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ころがって
【十】旦那様と呼ばせて
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「じゃあ、行って来るから大人しくしてる様に。みく、頼んだぞ」
「はい。任せて下さい」
「…はい。行ってらっしゃいませ」
お布団の中で、旦那様を見上げながら僕は言いました。
お勤めに出られる旦那様を、こうして送り出すのは変な感じがします。
けれど、仕方がありません。
送り出そうとして起き上がろうとした僕を、お布団の上から、みくちゃん様が押さえ付けて来たのです。酷いです。
今日はお勤めに行くからと、旦那様が昨夜の内に天野様へと連絡を入れたそうで、こうして朝からみくちゃん様が来て下さいました。
天野様やみくちゃん様のお手まで煩わせてしまいました。
もう、朝から水浴びをするのは止めます。
次からは、気温の高い真昼に致しましょう。
「ごめんね、雪緒君。私も好きでやってる訳じゃないの。解ってね?」
旦那様の御姿が見えなくなった後に、みくちゃん様が身体を起こしてそう言いました。
「はい。僕に信用が無いのがいけないのです。みくちゃん様のお手を煩わせてしまって申し訳無いです」
そうなのです。
昨日の朝、調子が良いからと台所に立ってしまったのが行けないのです。お布団に逆戻りした後に、熱が出てしまったのです。『そら見た事か!』と、怒られました。もう、僕は小さくなるしかありませんでした。熱が出たお蔭で、簀巻きにされる心配は無くなりましたが。
そうして、もう、動くまいと決心したお蔭か、薬のお蔭か。無事に夕方には熱が下がりました。ですが、流石に僕は学びましたので、大人しくしていました。今日だって、大人しくしているつもりでした。ですのに、今、ここにはみくちゃん様が居ます。僕は、そんなに信用がならないのでしょうか? 落ち込んでしまいます。
「だーいじょうぶよ、気にしないで。雪緒君の役に立てて嬉しいんだから。朝はお粥で良いかしら?」
「…はい」
みくちゃん様は、お優しい方です。
僕に気を遣わせない様に、何でも無いと笑って下さいます。
極稀に、低いお声を出される様な時がありますが、直ぐに『何かあったのかしら?』と、云う様なお顔をされますので、あれはきっと僕の気のせいなのでしょうね。
旦那様からお許しが出ましたら、みくちゃん様と天野様にも、御迷惑をお掛けしたお詫びを考えないといけませんね。お二人に喜んで戴ける物…何が良いでしょうか? みくちゃん様も、天野様もお酒がお好きですから、そちらを御用意しましょう。ああ、でしたらお酒の肴も必要ですね? 何が良いでしょうか? 悩みますね。ああ、こうやって頭を使うなとも言われましたね。うぅん、大人しくって難しいです。
◇
「ゆきお! だいじょぶか?」
「星様、こんにちは」
十五時過ぎ頃に、星様が来て下さいました。
僕の友達が来たら通して良いと、みくちゃん様が旦那様から言付かっていたそうです。
昨日の件で無理かと思っていましたが…やはり、旦那様はお優しいです。
「それじゃあ、雪緒君、あまり無理しない様にね」
みくちゃん様がそう言って、冷たい麦茶を置いて出て行かれました。
「この様な姿で申し訳ありません」
「んー、気にするな! 親父殿に病人に無理はさせるな、って言われたから、ゆきおの目がくっつきそうになったら帰るな!」
お布団の上で身体を起こして頭を下げた僕に、星様は胸の前で手を振って笑って下さいました。
「あ。そうです。玉子焼きご馳走様でした。とても美味しかったですよ。あと、僕を倫太郎様とお二人で医務室まで運んで下さったのですよね? お手数をお掛けしました」
「美味かったのか! 良かった! 親父殿に教えて貰ったんだ、帰ったら褒められたって、言お。あと、運んだのは気にするな。困った時はお互い様って言うんだろ?」
「…そうですね」
頭の後ろで腕を組んで笑う星様に釣られて、僕も口元が綻びます。
星様は僕の事をぽかぽかと言って下さいましたが、それは星様の方だと僕は思います。
おひさまの様に明るくて、とても力強い方だと思います。
「りんたろとるりこも来たがったけど、あまり人数居ると気を遣うからやめとくって言ってた。あ! それ!」
「え?」
不意に星様がお声を上げられて、僕の後ろを指差しました。
「きらきらのぽかぽか、綺麗だな」
きらきらのぽかぽか?
軽く首を傾げて、後ろにある箪笥へと目を向けます。
箪笥の上には、時計と…。
「その、青い箱、すごくきらきらでぽかぽかだ。…触ってもいいか?」
「はい、どうぞ」
目を輝かせて、首を傾げながら聞いて来ます星様に、僕は立ち上がって箱を手に取って、そっとお渡ししました。
「…うん、すっごく、綺麗だ…」
お布団の上に座りまして、僕は星様を見詰めます。
少々、不格好になってしまった箱ですが、それを星様は壊れ物を扱うかの様に、優しく持って、眩しい物を見るかの様に、その丸い目を細めて眺めていてくれています。
その御様子に、何故だか胸の奥がほわりと温かくなります。
「…僕の宝物なのです…。…以前、壊れてしまったのですが、旦那様が直して下さいました…」
あの時も、旦那様や相楽様、みくちゃん様にご迷惑をお掛けしてしまいましたね…。
みくちゃん様は、新しい物をと言って下さいましたが…旦那様は、何も言わずにこの箱を、こうして直して下さいました。
それが、どれ程嬉しかった事でしょう。
「…………そ、っか……。けど、良かったな…こうして、また…いっぱいきらきらのぽかぽかにして貰えて」
「はい。旦那様のお蔭です」
目を伏せて、軽く指で撫でてから、そっと星様が差し出して来ました箱を、僕もそっと受け取って、同じ様に指で撫でてから箪笥の上へと戻しました。
…きらきらのぽかぽか…。
…そうですね、ここへ来てからの日々は正にその様な感じなのでしょう。
毎日が、本当に温かく輝いていた気がします。
悲しい事もありましたけれど。
それでも。
そして、それはこれからも続いて行くのだと思います。
「ところで、旦那様って何?」
星様が首を傾げて聞いて来ました。
あ。
お屋敷の中ですから、と、気を抜いてしまいました。
人前では『父』とお呼びしなければなりませんのに。
そうしなければなりませんのに。
「…失礼しました…。旦那様とは、僕の養父…父上様の事でして…」
「…うん? 何か、ゆきお変だぞ? 眉毛、ぎゅうって、なってる」
「ふえっ!?」
星様が、自分の眉間を指で摘まむのを見まして、僕は慌てて両手で眉毛を押さえました。
「ん~? ゆきおはおじさんの事、嫌いなのか?」
「とんでもございませんっ! 旦那様は、とてもお優しくて、お強くて、御立派な方ですっ!!」
再び首を傾げました星様に、僕は眉毛を押さえたまま、声を強くして力説してしまいました。
「お、おお…? なら、何で、そんな"父上"って言った時、嫌そうだったんだ?」
「…ふえぇ…」
目を瞬かせて訊ねて来ます星様に、情けない声が出ました。
「ふえぇ…ぼ…僕は…罰当たりなのです…」
…きっと、この様な事は口にするべきではないのでしょう…。
「うん?」
…ですが…何故でしょう…?
「…こんなにも…良くして戴いて…養子にも迎えて戴いて…その御恩に報いねばなりませんのに…」
…何故か…星様には、お話しても良い様な気がします…。
星様も養子だからと、初めて学び舎に来られた時に伺ったからでしょうか…。
「…僕は…どうしようもなく、我儘で…馬鹿で…恩知らずなのです…。…旦那様を父とは思いたくない…思えないのです…旦那様には…旦那様で居て欲しいのです…」
…そうなのです…。
旦那様のお言葉通りに、お望みのままに、"父"と呼べたのなら、どれだけ良いのでしょう。
旦那様は、きっと喜んで下さいます。
ですが、僕は嫌なのです…。
僕が、それでは嫌なのです…。
…何故なのでしょう…?
理由は解りません…。
…解りませんが…それでも、僕は…。
「…旦那様を…父とはお呼びしたくは無いのです…」
「…そっか…」
何故か苦しくなった胸を押さえて俯いてしまった僕の頭を、ぽんぽんと軽く星様が叩いて下さいました。
その手のひらは、とても優しく、とても暖かくて、何故だか、ほっとしました。
「嫌いじゃないなら、いいと思う。あのきらきらでぽかぽか、ゆきおとおじさんのだ。すごいな」
…僕と、旦那様のきらきらでぽかぽか?
星様のお言葉に、後ろを振り返り、箪笥の上にあります箱を見上げます。青いお空に、お星様が散らばった宝の箱を。
奥様から戴いて、旦那様が直された箱を。
…奥様と…僕と…旦那様の想いがあると…そう言いたいのでしょうか…?
…きらきらで…ぽかぽかした…。
…何故でしょう…?
何故か、胸が無性に熱くなって来ました…。
何故か、泣きたくなる様な…。
そんな僕を気遣って下さったのかは解りませんが、星様が厠と言い出しました。
お部屋を出ようとする星様の後を追えば、直ぐそこにお飲み物を持った旦那様が居ました。
何故だか、気恥ずかしくて、少々拗ねた様な物言いになってしまいました。反省しなければいけませんね。
それから。厠から戻って来ました星様が、何やら問題発言を致しましたが、それは全くといって、気になる様な物ではありませんでした。
…それは…その後の旦那様の、あの日の事を思うな、と云うお言葉が胸に痛かったからです。
あの日は、本当に僕にとって、とても大切な日なのです。
忘れろと言われても、絶対に忘れたくない大切な日なのです。
ですから、その様に悲しくなる様な事は二度と言わないで下さい。
…そして、どうか…旦那様を旦那様とお呼びし続ける事を…お許し下さい…。
「はい。任せて下さい」
「…はい。行ってらっしゃいませ」
お布団の中で、旦那様を見上げながら僕は言いました。
お勤めに出られる旦那様を、こうして送り出すのは変な感じがします。
けれど、仕方がありません。
送り出そうとして起き上がろうとした僕を、お布団の上から、みくちゃん様が押さえ付けて来たのです。酷いです。
今日はお勤めに行くからと、旦那様が昨夜の内に天野様へと連絡を入れたそうで、こうして朝からみくちゃん様が来て下さいました。
天野様やみくちゃん様のお手まで煩わせてしまいました。
もう、朝から水浴びをするのは止めます。
次からは、気温の高い真昼に致しましょう。
「ごめんね、雪緒君。私も好きでやってる訳じゃないの。解ってね?」
旦那様の御姿が見えなくなった後に、みくちゃん様が身体を起こしてそう言いました。
「はい。僕に信用が無いのがいけないのです。みくちゃん様のお手を煩わせてしまって申し訳無いです」
そうなのです。
昨日の朝、調子が良いからと台所に立ってしまったのが行けないのです。お布団に逆戻りした後に、熱が出てしまったのです。『そら見た事か!』と、怒られました。もう、僕は小さくなるしかありませんでした。熱が出たお蔭で、簀巻きにされる心配は無くなりましたが。
そうして、もう、動くまいと決心したお蔭か、薬のお蔭か。無事に夕方には熱が下がりました。ですが、流石に僕は学びましたので、大人しくしていました。今日だって、大人しくしているつもりでした。ですのに、今、ここにはみくちゃん様が居ます。僕は、そんなに信用がならないのでしょうか? 落ち込んでしまいます。
「だーいじょうぶよ、気にしないで。雪緒君の役に立てて嬉しいんだから。朝はお粥で良いかしら?」
「…はい」
みくちゃん様は、お優しい方です。
僕に気を遣わせない様に、何でも無いと笑って下さいます。
極稀に、低いお声を出される様な時がありますが、直ぐに『何かあったのかしら?』と、云う様なお顔をされますので、あれはきっと僕の気のせいなのでしょうね。
旦那様からお許しが出ましたら、みくちゃん様と天野様にも、御迷惑をお掛けしたお詫びを考えないといけませんね。お二人に喜んで戴ける物…何が良いでしょうか? みくちゃん様も、天野様もお酒がお好きですから、そちらを御用意しましょう。ああ、でしたらお酒の肴も必要ですね? 何が良いでしょうか? 悩みますね。ああ、こうやって頭を使うなとも言われましたね。うぅん、大人しくって難しいです。
◇
「ゆきお! だいじょぶか?」
「星様、こんにちは」
十五時過ぎ頃に、星様が来て下さいました。
僕の友達が来たら通して良いと、みくちゃん様が旦那様から言付かっていたそうです。
昨日の件で無理かと思っていましたが…やはり、旦那様はお優しいです。
「それじゃあ、雪緒君、あまり無理しない様にね」
みくちゃん様がそう言って、冷たい麦茶を置いて出て行かれました。
「この様な姿で申し訳ありません」
「んー、気にするな! 親父殿に病人に無理はさせるな、って言われたから、ゆきおの目がくっつきそうになったら帰るな!」
お布団の上で身体を起こして頭を下げた僕に、星様は胸の前で手を振って笑って下さいました。
「あ。そうです。玉子焼きご馳走様でした。とても美味しかったですよ。あと、僕を倫太郎様とお二人で医務室まで運んで下さったのですよね? お手数をお掛けしました」
「美味かったのか! 良かった! 親父殿に教えて貰ったんだ、帰ったら褒められたって、言お。あと、運んだのは気にするな。困った時はお互い様って言うんだろ?」
「…そうですね」
頭の後ろで腕を組んで笑う星様に釣られて、僕も口元が綻びます。
星様は僕の事をぽかぽかと言って下さいましたが、それは星様の方だと僕は思います。
おひさまの様に明るくて、とても力強い方だと思います。
「りんたろとるりこも来たがったけど、あまり人数居ると気を遣うからやめとくって言ってた。あ! それ!」
「え?」
不意に星様がお声を上げられて、僕の後ろを指差しました。
「きらきらのぽかぽか、綺麗だな」
きらきらのぽかぽか?
軽く首を傾げて、後ろにある箪笥へと目を向けます。
箪笥の上には、時計と…。
「その、青い箱、すごくきらきらでぽかぽかだ。…触ってもいいか?」
「はい、どうぞ」
目を輝かせて、首を傾げながら聞いて来ます星様に、僕は立ち上がって箱を手に取って、そっとお渡ししました。
「…うん、すっごく、綺麗だ…」
お布団の上に座りまして、僕は星様を見詰めます。
少々、不格好になってしまった箱ですが、それを星様は壊れ物を扱うかの様に、優しく持って、眩しい物を見るかの様に、その丸い目を細めて眺めていてくれています。
その御様子に、何故だか胸の奥がほわりと温かくなります。
「…僕の宝物なのです…。…以前、壊れてしまったのですが、旦那様が直して下さいました…」
あの時も、旦那様や相楽様、みくちゃん様にご迷惑をお掛けしてしまいましたね…。
みくちゃん様は、新しい物をと言って下さいましたが…旦那様は、何も言わずにこの箱を、こうして直して下さいました。
それが、どれ程嬉しかった事でしょう。
「…………そ、っか……。けど、良かったな…こうして、また…いっぱいきらきらのぽかぽかにして貰えて」
「はい。旦那様のお蔭です」
目を伏せて、軽く指で撫でてから、そっと星様が差し出して来ました箱を、僕もそっと受け取って、同じ様に指で撫でてから箪笥の上へと戻しました。
…きらきらのぽかぽか…。
…そうですね、ここへ来てからの日々は正にその様な感じなのでしょう。
毎日が、本当に温かく輝いていた気がします。
悲しい事もありましたけれど。
それでも。
そして、それはこれからも続いて行くのだと思います。
「ところで、旦那様って何?」
星様が首を傾げて聞いて来ました。
あ。
お屋敷の中ですから、と、気を抜いてしまいました。
人前では『父』とお呼びしなければなりませんのに。
そうしなければなりませんのに。
「…失礼しました…。旦那様とは、僕の養父…父上様の事でして…」
「…うん? 何か、ゆきお変だぞ? 眉毛、ぎゅうって、なってる」
「ふえっ!?」
星様が、自分の眉間を指で摘まむのを見まして、僕は慌てて両手で眉毛を押さえました。
「ん~? ゆきおはおじさんの事、嫌いなのか?」
「とんでもございませんっ! 旦那様は、とてもお優しくて、お強くて、御立派な方ですっ!!」
再び首を傾げました星様に、僕は眉毛を押さえたまま、声を強くして力説してしまいました。
「お、おお…? なら、何で、そんな"父上"って言った時、嫌そうだったんだ?」
「…ふえぇ…」
目を瞬かせて訊ねて来ます星様に、情けない声が出ました。
「ふえぇ…ぼ…僕は…罰当たりなのです…」
…きっと、この様な事は口にするべきではないのでしょう…。
「うん?」
…ですが…何故でしょう…?
「…こんなにも…良くして戴いて…養子にも迎えて戴いて…その御恩に報いねばなりませんのに…」
…何故か…星様には、お話しても良い様な気がします…。
星様も養子だからと、初めて学び舎に来られた時に伺ったからでしょうか…。
「…僕は…どうしようもなく、我儘で…馬鹿で…恩知らずなのです…。…旦那様を父とは思いたくない…思えないのです…旦那様には…旦那様で居て欲しいのです…」
…そうなのです…。
旦那様のお言葉通りに、お望みのままに、"父"と呼べたのなら、どれだけ良いのでしょう。
旦那様は、きっと喜んで下さいます。
ですが、僕は嫌なのです…。
僕が、それでは嫌なのです…。
…何故なのでしょう…?
理由は解りません…。
…解りませんが…それでも、僕は…。
「…旦那様を…父とはお呼びしたくは無いのです…」
「…そっか…」
何故か苦しくなった胸を押さえて俯いてしまった僕の頭を、ぽんぽんと軽く星様が叩いて下さいました。
その手のひらは、とても優しく、とても暖かくて、何故だか、ほっとしました。
「嫌いじゃないなら、いいと思う。あのきらきらでぽかぽか、ゆきおとおじさんのだ。すごいな」
…僕と、旦那様のきらきらでぽかぽか?
星様のお言葉に、後ろを振り返り、箪笥の上にあります箱を見上げます。青いお空に、お星様が散らばった宝の箱を。
奥様から戴いて、旦那様が直された箱を。
…奥様と…僕と…旦那様の想いがあると…そう言いたいのでしょうか…?
…きらきらで…ぽかぽかした…。
…何故でしょう…?
何故か、胸が無性に熱くなって来ました…。
何故か、泣きたくなる様な…。
そんな僕を気遣って下さったのかは解りませんが、星様が厠と言い出しました。
お部屋を出ようとする星様の後を追えば、直ぐそこにお飲み物を持った旦那様が居ました。
何故だか、気恥ずかしくて、少々拗ねた様な物言いになってしまいました。反省しなければいけませんね。
それから。厠から戻って来ました星様が、何やら問題発言を致しましたが、それは全くといって、気になる様な物ではありませんでした。
…それは…その後の旦那様の、あの日の事を思うな、と云うお言葉が胸に痛かったからです。
あの日は、本当に僕にとって、とても大切な日なのです。
忘れろと言われても、絶対に忘れたくない大切な日なのです。
ですから、その様に悲しくなる様な事は二度と言わないで下さい。
…そして、どうか…旦那様を旦那様とお呼びし続ける事を…お許し下さい…。
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