旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それぞれの絆

【雪】懐かしい味

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 ことりと目の前に置かれたそれに、僕は目を瞬かせました。
 鮮やかな黄色を濃い茶色が包む様に巻いてあります、それは…。

「ああ、安心して良い。完成版のこれは、皆、喜んで食っていたし、料理長にも太鼓判を押された。そら、食ってみてくれ」

 …こちらにありますのは、僕が好きな食べ物の一つの伊達巻きです。
 これをゆかり様が…?

「…皆様でご協力されたと云う事ですか…? 僕の為に…」

 僕は、両手で伊達巻きの乗ったお皿を持ち、それをじっくりと見ます。
 とても綺麗な形に色です。これを作れる様になるまで、どれだけの時間が掛かったのでしょう?
 ここの処、朝早かったのは、この伊達巻きを作る為…皆様方のご協力を仰いで…僕の為に…。
 とても、胸がぽかぽかとします。
 そして、とてもむずむずとして来ます。
 じっと見ている訳にも行きませんね。僕は『戴きます』と箸を手に取りました。
 そっと箸を乗せれば、すうっと吸い込まれて行きます。見た目通りに、とても柔らかいのですね。これを巻くのはとても苦労したと思います。伊達巻きを作るのが好きなみくちゃん様も、時々失敗されると言っていましたものね。
 一口程の大きさにしました伊達巻きを、口の中へと入れましたら、途端にほわりとした甘さが広がりました。伊達巻きはとても柔らかく、噛まなくても飲み込めそうですが、その様な食べ方は伊達巻きと紫様に大変失礼ですので、ゆっくりと、溶けて行きそうなそれを噛み締めました。
 とても優しい甘さで、それが何故だか懐かしいと思いました。
 僕の為に、僕の為だけに作られた伊達巻き…。

『雪緖君を想いながら作ったから!』

『ゆきおの為に作ったからな!』

 そう思った時、懐かしい思い出が蘇って来ました。
 
 …ああ、そうです…。
 
 誰かを想いながら作る料理は、とても美味しいのです。
 懐かしさに、口元を綻ばせる僕に、紫様が聞いて来ます。

 は?
 え?

 何故、みくちゃん様と比べる様な事を口にされるのでしょう?
 この伊達巻きは、紫様が僕を想いながら、僕の為に作って下さった物ですよね?
 こちらの代わりになる様な物等、何処にも在りませんのに?
 そんな哀しくなる様な事を仰らないで下さい。
 僕は、とても嬉しかったのですから。
 そんな想いから、一気に言葉にして、少し大人気が無かったでしょうかと恥ずかしくなり、すっかり冷えたお茶を手に取りました。
 ですが。
 また、紫様がお作りになりました伊達巻きを食べたいです。
 そう、口にしましたら、頭を撫でられました。
 僕の手とは違う、大きな手です。
 ごつごつとしていますが、この手がとても優しい事を僕は知っています。
 うっとりと目を細めた処で、紫様が席を立ちました。
 …危なかったです。つい、気持ちが良くて眠りに落ちてしまう処でした。
 せっかくの紫様の手料理を、食べずに眠るだなんて許されません。これらも、紫様が僕の為に作って下さった物なのですから。

「ああ、ちゃんちゃん焼き…でしたか? 少し怪しくなって来ましたから、下ろしてしまいましょうね」

 僕は立ち上がり、ストーブからフライパンを卓袱台へと移動させます。鍋敷きは二枚用意してありましたので、問題ありません。
 移動を終えた処で、紫様が徳利とお猪口を二つ持って戻って来ました。
 自然と口元が緩んでしまいます。
 そうですね、こんな嬉しい日に呑まないのは勿体無いですね。
 乾杯と共に、お祝いの言葉を贈られましたので、僕も言葉を返します。
 ありがとうございます、と。
 待っていて下さって、と。

『…僕に出逢うまでに、大切な人に出逢わずに居て下さってありがとうございます』

 …こんな、醜い感情を口にする勇気はありません。
 ですが、きっと紫様には伝わってしまうのでしょうね?
 こんな僕ですが、これからも宜しくお願いします。
 言葉には出さずに小さく笑えば、紫様が優しく頷いた気がしました。

 ◇

 その年の暮れに、えみちゃん様が、みくちゃん様から、と、大量の伊達巻きを持って来て下さった時、僕は思わず遠い目をしてしまいました。
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