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第二部 世界が痛い
ASDのこだわりと暮らす――「マイルールの正体」と私なりの対策
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はじめに
ASDと診断されてから、自分の中でずっと引っかかっていた言葉があります。
それは「こだわり」です。
診断前後のカウンセリングでも、「ここがこだわりですね」「かなり構造化して生活していますね」と言われました。
でも、そのときの私は正直あまりピンときませんでした。
「こだわり」と言われると、私は長い間、特定の趣味に強くのめり込むことや、同じものを集めることのようなイメージを持っていました。
だから、自分にはそういう分かりやすいものはないと思っていたのです。
けれど、あとから振り返ってみると、私のこだわりは別の形でずっと生活の中にありました。
好き嫌いというより、生活を回すためのルール。
安心して前に進むためのマイルール。
それが、私にとっての「こだわり」だったのだと思います。
〇私のこだわりは、生活の中にあった
たとえば、買い物にはいつもマイルールがありました。
しかもそのルールは、その時々で必要に応じて変わっていきました。
小学生の頃は、お小遣いの範囲で買い物をすることを強く意識していました。
高校生の頃は、「財布の中を0円にする」というルールがありました。
端数まで計算して、ぴったり0円にならないなら買わない。
財布の中が2245円なら、11円と234円のように組み合わせを考える。
ぴったりにならないなら、その日は買い物をしない。そんな感じでした。
社会人になると、「買い物は週1回だけ」というルールになりました。
毎週1回しか買い物をせず、まとめ買いをする。
冷蔵庫の中がなくなっても、次の買い物まで我慢する。
帰省前には、冷蔵庫の中身を調味料以外ほぼ0にするために、食べ切れるように計画して料理し、買い物量も調整していました。
結婚後は、ポイント還元も大きな判断基準になりました。
ポイント3倍でなければ買わない。
WAONなら、チャージでポイント、買い物でポイント、倍率アップでポイント。
地域スーパーなら、Edy支払いでポイント、倍率アップデーでポイント、さらに併設施設へレシートを提出してポイント。
どうすればいちばん無駄なく回せるかを考えていました。
今はさらに、クローズド懸賞の応募も買い物に組み込んでいます。
毎月クローズド懸賞を調べて、1回の買い物で複数応募できるように組み立てる。
ただし、家族と一緒の買い物ではこのルールは適用しない、という例外もあります。
家事も同じでした。
料理、洗濯、ゴミ出しなどについて週間スケジュール帳を作っていました。
買い物はメモをしてから行く。
その場の気分で動くというより、決めた手順や予定に沿って生活していました。
こうして書いてみると、私はずっと、かなり強く生活をルール化していたのだと思います。
〇でも本人には、それが「こだわり」に見えなかった
ただ、私にとってそれは「こだわり」ではありませんでした。
好きで細かくしている、という感覚ではなく、
そのほうがやりやすい。
そのほうが安心できる。
そうしないと生活が回らない。
そういう感覚でした。
だから、周囲から「どうしてそんな事をするの?」「もっと気楽にしたら」と言われても、最初はうまく理解できませんでした。
自分の中では、ただ普通に暮らすための工夫だったからです。
でも今は、そういう「普通に暮らすための工夫」そのものが、私にとってのこだわりだったのだと思っています。
〇感覚過敏とこだわり――私の印象に残る出来事
小学生の時、数人の同級生と一緒に学校へ向かっていました。
誰かが笑いながら走り出し、私も一緒に走ろうとしました。
みんなが笑っている。
眩しい太陽の光の中を、みんなが走り出す。
楽しそう。
ついていかないと。
私も一緒に。
次の瞬間、私は大きくて深い水路に落ちました。
本当に、一瞬で目の前が真っ暗になります。
落ちる時に、右太ももの内側を広く深く擦りむきました。
でも、その傷の痛みよりも先にあったのは、申し訳なさでした。
笑っていたみんなが慌てて引き返してきて、私の両手をつかみ、なんとか引っ張り上げてくれました。
血だらけの足を見て、何人かが悲鳴を上げました。
学校まで、みんなが気を使いながら一緒に歩いてくれました。
でも私は、ただ、みんなに笑っていてほしかった。
笑っているみんなを見ていたかった。
できれば一緒についていきたかった。
ただ、それだけだったのに。
足の傷はだんだんヒリヒリしてきました。
でも涙が出たのは、痛いからではありませんでした。
楽しそうで明るい世界を、私が邪魔してしまった。
そう思ったからです。
なぜ落ちたのか。
自分でも分かりませんでした。
全く気がつかなかった。
落ちるような気がしなかった。
でも、なんとなく分かることがありました。
一人なら、たぶん落ちなかった。
楽しそうなみんなを見て、ついていきたいと思って、いつもはゆっくり歩く道を走ってみた。
きっと私には、それがとても危ないことだったのだと思います。
誰かと一緒に歩くこと。
いつもと違うことをすること。
誰かと笑いながら進むこと。
それから私は、一人で歩くようにしました。
一人でも、溝に足が入ることはあります。
生け垣にぶつかることもあります。
それでも、こけたらゆっくり立ち上がればいい。
ぶつかっても、少し立ち止まって立て直せばいい。
怪我をしても、迷惑をかけない。
笑っているみんなを邪魔しない。
自分が安全に、できるだけ怪我をせず、周囲に迷惑をかけないための「私のマイルール」。
それが私の「こだわり」だと思います。
〇強い刺激が重なると、世界が欠ける
強い光。
たくさんの声。
身体の動き。
そういうものが重なると、私の脳は処理ができなくなります。
目の前に溝がある。
それを避けて走る。
そんな当たり前のことができないのです。
そもそも溝そのものを認識できない。
他の強い感覚に押しつぶされて、世界の一部が欠けるような印象があります。
ASDの脳の偏りは、感覚過敏だけではありません。
私は大人になってから、注意機能が低いと言われました。
全体のIQは低くありません。
むしろ平均より高めです。
でも凹凸が激しく、110を超えるところもあれば、80以下のところもある。
それを聞いて、なんとなく納得しました。
私は昔から、一度にたくさんのことができないと感じていました。
一つずつする。
歩く時は、歩くだけ。
歩く時は、話さない。
歩く時は、一人で歩く。
友達に誘われた時も、遊びに行く時も、いつも意識していました。
自分を守るためだけではありません。
笑って楽しそうなみんなの世界を、壊したくなかったからです。
〇本当に大変だったのは、「こだわりがあること」ではなく「崩れたとき」だった
問題は、ルールがあること自体ではなく、それが崩れた時でした。
ルールや予定が崩れると、私は強く反応します。
すごくイライラする。
不満が爆発する。
崩した自分や他人を責めてしまう。
「どうしてできなかったんだろう」と何度も考え続ける。
疲労が強く、落ち込むこともある。
立て直しに時間がかかる。
今なら、ここまで含めて「こだわり」だったのだと思います。
ただ生活を整えているだけに見えても、そこが崩れた時の反応が強い。
しかも、その後もしばらく引きずる。
このしんどさがあるからこそ、私は生活をルール化していたのだと感じます。
〇こだわりは、私にとって「精神的な杖」だった
ASDのこだわりについて考えていて、私の中では「精神的な杖」という表現がいちばんしっくりきました。
こだわりは、ただの癖でも、面倒な性格でもなく、前に進むために必要な支えだったのだと思います。
杖があるから歩ける。
杖があるからバランスを取れる。
杖があるから、転びそうになっても何とか進める。
私にとってのこだわりは、そういうものだったのかもしれません。
でも、杖は増えればいいというものでもありません。
こだわりが増えすぎると、杖が何本もある状態になります。
1本なら支えになるのに、2本、3本、4本と増えていくと、今度は持ちきれなくなる。
どれを使えばいいのか分からなくなり、身動きが取れなくなることがある。
だからといって、こだわりを否定すればいいわけでもありません。
「そんなルールいらない」
「気にしすぎ」
「やめればいい」
そう言われて杖を取り上げられてしまったら、私は前に進めません。
支えがなくなれば、かえって立てなくなるからです。
また、こだわりを無理に改造しすぎるのも難しいと感じます。
たとえば木の杖を、もっと便利にしようとして金属製にして、機能をどんどん追加していく。
それで強く便利になるかと思いきや、多機能すぎて扱えなくなり、エラーが増えて、結局使えなくなる。
そんな感じです。
だから私が思うのは、杖は1本でいいということです。
その時に必要な杖を、1本だけ持つ。
全部を同時に持とうとしない。
今の場面に必要な支えを、ひとつ選ぶ。
〇こだわりへの対策は、「なくすこと」ではなく「整理して使うこと」
さらに言えば、私は「インデックスを持ち歩く」感覚が大事なのではないかと思っています。
いろいろな場面に対応するための杖を全部手に持つのではなく、スマホや手帳の中に、「こういう時はこの杖」というデータをまとめておく。
必要になったら取り出して、今の場面に合う杖に交換する。
買い物の時の杖。
外出の時の杖。
体調不良の時の杖。
人と一緒に動く時の杖。
全部を一度に抱えるのではなく、必要な場面で必要な支えに持ち替える。
そう考えると、こだわりは「なくすもの」ではなく、使いやすい形に整理していくものなのかもしれません。
私自身、対策として有効だと感じているのは、こだわりを全部なくそうとしないことです。
こだわりの部分は生活を支える仕組みでもあるので、そこは大事にしつつ、崩れた時のための「例外ルール」を作っておくことが重要だと思います。
たとえば、例外パターンごとにルールを決めておく。
事前に確認作業をして、見通しを持ってから動く。
把握できない時は、誰かについていくだけにする。
好きな物を1個だけ買う。
今日は○○だけ買う。
A→B→Cの順に移動する。
私にとってはずっと普通にやってきたことなので、最初は「対策」と言えるほどのものではない気がしていました。
でも、こういう当たり前に見える工夫のほうが、実際には役立つこともあるのだと思います。
〇買い物は「頑張り方」ではなく「方法選び」も対策になる
買い物の負担を減らすには、気合いで頑張るより、どの買い物手段を使うかを選ぶことも大事だと思っています。
・スーパーを使う場合
実物を見て選べる。
その場で必要な物を確認できる。
欠品時に代替品を見て決めやすい。
すぐ手に入る。
一方で、メモがないと抜けやすい。
BGMが大音量でしんどいことがある。
時間帯によっては人混みが強い。
想定外の刺激が多い。
私の場合は、買い物メモを必須にして、開店直後、平日、夜間など人が少ない時間帯を選ぶことで負担を減らしています。
・ネットスーパーを使う場合
外出困難な時でも買い物ができる。
店内の音や人混みを避けられる。
家で落ち着いて選べる。
重い物の負担が減る。
ただ、欠品があるとパニックになりやすい。
実物を見られない。
画面上の選択が逆に疲れることもある。
届くまで時間差がある。
なので、絶対必要な物と代替可能な物を分けておいたり、欠品時の代替候補を先に決めておくと少し楽になります。
・コープを使う場合
自宅まで運んでくれる。
外出回数を減らせる。
定番品の補充には向いている。
一方で、先週の注文を忘れて二重買いしやすい。
ストックが増えすぎるとそれ自体がストレスになる。
個別配送の費用がかかる。
商品単価が高めに感じることもある。
そのため、定番品だけに絞る、収納場所に入る量までと決める、という工夫が必要だと感じています。
買い物手段には、それぞれ向き不向きがあります。
だから、「どれが正解か」ではなく、その時の体調や特性に合わせて使い分けることが大事なのだと思います。
〇マイルールを否定されたことのある人へ
もしこれまで、自分のマイルールやこだわりを
「細かすぎる」
「面倒くさい」
「気にしすぎ」
「そんなのやめればいい」
と言われたことがあるなら、まず伝えたいことがあります。
それは、あなたが必死に守ってきたそのルールには、ちゃんと意味があったかもしれない、ということです。
周りから見ると、ただのこだわりや融通のきかなさに見えたとしても、本人にとってはそうではないことがあります。
それは、安心して動くための方法だったり、混乱しないための工夫だったり、失敗や疲れを減らすための仕組みだったりします。
つまり、それは単なる「変な癖」ではなく、自分を守るために身につけたやり方だったのかもしれません。
もちろん、そのルールが苦しさにつながることもあります。
崩れたときに強くつらくなったり、自分でも生きづらさを感じたりすることもあります。
だから調整は必要になることがあるし、例外ルールを作ったり、少しずつやりやすい形に変えていくことも大切だと思います。
でも、だからといって、最初から全部を否定されていいものではないはずです。
あなたが作ってきたルールは、何もないところからただ勝手に生まれたものではなく、たぶんこれまでの生活の中で、困ったことや苦しかったことがあって、そのたびに何とかやっていくために作られてきたものです。
そう考えると、マイルールがあることは、弱さの証拠ではなく、自分なりに生活を立て直してきた力の証拠でもあるのだと思います。
時間がかかってもいい。
他の人と違ってもいい。
自分のペースで前に進めればいい。
杖を持って歩くことは、弱さではないと思います。
それは、自分に必要な支えを知っているということでもあるからです。
ASDと診断されてから、自分の中でずっと引っかかっていた言葉があります。
それは「こだわり」です。
診断前後のカウンセリングでも、「ここがこだわりですね」「かなり構造化して生活していますね」と言われました。
でも、そのときの私は正直あまりピンときませんでした。
「こだわり」と言われると、私は長い間、特定の趣味に強くのめり込むことや、同じものを集めることのようなイメージを持っていました。
だから、自分にはそういう分かりやすいものはないと思っていたのです。
けれど、あとから振り返ってみると、私のこだわりは別の形でずっと生活の中にありました。
好き嫌いというより、生活を回すためのルール。
安心して前に進むためのマイルール。
それが、私にとっての「こだわり」だったのだと思います。
〇私のこだわりは、生活の中にあった
たとえば、買い物にはいつもマイルールがありました。
しかもそのルールは、その時々で必要に応じて変わっていきました。
小学生の頃は、お小遣いの範囲で買い物をすることを強く意識していました。
高校生の頃は、「財布の中を0円にする」というルールがありました。
端数まで計算して、ぴったり0円にならないなら買わない。
財布の中が2245円なら、11円と234円のように組み合わせを考える。
ぴったりにならないなら、その日は買い物をしない。そんな感じでした。
社会人になると、「買い物は週1回だけ」というルールになりました。
毎週1回しか買い物をせず、まとめ買いをする。
冷蔵庫の中がなくなっても、次の買い物まで我慢する。
帰省前には、冷蔵庫の中身を調味料以外ほぼ0にするために、食べ切れるように計画して料理し、買い物量も調整していました。
結婚後は、ポイント還元も大きな判断基準になりました。
ポイント3倍でなければ買わない。
WAONなら、チャージでポイント、買い物でポイント、倍率アップでポイント。
地域スーパーなら、Edy支払いでポイント、倍率アップデーでポイント、さらに併設施設へレシートを提出してポイント。
どうすればいちばん無駄なく回せるかを考えていました。
今はさらに、クローズド懸賞の応募も買い物に組み込んでいます。
毎月クローズド懸賞を調べて、1回の買い物で複数応募できるように組み立てる。
ただし、家族と一緒の買い物ではこのルールは適用しない、という例外もあります。
家事も同じでした。
料理、洗濯、ゴミ出しなどについて週間スケジュール帳を作っていました。
買い物はメモをしてから行く。
その場の気分で動くというより、決めた手順や予定に沿って生活していました。
こうして書いてみると、私はずっと、かなり強く生活をルール化していたのだと思います。
〇でも本人には、それが「こだわり」に見えなかった
ただ、私にとってそれは「こだわり」ではありませんでした。
好きで細かくしている、という感覚ではなく、
そのほうがやりやすい。
そのほうが安心できる。
そうしないと生活が回らない。
そういう感覚でした。
だから、周囲から「どうしてそんな事をするの?」「もっと気楽にしたら」と言われても、最初はうまく理解できませんでした。
自分の中では、ただ普通に暮らすための工夫だったからです。
でも今は、そういう「普通に暮らすための工夫」そのものが、私にとってのこだわりだったのだと思っています。
〇感覚過敏とこだわり――私の印象に残る出来事
小学生の時、数人の同級生と一緒に学校へ向かっていました。
誰かが笑いながら走り出し、私も一緒に走ろうとしました。
みんなが笑っている。
眩しい太陽の光の中を、みんなが走り出す。
楽しそう。
ついていかないと。
私も一緒に。
次の瞬間、私は大きくて深い水路に落ちました。
本当に、一瞬で目の前が真っ暗になります。
落ちる時に、右太ももの内側を広く深く擦りむきました。
でも、その傷の痛みよりも先にあったのは、申し訳なさでした。
笑っていたみんなが慌てて引き返してきて、私の両手をつかみ、なんとか引っ張り上げてくれました。
血だらけの足を見て、何人かが悲鳴を上げました。
学校まで、みんなが気を使いながら一緒に歩いてくれました。
でも私は、ただ、みんなに笑っていてほしかった。
笑っているみんなを見ていたかった。
できれば一緒についていきたかった。
ただ、それだけだったのに。
足の傷はだんだんヒリヒリしてきました。
でも涙が出たのは、痛いからではありませんでした。
楽しそうで明るい世界を、私が邪魔してしまった。
そう思ったからです。
なぜ落ちたのか。
自分でも分かりませんでした。
全く気がつかなかった。
落ちるような気がしなかった。
でも、なんとなく分かることがありました。
一人なら、たぶん落ちなかった。
楽しそうなみんなを見て、ついていきたいと思って、いつもはゆっくり歩く道を走ってみた。
きっと私には、それがとても危ないことだったのだと思います。
誰かと一緒に歩くこと。
いつもと違うことをすること。
誰かと笑いながら進むこと。
それから私は、一人で歩くようにしました。
一人でも、溝に足が入ることはあります。
生け垣にぶつかることもあります。
それでも、こけたらゆっくり立ち上がればいい。
ぶつかっても、少し立ち止まって立て直せばいい。
怪我をしても、迷惑をかけない。
笑っているみんなを邪魔しない。
自分が安全に、できるだけ怪我をせず、周囲に迷惑をかけないための「私のマイルール」。
それが私の「こだわり」だと思います。
〇強い刺激が重なると、世界が欠ける
強い光。
たくさんの声。
身体の動き。
そういうものが重なると、私の脳は処理ができなくなります。
目の前に溝がある。
それを避けて走る。
そんな当たり前のことができないのです。
そもそも溝そのものを認識できない。
他の強い感覚に押しつぶされて、世界の一部が欠けるような印象があります。
ASDの脳の偏りは、感覚過敏だけではありません。
私は大人になってから、注意機能が低いと言われました。
全体のIQは低くありません。
むしろ平均より高めです。
でも凹凸が激しく、110を超えるところもあれば、80以下のところもある。
それを聞いて、なんとなく納得しました。
私は昔から、一度にたくさんのことができないと感じていました。
一つずつする。
歩く時は、歩くだけ。
歩く時は、話さない。
歩く時は、一人で歩く。
友達に誘われた時も、遊びに行く時も、いつも意識していました。
自分を守るためだけではありません。
笑って楽しそうなみんなの世界を、壊したくなかったからです。
〇本当に大変だったのは、「こだわりがあること」ではなく「崩れたとき」だった
問題は、ルールがあること自体ではなく、それが崩れた時でした。
ルールや予定が崩れると、私は強く反応します。
すごくイライラする。
不満が爆発する。
崩した自分や他人を責めてしまう。
「どうしてできなかったんだろう」と何度も考え続ける。
疲労が強く、落ち込むこともある。
立て直しに時間がかかる。
今なら、ここまで含めて「こだわり」だったのだと思います。
ただ生活を整えているだけに見えても、そこが崩れた時の反応が強い。
しかも、その後もしばらく引きずる。
このしんどさがあるからこそ、私は生活をルール化していたのだと感じます。
〇こだわりは、私にとって「精神的な杖」だった
ASDのこだわりについて考えていて、私の中では「精神的な杖」という表現がいちばんしっくりきました。
こだわりは、ただの癖でも、面倒な性格でもなく、前に進むために必要な支えだったのだと思います。
杖があるから歩ける。
杖があるからバランスを取れる。
杖があるから、転びそうになっても何とか進める。
私にとってのこだわりは、そういうものだったのかもしれません。
でも、杖は増えればいいというものでもありません。
こだわりが増えすぎると、杖が何本もある状態になります。
1本なら支えになるのに、2本、3本、4本と増えていくと、今度は持ちきれなくなる。
どれを使えばいいのか分からなくなり、身動きが取れなくなることがある。
だからといって、こだわりを否定すればいいわけでもありません。
「そんなルールいらない」
「気にしすぎ」
「やめればいい」
そう言われて杖を取り上げられてしまったら、私は前に進めません。
支えがなくなれば、かえって立てなくなるからです。
また、こだわりを無理に改造しすぎるのも難しいと感じます。
たとえば木の杖を、もっと便利にしようとして金属製にして、機能をどんどん追加していく。
それで強く便利になるかと思いきや、多機能すぎて扱えなくなり、エラーが増えて、結局使えなくなる。
そんな感じです。
だから私が思うのは、杖は1本でいいということです。
その時に必要な杖を、1本だけ持つ。
全部を同時に持とうとしない。
今の場面に必要な支えを、ひとつ選ぶ。
〇こだわりへの対策は、「なくすこと」ではなく「整理して使うこと」
さらに言えば、私は「インデックスを持ち歩く」感覚が大事なのではないかと思っています。
いろいろな場面に対応するための杖を全部手に持つのではなく、スマホや手帳の中に、「こういう時はこの杖」というデータをまとめておく。
必要になったら取り出して、今の場面に合う杖に交換する。
買い物の時の杖。
外出の時の杖。
体調不良の時の杖。
人と一緒に動く時の杖。
全部を一度に抱えるのではなく、必要な場面で必要な支えに持ち替える。
そう考えると、こだわりは「なくすもの」ではなく、使いやすい形に整理していくものなのかもしれません。
私自身、対策として有効だと感じているのは、こだわりを全部なくそうとしないことです。
こだわりの部分は生活を支える仕組みでもあるので、そこは大事にしつつ、崩れた時のための「例外ルール」を作っておくことが重要だと思います。
たとえば、例外パターンごとにルールを決めておく。
事前に確認作業をして、見通しを持ってから動く。
把握できない時は、誰かについていくだけにする。
好きな物を1個だけ買う。
今日は○○だけ買う。
A→B→Cの順に移動する。
私にとってはずっと普通にやってきたことなので、最初は「対策」と言えるほどのものではない気がしていました。
でも、こういう当たり前に見える工夫のほうが、実際には役立つこともあるのだと思います。
〇買い物は「頑張り方」ではなく「方法選び」も対策になる
買い物の負担を減らすには、気合いで頑張るより、どの買い物手段を使うかを選ぶことも大事だと思っています。
・スーパーを使う場合
実物を見て選べる。
その場で必要な物を確認できる。
欠品時に代替品を見て決めやすい。
すぐ手に入る。
一方で、メモがないと抜けやすい。
BGMが大音量でしんどいことがある。
時間帯によっては人混みが強い。
想定外の刺激が多い。
私の場合は、買い物メモを必須にして、開店直後、平日、夜間など人が少ない時間帯を選ぶことで負担を減らしています。
・ネットスーパーを使う場合
外出困難な時でも買い物ができる。
店内の音や人混みを避けられる。
家で落ち着いて選べる。
重い物の負担が減る。
ただ、欠品があるとパニックになりやすい。
実物を見られない。
画面上の選択が逆に疲れることもある。
届くまで時間差がある。
なので、絶対必要な物と代替可能な物を分けておいたり、欠品時の代替候補を先に決めておくと少し楽になります。
・コープを使う場合
自宅まで運んでくれる。
外出回数を減らせる。
定番品の補充には向いている。
一方で、先週の注文を忘れて二重買いしやすい。
ストックが増えすぎるとそれ自体がストレスになる。
個別配送の費用がかかる。
商品単価が高めに感じることもある。
そのため、定番品だけに絞る、収納場所に入る量までと決める、という工夫が必要だと感じています。
買い物手段には、それぞれ向き不向きがあります。
だから、「どれが正解か」ではなく、その時の体調や特性に合わせて使い分けることが大事なのだと思います。
〇マイルールを否定されたことのある人へ
もしこれまで、自分のマイルールやこだわりを
「細かすぎる」
「面倒くさい」
「気にしすぎ」
「そんなのやめればいい」
と言われたことがあるなら、まず伝えたいことがあります。
それは、あなたが必死に守ってきたそのルールには、ちゃんと意味があったかもしれない、ということです。
周りから見ると、ただのこだわりや融通のきかなさに見えたとしても、本人にとってはそうではないことがあります。
それは、安心して動くための方法だったり、混乱しないための工夫だったり、失敗や疲れを減らすための仕組みだったりします。
つまり、それは単なる「変な癖」ではなく、自分を守るために身につけたやり方だったのかもしれません。
もちろん、そのルールが苦しさにつながることもあります。
崩れたときに強くつらくなったり、自分でも生きづらさを感じたりすることもあります。
だから調整は必要になることがあるし、例外ルールを作ったり、少しずつやりやすい形に変えていくことも大切だと思います。
でも、だからといって、最初から全部を否定されていいものではないはずです。
あなたが作ってきたルールは、何もないところからただ勝手に生まれたものではなく、たぶんこれまでの生活の中で、困ったことや苦しかったことがあって、そのたびに何とかやっていくために作られてきたものです。
そう考えると、マイルールがあることは、弱さの証拠ではなく、自分なりに生活を立て直してきた力の証拠でもあるのだと思います。
時間がかかってもいい。
他の人と違ってもいい。
自分のペースで前に進めればいい。
杖を持って歩くことは、弱さではないと思います。
それは、自分に必要な支えを知っているということでもあるからです。
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第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
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第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
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