかったの?」と言って去って行った。
 彼女には立ち尽くし、一歩も踏み出せないボクの姿が見えていたのだろう。

 彼女の言葉がずっと胸に突き刺さったままボクはその後の中学生活を終えたんだ。
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