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それが、幸せ
06.それは、本能
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「…推しが可愛過ぎてやばい…尊し過ぎる…成人したのに、外見は雄みも増したのに、中身はあの頃のままとかやば過ぎる…一生見ていたい…」
「…的場…?」
顔を覆ってぼそぼそと話す先生の声は良く聞き取れなくて、俺は首を傾げて天を仰ぐ先生の顔を覗き込むようにした。
「ぐは…っ…! あ、あざと可愛過ぎ…っ…!」
したら先生は顔を覆ったまま、床にしゃがみ込んでしまった。
「おい、的場っ!?」
先生の奇行に驚いて、俺も床に座り込んで、その肩に手を置いた。
「どうしたんだよ!? どっか具合悪いのか!? 病院行くか!?」
がくがくと肩を揺すれば、先生ははっと目を見開いた。
「…あ、いや、すまん…。…外では我慢出来ていたんだが…自室だと気が緩むな…」
「…は…?」
「俺は問題無い。ただのBL脳だ」
きりりとした顔を作って言う先生に、俺は心の底から叫んだ。
「全っ然、大丈夫じゃねーよなっ!?」
◇
「…ああ…前世…」
コタツ兼テーブルの上に並べられた料理を食べながら、先生が話した内容に、俺は何処か遠い目をしてしまった。
そう云えば、職員室での最初の告白の時に、前世はフジョシで今はフダンシだって言われたんだった。
男同士の恋愛物が好きな人種だって。壁になって、それを応援するのが趣味だって。あの頃、ググッたらそんな答えを見付けた。
「…いや…本当にすまん…。外では気を張っていたから…こうして、着替えてリラックスして…実際にお前と二人きりになったら…どうにも抑えられなくて…」
うにうにと玉子焼きを箸で細切れにして行く先生に、俺は肩を竦めて苦笑する。
「…別にいーし。俺の事を考えてそうなったんなら、文句はねーよ」
「推しの懐が広過ぎて胸が痛いっ!!」
うっと胸を押さえる先生に、俺は本当に笑うしかない。
「玉子焼き、めちゃくちゃだぞ。せっかく美味いのに勿体ねー。…あの頃、言えなかったけどさ…俺、先生の玉子焼き好きなんだ」
笑いながら言えば、先生は少しだけ顔を赤くしてへにゃりと目も口元も緩ませながら、テーブルにある皿や丼を一つ一つ指差して行く。
「えっ。あ、そ、そうか? 何の工夫も無いが…あ、こっちの肉じゃがも上手く出来たんだ。この鰈の煮付けも…この豚汁も…こっちは、俺が漬けたとキムチとぬか漬けで…」
「って、作り過ぎだろ。買い物に行ってる間にこんなに作ったのか?」
冗談じゃなく所狭しと並べられているそれらに、俺は笑いながら、でも、これらを作っている先生の姿を想像して、じぃんと胸を熱くした。
「あ、いや。漬物以外は、殆ど昨日から用意して…って、重いよな!?」
「別に…嬉しーけど…美味いし…」
本当に、俺が来るのを楽しみにしてたんだなって解って嬉しいから。
俺、ここに来て良かったんだって思えたから。
「…なあ…。俺さ、こうして的場と飯を食べてるだけで十分幸せなんだけど…そんなにセ…クスって必要なのか? …したら…もっと幸せになれるのか?」
相変わらず綺麗に箸を動かす先生の手を見ながら、俺はそう聞いた。
こうして、二人で向かい合って、話しながら飯を食べてるだけで、俺、嬉しくてたまらないのに。ほくほくのじゃがいもと、蕩けそうな玉ねぎの入った豚汁で、身体だけじゃなく、胸も心もほかほかしてんのに。
「…まあ…プラトニックラブなんて言葉があるぐらいだから、必ずしも肉体関係が必要だと云う訳では無いが…」
お。
何時もの先生らしくなった。
箸を動かす手を止めた先生は、真面目に授業をしている時の先生の顔をしてる。
ピシッと背筋を伸ばして、顎を引いて前を見る先生は、とてもカッコイイ。
と、思ったら、へにゃっと眉が下がった。
「…二人に煽られて、焦っているのかもな…どうしたって、年齢差って物を考えてしまうから…」
二人って、羽間と松重先生か?
あの二人は特殊だから、気にしなくていーだろ。
「俺、気にしねーけど? だって、的場だから好きになったんだし。的場が的場なら、どんだけ歳が離れてても、じーちゃんでも、俺は好きになったよ」
苦さを含む声と微笑に、俺の胸がちくりと痛んだ。
何で、伝わんねーのかな?
俺、そんなの全然気にしねーのに。
「言い過ぎだろう。いや、嬉しいけどな。…まあ…歳だからさ…お前に…求められた時に応えられなかったと思うと怖いんだよ…その時に、お前に嫌われたらと思うと、な…。…ここに来てから…まあ…その…ご無沙汰ってのもあるし…か、枯れぎみだから…。…だから…その…いざって時に…俺が…その…ふ…不能って事もある…から…攻めはお前で…」
俺の言葉に、先生は嬉しそうな顔をした。
けど、段々と小さくなって行く的場の声を俺は一生懸命拾った。最後の方は、訳の解らない言葉が入ったけど。
「…良く解んねーけど…不安だから、ヤりたいって事か? …安心したい…から?」
俺がそう言えば、的場は小さく頷いた。
「良い歳してみっともないだろう? 自分でも信じられないぐらいだ。こんなに女々しいなんて…な…」
小さく笑う先生に、俺は首を横にふるふると振る。
「…良い歳とか、言うの無しな。俺は…俺の知らない的場をもっと知りてーし、俺だけしか知らない的場を見たい…独り占め…してー…から。…的場しか知らねー俺も…その…あっても…いい、のか…? そしたら…的場のその不安は…消える…のか?」
羽間や松重先生が煽るから、そんなんでヤるのは嫌だって思った。
思ったけど…。
「…的場が安心出来んなら…いー」
何か恥ずかしくて俯いて言えば、先生の手が伸びて来て、俺の頭を撫でた。
小さくありがとうって、声が聞こえた。
「…的場…?」
顔を覆ってぼそぼそと話す先生の声は良く聞き取れなくて、俺は首を傾げて天を仰ぐ先生の顔を覗き込むようにした。
「ぐは…っ…! あ、あざと可愛過ぎ…っ…!」
したら先生は顔を覆ったまま、床にしゃがみ込んでしまった。
「おい、的場っ!?」
先生の奇行に驚いて、俺も床に座り込んで、その肩に手を置いた。
「どうしたんだよ!? どっか具合悪いのか!? 病院行くか!?」
がくがくと肩を揺すれば、先生ははっと目を見開いた。
「…あ、いや、すまん…。…外では我慢出来ていたんだが…自室だと気が緩むな…」
「…は…?」
「俺は問題無い。ただのBL脳だ」
きりりとした顔を作って言う先生に、俺は心の底から叫んだ。
「全っ然、大丈夫じゃねーよなっ!?」
◇
「…ああ…前世…」
コタツ兼テーブルの上に並べられた料理を食べながら、先生が話した内容に、俺は何処か遠い目をしてしまった。
そう云えば、職員室での最初の告白の時に、前世はフジョシで今はフダンシだって言われたんだった。
男同士の恋愛物が好きな人種だって。壁になって、それを応援するのが趣味だって。あの頃、ググッたらそんな答えを見付けた。
「…いや…本当にすまん…。外では気を張っていたから…こうして、着替えてリラックスして…実際にお前と二人きりになったら…どうにも抑えられなくて…」
うにうにと玉子焼きを箸で細切れにして行く先生に、俺は肩を竦めて苦笑する。
「…別にいーし。俺の事を考えてそうなったんなら、文句はねーよ」
「推しの懐が広過ぎて胸が痛いっ!!」
うっと胸を押さえる先生に、俺は本当に笑うしかない。
「玉子焼き、めちゃくちゃだぞ。せっかく美味いのに勿体ねー。…あの頃、言えなかったけどさ…俺、先生の玉子焼き好きなんだ」
笑いながら言えば、先生は少しだけ顔を赤くしてへにゃりと目も口元も緩ませながら、テーブルにある皿や丼を一つ一つ指差して行く。
「えっ。あ、そ、そうか? 何の工夫も無いが…あ、こっちの肉じゃがも上手く出来たんだ。この鰈の煮付けも…この豚汁も…こっちは、俺が漬けたとキムチとぬか漬けで…」
「って、作り過ぎだろ。買い物に行ってる間にこんなに作ったのか?」
冗談じゃなく所狭しと並べられているそれらに、俺は笑いながら、でも、これらを作っている先生の姿を想像して、じぃんと胸を熱くした。
「あ、いや。漬物以外は、殆ど昨日から用意して…って、重いよな!?」
「別に…嬉しーけど…美味いし…」
本当に、俺が来るのを楽しみにしてたんだなって解って嬉しいから。
俺、ここに来て良かったんだって思えたから。
「…なあ…。俺さ、こうして的場と飯を食べてるだけで十分幸せなんだけど…そんなにセ…クスって必要なのか? …したら…もっと幸せになれるのか?」
相変わらず綺麗に箸を動かす先生の手を見ながら、俺はそう聞いた。
こうして、二人で向かい合って、話しながら飯を食べてるだけで、俺、嬉しくてたまらないのに。ほくほくのじゃがいもと、蕩けそうな玉ねぎの入った豚汁で、身体だけじゃなく、胸も心もほかほかしてんのに。
「…まあ…プラトニックラブなんて言葉があるぐらいだから、必ずしも肉体関係が必要だと云う訳では無いが…」
お。
何時もの先生らしくなった。
箸を動かす手を止めた先生は、真面目に授業をしている時の先生の顔をしてる。
ピシッと背筋を伸ばして、顎を引いて前を見る先生は、とてもカッコイイ。
と、思ったら、へにゃっと眉が下がった。
「…二人に煽られて、焦っているのかもな…どうしたって、年齢差って物を考えてしまうから…」
二人って、羽間と松重先生か?
あの二人は特殊だから、気にしなくていーだろ。
「俺、気にしねーけど? だって、的場だから好きになったんだし。的場が的場なら、どんだけ歳が離れてても、じーちゃんでも、俺は好きになったよ」
苦さを含む声と微笑に、俺の胸がちくりと痛んだ。
何で、伝わんねーのかな?
俺、そんなの全然気にしねーのに。
「言い過ぎだろう。いや、嬉しいけどな。…まあ…歳だからさ…お前に…求められた時に応えられなかったと思うと怖いんだよ…その時に、お前に嫌われたらと思うと、な…。…ここに来てから…まあ…その…ご無沙汰ってのもあるし…か、枯れぎみだから…。…だから…その…いざって時に…俺が…その…ふ…不能って事もある…から…攻めはお前で…」
俺の言葉に、先生は嬉しそうな顔をした。
けど、段々と小さくなって行く的場の声を俺は一生懸命拾った。最後の方は、訳の解らない言葉が入ったけど。
「…良く解んねーけど…不安だから、ヤりたいって事か? …安心したい…から?」
俺がそう言えば、的場は小さく頷いた。
「良い歳してみっともないだろう? 自分でも信じられないぐらいだ。こんなに女々しいなんて…な…」
小さく笑う先生に、俺は首を横にふるふると振る。
「…良い歳とか、言うの無しな。俺は…俺の知らない的場をもっと知りてーし、俺だけしか知らない的場を見たい…独り占め…してー…から。…的場しか知らねー俺も…その…あっても…いい、のか…? そしたら…的場のその不安は…消える…のか?」
羽間や松重先生が煽るから、そんなんでヤるのは嫌だって思った。
思ったけど…。
「…的場が安心出来んなら…いー」
何か恥ずかしくて俯いて言えば、先生の手が伸びて来て、俺の頭を撫でた。
小さくありがとうって、声が聞こえた。
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