旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それぞれの絆

【旦】雪緒の爆弾

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『お二人は、お互いのおちん、ぺにすをお触りになりました事がありますでしょうか!? また、どの様にしてお互いのおち、ぺにすをお触りになるのでしょうか!?』

 と、雪緒ゆきおが病院で橘達に爆弾を投げ付けたのが数刻前だ。
 今、俺達は帰宅して茶の間で、卓袱台を挟んで向かい合って座り、雪緒が煎れてくれた茶を飲んで、気を落ち着かせている処だ。

「…お前…未だ気にして居たのか…」

 コトリと湯呑みを卓袱台に置いて、俺は口を開く。

 あれで納得したと思っていたのだが、俺の言い方が悪かったのか…。

「…は…その…あの様な場所で申し訳ございませんでした。ですが、どうしても気になってしまいまして…」

 座布団から下りて、後ろに下がり雪緒は畳に三つ指を付いてこうべを垂れる。

「以前にも言ったがな、俺はお前に無理強いをさせるつもりは無い。誰かがしているからと言って、お前が無理にそれをする必要は無いんだ。解るな?」

「…お解りにならないのは、です」

「…何?」 

 顔を上げた雪緒は、軽く唇を尖らせて不満そうに俺を見て来た。

 …は…? こいつ…拗ねている…のか…? 何故だ?

「…僕は…僕の意思で旦那様のおち…ぺにすに触りたいのです。それは、以前にも口にしています」

 ――――――――――は…?

「…何時…?」

「…この指輪を戴きました時に…奥様の墓前で…途中で止められましたけれど…」

 そう言って、僅かに頬を赤らめながら、左手にある指輪を雪緒が撫でる。

 …………そう言われれば…確かに…その様な事を言い掛けていた様な…?

「みくちゃん様にお聞きしましても、明確な答えは得られず、橘様達ならば答えて下さるかも、と思ったのですが…」

「…お前な…」

 額に手をあてて、俺は唸ってしまう。
 余りな雪緒の物言いに、頭がクラクラする。とにかくは、また、みくか。後で絞めるしかあるまい。

「…旦那様にして戴くそれは、とても幸せな気持ちになるのです。ですから、僕もそれを旦那様に感じて欲しいのです。僕の手で…僕が旦那様を幸せに導きたいのです…こんな風に思う僕はお嫌ですか? はしたないと思いますか?」

「…ぐ…っ…!」

 胸に片手をあてて軽く頬を染めて、更には上目遣いで目尻に涙を浮かべて来るとは、誰に教わったんだ? これも、みくか? いや、風呂に誘われた時は天野だったな? あの夫婦揃って、特別に扱いてやろう、そうしよう、そう決めた。

「…旦那様…」

「ぐ、う…っ…! あ、明日は未だ平日だろう…っ…!!」

「はい。それがどうかされましたか?」

 どうかするだろうっ!!
 まさか、こいつ触っただけで終わりだと思っているのか!? ここまで煽られて、それで終わると思っているのか!?

「とにかく! それは、休みの前日に…っ…!」

「嫌です! 旦那様がお嫌で無いのでしたら、今、それをしたいのです! 今のこの機会を逃したら、僕はまた、旦那様にされるがままになります! 僕だけが幸せだなんて嫌なのです!」

 お前は俺を殺す気かっ!!
 目を真っ赤に染めて俺を見るな!
 胸にあてた手が震えているな!? ああっ!!

 右手でガシガシと頭を掻いて、俺は意を決する。

「………風呂を沸かせ…」
 
「はい?」

 俺の言葉に、雪緒が軽く目を瞬かせて、こてんと首を傾げた。

「…背中を洗ってくれ…。…洗う時に…手が滑って…その…まあ…偶然…触る事もあるだろう…」

「…だ…ゆかり様…っ…! はい、ただいまっ!!」

 真っ直ぐな丸みを帯びた目から、僅かに視線を逸しながら俺がそう言えば、雪緒は即座に顔を明るくして茶の間から出て行った。
 その後ろ姿を見送って俺は身体から力を抜き、ガクリと肩を落とす。

「…一体…何の拷問なんだ…これは…」

 …だが…と、俺は口元を緩ませる。
 これで雪緒の憂いが晴れて、喜んでくれるのならば、それで良い。雪緒が喜ぶのならば、どんな拷問にも耐えてみせよう。

 ◇

「…………………………」

 俺はひたすら頭の中に、脳天気なとある親父を思い浮かべていた。その親父は鼻歌を歌いながら、軽やかに飛び跳ねている。

「…わあ…本当に…大きいです…」

 背中に居る雪緒が、俺よりは小さいその手で、俺の逸物を興味深そうに触っている。 

 風呂が沸き、脱衣場にて着物を脱いでいたら、雪緒が当然の様に着物を脱ごうとしたので、俺は慌てて止めた。背中を洗うだけだから、脱ぐ必要は無い、と。何時かの様に袖を捲り、裾も捲り上げるだけで良いと。

 …しかし、こうも背中に張り付いていては、着物はさぞかし濡れている事だろう…その肌に張り付い…。

「わ!? 大きくなりました!? 凄いです! やはり、実際に見ると違いますね!」

「…落ち着け…」

 雪緒が何かを言う度に、頭の中に居る親父の数が増えて行く。

「あ、少しお元気が無くなりました?」

 …頼むから、何も言わないでくれ…。

 頭の中の親父が、顎に指をあてて身をくねらせている。その親父の数が更に増えて行く。
 こんな処で、あの親父が役に立つとは何て因果だ。
 雪緒は、ただ、純粋に触りたいだけなのだ。俺を幸せにしたいと。だから、俺は喜ばなければならないのだが。だが。ここで、その喜びに身を任せる訳には行かない。葉山からの忠告を忘れるな。色香の溢れた雪緒を野に放つ訳には行かんのだ。

「…ふふ…幸せですか、紫様…?」

「…ああ…」

 嬉しそうな雪緒の声に、俺は遠い目をして頷く。
 頭の中は、花が生えた親父で一杯だ…。
 …………………頼むから…もう二度と思い浮かぶ事の無い様にしてくれ…。

『ふんふんふ~ん』

 と、頭の中の親父達は、何時までも鼻歌を歌っていた。
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