矢は的を射る

三冬月マヨ

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それが、幸せ

07.彼シャツですか?

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「…先生の匂いがする…てか、先生の匂いしかしない…」

 先生に勧められるままに風呂に入り、今、先生が貸してくれたグレーのスウェット上下を着たんだけど…身体も髪もスウェットも、あの頃に嗅いでた…漂って来た匂いのままだった。爽やかな柑橘系の匂い。押し付けじゃなくて、さり気なく香るのが良い。

「ボディソープもシャンプーもリンスもトリートメントも…洗濯石鹼も同系統で纏めてんのか…すげーな…」

 わしわしと脱衣所にある洗面台の鏡を見ながら、俺はタオルで頭を適当に拭きながら呟いた。
 このタオルからも同じ匂いがするから、何かもー落ち着かない。
 これから先生が風呂に入って、それからいよいよ…ヤ…るのかと思ったら、もう心臓は喉から出そうだし、血管破裂しそうだし、それなのに、俺の股間は元気だし。いや、元気で良いんだけど。元気じゃなきゃ先生の不安を消してあげられないし。
 けどさ。
 あんだけグダグダ言ってて、これはないだろ、これは。

「カッコわりぃ…」

 部屋着兼寝間着だからか、大きめのサイズを買ってるって言ってた通り、結構だぼっとしてるのが救いだ。

「的場、風呂サンキュ…」

 バックンバックン五月蠅い心臓を押さえながら脱衣所から出れば、そこは直ぐ台所だ。先生はちょうど洗い物が終わったトコだったみたいで、キュッと蛇口を捻った。

「ああ、何か飲むか? スポーツドリンクと水とお茶と…」

 笑いながら冷蔵庫を開ける先生に、俺は心臓を押さえながら口を開く。

「的場が出してくれんなら、何でもいーし」

「ごはっ!!」

 冷蔵庫のドアに先生が頭をぶつけて、変な声を出した。

「だ、大丈夫か!? また、本能が暴走したのか!?」

 俺、そんな変な事言ったか!?

「だ、大丈夫だ…。…そうだな、スポーツドリンクの方が良いかな…」

 赤い顔とぷるぷる震える手で、先生は冷蔵庫のドアポケットからピッチャーっての? 麦茶作ったりするアレを取り出した。

「すげーな。晩飯の時はあったかいお茶だったけど、スポーツドリンク、作ってんだ? 俺、ペットボトルの買ってる」  

「ああ。作ると言っても、粉末のだから楽だし。毎度毎度ボトルのゴミを出さないで済むだろう? かさ張るしな。まあ、ゴミ捨てが楽だからってのが大きいな」

「…なるほど…。俺も真似しようかな」

 俺がそう言えば、先生はニッと笑った。
 真似されるの嫌じゃないんだ?
 俺だから良い…とか?
 そうなら、も―嬉しいんだけど。

 とてとてと、先生の後について部屋に戻れば、テーブルの上はしっかりと片付いていて、そこにはノートパソコンが一台置いてあった。

「ほら。汗流したんだから、しっかりと水分補給だ。俺が風呂入っている間、パソコン弄っていても良いし…その…寝室に居ても…」

 その脇に、コップとピッチャーを置きながら話す先生が、段々ともごもごとしてくるから、意識しない様にと思ったのに、俺の顔が熱くなって来た。
 何か、ちょっと違う話をと思って、そう言えば、と、俺は着ているスウェットを摘んだ。

「そ、そういや、これも彼シャツって言うのか?」

 先輩達が居た時、彼女が自分のシャツ着るのが良いとか言ってたんだよな。
 あの頃は良く解んなかったけどさ。
 俺がこうして、先生の服着て嬉しいのと同じで、先生も俺が着て嬉しいとか思ってんのかな?
 そしたら、やっぱ嬉しーんだけど。
 こんくらいで先生が喜んでくれんなら、俺、これ貰って帰ろうかな。
 いや、俺も大人だから、これは買い取った方が良いのか?

「ぐはっ!!」 

「的場!?」

 なんて思ってたら、先生がまた奇声を上げて床に蹲った。てか、膝からガックンって落ちた。

「か、彼シャツ…そ、そうか…何故俺はスウェットなんか用意したんだ…ここはパジャマだろう…いや、しかし、まだパジャマ一枚は寒いし…いや、だが、素肌にシャツ…ついでに生足なら尚良し…彼シャツ…何と云うパワーワードだ…」

 片手は床に置いて、片手で顔の半分を隠して先生がブツブツと言う。…ってか、鷲掴みにしてないか? 指、めり込んでないか? 痛くないのか? てか、何でパワーワードになるんだよ? フダンシ、奥が深いな?
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