旦那様と僕

三冬月マヨ

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向日葵の零れ話

向日葵の願望

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「うん、これでいいかね? ほら、鏡見て」

「…ふわ…」

「うぅんッ、雪緒ゆきお君可愛いッ!」

 はあああああ…ゆき君たら、なんて可愛らしいのかしら…。
 頭の上でちょこんと結ばれた髪が揺れて、もう。

 頬に手をあてて、その愛くるしさに、私は思わず目を細めて吐息を零しました。
 ハロウィンの仮装をすると話が上がって、ゆき君は何が似合うのかしら? と云う話になった時、私は真っ先に『座敷童子』と言いました。まあ、みくちゃんにしか私の声は届かなかったのですけどね。けれど、私の意見は無事に通りまして、ゆき君は見事に座敷童子となったのです。
 座敷童子が棲む家は栄え、幸運に見舞われると言います。栄えるのはどうでも良いのですけど、幸運。それを司る座敷童子は、正にゆき君だと思うの。だって、本当にゆき君が来てからの日々は目まぐるしくもあったけれど、楽しかったもの。本当に毎日が楽しくて幸せな日々だったのだもの。だから、ゆき君は私にとっての座敷童子なの。

「奥様、如何でしょうか? 座敷童子と云う物の怪です。喜んで戴けているでしょうか? 奥様は今頃仮装されていますか? 奥様でしたら、どの様なお召し物でもお似合いになるのでしょうね」

 私は既に見ているのだけど、私の肖像画に一生懸命に語り掛けるゆき君の可愛さったらないわ。普段は見えない、ゆき君の膝小僧も可愛らしい事この上ないわ。勿論、大喜びよ。ありがとう、みくちゃん。

 …それにしても…。
 ゆき君はこんなに可愛らしいのに…。
 ゆかり様と来たら…何故、落ち武者になってしまったのかしら…?
 まあ…似合っているのが…また…何とも言えないのですけどね…。お勤めがお勤めですから、違和感が無いと言いますか…ふふ…。

 そうこうしている内に、瑛光えいみつ叔父様とせい君がやって来たのだけれど…えぇと…ぬりかべ(?)に…昔の星君…? 猪が…? 猪よりは、うり坊の方が似合うと思うのだけれど…本人が猪だと言うのなら、そうなのかしら…?
 頭を悩ませながら外へと出れば、道行く人々が皆、ゆき君の可愛らしさに目を惹かれています。中には紫様を見て、腰を引かれて居る人も居ますが…まあ、気にしないで置きましょう。
 今は未だ仮装をしている人の姿は目立ちませんが、屋台のある通りへと出れば増えて来るのでしょうね。

『奥様は今頃仮装されていますか?』

 あら…。
 もしかして私も仮装をした方が良いのかしら?
 あらあら? どうしましょう? 仮装と一口に言いましても色々とありますわよね? 人を驚かせる物、楽しませる物、怖がらせる物…あらあら?

『…だから…笑って下さいな…』

 …そうね…笑える物…笑顔になれる物が良いわよね。
 ゆき君が微笑んでくれる物、笑顔になってくれる物が良いわ。

「ぶはッ!?」

 そう思って居たら、朱雀の夜番の方達が通り過ぎたと思った瞬間、前を歩いていたみくちゃんが振り返って来て、いきなり噴き出してしまったの。

「…ッ、ま、り…ッ…! ひ、ひま…ッ…とんがり…ぼ…ッ…!!」

 向日葵にとんがり帽子?
 あら? 何時の間にか、私の身体が向日葵になっていましたわ。夏の間憑りついているから、気付きませんでしたわね。帽子? も、あら、黒い鍔が見えますわね。あら、手にも何時の間にか向日葵の形の杖を持っていますわ。あらあら。

「みくちゃん様? 大丈夫ですか? 早く診療所へ行きましょう、ね?」

 って、みくちゃんったら、私を見て噴き出したのよね? 酷いわ。笑って欲しいのは確かだけれど、それはゆき君によ? もう、ゆき君たら、みくちゃんの心配なんてしなくて良いのよ?

「…ひぃッ…!!」

 そう思いながらニコニコとみくちゃんを見て居たら、お腹を抱えて笑っていたみくちゃんが悲鳴を上げて走って行ってしまったわ。あらあら、ゆき君が驚いてしまっているわ。いけない人ね。

 柚子ゆず様の診療所で沢山のお菓子を戴きまして、その風呂敷包みを紫様が持とうとするのですが…。

「皆様が僕に下さった物なのですから、僕が持っていなくてはなりません。皆様のお気持ちを他へ預ける事等出来ません。最後まで僕が責任を持たなければならないのです」

 と、風呂敷包みを離さないのです。
 あらあら…。…うん…その気持ちは…とても良い物だと思うのだけれど…ね…? その…足元がふらついている様に見えるのだけれど…気のせいなのかしら…?

「ええい! 貸せ! こんな処で中身をぶちまけられたら迷惑だろうが!!」

 と、思って居ましたら、痺れを切らした紫様が乱暴に、ゆき君が両手に抱えている風呂敷包みを奪ってしまいました。

 ああ…頭痛がしますわ…。
 何故、足元がふらついているから、と、言えないのでしょうか…本当に困った弟だわ…。
 まあ…もう人通りも多くなって来ましたからね…折角の皆様の気持ちを土足で踏み躙られたくありませんものね。
 気が付けば、叔父様と星君は屋台を端から順に食べ歩いていますし、たける様もみくちゃんにおねだりしていたりしますし、柚子様は診療所の常連さんに捕まっていますし…あらあら…ですわ。

「…ふわ…」

 そんな時でした。ゆき君の感嘆の声が聞こえたのは。

「雪緒?」

「あ、いえ。あの方…どの物の怪の仮装なのでしょうか…? 黒が綺麗で…素敵ですね…」

「ん?」

 と、紫様がゆき君の視線の先を追います。私も同じ様に。
 黒と、ゆき君が口にした様に、そこには黒いマントに、黒のシルクハット、黒いベストに黒いズボン、見事に黒一色…でもないですわね…マントの裏地は赤ですし…シャツは白くてその胸には赤い蝶ネクタイ…ああ…確か吸血鬼でしたかしら? 人の血を吸うと云う、異国の物の怪…夜な夜な清らかな乙女の血を求めて彷徨い、その白い首筋に牙を立てる…。

「…お前は…ああ云うのが良いのか…?」

 …あら…? 何処か不機嫌そうな声ね?

「あ、いいえ! …その…旦那様に似合いそうだと思いまして…」

 あらあら。ゆき君たら、顔を赤くして。何て可愛いのかしら。

「…っ…そ、そうか…」

 って、紫様まで赤くならなくても良いのに。

 確かに、お勤めでは黒づくめですしね。違和感なく着こなせるでしょうね。
 …って…。
 …あら? 吸血鬼姿の紫様が、ゆき君の首筋に…? あらあら…?
 あらあらあらあら? み、見てみたいですわ…ね? 見てみたいですわ! みくちゃんにお願いしましょう!! ああ、でも待って? 落ち着いて、落ち着くのよ、鞠子まりこ。ゆき君は触れるだけの口付けで引っ繰り返ってしまう子よ? そんなゆき君が首筋にだなんて、心臓発作を起こしてしまうかも知れないわよね!? ええ、間違いないわ! 見て見たいけれど、ゆき君がそんな事になってしまったら目もあてられないわ! ゆき君が大人になるまで我慢よ! ゆき君が大人になったその時、みくちゃんにお願いしましょう! ええ、それが良いわ!

 …と、思ったのですけれどね…。

「…いずれ、な」

 …この人…ゆき君が大人になるまで待てるのかしら…?
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